リニア・レギュレータの用途の1つに、スイッチング・レギュレータの出力電圧にフィルタとして適用するというものがあります。スイッチング・レギュレータの出力電圧には、ある程度の電圧リップルが必ず含まれています。このリップルは、微小な信号を処理する多くのアプリケーションにおいて、無視できない干渉源になります。通常、スイッチング・レギュレータの出力電圧のフィルタリングには、受動部品が使われます。ただ、図1のLC(インダクタ‐コンデンサ)フィルタのような受動フィルタには、いくつかの欠点があります。例えば、必要なカットオフ周波数によっては、実装スペースに関する条件を慎重に検討しなければなりません。また、かなり高価なインダクタが必要になるケースもあり得ます。そうした中でも、受動フィルタの最大の欠点としては、一定の損失が生じることが挙げられます。また、動作電流によって出力電圧(図1のVOUT)が変動することも、大きな欠点の1つです。それは、レギュレータの出力電圧の精度が大きく低下するということを意味するからです。
上記の理由から、受動LCフィルタの代わりにリニア・レギュレータが使われることがよくあります。多くのリニア・レギュレータは、非常に高い電源電圧変動除去比(PSRR)性能を備えています。これは、リニア・レギュレータに入力される電圧に含まれるリップル成分の大部分はブロックされるということを意味します。そのため、リニア・レギュレータの出力では、リップルが非常に小さくなります。また、リニア・レギュレータではクローズドループ制御が行われるため、精度が高く安定した出力電圧を得ることができます。
加えて、リニア・レギュレータとスイッチング・レギュレータを比較すると、非常に重要な仕様の面で違いがあります。それは、リニア・レギュレータでは、内部のリファレンス電圧とエラー・アンプによってノイズが生成されるという点です。干渉が少ない(ノイズが小さい)ことが求められるアプリケーションでは、リニア・レギュレータによって生成される干渉によって、重大な影響が生じる可能性があります。そのため、リニア・レギュレータ製品の中には、極めてノイズが小さいことを特徴とするものがあります。
図2に、リニア・レギュレータをフィルタとして使用する例を示しました。スイッチング・レギュレータによって生成された電圧に対し、フィルタとしてLDO(低ドロップアウト)レギュレータを適用しています。この方法は、正の電圧だけでなく負の電圧に対しても有効です。典型的なユースケースとしては、-5V~5Vのバイポーラ信号を非常に高い精度で測定し、A/Dコンバータによってデジタル化する回路が挙げられます。信号パスの入力段には、低ノイズのバイポーラ信号(正の電圧にも負の電圧にも遷移)が供給されます。正の電圧向けには、PSRRが高く干渉が少ないリニア・レギュレータ製品が数多く提供されています。特に非常に重要なアプリケーションに向けて、アナログ・デバイセズは多くのソリューションを提供しています。しかし、負の電圧向けのリニア・レギュレータで、そうしたアプリケーションに適しているものは数品種しか存在しません。例えば、最新製品である「LT3094」は、非常に高いPSRRを備えており、負の電圧のフィルタリングに使用することができます。また、電源からの干渉に敏感に反応するアプリケーションに向けて、極めて低いノイズ・レベルを達成しています。図3は、LT3094における周波数とPSRRの関係を示したものです。スイッチング周波数が1MHzのスイッチング・レギュレータを使用するケースを考えると、その周波数におけるLT3094のPSRRは、約75dBになります。LT3094のノイズ・レベルは、10Hz~100kHzにおいてわずか0.8µVrmsです。
リニア・レギュレータを使えば、正と負の両方の出力電圧の電源リップルを除去することができます。この種のフィルタリングは、負の電圧範囲においても非常に重要な意味を持つ処理です。ただ、負の電圧に適した低ノイズ・タイプの製品は限られているので、適切な製品を見つけ出すのは容易ではありません。LT3094は、Power by Linear™ファミリの最新製品です。この製品により、アナログ・デバイセズは、PSRRが極めて高く、非常に低ノイズの選択肢を提供できるようになりました。