シンプルな降圧コントローラにより、高精度のバイポーラ電源を実現

はじめに

産業、自動車、IT、ネットワークといった分野では、数多くのパワー・エレクトロニクスやIC、デバイス、システムなどが使われます。なかでも、DC/DCコンバータについては、昇圧、降圧、SEPIC(Single Ended PrimaryInductor Converter)といったトポロジを様々なバリエーションで実現できるようにしています。もちろん、最適化という観点からは、プロジェクトごとに専用のコントローラICを使用することが理想です。しかし、それには大きな投資が必要になります。その新たなコントローラICが、準拠が求められる規格を満たしているかどうかテストしたり、特定の用途、条件、装置における機能を検証したりするために、膨大な作業、時間、コストが発生するからです。設計/開発にかかるコストを削減するためには、既に検証を実施済みで実績のあるコントローラICを、様々な用途に適用することが有効な方策になります。

電源電圧を生成するために最もよく使用されるのは、降圧のトポロジです。しかし、このトポロジでは、所望の出力電圧よりも高い入力電圧から正の出力を得ることしかできません。つまり、負の電圧を直接生成することはできません。また、入力電圧が所望の出力電圧を下回った場合には、安定した出力は得られないということです。ところが、そうした機能は、車載エレクトロニクス向けの電源では重要な要件になります。この用途では、アンプに負電圧を供給しなければならないケースがあります。また、コンバータに供給される入力電圧が大きく低下するコールド・クランクが発生したとしても、システム全体が連続的に正しく動作するようにしなければなりません。これらの課題に対応するにはどうすればよいのでしょうか。本稿では、シンプルな降圧コントローラを使用し、SEPIC、Cukコンバータ、昇圧コンバータを実現する方法を紹介します。

共通の入力レールから正/負の電圧を生成

図1 に示したのは、デュアル出力の降圧コントローラIC「LTC3892」をベースとするバイポーラ電源の回路です。

図1 . 正電圧と負電圧を生成するコンバータ回路。LTC3892をベースとしています。VOUT1は3.3V/10A 、VOUT2は- 12V/3Aを出力します。
図1 . 正電圧と負電圧を生成するコンバータ回路。LTC3892をベースとしています。VOUT1は3.3V/10A 、VOUT2は- 12V/3Aを出力します。

このICを最大限に活用することにより、一方の出力で正電圧を生成し、もう一方の出力で負電圧を生成しています。この回路の入力電圧は6V~40Vです。VOUT1は3.3V/10A、VOUT2は-12V/3Aを出力します。どちらの出力もコントローラICであるU1(LTC3892)によって制御されます。VOUT1の正電圧は、単純な降圧コンバータの機能によって生成します。VOUT2の負電圧は、もう少し複雑な構造によって実現しています。VOUT2はGNDに対して負であるため、負電圧を検出して0.8Vのリファレンスにスケーリングするために差動アンプU2を使用しています。U1とU2が共にシステムのGNDを基準にしていることから、電源の制御と各種の機能が非常に簡素な回路で実現できています。図1の例とは異なる出力電圧が必要な場合には、以下に示す式を使って、抵抗RF2とRF3の値を計算してください。

数式 1

VOUT2のパワー・トレインには、Cukトポロジを採用しています(Cukの詳細については、各種の技術文書を参照してください)。このパワー・トレインを構成する各部品には、どのような電圧がかかるのでしょうか。それについて理解するために必要な基本的な式は以下のとおりです。

数式 2

図2 に、VOUT2の効率をシミュレーションした結果を示しました。この回路のLTspice®用シミュレーション・モデルは、こちらから入手することができます。この例では、LTC3892の入力は10V~ 20V、出力は5V/10Aと-5V/5Aとしています。

図2 . 図1の回路の効率。14Vの入力電圧を基に負電圧を出力する場合のシミュレーション結果です。
図2 . 図1の回路の効率。14Vの入力電圧を基に負電圧を出力する場合のシミュレーション結果です。

変動する入力レールから安定した出力を生成

図3. 降圧、SEPICに対応するコンバータ回路。LTC3892をベースとしています。
図3 . 降圧、SEPICに対応するコンバータ回路。LTC3892をベースとしています。

図3に示したコンバータは、3.3V/10AのVOUT1と12V/3AのVOUT2という2 つの出力を備えています。入力電圧は6V~40Vです。VOUT1は、図1の回路と同じように生成されます。一方のVOUT2は、SEPICコンバータとして構成されています。このSEPICコンバータは、上記のCukトポロジと同様に、非結合型のディスクリートのインダクタを2つ使用しています。個別のクロックを使用することにより、利用可能な磁性部品の選択肢は大幅に拡大されます。このことは、コストを重視するケースでは、非常に重要なポイントになります。

数式 3

図4は、コールド・クランクなどによって入力電圧が降下した場合の出力応答です。図5には、ロード・ダンプなどによって入力電圧にスパイクが生じた場合の出力を示しました。それぞれの図を見ると、入力レール電圧VINが公称電圧である12Vよりも大きく低下/上昇しています。それでも、VOUT1とVOUT2の両出力は、安定した状態を維持しています。重要な負荷に対し、電力を安定して供給し続けることが可能だということです。なお、2個のインダクタをベースとするSEPICコンバータは、配線を少し修正することで、1個のインダクタを使用する昇圧コンバータに容易に変更することができます。

図4 . 入力レール電圧が14Vから7Vに低下した場合の出力。VOUT1、VOUT2は、いずれも安定した状態を維持しています。
図4 . 入力レール電圧が14Vから7Vに低下した場合の出力。VOUT1、VOUT2は、いずれも安定した状態を維持しています。
図5 . 入力レール電圧が14Vから24Vに上昇した場合の出力。VOUT1、VOUT2は、いずれも安定した状態を維持しています。
図5 . 入力レール電圧が14Vから24Vに上昇した場合の出力。VOUT1、VOUT2は、いずれも安定した状態を維持しています。

これらの応答に関連するLTspiceのシミュレーション・モデルは、こちらから入手できます。LTC3892の入力は10V~20V、出力は5V/10Aと-5V/5Aです。

まとめ

本稿では、降圧コントローラICをベースとしてデュアル出力のバイポーラ電源を構成する方法について説明しました。この方法を採用すれば、単一のコントローラICを使用するだけで、降圧、昇圧、SEPIC、Cukの各トポロジに対応できます。このことは、産業分野や車載分野向けにエレクトロニクス製品を供給するベンダーにとって大きなメリットになります。実績のある単一のコントローラICをベースとし、様々な出力電圧を供給する電源を設計することができるからです。

Victor Khasiev

Victor Khasiev

Victor Khasievは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。パワー・エレクトロニクスの分野を担当しており、AC/DC変換とDC/DC変換の両方に関する豊富な経験を持ちます。また、車載用途や産業用途をターゲットとするアナログ・デバイセズのIC製品の使い方に関して、複数の記事を執筆しています。それらの記事では、昇圧、降圧、SEPIC、反転、負電圧、フライバック、フォワードに対応するコンバータや、双方向バックアップ電源などを取り上げています。効果的な力率改善の手法と高度なゲート・ドライバに関して2件の特許を保有しています。日々の業務では、顧客のサポートや、製品に関する質問への回答、電源回路の設計/検証、プリント回路基板のレイアウト、トラブルシューティング、システムの最終テストなどに取り組んでいます。