概要

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評価用ボード

型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。

  • EVAL-CN0221-EB1Z ($76.51) USB-Based Temperature Monitor Using the ADuCM360 Precision Analog Microcontroller and an External Thermocouple
在庫確認と購入

機能と利点

  • Complete thermocouple signal conditioning
  • Precision Cortex M3 analog microcontroller with 24-bit sigma-delta ADC
  • USB Interface

回路機能とその特長

これは、高精度熱電対温度モニタ・アプリケーションにおいて高精度アナログ・マイクロコントローラADuCM360/ADuCM361 を使用した回路です。ADuCM360/ADuCM361はARM Cortex-M3コア、126 kBフラッシュ、8 kB SRAM、各種デジタル・ペリフェラル(UART、タイマ、SPI、I2Cインターフェースなど)と共に、デュアルの24ビット・シグマデルタ(Σ-Δ)型A/Dコンバータ、デュアルのプログラマブル電流源、12ビットD/Aコンバータ、1.2 V内部リファレンスを集積しています。

この回路では、熱電対と100Ωの白金測温抵抗体(RTD)をADuCM360/ADuCM361に接続します。このRTDは冷接点補償に使用します。

ソースコードでは、4HzのADCサンプリング・レートを選択しました。ADCの入力プログラマブル・ゲイン・アンプ(PGA)のゲインを32に設定すると、ADuCM360/ ADuCM361のノイズフリー・コード分解能は18ビット以上になります。

図1. 熱電対インターフェースを備えた温度モニタ・コントローラとしてのADuCM360/ADuCM361(簡略化した回路;接続のすべては示されていません)

 

回路説明

このアプリケーションではADuCM360/ADuCM361の次の特徴を利用します。

  • 熱電対とRTD用にソフトウェアでゲインを32に設定したPGAを備えた24ビットΣ-Δ ADC。このADC1を連続的に切り替えながら熱電対電圧とRTD電圧をサンプリングしました。
  • 制御電流をRTDに強制的に流すプログラマブル励起電流源。このデュアルの電流源は0 μAから2 mAまで設定可能です。この例では、RTDの自己発熱によってもたらされる誤差を最小限にするために200 μAに設定しました。
  • ADuCM360/ADuCM361に含まれるADC用内部1.2 Vリファレンス。熱電対電圧を測定するため、高精度の内蔵電圧リファレンスを使用しました。
  • ADuCM360/ADuCM361に含まれるADC用の外付け電圧リファレンス。RTD抵抗を測定するためこのVREF+とVREF−ピンの間に外付けリファレンス抵抗(RREF)を接続するレシオメトリック構成を使用しました。
  • バイアス電圧発生器(VBIAS)。熱電対の同相電圧をAVDD/2に設定するためにVBIAS機能を使用しました。
  • ARM Cortex-M3コア。126 kBフラッシュと8 kB SRAMを集積した強力な32ビットARMコアでユーザー・コードを実行し、ADCの設定、制御、RTDからのADC変換結果の処理、UART/USBインターフェースを介した通信制御をします。
  • ホストPCへの通信インターフェースとしてUARTを使用しました。
  • ADuCM360/ADuCM361をフラッシュ・ブート・モードに設定する2個の外付けスイッチを使用します。SDを”ロー・レベル”に保持したまま、リセットボタンをトグルする事により、ADuCM360/ADuCM361は通常のユーザー・モードではなくブート・モードになります。ブート・モードではUARTインターフェースを介して内蔵フラッシュに再書き込みする事ができます。

熱電対とRTDはいずれも非常に小さな信号を生成します; 従って、それらの信号を増幅するためにPGAが必要です。

このアプリケーションで使用する熱電対は温度範囲が−200°C ~+350°CのタイプT(銅コンスタンタン)です。 その感度は約40 μV/°Cなので、ゲイン32のPGA設定で、バイポーラモードのADCで、熱電対の全温度範囲をカバーできます。

RTDは冷接点補償に使用しました。この回路で実際に使用したRTDは、白金100 Ω RTD(Enercorp社 PCS 1.1503.1)です。これは0805(表面実装パッケージ)で供給可能です。このRTDの温度変動は0.385 Ω/°Cです。

なお、リファレンス抵抗(RREF)は高精度の5.6 kΩ(±0.1%)にする必要があります。

ADuCM360/ADuCM361のUSBインターフェースは(USB信号をUARTに直接変換する形で)UART to USBトランシーバFT232Rを使用して実現されています。

図1に示すデカプリングに加え、USBケーブル自体にもEMI/RFI 保護を強化するフェライト・ビーズを使用する必要があります。回路で使用したフェライト・ビーズは(100MHzで1000 Ωのインピーダンスを持つ)太陽誘電製の#BK2125HS102-Tです。

回路は、大面積のグランドプレーンを持った多層PCボード(PCB)に構築してください。適正な性能を実現するには正しいレイアウト、グラウンディング、デカプリング技術が必要です。(チュートリアルMT-031「Grounding Data Converters and Solving the Mystery of "AGND" and "DGND," 」、チュートリアルMT-101「Decoupling Techniques」、ADuCM360TCZ評価􂏝ボードレイアウトを参照)

この回路の評価に使用されるPCBを図2に示します。

図2. この回路で使用したEVAL-ADuCM360ボード

 


コードの説明

今回の回路のテストに使用したソースコードはADuCM360製品ページからzipファイルでダウンロードできます。

UARTはボーレート= 9600、データビット=8、パリティ無し、に設定します。今回の回路をPCに直接接続した場合、図3に示すように、Hyper Terminalのような通信ポート・ビューワ・アプリケーションを使用して、プログラムからUARTに送信された結果を表示する事ができます。

図3. 通信ポート表示アプリケーションHyper Terminalの出力

 

温度の測定値を得るために、熱電対とRTDの温度を測定します。RTD温度はルックアップ・テーブルを介して等価な熱電対電圧に変換されます(ISE社、表ITS-90の熱電対Tタイプを参照)。これら2つの電圧を加算する事によって、熱電対の絶対値が得られます。

まず熱電対の2本のワイア間の電圧を測定します(V1)。そしてRTD電圧を測定し、ルックアップ・テーブルによって温度に変換します。次にこの温度をその等価な熱電対電圧(V2)に変換します。さらにV1とV2を加算して全体の熱電対電圧を計算し、最終的な温度測定値に変換します。

図4. 簡単な線形近似法を使用した時の誤差

 

最初は、熱電対での電圧が40 μV/°Cとする直線的な簡単な仮定に基づいて変換を行いました。しかし、この場合図4からわかるように、誤差が許容できるのは0°C付近の狭い範囲のみです。熱電対温度をより精度良く計算する方法は正の温度に6次多項式を用い、負の温度に7次多項式を用いる事です。しかしこれには数値演算が必要となり、演算時間とコードサイズが増大します。これらに対し、納得のいく妥協案は、一定数の電圧についてそれぞれの温度を計算する事です。これらの温度を配列に格納し、隣接する2点間で線形補間を行う事によって中間値を計算します。この方法を使用する事により誤差が大幅に減少する事が図5からわかります。図5は理想的な熱電対電圧を使用した時の計算誤差です。

図5. 52個のキャリブレーション・ポイントと理想的な測定による区分的線形近似を使用した時の誤差

 

図6はADuCM360上のADC1を使用して、熱電対の動作範囲全体にわたり52点の熱電対電圧を測定した時の誤差を示します。全体のワーストケース誤差は<1°Cです。

図6. ADuCM360/ADuCM361によって測定した52個のキャリブレーション・ポイントを使用して区分的線形近似を行った時の誤差

 

RTDの温度はルックアップ・テーブルを使って計算し、熱電対の場合と同じ方法をRTDについても用います。RTDにはその温度を抵抗の関数として表す別の多項式がある事に注意してください。

RTDの直線化と性能の最適化の詳細については、アプリケーション・ノートAN-0970「RTD Interfacing and Linearization Using an ADuC706x Microcontroller」を参照してください。

バリエーション回路

ADP1720の代わりにレギュレータADP1720を使用する事ができます。ADP1720の動作温度範囲は同じ(−40°C~ +125°C)ですが消費電流はより少ないです(標準35 μA対70 μA)、しかし最大入力電圧は低下します。ADuCM360/ADuCM361は標準のシリアル線インターフェースを介してプログラム/デバックする事ができます。

標準的なUART to RS-232インターフェースには、FT232Rトランシーバの代わりに3V電源で動作する ADM3202などのデバイスを使用する事ができます。より広い温度範囲の測定には、タイプJのような別の熱電対を使用する事ができます。冷接点補償誤差を最小限に抑えるには、サーミスタをPCB上に配置するのではなく実際の冷接点に接触させて配置します。

冷接点温度の測定にRTDと外付けリファレンスを使用する代わりに、外付けデジタル温度センサーを使用する事もできます。たとえば、ADT7410 をI2Cインターフェースを介してADuCM360/ADuCM361に接続する事ができます。

冷接点補償の詳細についてはSignal Conditioning, Analog Devices, Chapter 7, “Temperature Sensors.”を参照してください。

USBコネクタとこの回路の間にアイソレーションが必要な場合は、アイソレーション・デバイスADuM3160/ADuM4160を追加してください。

回路の評価とテスト

回路のテストと評価するために、熱電対測定とRTD測定を別々に評価しました。


熱電対測定のテスト


基本的なテストのセットアップを図7に示します。熱電対をJ5に接続します。そしてジャンパJ1を取り付けて、熱電対のコモン・モード電圧をAIN7/VBIASピンから供給できるようにする必要があります。ボードの電力はPCのUSB接続から供給します。

回路の性能を評価するために2つの方法を使用しました。初めに、回路のテストに使用した熱電対をボードに接続し、氷の温度を測定し、次に沸騰水の温度を測定しました。

図4と図6に示すように、誤差を十分に評価するためにWavetek社の多機能校正器4808を使用しました。図7に示すように、熱電対の代わりに電圧源として校正器を使用しました。Tタイプ熱電対の全範囲を評価するために、この校正器を用いて、Tタイプ熱電対の負と正の範囲に対応する−200°C ~+350°Cの範囲の52ポイントに等価の熱電対電圧を設定しました(ISE社の表ITS-90のTタイプ熱電対を参照)。

ルックアップ・アルゴリズムの正確性を評価するために、+1°C間隔で温度−200°C ~ +350°Cの範囲に相当する551個の電圧値を温度計算関数に代入しました。図4と図5に示すように線形法と区分的線形近似法について誤差を計算しました。

 

図7. 熱電対の全出力電圧範囲での回路の校正とテストに使用したセットアップ

 


RTD測定のテスト


RTD回路と直線化処理のソースコードを評価するために、ボード上のRTDを正確で調整可能な抵抗源と置き換えました。使用した計器は10進の可変抵抗器1433-Zです。RTD値は90 Ω~140 Ωですが、これはRTDの温度範囲−25°C ~ +114°Cを表します。

テスト・セットアップ回路を図8に示します。そしてRTD テストの誤差結果を図9に示します。

 

図8. RTD誤差測定のためのテスト・セットアップ

 

図9. 区分的直線化コードとADC0の測定値を用いた