低電圧、大電流のシステムでは正確な差動レギュレーションが必要です。0.9V以下の電源レールで、25A以上の電流と高速過渡応答が要求されることも珍しくありません。電源レールにとっては、断続的な電気的短絡のような状況です。こうしたシステムでは通常、DC安定化については1%未満、入力過渡発生時でも3%未満の電源レギュレーション精度が要求されます。
コア・プロセッサやその他の大規模デジタルIC(ASICやFPGAなど)では、プロセッサの要求に基づいて電力を供給するために、動的な電圧の調整(複数の固定レベル、またはサーボ・ループを使用した連続調整型リファレンス電圧)がますます要求されています。目標は、エネルギーの消費を抑えるために、電源電圧をシステムが正常動作するために必要な最小に下げることです。一例は、LSI の適応型電圧最適化(AVSO)です。
LTC3838-2は、正確な差動出力検出によって高精度の要求条件を満たす目的で設計されており、外部リファレンス電圧の差動入力を使用して出力電圧を動的に調整します。
デュアル差動出力電圧精度が重要
優れたレギュレーション精度を得るため、電源の設計者はコントローラ内部のエラーアンプを使用せず、代わりに外付けの高精度リファレンスおよびオペアンプを使用してパワー段を制御することがあります。問題は、使用する技術によっては、ソフトスタート機能と、過電圧保護など、多くの共通フォルト制御機能が使えなくなることです。
LTC3838-2を使えば、外部リファレンスを用いて精度を向上するだけでなく、フォルト制御機能や保護機能も同時に問題なく使うことができます。(LTC6652など)リニアテクノロジーの高精度電圧リファレンス(プログラム性が必要な場合はD/Aコンバータ)を使用すると、チャネル当たりの最大電流が25Aのアプリケーションで、LTC3838-2 のチャネル2 出力を0.4V~5.5Vの範囲内で高精度に安定化することができます。LTC3838-2 は、0.6Vの超低電圧で、入力、負荷、過酷な温度、最大±200mVのリモート・グランドの電位のずれを含む全動作条件で±4mV(±0.67%)という総合精度を実現できます。
製品番号 | リファレンス電圧 | 出力電圧 | 総合精度(グランド、入力、負荷、温度) |
LTC3838-1/-2のチャネル1 およびLTC3838-1のチャネル2 | 0.6V(内部) | 0.6V~5.5V | < ±0.75% (0ºC ≤ TA ≤85°C) < ±1% (–40ºC ≤ TA ≤125ºC) |
LTC3838-2のチャネル2(例:リニアテクノロジーの±0.1%精度の電圧リファレンスを使用) | 0.6V(外部) | 0.6V~5.5V | < ±0.67% (–40ºC ≤ TA ≤125ºC) |
1.5V(外部) | 1.5V~5.5V | < ±0.4% (–40ºC ≤ TA ≤125ºC) | |
2.5V(外部) | 2.5V~5.5V | < ±0.3% | |
*外付け分圧抵抗の誤差は含まない |
相対精度はリファレンス電圧が高くなるにつれて向上します。リファレンス電圧が高くなると、その範囲内での絶対誤差の割合は低下するからです。これは、低めの固定リファレンス電圧を基準にした帰還電圧の調整による出力電圧の設定とは対照的です(この方法では誤差の割合が変わりません)。たとえば、2.5Vの外部リファレンスを使用すると、全相対誤差は±0.3%未満です。LTC3838-2の2つのチャネルは、チャネル2の外部リファレンスをこのような精度で使用することで、シングル出力アプリケーションに構成することができます。
動的な差動方式による外部リファレンスのトラッキング
外部リファレンスを差動で検出する場合、外部リファレンス入力に使用できるLTC3838-2のピンは1つだけです。チャネル2は独自の帰還アンプ構成を備えているので、外部リファレンスのリモート・グランドを検出するための独立したピンは必要ありません。代わりに、2つの帰還抵抗を並列にし値の抵抗を1つ追加し、遠隔グランドに外付けします。この構成が機能する仕組みについては、LTC3838-2のデータシートをご覧ください。
外部リファレンス入力を設けた標準的なLTC3838-2アプリケーションを図2に示します。このデュアル・フェーズ・コンバータは、0.4V~2.5Vの広い出力電圧範囲にわたって50Aを供給できます。たとえば1.5Vでは、このアプリケーションが実現できる全動作条件での総合精度は0.4%です。この高精度と優れた過渡性能により、LTC3838-2は要求のもっとも厳しいプロセッサの電源として優れた結果を示します。
レギュレーション精度のほかに、LTC3838-2は動的な外部リファレンスに対する広帯域のトラッキング機能を備えています。トラッキング帯域幅は、動的な電圧調整のようなアプリケーションで重要です。電源がどれだけ迅速に応答して外部リファレンスの設定値に対応できるかは帯域幅によって決まるからです。
安定性を犠牲にすることなく、スイッチング周波数の1/3 にまで高めた帯域幅で補償した350kHz のLTC3838-2 降圧コンバータのボード線図を図3 に示します。これにより、LTC3838-2 は、3.5kHz(スイッチング周波数の1/100)の外部正弦波の開始と停止の際の非常に高い帯域幅のときでも、大きな歪みを発生することなくフルパワーで正弦波をトラッキングします(図4)。動的システムの帯域幅要件には細心の注意を払う必要があります。LTC3838-2は帯域幅の広い外部リファレンス・トラッキング機能に加えて高速過渡性能を備えているので、ほとんどの動的電源アプリケーションに最適です。
LT3838-1コントローラ:両方のチャネルに内部リファレンス
LTC3838-1 はLTC3838-2と同じ機能を共有していますが、LTC3838-1 のチャネル2では0.6Vの内部リファレンスを使用する点が異なります。先行製品であるLTC3838 およびLTC3839と同様、LTC3838-1 およびLTC3838-2は、制御されたオン時間の谷電流モード・アーキテクチャを採用しているので、急激な負荷変動時に優れたレギュレーションを実現し、固定周波数コントローラの場合のようなスイッチング周期応答遅延はありません。その上、200kHz~2MHz の外部クロックに同期した一定の周波数でのスイッチングは引き続き可能です。LTC3838-1/-2は、低出力電圧アプリケーションでの過渡性能を改善する独自の負荷開放過渡検出機能(DTR)など、LTC3838のすべての機能を持っています。LTC3838と同様、LTC3838-1/-2は、外部VCC電源ピン、RSENSEまたはインダクタDCRによる電流検出、選択可能な軽負荷動作モード、過電圧保護および電流制限フォールドバック、ソフトスタート/レール・トラッキング、チャネルごとのPGOODピンおよびRUNピンなど、一般的な機能一式を備えています。
出力電圧の差動リモート検出機能を両方のチャネルに備えている以外に、LTC3838-1/-2 がオリジナルのLTC3838より大きく改善されている点は、最大電流検出しきい値電圧(つまり電流制限)の精度です。1種類の連続可変電流制限と2 種類の固定電流制限(VRNG)があるLTC3838とは異なり、 LTC3838-2 のVRNGは30mV(標準)固定であり、その許容誤差は全温度範囲で±20%で、大幅に改善されています。LTC3838-1 は、同じ30mVの設定値に加えて、60mV(標準)のVRNG設定値を持っており、その精度も非常に正確になっています。LTC3838シリーズ2チャネル・コントローラの電流制限値の精度およびVRNG制御電圧については、表2を参照してください。
製品番号 | VRNG = SGND | VRNG = INTVCC | VRNG制御電圧 | VRNGピンの数 |
LTC3838およびLTC3839 | 21mV~40mV | 39mV~61mV | 30mV~200mV(連続)および30mV/50mV(固定) | 各チャネルに1つ |
LTC3838-1 | 24mV~36mV | 54mV~69mV | 30mV/60mV(固定) | 1つ |
LTC3838-2 | 24mV~36mV | 30mV(固定のみ) | なし |
LTC3838-1/-2コントローラでは、VINピンの最小電圧として4.5Vが必要ですが、これによって電源の入力電圧が4.5Vに制限されるわけではありません。たとえば、多くのデジタル・システムでは5Vの安定化レールを利用できますが、これを使用してVINピンやゲート・ドライバをバイアスすることも、入力を4.5V未満に効率的に降圧することもできます。
VINピンがダイオードOR接続を介してVBIASの5Vレールと電源のVIN(3.3V~14V)レールに接続されている様子を図5に示します。これにより、電源のVINレールを高い電圧と最小値の3.3Vの間で動的に切り替えることが可能です。5.5Vより電圧の低いVIN電源を使用して動作する場合、このアプリケーションでは、VBIAS 電源をEXTVCCピンに接続して、デバイスが正常に動作するために必要なDRVCCピン、INTVCCピン、VINピンの電圧を維持することが必要です。VIN電源の電圧が5.5V以上の場合、EXTVCC電源はオプションです。
このアプリケーションの電源入力電圧範囲は他の周波数や出力電圧に対して一般化することはできません。また、VINピンの電圧とは異なる電源入力電圧が必要な各アプリケーションは、スイッチング・ノード(SW1、SW2)がクロック出力(CLKOUT)に位相同期する範囲の余裕度について個別にテストする必要があります。
まとめ
LTC3838-1/-2は、高速過渡性能、高精度のデュアル差動出力レギュレーション、VOUTの精度向上と最小0.4Vまでのプログラミング性確保のための外部リファレンスが必要なアプリケーションの電源として最適です。オリジナルのLTC3838と比較すると、LTC3838-1/LTC3838-2には、両方のチャネルでの差動出力検出、電流制限精度の向上、内部/ 外部リファレンスの選択という特長があります。外部リファレンスを使用することにより、LTC3838-2は全動作条件でわずか0.3%の精度レベルを実現できます。外部リファレンス機能は、動的な電圧調整に対応し、高速のリファレンス入力を最小の歪みで追跡する目的で設計されています。
LTC3838-1およびLTC3838-2は、熱性能強化のため放熱パッドを備えた38ピンQFN(5mm×7mm)パッケージで供給されます。
データシート、デモ基板、さまざまなアプリケーション設計回路、および以下の点の詳細については、www.analog.com/LTC3838-1 および/LTC3838-2 をご覧ください。
- 30ns の最小オン時間によって高い降圧比(たとえば、350kHzで38V入力から0.8Vを出力)が可能
- 2MHz のスイッチング周波数により、小型のパワー部品を使用するアプリケーションが可能
- 25Aの出力を2MHz、ピーク効率95%で達成(VOUT:2V~5V)
補足情報
LTC3838/LTC3839、LTC3838-1/-2の先行製品:
以下の記事を参照:
- 2MHz Dual DC/DC Controller HalvesSettling Time of Load Release Transients,Features 0.67% Differential VOUTAccuracy and is Primed for High Step-Down Ratios( 英語のみ)、「LT Journal ofAnalog Innovation」、April 2012 (Volume22, Number 1).
LTC3833シングル・チャネル・コントローラ
デュアル・コントローラのLTC3838シリーズは、シングル・チャネル・コントローラLTC3833が基本になっており、そのすべての機能を備えています。LTC3833と共通の機能の詳細については、以下の表紙記事を参照してください。
- Fast, Accurate Step-Down DC/DC Controller Converts 24V Directly to 1.8V at 2MHz(英語のみ)、「LT Journal of AnalogInnovation」、October 2011 (Volume 21,Number 3)