パッシブ・セル・バランシングにより、全バッテリ・セルの電圧を均一化

パッシブ・セル・バランシングにより、全バッテリ・セルの電圧を均一化

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Kevin Scott

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Sam Nork

Sam Nork

電動自動車はバッテリによってモーターに給電することで走行します。そのため、ガソリン・エンジンで走行する旧来の自動車とは異なり、一酸化炭素や炭化水素を含む有害な排気ガスが生じることはありません。モーターへの給電には、高い出力電圧を実現するために大規模なバッテリ・スタックが使用されます。そのバッテリ・スタックを構成するすべてのセルの特性は均一であることが理想です。しかし、実際には、すべてのセルの特性には製造ばらつきがあります。同じケミストリのバッテリで物理的なサイズや形状が同じであっても、総容量、内部抵抗、自己放電率などには差があるということです。また、経年変化の度合いにも違いがあるため、バッテリの寿命を表す理論式には、その度合いに対応する変数も加える必要があります。

バッテリ・スタック全体の性能は、容量が最も小さいセルによって制限されます。そのセルに蓄えられた電荷を使い切ると、制御の都合上、実質的にスタック全体の電荷を使い切ったことになるからです。スタック内の各セルの健全性は、充電状態(SoC:State of Charge)で評価されます。SoCとは、セルの容量に対する電荷の残量の割合のことです。各セルの残量の判定は、電圧、充放電電流、温度などの測定値を使用することで行います。多くの場合、SoCの計測には、シングルチップ/マルチチップのバッテリ管理システム(BMS:Battery Management Systems)などが使用されます。この種のICを使えば、バッテリの監視(SoCの計測を含む)に加え、パッシブ方式またはアクティブ方式のセル・バランシング機能を適用して、バッテリ・スタックの性能を高めることができます。具体的には、以下のような効果が得られます。 

  • セルの容量にかかわらず、健全な SoC が得られます。
  • セル間の充電状態のミスマッチを最小化することができます。
  • セルの経年変化(容量の低下)による影響を最小化することができます。

パッシブ方式とアクティブ方式のセル・バランシングには、それぞれに長所と短所があります。そこで、アナログ・デバイセズは、両方の方式に対応するBMS製品群をソリューションとして提供しています。本稿では、パッシブ・セル・バランシングについて詳しく説明することにします。

パッシブ・セル・バランシングによって得られる効果

先述したように、バッテリ・スタック内のセルの特性にはばらつきがあります。とはいえ、未使用の段階では、比較的均一な特性を備えているかもしれません。しかし、実際に使い始めると、各セルの特性は、充電/放電サイクル、温度の上昇、一般的な経年変化によって、それぞれに異なる速さで徐々に劣化していきます。劣化の進んだセルは、劣化の小さいセル(容量の大きいセル)よりも早く完全に充電/放電された状態に達します。このことは、システムの稼働時間を制限する要因になります。パッシブ・セル・バランシングを適用すれば、見かけ上、スタック内のすべてのセルが最も劣化したセルと同じ容量を備えている状態にすることができます。充電サイクルにおいて、SoCの高いセルから比較的少ない電流によって少量のエネルギーを放出し、すべてのセルをSoCの最大値まで充電できるようにするのです。この処理は、各セルに並列に接続されたスイッチと放電用の抵抗によって実現されます(図1)。

図1. 放電用の抵抗を使用するパッシブ・セル・バランサ
図1. 放電用の抵抗を使用するパッシブ・セル・バランサ

SoCの高いセルの余剰電力は放電用の抵抗によって浪費され、まだSoCが低いすべてのセルが完全に充電されるまで充電を続けられるようにします。 

パッシブ・セル・バランシングを使えば、すべてのバッテリのSoCを等しくすることができます。パッシブ方式は、セルのバランスを調整するための手法としては比較的低コストなものだと言えます。ただ、この方式では、バッテリ駆動のシステムの稼働時間を延伸することはできません。放電用の抵抗によってエネルギーを浪費することになるからです。なお、パッシブ・セル・バランシングを使えば、セル間の自己放電電流について、長期間にわたるミスマッチを補正することも可能です。

パッシブ・セル・バランシング機能を備えたマルチセル対応のバッテリ監視IC

アナログ・デバイセズは、パッシブ・セル・バランシング機能を備えるマルチセル対応のバッテリ監視ICの製品ファミリを提供しています。各製品は、直列に接続された最大12個のバッテリ・セルを対象とし、全体で1.2mV未満に誤差を抑えて測定を実施することができます。また。スタッカブルなアーキテクチャを備えているので、同じICを複数使うことにより、数百個のセルを監視することが可能です。セル当たりの測定範囲は0V~5Vなので、ほとんどのバッテリ・ケミストリに対応できます。図2に、具体的な例として「LTC6804」のアプリケーション回路図を示しました。

図2. LTC6804のアプリケーション回路図。パッシブ・セル・バランシングを実現するために外付けの回路を使用しています。
図2. LTC6804のアプリケーション回路図。パッシブ・セル・バランシングを実現するために外付けの回路を使用しています。

LTC6804は、パッシブ・セル・バランシング用の回路を内蔵していますが(図3)、必要に応じ、外付けのMOSFETを使って同様の回路を構成することも可能です(図4)。また、パッシブ・セル・バランシングに伴う放電処理向けに、プログラムが可能なタイマ機能がオプションで提供されています。これを使用すれば、さらに柔軟にシステムを構成することが可能になります。

図3. 内蔵スイッチを使用して構成したパッシブ・セル・バランシング用の回路
図3. 内蔵スイッチを使用して構成したパッシブ・セル・バランシング用の回路
図4. 外付けのスイッチを使用して構成したパッシブ・セル・バランシング用の回路
図4. 外付けのスイッチを使用して構成したパッシブ・セル・バランシング用の回路

最後に、アクティブ・セル・バランシングについて簡単に触れておきます。充電の効率を高めつつ、システムの稼働時間を最大限に延ばしたい場合には、アクティブ・セル・バランシングが最適な選択肢となります。アクティブ・セル・バランシングでは、エネルギーが浪費されることはありません。余剰エネルギーは、充電中/放電中にスタック内の他のセルに再分配されます。放電中には、劣化の少ないセルによって劣化の大きいセルに電荷を分配し、すべてのセルが完全に放電した状態に達するまでの時間を延ばします。アクティブ・セル・バランシングの詳細については、別の記事「Active Battery Cell Balancing(バッテリのアクティブ・セル・バランシング)」をご覧ください。