コモンモード過渡耐圧

コモンモード過渡耐圧

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コモンモード過渡耐圧(CMTI)は、iCouplerデジタル・アイソレータやフォトカプラなどのアイソレータに関連する3つの主要特性の1つです。他の主要特性は絶縁定格と動作電圧です。本稿では、アナログ・デバイセズが提供するトランスベースのiCouplerデジタル・アイソレータのCMTI測定方法について述べ、競合するコンデンサベースのデジタル・アイソレータと比較します。

高スルー・レート(高周波数)のトランジェントはアイソレーション・バリア越しに伝送されるデータを破損させる可能性があるので、CMTIは重要な指標です。これらのトランジェントからの影響の受けやすさを理解し、それを測定することは非常に重要です。バリアをまたぐ(つまり絶縁グランド・プレーン間の)容量は、これらの高速トランジェントがアイソレーション・バリアを越えるための経路となり、出力波形を破損させます。

4チャンネル・デジタル・アイソレータのCMTIテストを行うための代表的なセットアップを図1に示します。CMTIテストでは、絶縁グランド・プレーン間にパルス状のトランジェントを加えてデバイスの出力をモニタし、データ異常の有無を確認します。このトランジェントの主要特性は、そのスルー・レートです。図1に示すケースでは、アイソレーション・バリア左側のグラウンドにトランジェント・パルスを加え、バリアの右側でDUTの出力をモニタします。CMTIテストは正負両方のトランジェントで行うほか、DUTの入力をハイに接続した場合とローに接続した場合の両方について行います。

図1:4チャンネル・デジタル・アイソレータの代表的なCMTIセットアップ

図1:4チャンネル・デジタル・アイソレータの代表的なCMTIセットアップ

トランスベースのアイソレーションとコンデンサベースのアイソレーション

アナログ・デバイセズの4チャンネル・デジタル・アイソレータADuM1402はトランスをベースとするアイソレーション方法を採用しており、オンチップの空芯トランスを使ってアイソレーション・バリアを実装しています。1次コイルと2次コイルは、数千ボルトの絶縁能力を持つ厚いポリイミド層によって分離されています。データは、トランスの2つのコイル間の誘導結合と磁界変化を通じて、アイソレーション・バリア越しに伝送されます。

トランスベース・アイソレーションに代わるものが、アイソレーションとアイソレーション・バリア越しのデータ伝送の両方にコンデンサを使用する方法です。コンデンサのプレート間にある誘電体は、電気的なアイソレーション・バリアとしての役割を果たします。トランスの場合と同様に、容量性結合では電界変化を使ってアイソレーション・バリア越しに情報を伝送します。

このテストでトランスベースのアイソレーションとコンデンサベースのアイソレーションを比較した結果、CMTIに関してはトランスベースの方が本質的に優れていることが実証されました。下の表に示すように、トランスによるアイソレーションの方がCMTIは優れており、トランジェントの影響を受けにくくなっています。

テスト トランジェントの極性 出力状態 トランス方式合格レベル コンデンサ方式合格レベル トランス方式不合格レベル コンデンサ方式不合格レベル
CMH ハイ 100 kV/µs 9 kV/µs > 100 kV/µs 10 kV/μs
CML ロー 100 kV/µs 100 kV/µs > 100 kV/μs > 100 kV/μs
CMH ハイ 100 kV/μs 18 kV/µs > 100 kV/μs 20 kV/μs
CML ロー 100 kV/μs 100 kV/µs > 100 kV/μs > 100 kV/μs
(すべてのテストはVBATT = VDD2 = 4.50V、+25Cで実施)

CMHテスト・パラメータは、VOUT > 0.8*VDD2を維持しながら持続できるコモンモード電圧の最大スルー・レートです。CMLは、VOUT < 0.8Vを維持しながら持続できるコモンモード電圧の最大スルー・レートです。

図2に、10kV/µsの正のコモンモード・トランジェントと、出力段ハイ(CMH)のときにこのトランジェントがコンデンサベースのデジタル・アイソレータに与える影響を示します。これに対し図3は、ADuM1402が100kV/µsまでの正のコモンモード・トランジェントに耐性を有していることを示しています。

正のトランジェント

図2:コンデンサベースのアイソレータ、CMH = 約10kV/µs

図2:コンデンサベースのアイソレータ、CMH = 約10kV/µs

図3:ADuM1402、CMH = 約100kV/µs、VOA、VOB

図3:ADuM1402、CMH = 約100kV/µs、VOA、VOB

正のトランジェントの場合同様に、図4は、コンデンサベースのアイソレータが、出力段ハイ(CMH)のときの負のコモンモード・トランジェントに対しても敏感であることを示しています。しかし、図5では、ADuM1402が100kV/µsに達する負のコモンモード・トランジェントにも耐性を有していることが分かります。iCouplerのデータシートに仕様規定されている保証CMTIレベルは、その多くが100kV/µsよりはるかに低い値で、標準的な保証値は最低25kV/µsです。これは、あらゆるプロセスと動作条件において定格値を確保するための値です。

負のトランジェント

図4:コンデンサベースのアイソレータ、CMH = 約20kV/µs

図4:コンデンサベースのアイソレータ、CMH = 約20kV/µs

図5:ADuM1402、CMH = 約100kV/µs、VOA、VOB

図5:ADuM1402、CMH = 約100kV/µs、VOA、VOB

まとめ

以上の測定に基づけば、コンデンサベースのデジタル・アイソレータは、その出力状態がハイ(CMH)の場合はコモンモード・トランジェントの影響を受けやすいことが分かります。しかし、出力状態がロー(CML)の場合は、コンデンサベースのデジタル・アイソレータでもトランスベースのデジタル・アイソレータと同等のCMTIが得られます。誘導結合の利点は、ノイズに対しては高いコモンモード・インピーダンスを示し、信号に対しては低い差動インピーダンスを示すことです。しかし、トランスベースのアイソレータと異なり、コンデンサベースのアイソレータに差動信号はなく、ノイズと信号が同じ伝送経路を共有します。したがってこの場合は、バリアの容量が信号に対して低インピーダンスとなり、ノイズに対しては高インピーダンスとなるように、信号周波数をノイズの予想周波数より十分に高くする必要があります。