AN-1384:AD7768/AD7768-4 または AD7768-1 を使用したドライバ・アンプのペアリング

はじめに

アナログ入力/出力モジュールの設計では、フォーム・ファクタを小さくし、チャンネル数を増やす傾向にあります。これは、1 つのモジュールから実現できる、あるいは、計測器(PXI)カード・スロット用ペリフェラル・コンポーネント・インターコネクト(PCI)拡張を通して実現できる計測数を増やすことで、コストとテスト時間を減らすニーズが高まっているためです。チャンネル密度を高めると発熱が増加します。これは、モジュラ・アプリケーションの設計者にとって共通の問題です。高密度データ・アクイジション・モジュールのサーマル・バジェット条件に適合するよう設計するには、速度、帯域幅、性能のトレードオフを考慮する必要があります。

AD7768/AD7768-4 および AD7768-1 は、8 チャンネル、4 チャンネル、およびシングル・チャンネルの 24 ビット同時サンプリング A/D コンバータ(ADC)です。選択可能な電力モードとデジタル・フィルタ・オプションを使用して、AD7768/AD7768-4 および AD7768-1を構成し直すことで、工業用入出力モジュール、計測器、オーディオ・テスト、制御ループ、状態監視など、幅広いアプリケーションに適応させることができます。

AD7768/AD7768-4 や AD7768-1 への入力を行うには、外部ドライバ・アンプが必要です。アナログ・フロント・エンドの駆動条件は、フロント・エンドのサンプリング・レートに比例します。AD7768/AD7768-4 や AD7768-1 の選択可能なプリチャージ・バッファによりフロント・エンド・ドライバ・アンプの負担を減らせるため、低電力アンプでサンプリング・レートの高いアナログ入力を駆動できます。

このアプリケーション・ノートでは、チャンネルあたり13.25mW という低いサブシステム電力レベルで、−123.2dB の全高調波歪み(THD)を実現する方法について説明します。また、高性能ドライバ・アンプと低電力アンプの組み合わせについて、プリチャージ・バッファを援用する場合と援用しない場合を比較します。公正で有効な比較を行うため、これらのアンプは特定の電力モードで AD7768/AD7768-4 や AD7768-1 を駆動するのに最適かどうかに基づいて選択されます。例えば、高速電力モードで AD7768/AD7768-4 や AD7768-1 を駆動するために選択した広帯域幅のアンプは、中間または低電力モードでも同じように良好に機能しますが、使用するシステムによっては、必要以上に電力を消費する可能性があります。このアプリケーション・ノートで評価されたドライバ・アンプと電力モードを適切に組み合わせれば、単一のデータ・アクイジション(DAQ)システム・プラットフォームの設計において、特定の温度域や電力の制約の中で最高の性能を実現できます。

接続図

図 1. 高速電力モードでの AD7768/AD7768-4 の代表的な接続図。ドライバ・アンプに ADA4945-1 を使用。

図 1. 高速電力モードでの AD7768/AD7768-4 の代表的な接続図。ドライバ・アンプに ada4945-1 を使用。

図 2. 高速電力モードでの AD7768-1 の代表的な接続図。ドライバ・アンプに ADA4945-1 を使用。

図 2. 高速電力モードでの AD7768-1 の代表的な接続図。ドライバ・アンプに ADA4945-1 を使用。

回路の説明

AD7768/AD7768-4 および AD7768-1 のアンプ・テストは、EVAL-AD7768FMCZEVAL-AD7768-4FMCZEVAL-AD7768-1FMCZや、各種アンプ・メザニン・カード(AMC)などの様々なプラットフォームを用いて実施されています。各 AMCに配置されたアンプはアンプ構成のセクションに記載します。EVAL-AD7768FMCZ、EVAL-AD7768-4FMCZ 、 EVAL-AD7768-1FMCZ の各評価用プラットフォームの回路図は、アナログ・デバイセズのウェブサイトにあるそれぞれの評価用ボード製品のページでダウンロードできます。これらの評価用プラットフォームでは、AMC(1 チャンネルのみ)をドライバ・アンプの入力として用いるよう構成できます。詳細については、EVAL-AD7768FMCZ、EVAL-AD7768-4FMCZ、EVAL-AD7768-1FMCZ のユーザ・ガイドを参照してください。AMC は各種アンプに配置され、アナログ・デバイセズの ADC と連携動作するように特別に設計されています。EVAL-SDP-CH1Zは、EVAL-AD7768FMCZ、EVAL-AD7768-4FMCZ、EVAL-AD7768-1FMCZの評価用プラットフォームに接続することで、評価ソフトウェアへのインターフェースを提供します。このソフトウェアは、評価用ハードウェアに付属しています。AC 分析には、正確なオーディオ・ソースを使用しています。

AD7768/AD7768-4 や AD7768-1 の各電力モードを補完するため、テストには次のアンプが選択されています。


表 1 に、選択されたアンプの性能と電力の仕様を示します。これらのアンプの実際のパッケージ・サイズとオプションは異なる場合があります。

表 1. アンプの仕様
Amplifier  Features Bandwidth (MHz   Slew (V/µs) Voltage Noise Density (nV/√Hz)  Current Noise Density (pA/√Hz)   Offset Voltage (µV maximum) Offset Drift (µV/°C) Supply (V  Power per Amplifier (mA)
ADA4899-1
 Unity gain, ultralow distortion 600 310 1 2.6 230  5 5 to 12 16
ADA4896-2   Low drift, rail-to-rail output (RRO) 230  120 2.8   500 0.2 ±3 to ±5  3.0 
ADA4807-2  Rail-to-rail input/ output (RRIO), low drift 180   225 3.1
 0.7 125   0.7  ±3 to ±5 1.0 
ADA4805-2  RRO, low drif  105 160  5.9   0.6 125   0.2  ±3 to ±5 0.625 
ADA4940-1  RRO, differential amplifier  260  95 3.9   0.81   3.50  1.2 3 to 7  1.25 total2 
ADA4841-2  RRIO low noise and distortion  80  13 2.1  1.4 300   1   2.7 to 12 1.2 
ADA4084-2  RRIO, low power  13.9  3.7  3.9  0.55  300   0.5  ±1.5 to ±15  0.625

ADA4945-1

 RRO,selectable modes  803 , 1454 1003 , 6004 3.03 , 1.84  0.63 , 1.04 ±115   0.5 3 to 10  1.43 total2 , 44 total

1特に指定のない限り、値は代表値です。
2単一チャンネルの合計電力。
3低電力モード(ADA4945-1 のデータシートを参照)。
4フルパワー動作モード(詳細については、ADA4945-1 のデータシートを参照)。

電力モードの選択


AD7768/AD7768-4および AD7768-1では、低、中間、高速の 3種の電力モードが選択できます。これらの電力モードでは、同じダイナミック・レンジを維持しながら最適な帯域幅と消費電力が選択される、AD7768/AD7768-4 または AD7768-1 の動作ポイントを選択します。

選択した電力モードをマスタ・クロック・デバイダ(MCLK_DIV)と組み合わせて使用すれば、この動作ポイントを正しく設定できます。MCLK_DIV によって、変調器を駆動する周波数が決定されます。次に、変調器の出力がデシメーションされ、最終出力レート(ODR)が決定します。推奨される変調器の周波数(fMOD)の範囲を表 2 に示します。

表 3 では、消費電力が速度と帯域幅に比例することを示します。

AD7768/AD7768-4 および AD7768-1 で使用できる基本的なフィルタ・オプションには、sinc フィルタおよび有限インパルス応答(FIR)フィルタの 2 種類があります。AD7768/AD7768-4あるいは AD7768-1 で用いられる FIR フィルタおよび広帯域フィルタのフィルタ・タイプ、トポロジ、特性は同じである点に注意してください。


アナログ入力構造


図 3に、AD7768/AD7768-4および AD7768-1のアナログ入力構造を示します。アナログ入力プリチャージ・バッファは、チャンネルごとに有効化できます。アナログ入力プリチャージ・バッファは、有効化されると最初のサンプリング期間でサンプリング・コンデンサに電荷を供給し、サンプリング・コンデンサをセトリングするために必要な電流を一括して担います。残りの電荷は外部アンプによって駆動されます。このアンプは、サンプリング・コンデンサのより精細な最終セトリングを担い、高精度の結果を実現します。

図 3. アナログ入力構造

図 3. アナログ入力構造

プリチャージ・バッファは、最高速のサンプリング・レートで5V の入力に対して、アンプからの入力電流を 320µA から約25µA に低減します。アナログ入力構造の詳細については、AD7768/AD7768-4 および AD7768-1 のデータシートを参照してください。図 4 に AMC ボード、図 5 に AD7768/AD7768-4 および AD7768-1の評価用ボードに接続された ADA4807-2 AMC を示します。

図 4. AMC ボード

図 4. AMC ボード

表 2. 推奨される fMODの範囲
Power Mode Typical MCLK_DIV  Recommended fMOD (MHz)
AD7768/AD7768-4  AD7768-1 
Low MCLK/32 MCLK/16 0.0361 to 1.024
Median  MCLK/8 MCLK/4 1.024 to 4.096
Fast MCLK/4 MCLK/2  4.096 to 8.192 

1 AD7768-1 に推奨される fMODは、0.038MHz です。

表 3. AD7768/AD7768-4 および AD7768-11の電力モード
Power Mode Typical Speed (kSPS)  FIR2 Sinc Filter 
 Bandwidth (kHz) Power (mW)   Bandwidth (kHz) Power (mW) 
AD7768/AD7768-4    AD7768-1 AD7768/AD7768-4   AD7768-1
Low 256  110.8  51.5  36.8  52.2  41  26.4
Median 128  55.4  27.5  19.7  26.1  22  14.4
Fast 32  13.8  9.375  6.75  6.5  8.5  5.4

1 消費電力を決定するために用いた構成の詳細については、AD7768 のデータシートおよび AD7768-1 のデータシートを参照してください。
2 FIR または広帯域フィルタ。

著者

Stuart Servis

Stuart Servis

Stuart Servisは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション・エンジニアです。計装/高精度技術グループの高精度シグナル・チェーン・チームに所属しています。ΣΔ ADCとSAR ADCをベースとする高精度のデータ・アクイジション用シグナル・チェーンが専門です。アイルランド国立大学ゴールウェイ校で応用物理およびエレクトロニクスに関する学士号を取得しています。