要約
周囲温度が10℃上昇するごとに、すべての部品の寿命が50%短くなることをご存じでしたか?1電源のドロップオフや変動がシステムの部品の故障を早めたり、場合によっては完全な破壊につながることは?もちろん、ほとんどの人は、多くの電力を使用するアプリケーションに長寿命で効率的な電源が必要(むしろ必須)であることに同意するはずです。しかし、どのトポロジにすべきでしょう?同期整流でしょうか、非同期整流でしょうか?以下では、それぞれのトポロジのトレードオフについて検討します。
設計に対する給電のオプション
すべてのハードウェアシステムには電源が必要であり、電源からの電圧レベルはアプリケーションが要求する値より高いのが普通です。9Vの電源入力があり、システムを動作させるためにそれを5Vに降圧する必要があるとしましょう。いくつかのオプションが考えられます。
- ある程度の基本的な安定化を備えた簡素な分圧器(ツェナーダイオードなど)。ツェナーとその電流制限抵抗は9Vを5Vに降下させ、4Vはツェナーの電流制限抵抗の両端にかけて降下します。この動作は熱を発生させエネルギーが浪費されます。
- 5Vリニアレギュレータ(LDO)。この場合も、9Vを入力して5Vの出力を得ます。4VはLDOの両端にかけて降下します。回路が1Aの電流を使用する場合、LDOは4Wの電力を消費します。4Wの無駄な電力が熱として廃棄されると言うこともできます。
- DC-DCコンバータ。この場合、スイッチャは基本的に出力インダクタおよびコンデンサをパルス幅変調します(つまり、パルス幅変調、PWMを使用します)。出力電圧が5Vに達すると、PWMのデューティサイクルがほぼゼロに低下します。スイッチャによって使用される電流は非常にわずかであるため、消費電力もわずかになります。明らかにこれが最も効率的な設計オプションです。
DC-DCコンバータへの入力電圧は任意の値とすることが可能で、標準は6V、9V、12V、24V、48Vです。パワートランスが120VACを標準電圧レベルに降圧した後、整流、フィルタ、および商用または産業用DC電圧への安定化が行われます。例として、電話システムは48Vで確立されていますが、この値はバッテリバックアップシステム用の電圧から決められたものです。AC主電源が停電すると、バッテリバックアップシステムがシームレスに動作を開始します。ポータブル機器の場合は、また事情が異なります。これらの機器は、一般に最初からDCであるバッテリで動作しますが、それらを安定化する必要があります。バッテリ電圧は時間とともに低下するため、出力電圧を昇圧して安定化を維持する必要があります。つまり、システムが3.3Vで動作する場合、バッテリ電圧が低下してもシステムを3.3Vに保つ必要があります。
電源を設計する場合、前述した簡素な分圧器やツェナー回路のような「見かけ上」低コストのソリューションを選ぶこともできます。「見かけ上」低コストと言ったのは、これがBOMの観点にのみ基づいているからです。これらの方式には電力損失という隠れた追加コストがあり、それによって高い放熱が発生しシステムの電子部品の寿命が短くなります。一方、LDOは非常に低ノイズの出力を備えていますが、高い消費電力、大きいドロップアウト電圧、バッテリ寿命の短縮などの欠点があります。
最近では、効率、熱、精度、過渡応答、およびコストに関する最適な結果を実現するために、DC-DCコンバータを検討する設計者が増えています。端的に言えば、それが正解です。しかし、最適なDC-DC電源システム設計への道は、地図なしで地雷原を進むのに似た複雑さになりかねません。コンバータの動作温度によって最大出力パワーが制限され、産業機器の形状の小型化にともなって動作温度は高くなっています。さらに、通常ほとんどの機器は強制冷却/エアフローを非常にわずかしか(もしくはまったく)備えていません。では、どのDC-DC設計のオプションが最良なのでしょうか?
DC-DC設計のオプション:同期整流または非同期整流トポロジ
両者の間にはトレードオフがあります。非同期整流トポロジはより旧式の設計で、外付けショットキーダイオード両端での電力損失で有名です。この電力損失は、効率の低下につながります。同期整流トポロジは、効率的なMOSFETを内蔵することによって、高い効率を提供し、より小型の形状に適合するため、この点に関しては同期整流トポロジが推奨されます。この根本的な違いは、非同期整流コンバータとより高集積の同期整流ソリューションの間の構造上の差を比較した図1に示されています。
電力効率について考えてみましょう。ここ数年、外付けショットキーダイオードを使用する非同期整流設計では不可能な電力効率の向上のために、アナログICメーカーは同期整流DC-DCコンバータを発表してきました。同期整流コンバータは、外付けの高損失ショットキーダイオードに代わるローサイドパワーMOSFETを内蔵しています。ローサイドMOSFETの消費電力はRONに影響を与え、ダイオードVD両端での順方向電圧降下によってショットキーダイオードの電力損失が決定されます。どちらの設計も電流レベルが同じである場合、通常はMOSFET両端での電圧降下の方がダイオード両端より小さいため、MOSFETの方が消費電力は低くなります。
非同期整流ソリューションにおけるダイオード両端での消費電力は、次のとおりです。
PD = VD × IOUT × (1 – VOUT/VIN)
同期整流ソリューションにおけるMOSFET両端での消費電力は、次のとおりです。
PFET = RON × I2OUT × (1 – VOUT/VIN)
しかし、軽負荷かつ高デューティサイクルでは非同期整流バックコンバータの方が高い効率を提供するという意見もあり2、軽負荷から重負荷まで1つのコンバータで最適な効率を提供することはできないように思われます。電源システムの設計者は、ことわざに言う「ジレンマの角」に挟まれてまた身動き取れなくなるのでしょうか?3
その質問に答えるために、軽負荷時における非同期整流コンバータの高効率性能の主な要因を考えてみましょう。非同期整流コンバータでは、インダクタ電流は一方向にのみ流れ、負になることはありません。同期整流コンバータでは電流が両方向に流れ、これが不利につながります。
同期整流コンバータにおけるこの2方向の電流の流れを克服するために、軽負荷動作用の「疑似非同期整流」モードを作るために各種の動作モードが導入されました。現代のDC-DCコンバータは、3つのモードをサポートしています(図3)。
- PWM @ CCM:パルス幅変調、連続コンダクションモード。この場合、コンバータは固定周波数として動作します。ILは負になることができます。このモードでは、コンバータはあらゆる負荷変動に(たとえゼロ負荷付近でも)迅速に応答することが可能で、しかも出力電圧リップルは最小限に抑えられます。しかし、PWM @CCMモードは軽負荷時の効率が低下します。
- PWM @ DCM:パルス幅変調、断続コンダクションモード。この方式も固定周波数を特長としますが、ILが負になるのを防ぐことによって軽負荷時の効率を改善します。軽負荷時に負のインダクタ電流を抑止するという点で、非同期整流ソリューションに似ています。
- PFMおよびハイバネート:パルス周波数変調、ハイバネートモードあり。この方式は、ILが負になるのを防ぎ、軽負荷時に両方のFETをオフにしてパルスをスキップすることによって効率を改善します。スキップの期間中、コンバータはハイバネーションに移行し、利用されていない内部回路をオフにして自己消費電流を節約します。このモードは、可能な最高の効率を実現し、最も高い軽負荷効率を提供し、犠牲になるのは出力電圧リップルがわずかに高くなる点だけです。
負荷電流が中~全負荷の場合は、すべてのモードが同様に動作します。違いが現れるのは、負荷電流がインダクタ電流リップル値の半分以下に低下した場合です。
システムがほとんどの時間スタンバイ状態(つまり、低負荷動作)になることが予想され、バッテリ寿命の延長が非常に重要な場合は、最も高い軽負荷効率を提供するPFMモードを選択してください。ただし、PFMモードには注意事項があり、出力リップルの増大と過渡応答の低速化によってスタンバイ時のシステム性能に悪影響が出ないことを確認してください。
軽負荷時の過渡性能が最重要となるアプリケーションの場合は、(たとえゼロ負荷付近でも)最も優れた過渡応答を示すPWM @ CCMが最良の選択です。
PWM @ DCMモードは、他の2つのモードの間の妥当なトレードオフを提供します。
結論
技術は進歩します。外付けショットキーダイオードを内蔵の高効率MOSFETおよびマルチモード動作と置き換えることによって、今日の同期整流ソリューションは最も小型の設計で優れた効率を提供します。新しい同期整流技術を採用して、次回の設計の電力性能を大幅に向上させてください。同期整流技術は、より簡素で、低発熱で、優れた性能を備えています。