ディジタルポテンショメータの機能の差別化

要約

ディジタルポテンショメータ(ディジポット)を使用すると、幅広いアプリケーションについてアナログ回路の抵抗、電圧、および電流のディジタル制御および調整を容易に行うことができます。このアプリケーションノートでは、ディジポットの基本的な機能を示します。また、ディジポットに対する変更や機能の追加によって、システム性能の強化、設計のシンプル化、および特定アプリケーションの要件への適合を実現する方法を説明します。

はじめに

ディジタルポテンショメータ、すなわちディジポットを使用すると、アナログ回路の抵抗、電圧、電流のディジタル制御および調整を容易に行うことができます。一般的なディジポットのアプリケーションには、電源較正、オーディオ音量制御、輝度制御、利得調節、および光モジュールのバイアスおよび変調電流の制御が含まれます。基本的なディジポットの仕様に加えて、システム性能の向上や設計のシンプル化につながる機能がいくつか存在します。そうした機能としては、各種の不揮発性、ゼロクロス検出、デバウンス付きイプッシュボタンインタフェース、温度補償、書込み保護などがあります。それぞれの機能の有効性は、アプリケーションによって異なります。

基本的なディジポットの設計

本来のポテンショメータは、3端子のデバイスです(図1a参照)。ロー端子(VL)は、内部でデバイスグランドに接続されるか、または設計の柔軟性を高めるために端子に取り出されます。この3端子のディジポットの構成は、本質的には両端間の抵抗値が固定の、調節可能な抵抗分圧器です。

可変抵抗は、2端子のディジポットのバリエーションであり、ワイパと抵抗ストリングの一方の端が提供されます(図1b参照)。可変抵抗ディジポット構成においてワイパ位置を変化させると、結果的にディジポットの両端間の抵抗値が変化します。

図1. (a) 3端子のディジポット構成は、本質的には両端間の抵抗値が固定の調節可能な抵抗分圧器です。(b)可変抵抗は2端子のディジポットのバリエーションで、ワイパが内部でポテンショメータの一方の側に接続されています。

図1. (a) 3端子のディジポット構成は、本質的には両端間の抵抗値が固定の調節可能な抵抗分圧器です。(b)可変抵抗は2端子のディジポットのバリエーションで、ワイパが内部でポテンショメータの一方の側に接続されています。

簡単に言うと、ディジポットはディジタル入力によって制御されるアナログ出力です。この説明は、ディジタル/アナログコンバータ(DAC)の定義に似ています。バッファ付き出力を提供するDACとは異なり、ほとんどのディジポットは外付けバッファなしでローインピーダンスの負荷を駆動する設計にはなっていません。

ディジポットによって、最大ワイパ電流は数百μAから数mAまでの範囲に渡ります。ディジポットのワイパをローインピーダンスの負荷に接続する場合は、使用するのが可変抵抗であるか真のディジポットであるかを問わず、ワーストケースの条件下でもワイパ電流がIWIPERの許容範囲内に収まるように常にする必要があります。可変抵抗の場合、ワーストケースのワイパ負荷はVWがVHに近づいたときに発生します。このとき、ワイパ抵抗の他には、電流を制限する抵抗が回路内にほとんど存在しない可能性が考えられます。しかし、もともとワイパ電流が大きくなるようなアプリケーションも存在します。ワイパ両端間の電圧降下によってディジポット出力のダイナミックレンジが制限されることになるため、これらの条件下では必ずこの電圧降下について十分に検討する必要があります。

アプリケーションの必要に応じた変更

ディジポットを使用する回路は多岐にわたります。設計によっては、外付け部品を追加して、特定のアプリケーション向けにディジポットを「微調整」する必要があります。たとえば、一般的なディジポットの両端間の抵抗値は10kΩ~200kΩの範囲ですが、LEDタイルの輝度制御においては、多くの場合これよりはるかに小さな抵抗値が要求されます。この問題に対する解決策の1つとして、DS3906を105Ωの固定抵抗と並列に接続することによって、70Ω~102Ωの実効抵抗値を得ることができます。この構成では、0.5ΩのステップサイズによってLED輝度の正確な調節が可能になります。もう1つの解決策としては、複数のチャネルを組み合わせることでディジポットの分解能を維持したまま抵抗値のステップサイズを変更可能にした、MAX5477MAX5487のようなマルチチャネルのディジポットを使用する方法があります。

また、より特殊化された機能を備えたディジポットが必要になる場合もあります。光モジュールにおけるレーザドライバのバイアスのように、温度補償された電圧または電流を要求するアプリケーションでは、ルックアップテーブルベースの可変抵抗が有効です。一部のディジポットは、温度の増分に応じた熱較正のルックアップデータを格納したEEPROMを内蔵しています。内部の温度センサが周囲の温度を測定します。そしてディジポットが、測定された温度に対応するルックアップテーブル内の修正値を使って可変抵抗を調節します。熱ルックアップテーブルベースのディジポットは、一般的に、レーザやフォトダイオードのような回路素子による非線形の温度応答を補正するか、またはアプリケーションに固有の正確な非線形の抵抗性温度応答を意図的に作り出すために使用されます。

不揮発性は、ディジポットの付加機能として一般的かつ低コストです。標準的なEEPROMベースの不揮発性(NV)ディジポットは、パワーオンリセット(POR)により既知の状態で起動します。EEPROMテクノロジは5万回の書込みサイクルの保証が容易であり、これは機械式のポテンショメータに比べて大幅な信頼性の向上を意味します。MAX5427/MAX5428/MAX5429などのワンタイムプログラマブル(OTP)ディジポットは、ヒューズプログラミングを使用してデフォルトのワイパ位置を恒久的に格納します。EEPROMベースのディジポットと同様、OTPディジポットもPOR後に既知の状態に初期化されます。しかし、OTPディジポットのPOR状態は、一度プログラミングされた後は書換えができません。そのため、OTPは出荷時または製造時較正に適しています。OTPディジポットのPORワイパ位置はヒューズプログラミングによって恒久的に設定されますが、ヒューズプログラミングは必ずしもワイパ位置をロックするものではありません。多くのOTPディジポットのワイパは、ヒューズプログラミング後も全面的に調節可能です。しかしワイパ位置が恒久的に設定されるOTPディジポットも存在し、結果として正確な較正済みの抵抗分圧器が得られます。一部のディジポットは、ディジポットのインタフェースをトライステート化するロックアウトレジスタ(またはディジタル制御入力)を備えており、不注意によるワイパ調節を防止することができます。EEPROMディジポットの書込み機能をディセーブルすると、消費電力も低減します。

ディジポットは、電源や、出荷時較正を必要とするその他のシステムにおいて、電圧と電流の較正の自動化に役立ちます。より多くの時間がかかる上に不正確な、機械式ポテンショメータやディスクリート抵抗を使用した手動較正に比べて、ディジポットを使用することで製造スループットが増大し、較正の精度と再現性が向上します。さらに、ポテンショメータのディジタル制御によって、必要に応じてリモートでのデバッグや再較正を容易に行うことができるようになります。複数の電圧や電流の較正を行うシステムには、DS3904/DS3905トリプルNVディジポットのようなディジポットが最適です(図2)。この場合、1個の小さなディジポットで最大3個の機械式ポテンショメータを代替することが可能です。ディジポットは、組立て時やリワーク時の較正に際して技術者によるアクセスが容易である必要がないため、機械式ポットの代わりにディジポットを使用することでレイアウトの柔軟性も増大します。較正は、OTPまたはEEPROMの書込み保護が望ましく、EEPROMの書込み保護が有効なアプリケーションの好例です。

図2. DS3904/DS3905トリプル不揮発性ディジポットは、複数の電圧や電流の較正を行うシステムに最適です。この小さなICひとつで、最大3個の機械式ポテンショメータの代わりになります。

図2. DS3904/DS3905トリプル不揮発性ディジポットは、複数の電圧や電流の較正を行うシステムに最適です。この小さなICひとつで、最大3個の機械式ポテンショメータの代わりになります。

ディジタルポテンショメータではありませんが、単純な1ピンのディジタル制御インタフェースを備えたDS4303のようなサンプル/ホールド電圧リファレンスも、製造時較正に役立ちます(図3)。較正時には特に有利な、よりコンパクトなスペースに設計された電圧リファレンスの出力は、制御入力によってロックされるまで、印加されている入力電圧のサンプリングを行います。出力がロックされた後は、入力に印加される電圧に関係なく、再プログラミングまたは電源がオフになるまで出力は変化しません。最も最近ラッチされた出力電圧はEEPROMに格納され、電源オフ/オン後に復元されます。

図3. DS4303不揮発性サンプル/ホールド電圧リファレンスは、ディジタルポテンショメータではありませんが、製造時較正アプリケーションに役立ちます。較正に際して、DS4303の出力(V<sub>OUT</sub>)は、制御入力(ADJ)によってロックされるまで、印加されている入力電圧(V<sub>IN</sub>)のサンプリングを行います。

図3. DS4303不揮発性サンプル/ホールド電圧リファレンスは、ディジタルポテンショメータではありませんが、製造時較正アプリケーションに役立ちます。較正に際して、DS4303の出力(VOUT)は、制御入力(ADJ)によってロックされるまで、印加されている入力電圧(VIN)のサンプリングを行います。

進化の続くプッシュボタンインタフェースは、SPI™、I²C、アップ/ダウン、およびロータリー制御のような、伝統的なシリアルインタフェース方式を補完するものです。そうしたインタフェースの1つが、バッファ付きワイパ出力を備えたMAX5486ディジポットに採用されています。このデバウンス付きプッシュボタンインタフェースは、ボタンの押下時間に応じて、可変速でワイパを前進させます。プッシュボタンインタフェースはマイクロコントローラを必要とせず、そのためシステムの複雑性が軽減します。デバウンス付きプッシュボタンインタフェースは、特にオーディオ音量調節に有効です。

オーディオアプリケーション向けのディジポットは、多くの場合ゼロクロス検出回路を備えています。ゼロクロス検出によって、ワイパが1つの設定から別の設定に遷移する際に発生する可聴クリック/ポップが低減します。ゼロクロス検出が有効になっている場合、VLがVHとほぼ等しくなるまでワイパの遷移が遅延されます。DCアプリケーションやその他の専用回路の設計を容易にするため、ゼロクロス検出回路の多くは最大ワイパ遷移ディレイの設定機能も備えています。

まとめ

単純な揮発性ディジポットは依然としてシステム設計に有効ですが、特定のアプリケーション向けに最適化されたディジポットおよび可変抵抗は付加機能を備えています。今日、多くの設計者が、機械式ポテンショメータの代替、温度変化に対するシステムの信頼性または性能の向上、システムマイクロプロセッサの不要化、可聴クリック/ポップの低減などのニーズを抱えています。どのニーズに対しても、ディジポットは付加価値を提供します。現在では、ほとんどのアプリケーション向けにディジポットが存在しています。

同様の記事が「Electronic Products」誌の2005年5月号に掲載されています。