AC/DC設計において窒化ガリウム(GaN)トランジスタに利点をもたらすiCoupler技術

AC/DC設計において窒化ガリウム(GaN)トランジスタに利点をもたらすiCoupler技術

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Robbins Ren

ハイパースケールのデータ・センターや企業用サーバー、電気通信用交換局などの消費電力が急速に増大していることから、高効率のAC/DC電源が、電気通信およびデータ通信インフラストラクチャ発展の鍵となっています。しかし、パワー・エレクトロニクス産業は、シリコンMOSFETの理論的限界に達しています。その一方で、近年では、シリコンベースのMOSFETに代わる高性能スイッチとして窒化ガリウム(GaN)トランジスタが登場しており、電力変換効率の向上と高密度化が可能になっています。GaNトランジスタの利点を生かすには、新しい仕様の絶縁概念が必要です。

GaNトランジスタは、以下の理由から、シリコンMOSFETよりはるかに高速のスイッチングが可能なため、スイッチング損失を低く抑えることができます。

  • ゲート容量と出力容量が小さい。
  • 大電流動作時のドレイン・ソース間のオン抵抗(RDS(ON))が小さいので、導通損失が小さくなる。
  • ボディ・ダイオードが不要なので、逆回復電荷(QRR)が小さい、あるいはゼロになる。

GaNトランジスタを使用すれば、ほとんどのAC/DC電源を、別体の力率補正(PFC)セクションとDC/DCセクションで構成することができます。つまり、フロントエンド、ブリッジレスPFC、およびその後段のLLC共振コンバータ(2個のインダクタと1個のコンデンサ)です。このトポロジは、図1に示すように、もっぱらハーフブリッジ回路とフルブリッジ回路に依存します。

図1 電気通信およびサーバー・アプリケーション用の代表的なAC/DC電源。

図1 電気通信およびサーバー・アプリケーション用の代表的なAC/DC電源。

デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)をメイン・コントローラとして、GaNトランジスタ(シリコンMOSFETに代えて使用)と共に使用する場合は、より高いスイッチング周波数に対応するために新しい絶縁技術が必要となります。その主なものが絶縁型GaNドライバです。

代表的な絶縁ソリューションと条件

UART通信の絶縁


従来のアナログ制御システムからDSP制御システムへの変更にあたっては、パルス幅変調(PWM)信号とその他の制御信号を絶縁する必要があります。DSP間のUART通信にはデュアルチャンネルのADuM121を使用できます。絶縁に必要なシステム全体のサイズを最小限に抑えるために、ボード・アセンブリにはエポキシ樹脂のシーラントを使用します。AC/DCの進歩という点では、サイズが小さいこととパワー密度が高いことが極めて重要であり、より小型化されたパッケージのアイソレータが必要になります。

PFCセクションの絶縁


MOSと異なり、GaNでは伝搬遅延/スキュー、負のバイアス/クランプ、そして絶縁型ゲート・ドライバのサイズが極めて重要です。GaNを使ったハーフブリッジまたはフルブリッジ・トランジスタを駆動する場合は、PFCセクションにADuM3123シングルチャンネル・ドライバを、LLCセクションにADuM4223デュアルチャンネル・ドライバを使用できます。

絶縁バリアの後方にあるデバイスへの電源供給


ADuM5020は、絶縁バリア越しに電力を伝送するために設計されたアナログ・デバイセズの isoPower®技術に基づき、GaNトランジスタの補助電源をゲートの補助電源にマッチさせることができるコンパクトなチップ・ソリューションです。

絶縁条件

GaNトランジスタの利点をフルに生かすために、絶縁型ゲート・ドライバにとって望ましい条件を以下に示します。

  • 最大許容ゲート電圧 < 7V
  • スイッチング・ノードのdv/dt > 100kV/ms、CMTI = 100kV/μs~200kV/μs
  • 650Vアプリケーションのハイ/ロー・スイッチ遅延マッチ ≤50ns
  • 電源オフ時の負電圧クランプ(−3V)

ハーフブリッジ・トランジスタのハイサイドとローサイド両方を駆動するソリューションは複数あります。従来のレベルシフト型高電圧ドライバに関する誤解の1つが、最も単純なシングルチップ実装が広く使われているのは、シリコンベースのMOSFETに対してのみと思われていることです。一部のハイエンド製品では(例えばサーバー用電源)、設計を小型化するために、MOSの駆動にADuM4223デュアル絶縁型ドライバが使われています。しかしGaNの場合には、レベルシフト型ソリューションには、伝搬遅延が非常に大きく、コモンモード過渡耐圧(CMTI)に制限がある、といった欠点があり、高いスイッチング周波数に最適というわけではありません。デュアル絶縁型ドライバは、シングルチャンネルのドライバに比べてレイアウトの柔軟性に欠けます。また、負バイアスの構成設定に困難が伴います。これらの方法の比較を表1に示します。

表1 GaNハーフブリッジ・トランジスタの駆動方法の比較
ソリューション 技術 利点 課題 ADI製品
内蔵ハイサイドおよびローサイド・ドライバ レベル・シフト 最も単純なシングルチップ・ソリューション 遅延が大きく、CMTIに制限がある、外付けブートストラップ回路
デュアル絶縁型内蔵ドライバ 磁気 シングルチップ・ソリューション レイアウトの柔軟性が欠如し、ブートストラップ・コンデンサの充電に時間がかかる ADuM4223
シングルチャンネル絶縁型ドライバ 磁気 レイアウトが容易、CMTIが高い、伝搬遅延/スキューが小さい 外部補助電源が必要 ADuM3123、ADuM4121
アイソレータと絶縁型電源 磁気 レイアウトの柔軟性、負バイアスへの対処が容易、ブートストラップ回路が不要 高コスト、EMIの問題 ADuM110+ ADuM5020
図2 isoPowerデバイスのUART絶縁とPFCセクション絶縁を示す代表的な絶縁対象と条件。

図2 isoPowerデバイスのUART絶縁とPFCセクション絶縁を示す代表的な絶縁対象と条件。

シングルチャンネル・ドライバは、そのままGaNトランジスタに使用できます。代表的なシングルチャンネル・ドライバがADuM3123で、図3に示すように、ツェナー・ダイオードによって供給される外部電源と、負バイアス用のディスクリート回路(オプション)を使用します。

図3 GaNトランジスタ用のシングルチャンネル絶縁型isoCouplerドライバ・アプリケーションの概要。

図3 GaNトランジスタ用のシングルチャンネル絶縁型isoCouplerドライバ・アプリケーションの概要。

新たなトレンド:カスタマイズした絶縁型GaNモジュール


目下のところ、GaNデバイスはドライバと別にパッケージされているのが普通です。これは、GaNスイッチと絶縁ドライバの製造プロセスが異なることによります。将来的にはGaNトランジスタと絶縁バリア・ドライバが同じパッケージに組み込まれるようになり、これによりインダクタの寄生成分が減少して、スイッチング性能が更に向上すると見込まれます。数社の大手テレコム・ベンダーは、そのGaNシステムを、自社内で個々にカスタマイズしたモジュールとしてパッケージすることを計画しています。長期的には、GaNシステム用のドライバを、より小型のアイソレータ・モジュール内に実装できるようになるでしょう。例えばADuM110N(低伝搬遅延、高周波数)やisoPower ADuM5020といった非常にサイズの小さいシングルチャンネル・ドライバは、図4に示すような設計の単純化を実現して、このトレンドを支えています。

図4 isoCoupler ADuM110NとisoPower ADuM5020はNavitas GaNモジュールに適しています。

図4 isoCoupler ADuM110NとisoPower ADuM5020はNavitas GaNモジュールに適しています。

まとめ

デバイス・サイズが小さく、低オン抵抗で、動作周波数が高い、といった特長を備えたGaNトランジスタは、従来のシリコンベースMOSFETと比較して多くの利点を備えています。GaN技術を採用すれば、効率を犠牲にすることなく、全体的なソリューション・サイズを小さくすることができます。GaNデバイスには、特に中程度の電圧から高電圧の電源に関して大きな可能性が見込まれます。アナログ・デバイセズのiCoupler®技術は、新たに出現したGaNスイッチやトランジスタの駆動に大きな利益をもたらします。