負電圧を必要とするアプリケーションに最適な反転昇降圧コンバータ、高速な遷移と優れたノイズ性能を実現

負電圧を必要とするアプリケーションに最適な反転昇降圧コンバータ、高速な遷移と優れたノイズ性能を実現

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Erik Lamp

Erik Lamp

要約

本稿では、負の電圧源を必要とするアプリケーションに最適な反転昇降圧コンバータを紹介します。その特徴は、遷移が高速で、低周波ノイズを小さく抑えられる点にあります。同コンバータの主要な構成要素は、Silent Switcher® 3 技術を適用したモノリシック型の降圧コンバータです。それを反転昇降圧のトポロジで使用することで、所望の機能を実現します。このソリューションは徹底的にテストされており、様々な要件を満たすことを確認済みです。負荷過渡応答のピークtoピーク電圧、低周波ノイズ、バルク出力コンデンサの値、インダクタの値をそれぞれ最小に抑えつつ、高い効率を実現しています。また、Silent Switcher 3技術がもたらす高速性を最大限に活かし、より高い性能を達成しています。本稿では、このソリューションについて詳しく解説すると共に、設計上のヒントや考察すべき事柄も紹介していきます。その目的は、実際のアプリケーション設計を支援することにあります。

はじめに

負の電圧源を必要とするアプリケーションは少なくありません。代表的な例としては、シグナル・チェーンの構成要素であるD/Aコンバータ(DAC)やA/Dコンバータ(ADC)用のドライバ回路が挙げられます。また、ディスプレイ・システムやRFシステムで使われるパワー・アンプ、イメージング・システム、光ダイオードを使用するシステムでも負の電圧源が使われます。あるいは、自動試験装置(ATE)で真の0Vの出力を得るためのバイアス設定などにも使用されます。恐らく、それらのアプリケーションには1つの共通点があるはずです。それは、電源ノイズに敏感だというものです。電源ノイズには、スイッチング周波数の成分や、それよりも高い周波数成分に加え、0.1Hzからスイッチング周波数までの低周波ノイズの成分が含まれます。この低周波ノイズを抑えるために、電源の設計者の多くはLDO(低ドロップアウト)レギュレータをポスト・フィルタとして使用しています。しかし、その方法ではソリューションのサイズが大きくなってしまいます。また、効率も低下します。LDOレギュレータを使用する手法の優れた代替策となるのがSilent Switcher 3技術を採用したDC/DCコンバータ製品を利用する方法です。Silent Switcher 3技術を適用した降圧コンバータ(以下、SS3コンバータ)は、モノリシック型かつ超低ノイズの製品です。それらは、低周波ノイズ(コンバータの出力ノイズ)を最小限に抑えることが求められるアプリケーション向けの優れたソリューションになります。SS3コンバータでは、高いスイッチング周波数を使用できます。また、制御ループの帯域幅が広く、低周波ノイズを小さく抑えられます。これらの特徴は、降圧アプリケーションを構成する場合に限って活かせるものではありません。そのシンプルなハーフブリッジのトポロジを再構成すれば、反転昇降圧(IBB:Inverting Buck-Boost)コンバータとして使用できます。その場合、SS3コンバータの特徴を活かしつつ、負の出力電圧を生成することが可能です。しかも、アーキテクチャに加えなければならない変更はごくわずかです。そのような構成により、負電圧を必要とし、低周波ノイズを小さく抑えることが求められるアプリケーションでも大きな効果を得ることができます。従来、負の電圧を生成する超低ノイズのソリューションを実現するためには2つの段が必要でした。最初の段では、負電圧を生成するためのIBBコンバータまたはCÜKコンバータを使用します。続くポスト・フィルタ段では、低周波ノイズに関する要件を満たすために、負電圧を生成可能なLDOレギュレータを使用します。しかし、この方法はソリューションのサイズ(高さと面積)が非常に重要なアプリケーションには適していません。それに対し、SS3コンバータを活用する方法であれば、LDOレギュレータを排除してソリューションのサイズを小さく抑えることができます。それだけでなく、スイッチング周波数を高く設定し、制御ループの帯域幅を広げることにより、インダクタのサイズ/値とバルク出力コンデンサのサイズ/値を抑えることが可能になります。

本稿では、負電圧を必要とするアプリケーションでSS3コンバータをIBBコンバータとして活用する方法を紹介します。SS3コンバータ製品の例としては「LT8624S」を取り上げることにします。一般に、顧客の要望は、実現が難しい一連の仕様として提示されます。本稿は、そうした要求仕様を満たすための設計ガイドとして活用できます。また、本稿では、競合製品と比較する形で低周波ノイズに関する性能を示します。設計の過程では、負荷電流に対して適切なインダクタを選択する必要があります。また、IBBコンバータに伴う課題も解決しなければなりません。本稿では、それらの課題に対処する方法も具体的に示していきます。更に、IBBコンバータでは右半面ゼロ(RHPZ:Right Half Plane Zero)をより高い周波数領域にシフトすることで、制御ループの帯域幅を拡大することができます。この手法に関する簡単なヒントも示します。

負電圧を必要とするアプリケーションの仕様

本稿で例にとるアプリケーションではパワー・アンプを使用します。そのアンプの動作には-5Vという負の電源電圧が必要です。そして、この電圧は5Vの電源電圧から生成する必要があります。また、高さを2mmまでに抑え、コンパクトなフォーム・ファクタを実現しなければなりません。表1に示したのがアプリケーションに対する要求仕様の詳細です。LT8624Sは高速な製品であり、低周波ノイズの性能も優れています。そのため、このSS3コンバータをIBBコンバータとして使用することが、このアプリケーションに対する理想的なソリューションになります。実際、良好な効率を達成しつつ、コンパクトなソリューション・サイズを実現することが可能です。具体的には、図1に示した回路を構成します。

表1. アプリケーションに対する要求仕様
VIN VOUT 最大負荷 負荷過渡応答 高さ VOUTの許容誤差 10Hz~1MHzの積分ノイズ 効率
5 V –5 V 1 A 0.5A~1A 2mm 40mV p-p 25μV rms 90%

図1. SS3コンバータ(LT8624S)をIBBコンバータとして使用する回路(その1)。スイッチング周波数は2.2MHz、出力電圧は-5Vです。

図1. SS3コンバータ(LT8624S)をIBBコンバータとして使用する回路(その1)。スイッチング周波数は2.2MHz、出力電圧は-5Vです。

SS3コンバータをIBBコンバータとして使用する場合には、1つ注意すべきことがあります。それは、SS3コンバータのリファレンスとしては、グラウンドではなく-VOUTを使用するというものです。このことは、最大出力電圧を求める際に非常に重要になります。出力電圧は、以下の式によって決まります。ここでVIC Max ratingは、SS3コンバータを降圧コンバータとして使用する場合の最大定格電圧です。LT8624Sの場合、その値は18Vとなっています。また、SS3コンバータのリファレンスとして出力電圧を使用することに起因して、IBBコンバータの回路にはレベル・シフタ回路が必要になります。SS3コンバータでは、イネーブル制御を行ったり外部クロックとの同期を実現したりする必要があるでしょう。そのためには、様々な外部制御信号(EN/UVLOピンやSYNC/MODEピン)が必要です。それらすべての信号のリファレンスをSS3コンバータに適合させるためにレベル・シフタ回路を使用しなければならないということです。図1の回路には、レベル・シフタ回路も含まれています(左端の部分)。なお、図中のFCMはForced Continuous Mode(強制連続モード)、PSMはPulse Skipping Mode(パルス・スキップ・モード)を表します。

数式 01

インダクタとスイッチング周波数の選択

コンパクトなIBBコンバータを設計するためには、インダクタのサイズを最小限に抑えることが重要です。適切なインダクタを選択するために行うべき最初の作業は、顧客が指定したサイズの要件に対して最適なインダクタの製品ファミリを探し出すことです。本稿の例の場合、高さが2mm(上限値)にできるだけ近く、面積が最小のインダクタを探します。一般に、インダクタは物理的なサイズが大きいほど、電流能力と電力効率が高くなります。この点を考慮することが重要です。

本稿では、インダクタの選択肢として、Coilcraftの「XGLファミリ」を取り上げました。このシールド付きインダクタの製品ファミリは、高い性能を達成しています。同ファミリの製品の数は膨大なので、高さが2mmまでという条件だけでは絞り込むことができません。そこで、以下に示す式(2)、式(3)を使用し、全負荷の条件におけるインダクタの平均電流とピーク電流の値を計算します。ここで、ILはインダクタの平均電流の値、IPeakはインダクタのピーク電流の値です。0.4という定数は、インダクタのACリップル電流が40%であるということを表します。nはIBBコンバータの効率です。

数式 02

数式 03

降圧コンバータとは異なり、IBBコンバータにおけるインダクタの平均電流は、入力電流と出力電流の和であることに注意してください。このことから、インダクタの設計はより複雑になります。なぜなら、入力電流の値は変化する可能性があるからです。このことに起因し、降圧コンバータを構成する場合と比べてインダクタのサイズは大きくなるでしょう。ここでは、全負荷時のACリップル電流は40%、効率は90%であると仮定します。その上で全負荷の仕様に基づいて計算を行うと、インダクタの平均電流は約2.1A、ピーク電流は2.52Aとなります。これらの計算値を使用すれば、適切なインダクタを選択することができます。その際には、IRMSの定格値が平均電流の値(2.1A)よりも大きい製品を選択しなければなりません。また、理想的には、ISAT(インダクタンスが10%低下する電流値)がピーク電流の値(2.52A)よりも大きいものを選択するべきです。ここまでに示した条件(面積も含む)に基づき、本稿の例ではインダクタの製品ファミリとして「XGL4020」を選択しました。最終的な候補になったのは、この製品ファミリに含まれる2.2μH、1.5μHのインダクタです。最適な値を判断するために、スイッチング周波数を変更しながら、全負荷時の効率を評価しました。目標としたのは、最高周波数で90%以上の効率を達成することです。

その結果、1.5μHのインダクタを使用し、スイッチング周波数を2.2MHzに設定するのが最適な組み合わせであることがわかりました。全負荷時の効率は90.2%で、目標仕様を満たしています。この条件で回路を動作させた場合、図2に示すような効率が得られます。

図2. 図1の回路の効率。インダクタの値は1.5μH、スイッチング周波数は2.2MHzです。

図2. 図1の回路の効率。インダクタの値は1.5μH、スイッチング周波数は2.2MHzです。

バルク出力コンデンサの選択

ここまでで、IBBコンバータで使用するインダクタとスイッチング周波数を決定することができました。続いては、バルク出力コンデンサの構成を決定します。インダクタを選択する際と同様に、顧客の要求仕様を満たすためには、出力コンデンサの高さを2mmまでに抑える必要があります。また、占有面積も最小限に抑えなければなりません。加えて、半負荷から全負荷へ遷移する際には出力電圧が変動しますが、そのピークtoピークの値(以下、ピークtoピーク電圧)を40mVに抑制する必要があります。この要件を満たすためには、値が十分に大きい出力コンデンサを使用しなければなりません。また、そのコンデンサは5Vにディレーティングされている必要があります。本稿の例では、最適なコンデンサを選択するための母集団として、村田製作所の製品群を対象にすることにしました。同社は多種多様なコンデンサ製品を提供しているだけでなく、設計時に役立つドキュメントも十分に用意しているからです。本稿の例では、ディレーティングされた様々なコンデンサの中で、サイズの要件を満たしつつ容量値が最も大きいものを選択することにしました。その結果、22μFの0805コンデンサを採用することにしました。

続いて、バルク出力コンデンサの総量を決定します。それに向けて、要求仕様に基づき負荷過渡応答に関する一連の評価を行うことにしました。その際には、まず22μFのコンデンサを10個使用するといった具合に妥当な値を大きく上回る条件を設定します。それにより、ピークtoピーク電圧の要件を満たしつつ、安定性が確保された状態を作り出します。その上で、コンデンサを少しずつ取り除いていきます。そして、最適に補償されている状況を維持しつつ、ピークtoピーク電圧が40mVよりも少し小さくなる値を見出します。この時点で、全負荷時のボーデ線図も作成しました。

それにより、制御ループの位相マージンが45°以上、ゲイン・マージンが8dB以上確保されていることを確認しました。

ここまでの作業を経て、バルク出力コンデンサは22μFのコンデンサを7個使って構成することにしました。負荷が0.5A、1A、0.5Aとステップ状に変化する場合(スルー・レートは0.5A/マイクロ秒)、ピークt oピーク電圧は36mVとなりました(図3)。これは、40mV p-pという出力電圧の要求仕様を満たしています。

図3. 負荷過渡応答の評価結果。負荷を0.5Aから1Aへステップ状に変化させた場合(スルー・レートは0.5A/マイクロ秒)の遷移波形を示しています。

図3. 負荷過渡応答の評価結果。負荷を0.5Aから1Aへステップ状に変化させた場合(スルー・レートは0.5A/マイクロ秒)の遷移波形を示しています。

図4に示したのは、負荷が1Aの場合のボーデ線図です。これを見ると、帯域幅は103kHz、位相マージンは53°、ゲイン・マージンは8.2dBとなっています。いずれも、想定された範囲内にあることがわかります。

図4. 負荷が1Aの場合のボーデ線図。インダクタの値は1.5μH、スイッチング周波数は2.2MHzです。

図4. 負荷が1Aの場合のボーデ線図。インダクタの値は1.5μH、スイッチング周波数は2.2MHzです。

低周波ノイズの評価、競合製品との比較

ノイズに敏感なアプリケーションでは、低周波ノイズについて十分に配慮する必要があります。本稿で例にとっている顧客のアプリケーションでは、10Hz~1MHzのノイズが問題になります。この周波数範囲の積分ノイズを25μV rms未満に抑えなければなりません。そのノイズは、スペクトラム・アナライザとアンプを使用することで簡単に測定できます。ここまでに示した回路で評価を行った結果、10Hz~1MHzの積分ノイズは22μV rmsとなりました。つまり、顧客の要求仕様を満足しています。比較のために、SS3コンバータの競合製品の評価も実施しました。インダクタ、出力コンデンサ、スイッチング周波数を含めて同じ条件でノイズを測定した結果、積分ノイズは90μV rmsに達していました(図5)。

図5. SS3コンバータと競合製品の低周波ノイズの比較。負荷が1Aの条件で測定しました。

図5. SS3コンバータと競合製品の低周波ノイズの比較。負荷が1Aの条件で測定しました。

制御ループの帯域幅を拡大する方法

ここまでに示した結果を踏まえて、顧客はアプリケーションの仕様を見直すことにしました。その結果、10Hz~1MHzにおけるパワー・アンプの積分ノイズは20μV rms以下、負荷過渡応答におけるVOUTの許容値は35mV p-p未満という仕様に変更されました。残念ながら、ここまでに示した設計のままでは新たな要件を満たせません。そこで、回路を改善して性能を高めることにしました。幸い、SS3コンバータでは制御ループの高速化を図ることができます。そうすれば、出力コンデンサの値を増大させることなく、負荷過渡応答を高速化し、ノイズを低減することが可能になります。

SS3コンバータの高速制御ループを最大限に活用するためには、IBBコンバータのRHPZを配置し直す必要があります。RHPZは、制御ループのゲインの増大と位相の遅れを引き起こして帯域幅を制限します。つまり、SS3コンバータの性能を低下させるということです。1.5μHのインダクタを使用した設計の場合、RHPZは約265kHzの位置にあります。そして、約27kHzの位相損失を生じさせます。

RHPZが位置する周波数は、以下の式によって決まります。

数式 4.

ここで、Lはインダクタの値です。したがって、RHPZの位置はLの値に反比例することがわかります。つまり、値の小さいインダクタを使用すれば、RHPZの位置をより高い周波数にずらせるということです。そうすれば、制御ループの帯域幅を広げることができます。但し、インダクタのリップル電流を同じレベルに維持するためには、スイッチング周波数を高くしなければなりません。XGL4020ファミリの場合、次にサイズが小さいインダクタの値は1μHです。これに対応するには、スイッチング周波数を3.3MHzに引き上げる必要があります。LT8624Sの最高スイッチング周波数は6MHzなので、この変更には容易に対応できます。以上の変更を行った場合、新たなRHPZは約398kHzに位置することになります。そのため、制御ループの帯域幅をより高い周波数まで広げられます。変更後の回路は図6のようになります。

図6. SS3コンバータ(LT8624S)をIBBコンバータとして使用する回路(その2)。インダクタの値は1μH、スイッチング周波数は3.3MHzです。

図6. SS3コンバータ(LT8624S)をIBBコンバータとして使用する回路(その2)。インダクタの値は1μH、スイッチング周波数は3.3MHzです。

制御ループの比較

帯域幅が改善されたことを確認するために、VNが5V、VOUTが-5V、負荷が1Aという条件でボーデ線図を作成しました。図7に示したように、設計変更の前後の特性を比較できるようにしています。これを見ると、帯域幅は103kHzから123kHzに拡大していることがわかります。位相マージンは54°、ゲイン・マージンは9.8dBです。なお、1.5μHのインダクタを使用する場合と位相マージンが同等になるように、制御ループの補償用回路には変更を加えています。この点には注意してください。

図7. 設計変更の前後の特性を比較するためのボーデ線図。負荷が1Aの場合の結果です。

図7. 設計変更の前後の特性を比較するためのボーデ線図。負荷が1Aの場合の結果です。

設計を変更した結果、制御ループの帯域幅(速度)は約20%拡大しました。この新たな設計についても、負荷を0.5A、1A、0.5Aに変化させて過渡応答を評価しました。その結果、ピークtoピーク電圧は30mVとなりました(表2)。

表2. 設計変更の前後のピークtoピーク電圧。負荷を0.5A、1A、0.5Aに変化させた場合の過渡応答を比較しています。
VOUT のピークtoピーク電圧
 
1.5μH, 2.2MHz 1.0μH, 3.3MHz
36mV 30mV

低周波ノイズの比較

次に、10Hz~1MHzの積分ノイズが新たな要件を満たしていることを確認します。低周波ノイズの評価を行った結果、積分ノイズの値は18.9μV rmsとなりました。つまり、20μV rms以下という新たな仕様の範囲内に収まっています。図8に示したのが、設計変更の前後のノイズを評価した結果です。競合製品の評価結果も示してあります。

図8. 設計変更の前後の低周波ノイズ。負荷が1Aの場合の結果です。競合製品を使用した場合の特性も示してあります。

図8. 設計変更の前後の低周波ノイズ。負荷が1Aの場合の結果です。競合製品を使用した場合の特性も示してあります。

効率の比較

設計変更を行った後のスイッチング周波数は、変更前の設計と比べて50%高くなっています。したがって、全負荷時の効率を再評価する必要があります。その結果は図9のようになりました。全負荷時の効率は89.5%であり、90%という仕様を少し下回っています。ただ、この設計では効率の優先度は他の仕様よりも低かったので、顧客はこの結果に満足しました。

図9. インダクタの値が1.0μH、スイッチング周波数が3.3MHzの場合の効率。設計変更の前の結果と比較しています。

図9. インダクタの値が1.0μH、スイッチング周波数が3.3MHzの場合の効率。設計変更の前の結果と比較しています。

まとめ

本稿では、Silent Switcher 3技術を適用したモノリシック型の降圧コンバータを使用して負の電源電圧を生成する方法を紹介しました。LT8624Sを使用すれば、IBBコンバータを容易に実現できることをご理解いただけたでしょう。Silent Switcher 3技術を適用した降圧コンバータでは、スイッチング方式の製品としては比類のないレベルまで低周波ノイズを小さく抑えることができます。また、スイッチング周波数を高め、制御ループの帯域幅を拡大することが可能です。負の電圧源を必要とするアプリケーションの多くはノイズに敏感であり、高速な遷移を必要とします。本稿で紹介した回路は、そのようなアプリケーションに対する理想的なソリューションとなります。