大電流、高速過渡応答、低ノイズのマルチフェーズ電源ソリューション【Part 2】結合インダクタを組み合わせる

2024年07月23日
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要約

本稿は、「大電流、高速過渡応答、低ノイズのマルチフェーズ電源ソリューション【Part 1】」に続く記事(Part 2)です。Part 1では、主にアナログ・デバイセズのSilent Switcher® 3技術について解説しました。同技術は、マルチフェーズに対応するモノリシック型の降圧レギュレータに適用されます。その特徴の1つは、制御ループの帯域幅を非常に広く確保できる点にあります。また、Part 1では、単相の設計からマルチフェーズの設計に移行することによって得られるメリットを明らかにしました。そのメリットの1つは、過渡的な事象が発生した場合に、出力電圧が所定のレベルに回復するまでの時間を短縮できることです。また、出力電圧のピークtoピーク値(変動幅)を大幅に低減できるというメリットも得られます。Part 2では、Silent Switcher 3を適用したマルチフェーズ対応のモノリシック型降圧レギュレータと結合インダクタ(CL:Coupled Inductor)を組み合わせた回路の例を紹介します。そのような設計を採用すれば、ループの帯域幅を500kHz以上に広げられます。また、出力リップルのピークtoピーク値を1mV未満に抑えられます。加えて、ループの帯域幅が広いことから周波数の低い出力ノイズが抑制されます。更に、本稿では、医療用イメージング・アプリケーションで使用されるレギュレータを例にとり、CLがもたらす効果を検証します。具体的には、CLを使用した場合とディスクリートのインダクタ(DL:Discrete Inductor)を使用した場合に、マルチフェーズ対応のレギュレータの性能にどのような差が出るのかを明らかにします。

CLによるマルチフェーズ性能の向上

本稿で取り上げるのは、マルチフェーズ対応(インターリーブ方式)の降圧コンバータです。この種のコンバータは、非常に多くの負荷電流に効率的に対応できることで知られています。また、制御ループの帯域幅が広いので、サーバや有線通信のアプリケーションで一般的に使用されています。しかし、マルチフェーズ対応の降圧コンバータには1つの制約が存在します。それは、定常状態と過渡的な状態とでは、各相に対応するインダクタに求められる振る舞いが異なるというものです。高い効率を達成するという観点からは、インダクタンスが高い方が有利です。なぜなら、電流リップルを抑えられ、スイッチング損失を低減できるからです。一方、過渡応答を高速化するためには、インダクタンスが低い方が有利です。その理由は、電源からの電荷が負荷に素早く到達し、出力電圧の低下を抑制できる点にあります。各相に対応するインダクタの値が小さければ、蓄積される過剰な電荷の量が減少します。そのため、負荷が除去されたときに生じる出力電圧のオーバーシュートが小さくなります。このように、効率と過渡応答の間にはトレードオフが存在します。マルチフェーズ対応のレギュレータにCLを適用すれば、これらの課題に対する顕著なメリットが得られます。

CLについては、特殊な種類のトランスだと見なすことができます。CLは、主に磁気カップリングを介して他の巻き線の挙動に影響を与えます。DLを使用したマルチフェーズの構成では、スイッチング用の信号によってインターリーブ動作を実現しても、出力ノードにおけるリップルしか低減できません。一方、CLを使用すれば、その効果が各相に対応するすべてのMOSFETとインダクタの巻き線に波及します。1つの相がアクティブになると、磁気カップリングによって、デューティ・サイクルを変化させることなく、他の結合相の電流が増加します。つまり、インダクタの電流は、その相がオフしている間に直線的に減少することはなく、他の相がアクティブになると再び増加し始めます。そのため、CLを利用すれば、各相に対応するインダクタンスの値をより小さく抑えつつ、1相あたりの電流リップルを最小限に抑えられます。その結果、高速な過渡応答と高い効率を両立することが可能になります。各相に対応するインダクタンスの値を小さく抑えられるので、過渡的な事象に対応する電流のスルー・レートはより高速になります。また、安定性を損なうことなく制御用の帯域幅を広げることができます。

DL/CLを使用した場合の帯域幅と過渡応答を比較する

一般に、医療用イメージング・システムは数多くのデータ・アクイジション用回路とDSP/ASICで構成されます。例えば、CTスキャナなどは比較的大規模なイメージング・システムだと言えます。そうしたシステムで使用する電源としては、過渡応答が高速で出力ノイズの小さいものが求められます。なぜなら、画像の精度を高めるために、信号の歪みを最小限に抑えなければならないからです。一般的なCTスキャナの場合、検出用モジュールの電源は、12Vの入力を基に、1Vの出力電圧、80Aの全負荷電流を生成する必要があります。本稿では、マルチフェーズに対応するレギュレータICの例として「LT8627SP」を取り上げます。これは、Silent Switcher 3を適用したモノリシック型の降圧コンバータICです。供給可能な電流量は最大16Aに達します。また、超低ノイズのリファレンスを内蔵しているので、低い周波数領域において卓越したノイズ性能を発揮します。LT8627SPを6相構成で使用すれば、負荷が最大96Aのアプリケーションに対応できます。2MHzのスイッチング周波数で各相をインターリーブした場合、周波数が12MHzの出力リップルが生成されることになります。出力コンデンサとしては2種類のコンデンサを組み合わせて使用します。1つは、1206サイズで値が22μFの積層セラミック・コンデンサ(MLCC)です。これを28個使用します。もう1つは、値が560μFの高分子タンタル固体コンデンサ(POSCAP)です。これは2個使用します。本稿の目的は、従来型のDLを使用した場合とCLを使用した場合の性能の違いを明らかにすることです。そのため、動作の条件と出力コンデンサの条件は同一とし、インダクタの種類の違いがレギュレータの性能に与える影響だけを明確にします。

LT8627SPを6相構成で動作させる場合、一般的に販売されているCLを使用することができます。つまり、2相のCLを3個使用するか、3相のCLを2個使用すればよいということです。ここでは、各相に対応するインダクタンスが異なる2種類のCL(Eaton製)を使用することにしました。2相のCLとして選択したのは、「CL1206-2-R120」(120nH) と「CL0806-2-R050」(50nH)です。3相のCLとしては、「CL0806-3-R050」(50nH)を使用します。CLと比較するための基準になるDLとしては、Coilcraft製の「XGL5050-161」を使用することにしました。これを選択したのは、インダクタの公称値(160nH)が、2相のCLであるCL1206-2-R120(120nH)と近く、サイズのプロファイルも似ているからです(表1)。

表1. 選択したDL/CLの電気的特性
  DL CL
製造元 Coilcraft Eaton
インダクタ XGL5050-161 CL1206-2-R120 CL0806-2-R050 CL0806-3-R050
Lk1 160nH 120nH 50nH 50nH
Lm2 - 130nH 120nH 120nH/130nH
ISAT(20%の低下) 23.5A 49A 70A 70A
DCR 1.20mΩ 0.40mΩ 0.25mΩ 0.25mΩ
1 CLの漏れインダクタンス。各相のDLのインダクタンスと等価。
2 CLの励磁インダクタンス。励磁インダクタンスに対する漏れインダクタンスの比によって、結合係数が決まる。

各インダクタを使用した評価を行う際には、補償用の回路を最適化します。具体的には、最大限のループ帯域幅を確保しつつ、少なくとも60°の位相マージンと8dBのゲイン・マージンが得られるようにします。このような調整を実施した結果、CL0806-3-R050を使用する場合を例にとると、60°の位相マージンと9dBのゲイン・マージンを確保しつつ、520kHzという最も広い帯域幅を実現することができました。

図1は、段階的な比較が行いやすいように示したボーデ線図です。これらの図を見ると、システムの結合相数Ncpを増やせば、各相に対応するインダクタンスが同じでもループ帯域幅を広げられることがわかります(XGL5050-161とCL1206-2-R120の比較)。また、Ncpを一定にしたまま各相に対応するインダクタンスを低くした場合もループ帯域幅は広くなります(CL1206-2-R120とCL0806-2-R050の比較)。

図1. 各種のインダクタを使用した場合のボーデ線図。(a)では、160nHのDLと120nHの2相CLを使用した場合を比較しています。また、(b)は120nHの2相CLと50nHの2相CL、(c)は50nHの2相CLと50nHの3相CLを比較したものです。

図1. 各種のインダクタを使用した場合のボーデ線図。(a)では、160nHのDLと120nHの2相CLを使用した場合を比較しています。また、(b)は120nHの2相CLと50nHの2相CL、(c)は50nHの2相CLと50nHの3相CLを比較したものです。

以下では、LT8627SPを6相構成で使用した場合の特性を示します。特に、大電流に対する特性と過渡応答の速さに注目することにします。評価の条件として、50%のステップ状の負荷を40A/マイクロ秒という厳しいスルー・レートで印加することにしました(負荷ステップ)。図2に示したように、負荷ステップの終了と同時に出力電圧は回復していきます。インダクタの種類に依らず、出力電圧は負荷ステップが終了してから1マイクロ秒以内にレギュレートされています。このことから、LT8627SPは変化に素早く対応可能な卓越した性能を備えていることがわかります。また、一般的にはシステムの応答性が優れている(帯域幅が広い)ほど、出力電圧の変動を抑えられます。図2を見ると、この一貫したパターンを確認できます。図5に、LT8627SPを6相構成で使用する回路(96A出力)の全体像を示しました。

図2. 各種のインダクタを使用した場合の過渡応答。LT8627SPを6相構成で動作させ、40A/1マイクロ秒の負荷ステップに対する立ち上がり/立下がりエッジを観測しました。

図2. 各種のインダクタを使用した場合の過渡応答。LT8627SPを6相構成で動作させ、40A/1マイクロ秒の負荷ステップに対する立ち上がり/立下がりエッジを観測しました。

定常状態の出力リップルにDL/CLが及ぼす影響

ループの帯域幅が広いほど、過渡的な事象に対する出力の変化を抑えられます。ただ、定常状態における出力リップルは、ピークtoピークのトータルの電流リップルと、出力容量の総計値からの影響を受けます。CLを使用する場合、各相に対するインダクタンスが等価なDLを使用する場合と比べて、1相あたりの電流リップルを小さく抑えられます。これがCLを使用することで得られるメリットの1つです。但し、各相に対応する電流リップルを出力で合算すると、ピークtoピークの電流リップルの総計値はCLを使用した場合もDLを使用した場合も同じになります。つまり、ピークtoピークの出力電圧リップルは同等になるということです。ここで、表2に示した測定結果をご覧ください。これは、LT8627SPを6相構成で使用した場合に、定常状態における各種の値がどのようになるのかをまとめたものです。なお、各インダクタに対しては、最適な補償方法を適用して測定を行いました。各相に対するXGL5050-160とCL1206-2-R120のインダクタンスは同等です。そのため、どちらを使用する場合でも、出力リップルのピークtoピーク値は約1mVとなっています。つまり、上述した内容に即した結果が得られています。しかし、50nHの2相CLと50nHの3相CLを使用した場合を比較すると、出力リップルのピークtoピーク値の測定結果は1.33mVから2.10mVに増大しています。つまり、各相に対応するインダクタンスが同じであれば出力リップルの総計値は等しくなるという想定に反した結果になっています。

表2. 各種のインダクタを使用した場合の制御帯域幅と出力リップル。LT8627SPを6相構成で動作させた場合の結果です。
インダクタ 制御帯域幅 過渡動作時のΔVout_ppk 定常状態時のΔVout_ppk
XGL5050-160 367kHz 118mV 1.06mV
CL1206-2-R120 421kHz 91.4mV 0.95mV
CL0806-2-R050 509kHz 79.0mV 1.33mV
CL0806-3-R050 520kHz 76.6mV 2.10mV

CLを使用する場合、磁気カップリングによって、他の相のデューティ・サイクルに影響を及ぼすことなく、結合した相の電流が増加します。その結果、出力には周波数がfsw×Ncpに相当するリップルの高調波成分が現れます。ピークtoピークの電圧リップルが増大するということは、スイッチング周波数の高調波成分が増大することによって、出力MLCCがリップル・ノイズをシャントする効果が低下するということを示唆しています。現実のコンデンサでは、パッケージ内に寄生インダクタンス(ESL)と寄生抵抗(ESR)が存在します。このことから、そのコンデンサは直列RLCサブ回路のように振る舞います。その影響を受けて、コンデンサのインピーダンスは周波数に依存した特性を示します。この回路の評価には、1206サイズで値が22μFのMLCCを使用しています。そのインピーダンスと周波数の関係をグラフとして表すと、1MHz以上の領域では誘電的な特性によってインピーダンスが高くなることがわかっています。したがって、2相CLを3相CLに変更してもリップルのレベルは同等になるという考えが成立りたなくなります。定常状態における出力リップルは、出力コンデンサの特性の変化の影響を受けるからです。

図3. 現実のMLCCと3Tコンデンサのバイパス・モードにおけるモデル(左)。(右)のグラフは、6相構成のLT8627SPの評価に使用した22μFのコンデンサのインピーダンスと周波数の関係を表しています。このグラフから、両者のインピーダンス特性の違いが見てとれます。

図3. 現実のMLCCと3Tコンデンサのバイパス・モードにおけるモデル(左)。(右)のグラフは、6相構成のLT8627SPの評価に使用した22μFのコンデンサのインピーダンスと周波数の関係を表しています。このグラフから、両者のインピーダンス特性の違いが見てとれます。

ソリューションのサイズが大きくなることを回避しつつ、出力リップルを低減するにはどうすればよいのでしょうか。1つの方法は、3端子(3T:Three-terminal)のコンデンサを使用することです(図3)。3Tコンデンサは、広い帯域幅にわたってESLを小さく抑えつつ、大容量を実現できることで知られています。ただ、22μFの3Tコンデンサのインピーダンス特性を見ると、4MHzから6MHzの間でインピーダンスが増大しています(4MHzと6MHzは、2相結合と3相結合のスイッチングに伴う特定の高調波成分)。つまり、MLCCの場合と同じ問題が生じます。したがって、2相CLを3相CLに置き換えると、やはり出力リップルは増大すると予想されます。但し、3Tコンデンサの場合、高い周波数におけるインピーダンスはMLCCと比べて1桁小さいレベルになります。そのため、生成されるリップルは、従来のMLCCを使用する場合と比べて小さくなります。そこで、22μF/1206サイズのMLCC(2個) を22μF/05035サイズの3Tコンデンサ(2個)に変更してみました。その結果、出力リップルのピークtoピーク値が2.10mVから0.81mVに低下しました(図4)。つまり、大幅な改善が得られています。3Tコンデンサを効果的に使用するには、CLのできるだけ近くに配置し、寄生インダクタンスを最小限に抑えます(図6)。そうすることで、容量値が等しい3Tコンデンサを効果的に使用できることになります。回路全体で見ると、コンデンサの数と出力容量値は同じですが、出力リップルが小さくなるという大きなメリットが得られます。

図4. 同じ22μFの容量を備えるMLCCと3Tコンデンサを使用した場合の比較。MLCCを使用する場合と3Tコンデンサを使用する場合の定常状態における出力リップル波形を示しました。これらは、LT8627SPと3相CL(CL0806-3-R050)を組み合わせて6相構成を実現した場合の結果です。

図4. 同じ22μFの容量を備えるMLCCと3Tコンデンサを使用した場合の比較。MLCCを使用する場合と3Tコンデンサを使用する場合の定常状態における出力リップル波形を示しました。これらは、LT8627SPと3相CL(CL0806-3-R050)を組み合わせて6相構成を実現した場合の結果です。

図5. LT8627SPを使用した6相構成の回路。入力電圧は12V、出力電圧は1V、1相あたりのスイッチング周波数は2MHzです。96Aの負荷電流を供給できます。

図5. LT8627SPを使用した6相構成の回路。入力電圧は12V、出力電圧は1V、1相あたりのスイッチング周波数は2MHzです。96Aの負荷電流を供給できます。

図6. マルチフェーズの構成に適した基板レイアウトの例。緑色のラインは、1つのチャンネルの入力から出力までのAC電流パスです。黄色のマーカーは、ICのフィードバック・ピンにルーティングされるローカルのフィードバック検出位置を表しています。青色のエリアには、各チャンネルの補償用回路を実装します。各チャンネルは、青色のマーカーの個所で内側の層に接続されます。

図6. マルチフェーズの構成に適した基板レイアウトの例。緑色のラインは、1つのチャンネルの入力から出力までのAC電流パスです。黄色のマーカーは、ICのフィードバック・ピンにルーティングされるローカルのフィードバック検出位置を表しています。青色のエリアには、各チャンネルの補償用回路を実装します。各チャンネルは、青色のマーカーの個所で内側の層に接続されます。

広帯域の出力ノイズは、単相構成とマルチフェーズ構成でどのように異なるのか?

あまり取り上げられることはありませんが、ループの帯域幅が広いことには1つの大きなメリットがあります。それは、出力ノイズが低減されるというものです。Silent Switcher 3は、極めて低いレベルまでノイズを抑えることが可能なアーキテクチャです。広帯域にわたるノイズについても、優れた性能を発揮します(代表値のレベルで言えば10Hz~100kHzで4μV rms)。この特性は、ノイズに敏感なアプリケーションにおいて重要な意味を持ちます。スイッチング方式のレギュレータでは、高速なスイッチング動作が行われます。それによる遷移の結果として残るランダムな電圧/電流の振幅がノイズだと見なされます。ループの帯域幅が広ければ、広い周波数範囲にわたって高いDCゲインが維持されます。それにより、定常状態で残存する出力誤差、すなわちノイズが補正されます。その結果、全体的な出力ノイズが低く抑えられます。図7を見れば、ループの帯域幅が広いことによって得られるメリットを確認できます。つまり、同帯域幅が広いほど、制御ループのクロスオーバー周波数までの広い範囲にわたって、周波数の低いノイズが抑制されることがわかります。結果として、全体的な出力ノイズ性能が顕著に改善されます。図7において、LT8627SPを使用して単相動作と4相動作を実現した場合のノイズ曲線は、Part 1の記事で示した回路を使って取得しました。一方、6相動作におけるノイズ曲線は、50nHの3相CLを使用して520kHzの帯域幅を実現した回路で測定した結果です。

図7. 出力ノイズの評価結果。LT8627SPを使用して、単相、4相、6相の回路を構成し、出力ノイズ・スペクトル密度を測定しました。ループの帯域幅が広いほど、出力ノイズが低減されることがわかります。

図7. 出力ノイズの評価結果。LT8627SPを使用して、単相、4相、6相の回路を構成し、出力ノイズ・スペクトル密度を測定しました。ループの帯域幅が広いほど、出力ノイズが低減されることがわかります。

LT8627SPとCLを組み合わせた回路を設計/評価する際に検討すべき事柄

ここまで、LT8627SPを使用したマルチフェーズ対応のレギュレータの特性について解説してきました。以下、LT8627SPとCLを組み合わせて回路を設計/評価する際に検討すべき事柄についてまとめます。

  • 2相CLを使用する場合と3相CLを使用する場合とでは、リップルの低減効果を最大限に得るために必要なインターリーブ方法に違いがあります。2 相CL の場合、結合相のスイッチング信号の位相を180°ずらしてインターリーブします。一方、3 相CL を使用する場合には、結合相のスイッチング信号の位相を120°ずらします。結合相の間の位相差を求めるための一般的な式は360° /Ncp となります。
  • CLを使用する場合に定常状態の出力リップルを一貫性のある状態で測定するためには、シールドされていないCL から放射されるノイズが混入するのを防がなければなりません。そのためには、U.FL ソケットなど、薄型のプローブ端子を使用する必要があります。U.FL 端子を使用して出力リップルをプローブすれば、理想に近い状態で電圧リップルの値を測定できます。
  • マルチフェーズ対応のモノリシック型スイッチング・レギュレータのボーデ線図を取得するのは、難易度が意外に高い作業になるかもしれません。各レギュレータIC は、それぞれ独自のフィードバック回路と制御ロジックを採用しているからです。マルチフェーズ対応の回路全体を適切に動作させるには、回路図に示されているように、すべてのIC のOUTS ピンとVC ピンに対する接続を行わなければなりません。そのような配線を慎重に行うことで、どのフィードバック抵抗に信号が印加されても、すべての制御ループで見られるのと同じ変動が確実に生じます。また、同じ補償用回路を共有することにより、各相に対応する制御ループが一体的に応答するようになります。なお、マルチフェーズ構成に対応する基板レイアウトについては、前掲の図6 を参照してください。

まとめ

本稿では、Silent Switcher 3を適用したマルチフェーズ対応のレギュレータIC(LT8627SP)の特性について詳しく説明しました。本稿で示したとおり、CLを使用してマルチフェーズ動作を実現すれば、その性能を非常に高いレベルに引き上げられます。また、この設計を採用すれば、大電流の急速な変化に対応する能力が高まります。それだけでなく、出力ノイズが大幅に低減されます。Silent Switcher 3を適用したマルチフェーズ対応のスイッチング・レギュレータは、500kHzを超えるループの帯域幅によって動的な負荷に対応します。また、それによって周波数の低い出力ノイズが更に抑制されます。そのため、無線通信、産業、防衛、医療といった分野のアプリケーションに対する有用なソリューションになります。新世代の製品は、1MHzを超える周波数レートでの動作が可能です。その場合、出力リップルを最小限に抑える上では、従来から使われているMLCCがボトルネックになります。高い周波数における出力リップルを抑えるには、3Tコンデンサのようなインピーダンスの小さいコンデンサを選択すべきです。本稿では、具体的な例としてSilent Switcher 3を適用したマルチフェーズ対応のスイッチング・レギュレータを取り上げました。その評価結果によって実証されたとおり、CLと低インピーダンスの出力コンデンサを組み合わせれば、応答が速くリップルが小さい優れたスイッチング・レギュレータを実現することができます。

著者について

Uyen Nguyen
Uyen Nguyenは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ)のプロダクト・アプリケーション・エンジニアです。汎用マーケット、パワーデバイスを担当するグループに所属。専門はパワー・エレクトロニクスです。2022年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で電気工学とコンピュータ科学の学士号、2023年に修士号を取得しています。

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