Thought Leadership

Tony Armstrong
Tony Armstrong,

Business Development Director

環境に優しいスマート・ ビルディングの実現を後押し、 ワイヤレス・センサー・ノードの 鍵を握るエナジー・ハーベスト


なぜ、エナジー・ハーベストが求められるのか?

現在では「地球に優しく」という考え方は一般的なものとなり、 環境への配慮は必須の事柄として扱われるようになりました。そ のため、ある意味では何もかもがグリーン化に向かっているかの ようにも感じられます。実際、エレクトロニクスの世界では、10 年以上も前からエナジー・ハーベスト(環境発電)という概念に 注目が集まっています。しかし、環境エネルギーを基に電力を生 成するシステムを導入するのは、決して容易なことではありませ ん。そのために必要な作業は煩雑かつ複雑で多くのコストを要す るからです。それでも、既にエナジー・ハーベストがうまく活用 されている分野は存在します。具体的な例としては、交通インフ ラ、ワイヤレスの医療用機器、タイヤの空気圧の検知、ビル・オー トメーションといったものが挙げられます。最後に挙げたビル・ オートメーション・システムでは、様々な個所にエナジー・ハー ベスト・システムが適用されています。それにより、電源用の配 線や制御用の配線を使うことなく、人感センサー、サーモスタッ ト、照明スイッチなどが配備され様々なアプリケーションが実現 されています。

現在は、化石燃料によって生成した電力を大量に消費しなくて済 むエネルギー効率の高い建物が求められています。環境に配慮す るには、商業施設や住居といった種類を問わず、エネルギーの節 約が図れるスマート・ビルディングを増やしていかなければなり ません。

商業ビルをスマート化するのは、そのビルを所有/利用する会 社などの組織にとって大きなメリットになります。なぜなら、そ のビルのエネルギー効率が高く、合理化されているなら、エネル ギー・コストを削減できるからです。また、そこで働く人々に対 して生産的な環境を提供することにもつながるでしょう。ただ、 その実現に向けては、スマート・ビルディングならではの課題を 解決しなければなりません。例えば、その種のビルには、冷暖房 システムの運用、照明の制御、空間の活用を効率的に実現するた めのフィードバック情報を提供してくれるインフラが必要になり ます。その場合、環境を監視/制御するための方法論としては、 IoT(Internet of Things)を利用することが必然になると考えら れます。また、環境を効率的に監視/制御するための代替電源へ の依存度も高まることになるはずです。

Green Buildings Get a Boost

スマート・ビルディング向けのIoT

スマート・ビルディングが導入されると、人々の日々の行動様式 が変化します。また、スマート・ビルディングは、エネルギーの 消費量やコストの削減にも役立ちます。このようなメリットを得 るために、IoTを活用したスマート・ビルディング化の手法が既 にいくつも具現化されています。

その代表的な例は、予知保全(Predictive Maintenance)の 分野に適用されています。センサーなどをはじめとするIoT機 器を活用し、商業ビルやその全設備の状態に関するレポートを 取得するというものです。このようなフィードバック情報を得 ることにより、メンテナンスが必要な時期をタイムリーかつ効 果的な方法で把握することができます。予防保全(Preventive Maintenance)では、突発的な故障に悩まされることがありま す。この問題は、予知保全の手法を導入することによって克服す ることが可能です。

また、労働者の生産性は、職場の空気の質に左右される可能性 があります。この分野を専門とする業界が行った調査によると、 室内環境の質が良いビルで仕事をする場合には、そうでない従来 のビルで仕事をする場合と比べて、業務効率が10%向上すると いいます。その種のビルを実現する場合にはIoT機器が適用され ます。それらの機器は、メッシュ・ネットワークに組み込まれた 様々なセンサーを使用し、空気の質や空気中の二酸化炭素のレベ ルを測定/確認するために使用されます。ビル内のあらゆる場所 にIoT機器を設置することで、環境とそこにいる人々を健全で高 い生産性が得られる状態に維持することが可能になります。

今後、スマート・ビルディングにおいては、IoT対応のアプリケー ションがより一層活用されるようになるでしょう。その代表的な 例としては、サーマル・イメージングが挙げられます。この種の アプリケーションを使用すれば、施設管理者は設備が許容される 動作温度の範囲内にあるか否かを確認することができます。温度 の検知機能を実現するのは、さほど難しいことではありません。 その機能を適用することで、設備が正常に稼働しなくなる前にメ ンテナンスを実施することが可能になります。IoTを活用するこ とにより、商業施設の管理者は、データを収集して情報を追跡す るための革新的な手段を得ることができます。従来は到達するの が非常に困難で、実質的にアクセスできなかった場所からも情報 が得られます。ビルの様々な個所にセンサーを設置すると、従来 は決して得られなかったあらゆる情報を追跡できます。IoTで相 互接続されたシステムを利用することにより、施設の管理者は、 あらゆる情報を入手できるようになるのです。

また、IoTを導入することで、商業施設の所有者はビルのエネル ギーを自給できるようになる可能性があります。このことは、ビ ルの設計に良い影響を及ぼします。つまり、環境に配慮した資源 効率の高いビルを実現できるということです。そうしたインテリ ジェント・システムを導入すれば、どこからでも遠隔管理を実施 することが可能になります。つまり、旧式で重たい機器を、振動 や温度の変動などに対応するインジケータを使って制御を実施で きるセンサー・システムで置き換えることが可能になります。そ の結果、多くのエネルギーとコストを節約できるだけでなく、維 持費も低減可能になることは明らかです。

更に、ビルにIoTを適用することで、エネルギー効率を高められ る可能性があります。これこそが最も重要な効果だと言えるかも しれません。センサー・ネットワークは、管理者がより効率的に 資産管理を行うための情報を入手する手段となります。同時に、 環境内の有害な廃棄物を削減することにも寄与する可能性があり ます。具体的な活用例としては、以下のようなものが挙げられま す。

  • 温度を制御するためにセンサーを利用
  • HVAC(暖房、換気、空調)制御のためにアクチュエータを利用
  • ビルにおいて完全なエネルギー・オートメーションを実現するための複雑なアプリケーション
  • 天気予報を考慮し、リアルタイムでエネルギー・コストを削減

ワイヤレス・センサー・ノード―― エナジー・ハーベストの主要なアプリケーション

エナジー・ハーベストを利用する主要なアプリケーションとして は、ビル・オートメーション・システムで使われるワイヤレス・ センサーが挙げられます。米国の場合、最も多くの電力を消費し ているのはビルだと言われています。この分野における電力の消 費量は、輸送分野や産業分野の電力消費量をわずかに上回ってい ます。

エナジー・ハーベストを利用するワイヤレス・ネットワークを導 入すれば、ビル内の任意の数のセンサーをリンクさせることがで きます。そうすると、例えばビルや部屋が空いている場合に温度 を調整したり、不要な照明を消灯したりすることで、HVACや電 気のコストを削減することが可能になります。また、エナジー・ ハーベストを利用する電子デバイスを導入するためのコストは、 電源配線の敷設コストやバッテリ交換に伴うメンテナンス・コス トを下回ることがほとんどです。つまり、エナジー・ハーベスト を採用することで経済的な利益が得られることは明らかです。

ワイヤレス・センサー・ネットワークの各ノードに対し、専用の 外部電源を設けなければならないケースを考えます。その場合、 上述したメリットの多くは失われてしまいます。パワー・マネー ジメント技術が進化した結果、バッテリを使う場合でも、従来よ りもはるかに長い時間、電子回路を動作させることが可能になり ました。とはいえ、この手法には限界が存在することも事実です。 エナジー・ハーベストは、バッテリを使用する手法を補完するも のだと言えます。エナジー・ハーベストは、ローカルな環境エネ ルギーを電気エネルギーに変換することによって、ワイヤレス・ センサー・ノードに電力を供給する手段として活用できます。環 境エネルギー源としては、光や温度差、機械的な振動、RF送信 信号など、トランスデューサを用いて電荷を生成できればどのよ うなものでも利用可能です。これらのエネルギー源はどこにでも 存在し、適切なトランスデューサを使えば電気エネルギーを生成 することができます。温度差に対してはTEG(Thermoelectric Generator)、振動に対しては圧電素子、太陽光(または屋内照 明)に対しては太陽電池、水分に対してはガルバニック作用を利 用した発電方法を使用するといった具合です。こうしたフリー(無 料)のエネルギー源を使用することで、電子部品やシステムに自 律的に電力を供給することが可能になります。

ワイヤレス・センサー・ノードは、μWのレベルの平均電力で 動作するように設計されます。そのため、従来とは異なるエネル ギー源を基に電力を供給できる可能性が生まれます。このこと がエナジー・ハーベストの活用につながっています。システムに よっては、バッテリは、利便性が低く、高コストで、扱いが容易 ではなく、危険が伴うという短所を抱えた存在になり得ます。エ ナジー・ハーベストを使用すれば、そうしたバッテリを充電した り、補完したり、置き換えたりすることが可能になります。また、 電力の供給やデータの伝送を実施するための配線も不要になりま す。

図1は、エナジー・ハーベストを利用する標準的なワイヤレス・ センサー・ノードのブロック図です。このノードは、以下のよう なものから構成されています。

  • 環境エネルギー源
  • 下流の電子デバイスに電力を供給するトランスデューサ素子とパワー・コンバータ回路
  • 物理的な世界にノードをリンクさせるセンシング部と、測定結果を処理してメモリに保存するマイクロプロセッサ/マイクロコントローラで構成される演算部
  • 隣接するノードや外界とワイヤレスで通信するための近距離無線機で構成される通信部

環境エネルギー源では、HVACのダクトといった発熱源に取り付 けたTEG(またはサーモパイル)や、窓ガラスなどの機械的な振 動源に取り付けた圧電トランスデューサなどが使われます。発熱 源については、小型の熱電素子を使用することで、微小な温度差 を電気エネルギーに変換することができます。機械的な振動や歪 みが生じる場所では、圧電素子を使うことで、それらを電気エネ ルギーに変換することが可能です。

生成された電気エネルギーに対しては、エナジー・ハーベスト回 路により、下流の電子回路に給電するための変換が施されます。 変換後の電力を供給されたマイクロプロセッサは、センサーを起 動します。それによって計測が実行されます。得られた結果は、 A/Dコンバータ(ADC)によってデジタル・データに変換され ます。そのデータは、超低消費電力のワイヤレス・トランシーバー を介して送信されます。

The main blocks of a typical energy harvesting system
図1. エナジー・ハーベストを利用する標準的なシステム

エナジー・ハーベストでは、温度差や振動といったエネルギー源 が存在するときだけしかエネルギーを得ることはできません。そ のため、環境エネルギー源を比較する際に第一の基準となるの は電力密度です。エネルギー密度ではありません。一般に、エナ ジー・ハーベストで利用できる電力は低レベルで、変動しやすく 予測ができません。そのため、通常はハーベスタと補助用の蓄電 デバイスを併用するハイブリッド構造が使われます。ハーベスタ をシステムのエネルギー源として使用する場合、電力が不足して しまう可能性があるからです。補助用の蓄電デバイス(バッテリ かコンデンサ)は、より大きな電力を生成できますが、蓄積でき るエネルギー量は決して多くはありません。電力が必要な場合に は電力源として使用されますが、その以外の期間はハーベスタか ら電荷を受け取ってエネルギーを蓄積する役割を果たします。環 境エネルギーを利用できない状況下では、補助用の蓄電デバイス によってワイヤレス・センサー・ノードに対する給電を行います。

完全に自己完結型のワイヤレス・センサー・システムを設計する 際には、どのようなことに気を配る必要があるのでしょうか。そ の場合、わずかなエネルギーしか存在しない環境から電気エネル ギーを得ることになります。したがって、消費電力が最小限に抑 えられており、すぐに入手が可能なマイクロコントローラとトラ ンスデューサを選択する必要があります。従来、ハーベスタ回路 は、30個以上の部品を使用して実現していました。そうしたディ スクリート構成の設計では、変換効率が低く、自己消費電流が多 くなってしまい、高い性能は得られませんでした。当然のことな がら、最終的なシステムにおいても高い性能を得ることはできま せんでした。

ハーベスタの自己消費電流が多い場合、エネルギー源の出力レ ベルが低すぎると問題が生じます。自身の動作に必要な量を上回 る電力が得られなければ、外部に電力を供給することができない のです。アナログ・デバイセズは、このような問題に対応できる Power by Linear(PbL)製品を提供しています。それらの製 品を利用すれば、新たなレベルの性能とシンプルさを得ることが できます。

エナジー・ハーベスタの例

LTC3109」は、DC/DCコンバータ機能とパワー・マネージャ 機能を備えるIC製品です。これを使用すれば、TEGやサーモパ イル、小型の太陽電池などから得られる極めて低い入力電圧を基 にエネルギーを収集して管理することができます。独自の自動極 性制御トポロジを採用していることから、極性に関係なく、わず か30mVの入力電圧を基にして給電機能を実現することができ ます。

図2の回路では、小型の昇圧トランスを2つ使用してLTC3109 への入力電圧を得ています。これにより、ワイヤレスのセンシン グとデータ・アクイジションに対応する完全なパワー・マネージ メント・ソリューションを実現することができます。従来のよう にバッテリを電源として使用するのではなく、わずかな温度差か らエネルギーを収集し、システム向けの電力を生成することが可 能です。

An LTC3109 typical application schematic
図2. LTC3109の標準的な実用回路

各トランスの2次側巻線で発生したAC電圧は、チャージ・ポン プ用の外付けコンデンサとLTC3109内部の整流器によって昇圧 /整流されます。この整流回路は、VAUXピンに対して電流を供 給します。まず、VAUXピンの外付けコンデンサに電荷を供給し、 その後、他の出力向けに電力を供給します。2.2Vを出力する内 蔵LDO(低ドロップアウト)レギュレータは、低消費電力のプロ セッサや他のICへの給電に使用できます。

まとめ

一般に、アナログ技術をベースとするスイッチング電源の設計ノ ウハウは、十分に蓄積されているとは言えません。そのため、環 境に優しいスマート・ビルディングで使用するための優れたエナ ジー・ハーベスト・システムを設計するのは容易ではありません でした。課題の1つは、ワイヤレス・センシングに関連する効果 的なパワー・マネージメント手法を具現化することです。それに 対し、LTC3109のような製品を採用すれば、ほぼどのような熱 源からでも効果的にエネルギーを抽出することができます。その ため、エナジー・ハーベストによる電源をシステムに導入するこ とが可能になります。結果として、化石燃料の使用量を削減する ことができます。それだけでなく、現在/将来の世代に対して、 より環境に優しいスマート・ビルディングを提供することも可能 になります。

著者について

Tony Armstrong は、アナログ・デバイセズのPower by Linearグループでビジネス開発ディレクタを務めていま した。パワー・コンバージョン製品やパワー・マネージ メント製品の構想から生産終了までのあらゆる側面に対 応する役割を担っていました。アナログ・デバイセズに 入社する前は、Linear Technology(現在はアナログ・ デバイセズに統合)、Siliconix、Semtech、Fairchild Semiconductor、Intelにおいて、マーケティング、販売、 オペレーションなどの部門で様々な役職に就いていまし た。英国マンチェスター大学で応用数学の学士号を取得し ています。2020年春に定年退職しました。