入力マジック—差動信号を使って電源電圧を上回る入力振幅を実現

質問:

私のA/Dコンバータ(ADC)は電源電圧が1.8Vなのですが、入力電圧範囲を2Vp-pにするにはどうすればいいでしょうか?

RAQ: Issue 93

回答:

低消費電力、高速ADCの最新世代のデバイスは、シリコン微細線プロセス技術で製造されており、低電圧電源で動作します。ADCの設計者は、S/N比(SNR)を上げるために入力範囲を広げるか(信号が大きくなるとSNRが高くなります)、駆動条件を緩和するために入力範囲を小さくするかのトレードオフに悩まなければなりません。

これまで長い間、動作電源電圧が5Vで入力範囲が4Vp-pのADCや電源電圧が3Vで入力範囲が2Vp-pのADCは見慣れており、誰も「おやっ」と驚いたりすることもありませんでした。しかし、この数年のあいだに動作電源電圧が1.8Vで入力範囲が2Vp-pのADCが数多く登場してきました。こうしたデバイスを見ると、当然次のような疑問がわきます。「電源電圧は1.8Vなのに、どうやってADCの入力電圧範囲を2-V p-pにできるのだろう?」「この場合、信号を電源電圧レールより上に引き上げなくてもよいのだろうか?」

もちろん、これには細かい点の見落としがあります。大部分の高速ADCは差動のアナログ入力信号を使用しているという点です。差動入力信号VINDIFF = VVIN–は、VIN+ピンとVIN–ピンに相補的なシングルエンド信号ペアとして入力されます。電源レールの範囲内に中央値があるシングルエンド成分は差動信号の振幅の半分だけでスイングし、代表的なコモンモード電圧はVSUPPLY/2となります。

差動信号の利点としては、優れた同相ノイズ除去や、偶数次歪みを本質的に除去できる特性などがあります(これは振幅と位相が完全にマッチングしている場合のみですが、これについてはまた別の話となります)。しかし、差動信号の利点でしばしば見落とされているのは、差動信号の振幅は特定の電源範囲内のシングルエンド信号の2倍にすることができるという点です。ADCの設計はますます低い電源電圧の方向へ進んでおり、それに伴い入力信号のヘッドルームはますます減少し、使用可能な電源範囲を利用する差動信号がますます増えるものと思われます。DC結合アプリケーションでは、このような低電圧ADCのコモンモード電圧は駆動アンプへの接続を難しくしますが、多くのアプリケーションでは信号をADCにAC結合できるため、こうした問題は生じません。


 

著者

David Buchanan

David Buchanan

David Buchananは、1987年にヴァージニア大学でBSEE(電気工学士)を取得しました。 アナログ・デバイセズ、Adaptec、STMicroelectronics社においてマーケティングとアプリケーション・エンジニアリングを担当。 さまざまな高性能アナログ半導体製品を扱いました。現在は、ノースキャロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ製品ラインの上級アプリケーション・エンジニアです。