バッテリのアクティブ・セル・バランシング

2016年08月18日
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バッテリ・スタックの各セルを健全な充電状態(SoC:State ofCharge)で維持するには、各セルの監視を行う必要があります。そのために使われるのが、セル・バランシングという機能です。この機能には、パッシブ方式とアクティブ方式があります。これらのうち、本稿の主題として取り上げるのは、後者のアクティブ・セル・バランシングです。セル・バランシングの機能を適用すれば、バッテリのサイクル寿命を延伸することができます。また、過充電が原因で生じる過放電によってバッテリ・セルが損傷するのを防ぐことが可能になります。つまり、バッテリ向けの新たな保護の仕組みが得られるということです。パッシブ・セル・バランシングでは、ブレード抵抗による単純な放電によって過充電の影響を抑え、すべてのバッテリ・セルを同等のSoCに維持します。しかし、この方法は、システムの稼働時間を延ばすことにはつながりません1。一方のアクティブ・セル・バランシングでは、充電サイクル/放電サイクルにおいてバッテリ・セル間で電荷を再分配するという複雑な処理を行います。それにより、バッテリ・スタックにおいて使用できる総電荷量を増やし、システムの稼働時間を延伸します。また、パッシブ・セル・バランシングと比べて充電時間を短縮することができます。更に、バランシングの際に発生する熱を少なく抑えることが可能になります。 

放電時のアクティブ・セル・バランシング

図1は、標準的なバッテリ・スタックにおいて、すべてのセルが満充電になっている状態を表しています。この例では、90%充電された状態を満充電と定義しています。長時間にわたり、バッテリを100%かそれに近いレベルまで充電した状態で維持すると、セルの劣化が早まり、寿命が短くなるからです。また、この例では、セルの過放電を防ぐために、残量が30%になった時点で完全に放電された状態になったと見なすこととしています。 

 

図1. 満充電の状態

経時変化により、一部のセルは他のセルと比べて早く劣化します(セルごとに、劣化速度にばらつきがあるということです)。その結果、放電プロファイルは図2に示したようなものになります。

 

図2. 不均一に放電が行われた結果

複数のセルにかなりの残量があったとしても、バッテリ全体として見た場合、システムを稼働できる時間が制限されてしまうことがわかります。セル間の容量に5%の差があると、5%の残量が未使用の状態になってしまいます。大規模なバッテリでは、大量のエネルギーが未使用のままになってしまうということです。このことは、リモート・システムやアクセスが難しいシステムにおいては重大な問題になります。結果的に、一部のエネルギーが使用できないままになり、バッテリの充電/放電サイクルの回数が増えることになるからです。また、その未使用のエネルギーによってバッテリの寿命が短くなるため、バッテリの交換頻度が高まりコストの上昇につながります。 

この問題を解消するのがアクティブ・セル・バランシングです。この手法を適用すれば、劣化のないセルから劣化したセルへの電荷の再分配が行われます。その結果、バッテリ・スタックの放電プロファイルは、図3のように完全に放電した状態になります。 

 

図3. アクティブ・セル・バランシングを適用して完全な放電を行った結果

充電時のアクティブ・セル・バランシング

セル・バランシングを適用することなくバッテリ・スタックを充電すると、劣化したセルは劣化のないセルよりも先にフル充電に達します。そうすると、システムが保持できる全体の総電荷量が、劣化したセルによって制限されることになります。充電時にも、劣化したセルが原因で問題が生じるということです。図4は、このような問題が生じた状態を表しています。

 

図4. セル・バランシングを適用しないで充電を行った結果
図4. セル・バランシングを適用しないで充電を行った結果

充電サイクルにおいて、アクティブ・セル・バランシングによる電荷の再分配を実施することで、スタックは満充電に達することができます。なお、ここでは詳しく触れませんが、バランシングに必要な時間や、選択したバランシング電流がその時間に及ぼす影響については、十分に検討する必要があります。  

アナログ・デバイセズのアクティブ・セル・バランサ

アナログ・デバイセズは、アクティブ・セル・バランシングを実現するための製品ファミリを提供しています。様々なシステムの要件に対応可能な多くのアクティブ・セル・バランサ製品を用意しています。「LT8584」は、2.5Aの放電電流に対応するモノリシック型のフライバック・コンバータです。同ICは、マルチケミストリ・バッテリに対応するセル・モニタIC「LTC680xファミリ」と共に使用します。それらのICを使用することにより、1つのセルからバッテリ・スタックの最上部、スタック内の別のセル、複数のセルの組み合わせに対して、電荷を再分配できます。この場合、1つのセルにつき1個のLT8584を使用します(図5)。

 

図5. アクティブ・セル・バランシングを適用した12セルのバッテリ・スタック・モジュール
図5. アクティブ・セル・バランシングを適用した12セルのバッテリ・スタック・モジュール

LTC3300」は、最大10Aのバランス電流を供給可能なスタンドアロン型の双方向フライバック・コントローラです。このICは、リチウム・バッテリとLiFePO4(リン酸鉄リチウム)バッテリ向けの製品です。双方向に対応するので、選択したどのセルからでも、12個以上の隣接したセルとの間で、高い効率で電荷を相互に分配できます。1個のLTC3300によって、最大6個のセルを対象とすることが可能です(図6)。

 

図6. 高い効率が得られる双方向のアクティブ・セル・バランシングの実現方法
図6. 高い効率が得られる双方向のアクティブ・セル・バランシングの実現方法

LTC3305」は、最大4セルの鉛蓄電池に対応するスタンドアロン型のセル・バランサです。同ICを使用する場合、図7に示すように、セル・バランシングの対象となる4つのセルとは別に、もう1つ蓄電用バッテリ・セル(図中のAux)を用意します。それを各セルと並列に配置して、すべてのセルのバランス調整を行います(鉛蓄電池は丈夫なので、このような使い方が可能です)。

図7. 4個のバッテリ向けのバランサ。高低のバッテリ電圧フロントがプログラムされています。
図7. 4個のバッテリ向けのバランサ。高低のバッテリ電圧フロントがプログラムされています。

まとめ

アクティブ方式、パッシブ方式のセル・バランシングは、いずれも各セルのSoCを監視して均一化を図ることでシステムの健全性を高める有効な手法です。アクティブ・セル・バランシングは、充電/放電の両サイクルに対応して電荷を再分配することができる点で、充電サイクル中に単純に電荷を放出するパッシブ・セル・バランシングとは異なります。このような特徴を持つことから、アクティブ・セル・バランシングを採用すれば、システムの稼働時間を延伸し、効率的に充電容量を確保ことができます。その半面、アクティブ・セル・バランシングは複雑なものであり、実装面積の大きいソリューションとなります。そのため、パッシブ・セル・バランシングの方がコストの面では優れています。どちらの方法が最適であるかは、アプリケーションによって異なります。アナログ・デバイセズは、「LTC6803」、「LTC6804」などのバッテリ・マネージメントICと連動する補完用デバイスを統合したソリューションをアクティブ/パッシブの両方式向けに提供しています。それらを採用することにより、高精度で堅牢なバッテリ・マネージメントを実現することが可能になります。 

著者について

Kevin Scott
Kevin Scottは、アナログ・デバイセズのパワー製品グループでプロダクト・マーケティング・マネージャを務めています。昇圧、昇降圧、絶縁型コンバータに加え、LEDドライバとリニア・レギュレータを担当しています。以前は、シニア・ストラテジック・マーケティング・エンジニアとして、技術トレーニング用コンテンツの作成、セールス・エンジニアのトレーニング、各種製品の技術的な優位性を紹介するウェブサイト向け記事の執筆を行っていました。半導体業界で2...
Sam Nork
Sam Norkは、1988年にシニア製品エンジニアとしてLinear Technology(現在は、アナログ・デバイセズに統合)に入社しました。1994年に、アナログICを担当するデザイン・センターの立ち上げ/管理を担当するためにボストン地区に転勤になり、今日に至ります。ポータブル・パワー・マネージメントの分野で多数の集積回路を自ら設計/リリースした経験を持ち、発明者/共同発明者として7件の特許を取得しています。現在はアナログ・デバイセズ...

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