Power over Ethernet −データ・ラインを通じてイーサネット・デバイスに電力を供給

Power over Ethernet −データ・ラインを通じてイーサネット・デバイスに電力を供給

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Thomas Brand

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プロセス・オートメーション・システムでは、温度、圧力、流量、湿度といった多くの重要なパラメータを監視し計測する必要があります。インダストリ4.0の時代では、イーサネットが一般的な通信標準です。イーサネットはケーブルで接続され、通常、トランスミッタやセンサーには電力が必要です。そこで「イーサネット・ケーブルでデータ伝送と給電の両方を実現できないだろうか」という疑問が生じます。 

この記事では、イーサネット・デバイスがケーブルを使用してデータ伝送と給電を同時に行う方法について説明します。PoE(Power over Ethernet)システムは産業分野で幅広く用いられており、今後も重要な役割を担うことが予想されます。

PoE規格

Cat-5ケーブルを介した給電は、PoE規格IEEE 802.3afで定義されています。このPoE規格での給電は、かつては数ワットにとどまっていましたが、最近のPoE技術では、より高い電力を供給可能となっています。例えば、PoE+では1ポートあたり最大25Wを給電可能であり、PoE++(4ペアのPoEシステム)では既存ケーブルの全ワイヤを使用して70W~100Wの給電が可能となっています。このPoE規格と並んで、アナログ・デバイセズでは、独自規格のLTPoE++を定義し、受電デバイス(PD)への供給電力を最大90Wと仕様規定しています(表1参照)。

表1 アナログ・デバイセズの最新PoE規格
PoE規格 PoEのタイプ PD電力(W) 使用可能電力(W)
PoE(IEEE 802.3af) タイプ1 13 11.25
PoE+(IEEE 802.3at) タイプ2 25 22
アナログ・デバイセズのLTPoE++
LTPoE++ 38.7 32.9
LTPoE++ 52.7 44.8
LTPoE++ 70 60.8
LTPoE++ 90 76.8

LTPoE++は、同等のソリューションに比べPoEシステムの技術的な複雑さを軽減します。LTPoE++の更に進化した機能として、プラグ・アンド・プレイ機能、容易な実装、安全で堅牢な給電などが挙げられます。また、LTPoE++は、IEEEの標準的なPoE仕様と相互運用可能で、下位互換性があります。ただし、実際に使用可能な電力は、仕様規定されたPD電力を多少下回ります。ケーブル損失のほかシステム内の損失があるためで、これはPoE+やPoE++も同様です。

PoEコンポーネント

イーサネット・ケーブルを介してデバイスに給電するには、基本的に受電デバイスと給電デバイス(PSE)の2つのコンポーネントが必要です。

図1 PoEシステムの主要コンポーネントを示すブロック図

図1 PoEシステムの主要コンポーネントを示すブロック図

PSEは電源のように電力を供給する役割を担っているのに対し、PDは電力を受け取り、それを使用します(負荷)。PSEデバイスは給電の間にシグネチャ処理を行い、不適合なデバイスが接続された場合は損傷から保護します。そのため、まずPDのシグネチャ抵抗がチェックされます。PDはこの値が適切な場合(25kΩ)にのみ給電されます。PSEはPDを検出すると、分類を開始します。すなわち、接続されたデバイスの電力条件の判別を開始します。このことを行うために、PSEは所定の電圧を印加し、その電流値を測定します。PDには、その電流レベルに基づいて電力クラスが割り当てられます。すべてが正常であれば、全電圧および全電流が印加されます。PDは給電されると、直ちに−48VのPoE電圧を端子デバイスに適した電源電圧に変換します。代表的なPD設計では、DC/DCコンバータ(ダイオード・ブリッジ・コントローラ)が追加されて使用されます。このコンバータには、PDによって給電されるコンポーネントの電力条件を調整したり、その条件を満たすようにする役割があります。最近のICには、インターフェースとDC/DCコンバータを1つのコンポーネントに統合して電力クラスを下げ、設計を簡素化できるものがあります。

PDは、IEEE 802.3のPoE仕様に従い、イーサネット入力の全域で正負どちらの極性のDC動作電圧にも対応する必要があるため、PDの入力の前段に2個のダイオード・ブリッジが必要です。そのため、PDは、使用するワイヤ・ペアとは無関係に、逆極性でも動作できます。

PD実装の容易化

アナログ・デバイセズのLT4276には、絶縁型スイッチング・レギュレータを内蔵したLTPoE++−、PoE+−、PoE準拠のPDコントローラがあります。これはフォワード・トポロジおよびフライバック・トポロジのどちらでも動作可能で、2W~90Wの電力クラスに同期して動作可能です。パワーMOSFETが内蔵された従来の低消費電力クラスのPDコントローラとは異なり、LT4276では外部MOSFETを駆動するオプションも選択できます。これにより、PDの損失を低減し、効率を向上できます。  

IEEE 802.3イーサネット仕様では、デバイス・ハウジングのグラウンド接続から電気的に絶縁されていることが必要であるため、LTC4290/LTC4271絶縁型コントローラ・チップセットはPSEとして最適です。LTC4271は、非絶縁側のPSEホストとのデジタル・インターフェースとなるのに対し、LTC4290は絶縁側のイーサネット・インターフェースとなります。この2つのコンポーネントは、単純なイーサネット・トランスミッタを使用して接続されます。この堅牢なPSEチップセット設計により、絶縁型電源を構成するコンポーネントを追加せずに済みます。

PD側のフルブリッジ整流器の2個のダイオードを理想ダイオードで置き換えられれば、PoEシステム全体の電力と効率を高めることができます。そのため、MOSFETが使用され、通常のダイオードのように動作するよう制御されます。チャンネル抵抗(R DS(ON))が低いため、これによって順方向電圧を著しく低減できます。LT4321理想ダイオード・ブリッジ・コントローラをLT4295 PDコントローラと組み合わせて使用することで、4個のMOSFETをフルブリッジ構成で制御できます(図3参照)。

図2 PoE回路の例
図2 PoE回路の例
図3 従来のダイオード整流器とダイオード・ブリッジ・コントローラによる駆動との比較

図3 従来のダイオード整流器とダイオード・ブリッジ・コントローラによる駆動との比較

PoEでは、RJ45ケーブルを介して実際のデータ伝送が発生するのと同時に、イーサネット・デバイスに給電することが可能です。アナログ・デバイセズは、独自の規格であるLTPoE++を開発しました。これは、従来のPoE規格と並行して最大90Wの電力に対応するものです。LTPoE++により、堅牢でハイ・パワーのエンドtoエンドPoEソリューションが可能となり、電源とその設計が簡素化されます。

新たに誕生したChronousポートフォリオは、革新的な産業用イーサネット製品を目指したアナログ・デバイセズのポートフォリオです。リアルタイム・イーサネット・スイッチ、PHY、プロトコル処理製品、フル装備のネットワーク・インターフェース製品などがあります。最近アナログ・デバイセズから2つの堅牢な産業用イーサネットPHYの新製品、ADIN1300(10Mbps~1Gbps対応)およびADIN1200(10Mbps~100Mbps対応)が発売されたことで、このChronousポートフォリオが拡充されました。これらの新しいPHYをアナログ・デバイセズのPoE技術と組み合わせることで、Chronousポートフォリオは、電力とデータの両面で、クラス最高レベルのシステムレベル・ソリューションを可能とします。