複数のDC電源から給電される電子システムは、珍しいものではありません。その例として、ハンドヘルド・デバイス(USBポート、バッテリ)、ポータブル機器(電源アダプタ、バッテリ)、高可用性サーバ(主電源、冗長/補助電源)があります。このようなシステムにおいて適切な入力電源を選択して給電することは、決して瑣末な作業ではありません。選択が不適切であれば、電源間で発振が生じたり、電圧が低下(ブラウンアウト)したり、逆電流により入力電源が損傷したりする恐れがあります。リニアテクノロジーのPowerPath™コントローラは、電源を動的に選択するという作業を簡素化します。
PowerPathコントローラ
多入力電源システムには、入力電源を1つの共通出力負荷に対して多重化するスイッチがあります。PowerPathコントローラは、その名が示すとおり、システムに供給する電力の経路を選択し管理するデバイスです。このコントローラは電圧の大きさと優先順位に基づいて入力源を選択します。前者のタイプのコントローラは理想ダイオードと呼ばれ、後者はプライオリタイザと呼ばれます。PowerPathコントローラは、単一のあるいは複数の連結されたPまたはNチャンネルMOSFETスイッチを内蔵または外付けしたものです。コントローラは、そのスイッチを使用して、最大3つの入力電源を共通の出力負荷に対して多重化します。電源が4つ以上の場合は、複数のコントローラを使用します。
理想ダイオード
理想ダイオードは、周囲に制御回路を配置したMOSFETで(図2参照)、順方向(入力電圧が出力電圧より大きい)の場合は、わずかな電圧降下(50mV未満)でオンになり、逆バイアス(入力電圧が出力電圧より小さい)の場合はオフになります。理想ダイオード(別名アクティブ・ダイオード)では、電圧損失や電力損失がパワー・ショットキー・ダイオードの10分の1以下に抑えられます。ヒート・シンクも最小で済むため、小型のソリューションが可能で、低電圧(5V、3.3V、それ以下)アプリケーションでは、電圧のヘッドルームが増加します。また、理想ダイオードは、標準ダイオードにはないモニタリング機能や保護機能も備えています。更に、従来のダイオードと同様、複数の電源(ダイオードOR)を結合して、入力故障や短絡回路が発生した場合の冗長性を確保しています。更に、入力ブラウンアウト時の出力電源ホールドアップ、逆バッテリ保護(LTC4359)、電源電流のバランシング(LTC4370)にも使用することができます。
理想ダイオードでの電圧降下は、ILOAD • RDS(ON)で計算できます。RDS(ON)が5mΩのMOSFETで負荷電流が10Aの場合、理想ダイオードの電圧降下は50mVとなります。表1は、異なる入力電源電圧に対して、この電圧損失と、パワー・ショットキー・ダイオードの代表的な電圧降下値500mVを比較したものです。表から分かるように、低電源電圧の場合、ショットキー・ダイオードの電圧降下は許容範囲を上回る大きさとなり、動作電圧のかなりの部分が消費されてしまいます。低入力電圧時には、理想ダイオードが唯一使用可能なソリューションであるといえます。
VIN |
入力電圧の電圧損失パーセンテージ |
|
500mVショットキー・ダイオード | 50mV理想ダイオード | |
1.8V | 28% | 2.8% |
3.3V | 15% | 1.5% |
5V | 10% | 1% |
12V | 4.2% | 0.4% |
48V | 1% | 0.1% |
理想ダイオードの消費電力は、ILOAD2 • RDS(ON)で算出でき、0.5Vショットキー・ダイオードは0.5V • ILOADで算出できます。図3は、この2つのダイオードの消費電力を比較したものです。負荷電流の増大と共に、理想ダイオードの電力節約量も大きくなり、ヒート・シンクを縮小あるいは省くことができ、ボード面積の節減につながります。
実使用時の理想ダイオード
理想ダイオードを構成する方法は2つあります、コンパレータを使用する方法と、リニア・サーボ・アンプを使用する方法です。コンパレータを使用する方法では、DC逆電流の発生(それにより電源損傷の可能性がある)や、軽負荷電流時や電源のスイッチオーバー時にオンとオフを繰り返すことにより、システムにノイズが流入するという問題が生じます。これに対し、MOSFETの順方向電圧降下をリニア制御する方法では、軽負荷でもオンとオフを繰り返すことなく、滑らかな電源スイッチオーバーが確保されます。そのため、リニアテクノロジーの理想ダイオードはすべてリニア・サーボ手法を採用しています。NチャンネルMOSFETのソース・ドレイン間での電圧降下は、アンプによってわずかなリファレンス電圧にレギュレーションされます。図4aの構成では、入力電源電圧(NFETのソース)と負荷電圧(NFETのドレイン)間の15mVの差は、負荷電流が変化した場合でも、ゲート電圧を制御する(すなわちMOSFETの抵抗を制御する)ことで維持されます。負荷が増加すると、ゲート電圧はその最大値で電圧レールから逸脱し、MOSFETは抵抗のように動作します。その結果、順方向電圧降下は電流に比例して増加します。図4bに、この15mV理想ダイオードのIV特性を示します。
理想ダイオードのMOSFETは逆向き?
これは、理想ダイオードの回路を見たときに多くの人が抱く疑問です。図2に示したNチャンネル理想ダイオードで考えてみます。Nチャンネル・パワーMOSFETには、ソースからドレイン方向にボディ・ダイオードが内在します(つまりアノードがソースに、カソードがドレインに接続)。ドレイン・ピンを入力に、ソース・ピンを出力に接続すると、ボディ・ダイオードに負荷から電源に向けた逆方向電流が流れてしまいます。そのため、理想ダイオード回路では、NチャンネルMOSFETのソース・ピンは入力に接続されます。この接続方向であれば、MOSFETのゲートがオンになって電流がMOSFETのチャンネルを迂回するようになるまで、負荷電流はボディ・ダイオードを流れます。
プライオリタイザ
ダイオードORは、最も電圧が大きい入力電源を選択し、出力に給電します(電圧値の近い入力が複数ある場合はある程度のドループ電流共有が生じます)。これは、公称電圧が同じである冗長電源に適しています。一方、アプリケーションによっては、特に電源アダプタとバッテリで給電されるポータブル機器の場合、電圧はシステム給電においてさほど重要ではありません。電源アダプタは、供給が続く限りシステムへの給電を行います。つまり、バッテリより高い優先順位を持っています。プライオリタイザを使用すれば、電圧レベルとは無関係に、どの電源を負荷に適用するかをユーザが選択できます。これは、次のような理想ダイオードOR回路を使用して実装できます。つまり、優先順位の高い電源(図5の12V電源アダプタ)を抵抗分割器(R2A、R2C)でモニタし、優先順位の高い電源が使用できる(9Vの閾値を超えている)限り、優先順位の低い電源(E2#入力)をディスエーブルする回路です。追加MOSFET(Q3)は、バックアップ電源(4セルのリチウムイオン・バッテリ)の理想ダイオードMOSFET(Q2)のボディ・ダイオードを流れる並列順方向電流経路をブロックするために必要です。
上記の構成は、2入力システムには有効ですが、3入力の場合は複雑になります。LTC4417プライオリタイザは、2.5V~36V範囲の3つの電源を優先付けることに特化した設計になっています(図6参照)。有効な3つの入力源のうち最も優先順位の高い電源を選択して負荷に給電します。優先順位は、ピンの割当て(V1が最も高く、V3が最も低い)によって決定されますが、電源が有効と見なされるのは、1.5%精度の低電圧および過電圧閾値で設定された電圧ウィンドウ内に、256msの間、収まっていた後です。LTC4417は、ハンドヘルドおよび高可用性電子機器で一般的な、複数の異なる電圧源から電力を得る設計を簡素化できます。このようなシステムは、とりわけ優先順位の高い電源が最大電圧ではない場合には、単純なダイオードORよりもプライオリタイザのほうがソリューションとして適しています。バッテリ(V2、14.8V)のような制限のある電源では、バッテリ電圧のほうが高くても電源アダプタ(V1、12V)より優先順位を低くして、バッテリの駆動時間を長くすることが可能です。
MOSFETのタイプと構成
PowerPathコントローラには、NチャンネルとPチャンネルのどちらのタイプもあります。またMOSFETはコントローラに内蔵、外付けのいずれも可能です。オプションが用意されているため回路動作に柔軟に対応できます。NチャンネルMOSFETはPチャンネルMOSFETよりも移動度が高く、より多くの電流を供給できるため、大電流アプリケーション(5A以上)にはNチャンネルMOSFETが適していると言えます。ただし、Nチャンネル・コントローラでは、MOSFETをエンハンスする(オンにする)ために、電源電圧より高いゲート電圧が必要です。そのため正電源のNチャンネル・コントローラには、チャージ・ポンプまたは昇圧レギュレータが内蔵されています。Pチャンネル・コントローラはMOSFETのゲートを引き下げてオンするため、チャージ・ポンプは不要です。内蔵MOSFETの場合、ソリューションは小型になりますが、電流レベルに制限が生じます。外付けMOSFETコントローラの場合は、特定の電流レベルや、最低のRDS(ON)(大電流アプリケーション用に複数のMOSFETを並列接続する場合を含む)、熱性能などについて、ユーザがMOSFETを最適化することができます。単一のMOSFETを使用した場合は、MOSFETチャンネルがゲートによってオフにされた場合でも、そのボディ・ダイオードに順方向電流を流すことができます。ゲートのオフ時に順方向電流と逆方向電流の両方を完全にブロックするには、連結されたMOSFETを駆動可能なコントローラを使用します(図5のQ2とQ3)。
まとめ
アナログ・デバイセズは消費電力を最小限に抑え、電圧降下を減らし、標準ダイオードより高機能を有するPowerPathコントローラを豊富に揃えています。これらのデバイスは、ハイエンドのデータコムやサーバ・システムからポータブルなバッテリ駆動製品まで、幅広いアプリケーションに最適です。