特性評価が不要なバッテリ残量の測定手法、ModelGauge m5 EZを活用する

特性評価が不要なバッテリ残量の測定手法、ModelGauge m5 EZを活用する

著者の連絡先情報

要約

従来、残量ゲージ IC を使用する場合には、バッテリの特性評価を実施しなければ、許容できる精度の測定値を得ることはできませんでした。市場に提供されているリチウム・イオン・バッテリの化学組成は様々であり、電気的な特性に大きな違いがあるからです。例えば、広く使用されているリチウム・イオン・バッテリとしては LiCoO2 を採用したものが挙げられます。ただ、化学組成が同じであっても、フォーム・ファクタが異なればバッテリ内のインピーダンスも異なります。そのため、従来からバッテリの特性評価は必須のプロセスでした。それを不要にするのが ModelGauge m5 EZ というアルゴリズムを採用したバッテリ残量ゲージ IC です。その種の IC は、バッテリの残量測定を実現するための適応型かつ革新的な機能を搭載しています。それにより、化学組成、容量、充電電圧の異なる多くのバッテリに対して、優れた残量測定性能が達成されます。その基盤となるのが、堅牢性に優れる適応型のアルゴリズムである ModelGauge m5 EZ です。これによって得られる精度は、バッテリの特性評価の結果を蓄積した包括的なデータベースを利用することによって保証されています。ModelGauge m5 EZ は、バッテリの特性評価のプロセスを不要にすることによって、リソースと時間の節約を可能にします。

はじめに

IoT(Internet of Things)をはじめとするアプリケーションでは、コネクテッド・デバイスが重要な役割を果たします。そうした製品の開発に注目が集まるのは当然のことですが、その種のデバイスには見落としてはならない特徴があります。大半のデバイスは、バッテリによって動作できるようになっていなければならないというものです。 従来、新製品の差別化要因はハードウェアそのものに盛り込まれていました。しかし、最近では差別化要因となる主要な機能はソフトウェアに大きく依存する傾向があります。従来、多くの企業では、個々の開発タスクに対し、それに特化した専門の技術者を割り当てた大規模なチームで製品開発を行っていました。しかし、現在では新製品をできるだけ早く市場に投入するために、少人数のソフトウェア・チームをアジャイルな状態に保つことが重視されています。

従来の残量測定の手法を採用する場合、チーム内で電力またはバッテリを担当するスペシャリストと残量ゲージのベンダーとの間で協力する必要がありました。それにより、対象とするバッテリに適用できる適切なモデルを見いださなければならなかったのです。そのためには、様々な負荷と温度の条件下でバッテリの特性評価を行わなければなりません。ところが、バッテリの完全な特性評価とモデル化には、優に数週間もの時間を要する可能性があります。この旧式の手法は、少人数でアジャイルなソフトウェア開発チームを重視するという体制にはそぐいません。

そこで、今日の要件に対応できる現代的な残量測定のソリューションが必要になります。そのソリューションは、経年劣化に対応して精度を維持するという明らかなニーズに対応しなければなりません。それだけではなく、簡単に使用でき、製品を市場に投入するまでにかかる時間を短縮できるものであることが求められます。

ModelGauge m5 EZ は、そのようなニーズに対応可能なアルゴリズムの最新版です。これを採用すれば、個々のバッテリの特性評価を行うことなく、迅速かつ正確に残量測定を実施可能なソリューションを実現することができます。

本稿では、まず ModelGauge m5 EZ の概要と実現可能な機能について説明します。続いて、それらの機能によって達成される性能を明らかにします。更に、同アルゴリズムを搭載する SoC(System on Chip:システム・オン・チップ)製品を紹介します。

ModelGauge m5 EZ の動作

ModelGauge m5 EZ は特許を取得済みの技術です(2013 年、2014 年に Wortham らが取得)。リアルタイムに測定した電気的な値を基に、SOC(State of Charge、単位は%)の値をはじめとするバッテリの情報を導き出すために使用します。このアルゴリズムには、使用する実際のセルとモデルのミスマッチに起因する誤差に対する感度を低減するためのメカニズムが複数盛り込まれています。それらにより、電気的な測定値の誤差に対する感度も、SOC の出力値に悪影響を及ぼさない形で低減されます。また、同アルゴリズムには適応型のメカニズムも複数盛り込まれています。それらは、残量ゲージ IC がバッテリの特性を学習して精度を改善するための処理を支援します。

ModelGauge m5 EZ は、クーロン・カウンタの短期的な精度/直線性と、電圧ベースの残量ゲージの長期的な安定性を結合する処理を行います。同アルゴリズムの中核を成すのは、開放電圧(OCV:Open-circuit Voltage)に基づく状態推定(以下、OCV 推定)にクーロン・カウンタを組み合わせる処理です。リチウム・イオン・セルの OCV の値は、SOC の値との間に相関を持ちます。その相関関係は、セルの経年劣化にほとんど左右されることなく維持されます(図 1)。

図 1. バッテリの SOC と OCV の関係。 この関係は経年劣化に左右されません。

図 1. バッテリの SOC と OCV の関係。 この関係は経年劣化に左右されません。

SOC の値は、アプリケーションにおけるセルの充放電のサイクルに伴い、この曲線に沿って上下します。このプロセスにより、セルとモデルのミスマッチに起因する局所的な誤差に対する感度はほぼ除去されます。セルが残量ゲージ IC に初めて接続される際には、クーロン・カウンタの出力よりも OCV 推定に比重が置かれます(図 2)。その後、セルの充放電が繰り返されるにつれて、クーロン・カウンタの精度が高まっていきます。すると、ミキシング用のアルゴリズムが機能し、クーロン・カウンタによる測定結果が支配的になるように比重が変更されます。それ以降、アルゴリズムはサーボ・ミキシングの処理を行うようになります。

サーボ・ミキシングは、OCV 推定による誤差の方向に基づき、クーロン・カウンタに対して、大きさが固定の上方向/下方向の連続誤差補正を提供します。その結果、クーロン・カウンタによる測定値とOCV 推定の結果の違いを素早く補正することが可能になります。このようにすることで、ミキシング・アルゴリズムによる処理の結果を得ることができます。その結果は、電流値を測定する際のオフセット誤差に起因する蓄積型のドリフトの影響を受けません。また、スタンドアロンの OCV 推定のアルゴリズムよりも安定したものになります。

図 2. OCV とクーロン・カウントのミキシング

図 2. OCV とクーロン・カウントのミキシング

クーロン・カウンタに対するこの補正は、アプリケーションが動作している間とスタンバイ状態の間に連続的に行われます。これは、クーロン・カウンタの補正が 1 日に 20 万回以上、ユーザにはほぼ見えない微小なステップで行われるということを意味します。これらの補正は、バッテリに負荷が接続されている場合にも接続されていない場合にも、セルが緩和(relax)状態にあるか否かにかかわらず実行されます。この点が、競合する他のアルゴリズムに対する大きな優位性になります。

特定のアプリケーションにおいて、温度と放電率が変化すれば有効な充電量も変わります。ModelGauge m5 EZ は、セルの残容量とアプリケーションの残容量を区別し、両方の結果をユーザに報告します。

ModelGauge m5 EZ は、セルのモデルとアプリケーションの情報に対して内部的な調整を定期的に加えます。それにより、初期の誤差を除去すると共に、セルが古くなってからも精度を維持します。そうした調整は必ず小さな量で加えられます。なぜなら、システムが不安定になったり、残量ゲージの出力が顕著に変化したりすることは防ぐべきだからです。学習の処理は、外部ホスト・コントローラからの入力を必要とすることなく自動的に行われます。残量ゲージ IC は、バッテリの SOC の推定値に加え、バッテリの緩和応答を観測します。それらの結果を基に、電圧ベースの残量ゲージ IC の動作が調整されます。

ModelGauge m5 EZ には、セルの電圧がエンプティ電圧に近づくにつれて、残量ゲージの出力が 0%に収束することを保証する機能が含まれています。セルの電圧が予期されるエンプティ電圧に近づくと、残量ゲージ IC は SOC の変化率をスムーズに調整します。その結果として、セルの電圧がエンプティ電圧に達する正にそのときに、残量ゲージが 0%を示すよう機能するようになります。それにより、予期せぬシャットダウンが生じたり、まだ残量が 0%に達していないのにゲージが 0%を示してしまったりといった状態を回避します。モデルのミスマッチに起因する誤差は SOC の誤差に影響を及ぼします。上記の機能は、それに対する感度を低減するためのメカニズムとしても役立ちます。

実測結果とシミュレーション結果

ModelGauge m5 EZ の能力を支えるのは、各種バッテリの特性に関する情報を蓄積したデータベースです。お客様のユース・ケースに似た様々なテスト条件の下でセルの動作と特性を評価した結果が格納されています。それにより、残量測定用のアルゴリズムに新たに改良を加えた場合、それまでに収集した実際のデータに対してそれを実行することで、検証を実施できる体制を整えています。実際、それらのデータを活用し、サイズの異なる何百種類ものバッテリを対象としてアルゴリズムの性能を解析しています。図 3 に示したヒストグラムは、その解析結果の例です。

図 3. ModelGauge m5 EZ を適用した場合の SOC の誤差。 多様なバッテリを対象とし、放電を繰り返した場合の統計データです。

図 3. ModelGauge m5 EZ を適用した場合の SOC の誤差。 多様なバッテリを対象とし、放電を繰り返した場合の統計データです。

図 3 のヒストグラムを見ると、室温とそれ以上の温度で多くのテストを行った結果、そのうちの 94%以上で SOC の誤差が 3%未満に抑えられたことがわかります。なお、これらのテストでは、一部の種類のバッテリは対象外としています。すなわち、より一般的な従来型の化学組成のバッテリと比較して、OCV 推定と SOC の関係がかなり異なることが知られているものは除外しました。

図4のヒストグラムは、EZモデルとチューニング済みのカスタム・モデルを比較するためのものです。各誤差範囲に含まれるテスト・ケースの割合をプロットしてあります。これを見ると、チューニング済みのカスタム・モデルの方が、誤差が 1%未満となるテスト・ケースの数は多くなります。ただ、誤差が 3%未満になるテスト・ケースの総数で比較すると、カスタム・モデルでは全体の 97%であるのに対し、EZ モデルでも 95%という結果が得られています。カスタム・モデルを用意するために必要な追加の労力、リソース、時間を考えると、EZ モデルは魅力的な代替策だと言えます。

図 4. EZ モデルとカスタム・モデルの誤差の比較(その 1)

図 4. EZ モデルとカスタム・モデルの誤差の比較(その 1)

上記の結果に関連して、もう 1 つの観点から解説を加えておきましょう。EZ モデルとカスタム・モデルの比較は、システム設計で許容される特定の誤差の範囲を対象として実施することもできます。図 5は、誤差の範囲が 3%未満に抑えられるテスト・ケースの割合と 5%未満に抑えられるテスト・ケースの割合を比較したものです。

ここでは、SOC の全範囲(0%~100%)におけるワーストケースの誤差を単純に確認しているわけではありません。残量ゲージが正確であることが実際に重要になるのは、残量が残りわずか(10%など)になったときです。そこで、その状態における誤差の値を確認します。仮に、バッテリの残量が約 50%である場合に、残量ゲージが 40%や 60%(誤差 10%)といった値を示していたとします。そうだとしても、その時点でパワー・マネージメント関連の重要な判断が下されることはなく、何も問題は生じません。

しかし、実際のバッテリ残量が 10%で残量ゲージが 5%という SOC の値を示しているとしたらどうなるでしょうか。その場合、システムは、まだその必要はないのに高い確率でシャットダウンしてしまうことになります。つまり、バッテリの容量を最大限に活用することができません。逆に、実際のバッテリ残量が 5%なのに残量ゲージが 10%という SOC の値を示していたとします。その場合、恐らくシステムはグレースフルな計画的シャットダウンのメリットを享受することはできません。つまり、予期せずクラッシュするという結果が起こり得ます。いずれの場合も、ユーザ・エクスペリエンスの低下につながることは間違いありません。前者の場合、実行時間が想定よりも短くなります。後者の場合、突然シャットダウンするというユーザにとって非常に迷惑な事態が生じます。

図 5. EZ モデルとカスタム・モデルの誤差の比較(その 2)。 システムの許容誤差に基づいて比較を行っています。

図 5. EZ モデルとカスタム・モデルの誤差の比較(その 2)。 システムの許容誤差に基づいて比較を行っています。

アプリケーションの要件が更に厳しい場合、低温(0℃)においても良好な精度が求められることがあります。そのような条件下でも、SOC の許容誤差が 5%未満であるならほぼ同じ結果が得られます。したがって、簡単に実装できて良好な性能を発揮する EZ モデルは、多様なアプリケーション/新製品の開発におけるゲームチェンジャになり得ます。

ModelGauge m5 EZ を採用した IC

ModelGauge m5 EZ を搭載した IC としては、「MAX17201」、「MAX17205」、「MAX17211」、「MAX17215」が挙げられます。図 6 に、この製品ファミリのブロック図を示しました。

これらの ICは、セルの経年劣化、温度、放電率を自動的に補償します。それにより、広範にわたる動作条件において、SOC の正確な値(単位は mAh または%)を提供します。また、エンプティ電圧までの時間とフル充電までの時間を正確に予測することもできます。更に、Cycle+技術によって経年予測を行うことも可能であり、3 つの方法(容量の減少、バッテリの抵抗値の増大、使用サイクル数)によってバッテリの経年数を報告します。

これらの IC は、電流、電圧、温度の測定値を高い精度で測定/提供します。バッテリ・パックの温度は、内部温度測定の機能と、補助入力を使用したレシオメトリック測定によってサポートされる外付けサーミスタ(最大 2 つ)を使用した測定によって取得されます。また、各 IC はハイ/ローの電圧、電流、温度、SOC の値を検出することにより、アラートを発することも可能です。加えて、各 IC は高速過電流検出用のプログラマブルなコンパレータを 2 つ内蔵しています。これらのコンパレータを利用することにより、システムの電流スパイクを検出し、バッテリを突然クラッシュさせるおそれのある条件を防ぐために、システムに対して適切な調整を加えるよう警告することができます。どちらのコンパレータについても、閾値のレベルとデバウンス遅延の値をプログラムすることが可能です。

図 6. ModelGauge m5 EZ を採用した IC のブロック図

図 6. ModelGauge m5 EZ を採用した IC のブロック図 

まとめ

ModelGauge m5 EZ は、高精度で簡単に使用できる残量測定用のアルゴリズムです。今日の設計では、ソフトウェアの開発体制や、製品を市場に投入するまでの時間が重視されています。同アルゴリズムはそうしたニーズにも適応しています。本稿では、このアルゴリズムの機能について詳しく説明しました。また、その性能を裏付ける測定結果を示すと共に、このアルゴリズムを搭載した IC を紹介しました。

本稿と同様の内容は、2017 年 2 月にドイツで開催された Design & Elektronik のカンファレンス「24. Entwicklerforum Batterien und Ladekonzepte 」( 24th Developers Forum Batteries and Charging Concepts:第 24 回 バッテリと充電のコンセプトに関する開発者フォーラム)のプロシーディングで初めて公開されました。