質問:
電源システムを設計するにあたり、障害を防止するための方法を探しています。何か簡単な方法はありませんか?
回答:
あります。「MAX17613」や「MAX17526」のような保護用ICを利用するとよいでしょう。
はじめに
産業用オートメーションやビル・オートメーション、モーション制御、プロセス制御などのアプリケーションでは、生産性と収益性が非常に重要になります。その鍵を握るのが稼働時間(アップタイム)です。通常、そうしたアプリケーションでは、メンテナンス、人的ミス、装置の故障が原因でシステムが停止している時間(ダウンタイム)が生じます。ダウンタイムが発生するということは、装置の修理のためのコストがかかったり、生産性が低下して収益の面でロスが生じたりするということを意味します。そうした損失は、アプリケーションの分野や発生した事象の性質によっては非常に大きなものになる可能性があります。メンテナンスや人的ミスに起因するダウンタイムは、防げる場合と防げない場合があります。しかし、装置などの故障の大半は適切な対策を講じることにより防ぐことが可能です。以下では、ダウンタイムの発生原因として、電源システムの障害に注目することにします。その上で、そうした障害を防止するための最新の保護用ICについて詳しく解説します。
電源システムに障害をもたらす要因
電源システムは、電気的なストレスをはじめとする様々な事象にさらされます。電力の伝達経路では、落雷や誘導性負荷のスイッチングに伴って発生する電圧サージ/トランジェント、蓄電コンデンサの初期充電に伴う突入電流、配線ミスやワイヤ・ハーネス内の偶発的な短絡による逆電圧、過電流、過熱といった事象が生じる可能性があります。それらが原因となって、電源システムには、性能の低下や取り返しのつかない損傷などが生じてしまうことがあります。そうした致命的な障害の原因となる事象に対応するためには、負荷の周囲に適切な保護機構を適用する必要があります。以下では、まず電源の保護に関連して使われるいくつかの用語や、電源の障害の種類について説明します。続いて、従来型のソリューションについて解説すると共に、それらが抱える課題を明らかにします。その上で、最新の保護用ICを紹介すると共に、それらによって得られるメリットについて解説します。
電源の保護に関連する用語
電源の保護には、ディスクリート部品を用いたソリューションが使われることが少なくありません。それ以外にも、単一の保護機能を提供するICソリューションが数多く提供されています。例えば、電圧サージに対する保護を提供するデバイスの例としては、サージ・プロテクタ(過電圧プロテクタ)が挙げられます。また、突入電流に対する保護を提供するためには、ホット・スワップ・コントローラ(突入電流リミッタ)が使われます。ORingコントローラ(OR結合コントローラ、または理想ダイオード・コントローラ)は、逆電圧に対する保護と複数の電源の利用を実現するための製品です。電子ヒューズ(eFuse、電流リミッタ)は短絡や過負荷に対する保護を提供します。パワー・リミッタ/負荷スイッチ/USBスイッチ/パワー・セレクタは、複数の電源や複数の負荷が接続されるシステムの管理と制御に利用されます。図1に、これらの製品の分類を示しました。いずれも、システムの電源を保護するという共通の目的を持っています。しかし、これらの製品が提供するのは、電圧、電流、温度のうちいずれかに関連する障害からシステムを保護するための機能だけです。つまり、部分的なソリューションにしかなりません。包括的かつ完全な保護を実現するには、総合的なソリューションが必要です。
システム内で電源の保護が必要な個所
図2は、一般的なシステムのボードに対してどのように配電が行われるのかを示したものです。このボードの入力部は、3つの独立した電源から電力を受け取ります。それらによって大きな蓄電コンデンサの充電が行われます。また、ボードで使用する電力を生成し、後続の2つのブロックに電力を引き渡します。このシステムのボードについては、入力部と出力部の両方に対する配電の機能と、電源を保護するための複数の保護機能が必要になります。
入力側の電源については、過電圧(OV:Overvoltage)と低電圧(UV:Undervoltage)に対する保護、電子ヒューズ、突入電流の制限、逆電圧に対する保護が必要です。ボード用の電源の給電能力が高くない場合には、電力を制限する機能も用意しなければなりません。
上記のとおり、このボードは、3つの異なる電源から電力を受け取ります。そのため、電源のORingまたは多重化が必要です。ORingでは、最も電圧の高い電源を自動的に選択してボードに給電するという処理が行われます。それに対し、多重化では、給電される電圧が動作範囲内にある限り、その高低には関係なく、システムがどの電源を使用するのかを選択します。このボードの場合、高電圧の電源によって低電圧の電源が逆向きに駆動されないようにするために、逆電圧に対する保護機能も必要になります。
一方、出力側の電源については、出力の過負荷やコネクタ上の短絡に対する電流制限と、より高電圧のレールへの偶発的な短絡に対処するための逆電圧保護が必要です。また、出力側の配電を管理するためには、負荷スイッチ、ORing、電力制限が必要になります。
システムの電源に関する3種の障害
システムの電源に関する障害は、大きく3種類に分けることができます。電圧に関する障害、電流に関する障害、温度に関する障害の3つです(図3)。以下、それぞれの障害について詳しく説明します。
- 電圧に関する障害
入力電圧は、様々な事象が原因となって正常なDC電圧範囲よりも高くなったり、低くなったりすることがあります。事象の例としては、落雷、ヒューズの溶断、短絡、ホット・スワップの操作、ケーブルに生じる誘導性のリンギングなどが挙げられます。
エネルギーの大きいサージ電圧を引き起こす事象の例としては、落雷が挙げられます。通常、落雷には、フロントエンドに配備したTVS(Transient Voltage Suppressor)デバイスと入力フィルタによって対処します。図4は、IEC 61000-4-4で定められた電気的な高速過渡現象の仕様についてまとめたものです。TVSと入力フィルタを適用したとしても、システムのボードのレベルでは、かなり高い残余サージ電圧が存在している可能性があります。その値は、公称DC入力電圧の2~3倍に達することもあります。
- 電流に関する障害
電流に関する障害としては代表的なものが2つあります。それは出力の過負荷と短絡です。出力の過負荷は、システムの能力を超える動作が必要になった場合に生じます。一方の短絡は、ボードに実装された部品の欠陥が原因で発生することがあります。あるいは、誰かが誤ってレンチを電源コネクタに落としたり、ドリルでケーブルの束に穴を空けたりすると、深刻な短絡が生じてしまうこともあるでしょう。その結果として、保護されていないボードには永久的な損傷が生じてしまうかもしれません。場合によっては発火することもあり得ます。
放電済みのコンデンサを搭載したボードを通電中のバックプレーンに接続すると、サージの形で突入電流が印加されることでコンデンサが充電されます。適切な制御が行われていない場合、その突入電流は次の式で表されます。
I = CdV/dt
各変数の意味は以下のとおりです。
I = 突入電流
C = 静電容量
dV/dt = 時間に対するコンデンサの電圧の変化率
24Vで通電中のバックプレーンに放電済みのコンデンサ(電圧は0V)を接続すると、dV/dtが瞬時に増大します(無限大のレベルになります)。その結果、Iも無限大のレベルに達します。つまり、突入電流を制限しなければ、そうした限りなく大きな電流スパイクが生じるということです。そのスパイクは、コネクタの損傷、ヒューズの溶断、バックプレーンの電圧のリンギングを引き起こす可能性があります。
逆電圧が発生すると、逆方向に流れる電流によってシステムに深刻な損傷が生じてしまうかもしれません(図6)。
- 温度に関する障害
通常、システムを適切に設計すれば、温度に関する障害に見舞われることはないはずです。つまり、システムは問題なく動作を継続できるでしょう。とはいえ、1次障害の条件によっては、温度に関する障害が生じてしまうこともあるかもしれません。過負荷の状態の継続、システム用のファンの故障や機能の低下、システムの吸気口/排気口の偶発的な閉塞、システムの設置場所に配備されたエアコンの故障といったことが起きた結果、問題が生じる可能性があるということです。
損傷や火災に関連する潜在的な問題を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。まず、過熱に対する保護については、システムまたはその構成部品の温度が危険なレベルに達したら、システムをシャットダウンします。この過熱に対応したシャットダウン処理よりも更にインテリジェントなものがサーマル保護です。サーマル保護では、何らかの1次障害によって動作中の温度が正常値よりも高くなったら、システムに警告を発します。それにより、対策について選択肢を与えるということが行われます。例えば、システムの動作として、重要性の低い負荷は切り捨てて、より低いスイッチング速度で動作するようにすることで消費電力を抑えるといったことが行えます。そのようにして1次障害が解消されるまでシステムの性能を低下させます。結果として、過熱によるシャットダウンを回避できる可能性が生まれます。
図5は、問題のある事象として短絡が生じたケースを実験で確認している様子を表しています。この例では、10フィート(約3m)のケーブルの末端で短時間の短絡が生じ、電圧のリンギングが発生した状態を再現しています。そのピーク電圧は50.4Vであり、正常な電圧である24VDCの2倍に達しています。また、リンギングによる最低電圧は約11Vまで低下しています。堅牢性に優れるシステムであれば、このようなリンギングが発生している間も動作し続けるでしょう。少なくとも、損傷が生じることはなく持ちこたえられるはずです。このような電圧のリンギングは、次のようなケースにも発生する可能性があります。誘導性の負荷のスイッチングが発生した場合や、ホット・スワップ(放電済みのコンデンサを含むカードを通電中のバックプレーンに差し込む操作)を行った場合、システムの他の個所でヒューズが溶断した場合などです。
まれな話にはなりますが、システムにおいて誤った接続が行われるケースについても考慮しなければなりません。例えば、ラックマウント式のシステムでカードが逆向きに差し込まれたり、極性を誤った状態で電源ケーブルが接続されたりといったことが起こり得るということです。入力電圧が急に低下すると(入力が短絡した場合や低電圧の方向にリンギングする場合)、出力コンデンサの方が電位が高くなり、逆電圧の状態になります。逆電圧の状態は、出力が(例えば結束ケーブル内で)より高電圧のレールに突然短絡した時にも発生するおそれがあります。なお、入力において逆電圧の障害が起きることはまれです。しかし、万一そのような事態が生じると、多大なコストを伴うシステムの損傷につながる可能性があります。
保護が適用されていない場合のシステムへの影響、設計上の課題
電圧、電流、温度に関する障害は、あらゆる電気システムで発生します。そのことを軽視して適切な保護を怠ると、設計について検証する試験の段階になって問題が発覚し、プロジェクトを無事に完了させられない可能性があります。また、そうした問題が製造ラインの設備で発生すると、ダウンタイムというより深刻な事態に陥ることになります。必要なのは、装置の損傷につながる障害を包括的に防ぐための保護用回路です。それを適用することにより、システムのアップタイムを最大限に延ばすことが可能になります。
システムを担当する技術者は、製品を完全に保護したいと考えたときに、設計上の複数の課題に直面することになります。例えば、ディスクリート部品や一部の障害にしか対応できないICを採用した場合、多くの外付け部品が必要になります。図7のような構成を採用すれば、システムの電源を完全に保護できることは確かです。但し、その場合、40個ものディスクリート部品を使用しなければなりません。それらが及ぼす性能への影響を分析するためには、個々の部品の許容誤差を積算していくという煩雑な作業が必要になります。また、それらの経時的な性能を検証/保証し、システムの精度を維持しつつ障害に対する必要な応答速度を達成するのは、非常に難易度が高いと言えます。加えて、多くの部品を使用するということは、最終的なソリューションのサイズが大きくなるということを意味します。なお、システムの平均故障間隔(MTBF:Mean Time between Failures)が短いと、所有コストが高くなります。
システムの保護方法を簡素化するには?
従来は、ディスクリート部品や一部の保護機能しか提供しないICを使うことでシステムの保護を実現していました。実際、そのような手法でもこれまではうまく機能していたはずです。しかし、最新のシステムに対してそうした手法を適用するのは適切だとは言えません。最新のシステムを設計する際には、ボードのサイズを縮小し、開発期間を短縮し、開発コストを抑えることが強く求められます。そうした変化を踏まえると、最新のシステムに最適な保護用のソリューションとはどのようなものになるでしょうか。それは、図8に示すような集積度の高い保護用ICです。つまり、FETを内蔵すると共に、電流の検出/制限機能、電力の制限機能、サーマル保護の機能、OV/UVに対する保護機能を備える製品が適しています。また、UL(Underwriters Laboratories)やIEC(International Electrotechnical Commission)が定めた安全性に関する要件に適合した製品を使用すべきです。そのような完全集積型の保護用ICが最適なソリューションだと言えます。集積度が高く、安全性に関する認証を取得済みであることが、最新のシステムを確実に保護する上で非常に有用だということです。
保護用ICの実例、提供される機能
アナログ・デバイセズのMAX17613とMAX17526は、最新のシステムに求められる要件を満たすことが可能な保護用ICの例です。
図9は、MAX17613の概要についてまとめたものです。この保護用ICは、60V/3Aの電源に対応可能な製品です。必要な要件を満たすためのあらゆる重要な部品と機能が単一のICによって提供されます。具体的には、フォワードFET/リバースFET、プログラマブルな電流検出機能、サーマル保護機能、プログラマブルなUVLO(UV Lockout)/OVLO(OV Lockout)機能などを内蔵しています。また、このICはCLMODEというピンを備えています。このピンは、電流に関する障害に対応するための応答モードを、連続モード、ラッチオフ・モード、オートリトライ・モードの中から選択するために使用します。
一方、MAX17526は60V/6Aの電源に対応可能な保護用ICです。図10に示すように、こちらも完全集積型のICとして実現されています。同ICの特徴は、電力制限や熱制御用の電流フォールドバックといったより高度な保護機能を備えている点にあります。以下、このICを例にとり、いくつかの重要な機能について詳しく説明しましょう。
MAX17526は、図11に示すような構成で使用します。この回路では、同ICによってシステムの消費電流を測定します。その結果は、SETIピンを使用してシステムのコントローラに伝達されます。抵抗RSETIの値を調整することにより、システムの要件に応じて電流制限のレベルを設定することができます。
図12は、MAX17526の電流制限機能がどのように働くのかを示したものです。システムを起動した際の突入電流が、同機能によってどのように制限されているのかが見てとれます。左は1.0倍の電流制限値、右は2.0倍の電流制限値を使用した場合の動作を表しています。いずれの場合にも、1000µFという大容量のコンデンサが、電圧源を保護しつつ、制御された形で充電されていることがわかります。
一方、図13はMAX17526に固有の電力制限機能を使用する場合の回路例です。この機能を使用すれば、ノードVEXTが入力電圧VINに接続されているのか、出力電圧VOUTに接続されているのかに応じて、入力電力または出力電力を制限することができます。同ICは、電流制限に関する調整を動的に行うことにより、入力または出力の電力制限を実行します。
図14は、MAX17526が出力電力を制限するように設定されている場合の動作を表しています。電力制限の機能により、出力電力がどのようにして10Wに制限されるのかがわかります。
UL/IECの安全規格に対する認証の取得
先述したとおり、最新のシステムに適用する保護用ICとしては、何らかの安全規格に適合しているものを使用するべきです。UL 2367やIEC 60950、IEC 62368の認証を取得した保護用ICを採用すれば、システム・レベルの安全性の要件に対応することが容易になります。それにより、認証に関連するコストを低減し、取得に必要な期間を短縮することができます。その結果、製品を市場に投入するまでの時間を短縮することが可能になります。アナログ・デバイセズの「MAX17608」やMAX17613は、ULとIECの認証を取得済みです。
まとめ
電源は、あらゆるシステムや装置にとって非常に重要な構成要素です。電源には障害がつきものであり、それを完全に回避することはできません。しかし、適切な保護用回路を実装すれば、システムの障害や装置のダウンタイムを可能な限り回避することは可能です。競争が激化する今日のグローバルなビジネス環境においては、生産性と収益性を確保することが極めて重要です。そのためには、電源を適切に保護できるように対策を施すことが不可欠となります。従来は、ディスクリート構成のソリューションや単機能の保護用ICを用いたソリューションが利用されてきました。それに対し、今日の先進的な保護用ICは、小型のパッケージによってシステム・レベルの保護機能を包括的に提供しています。また、性能と信頼性が高く、設計の作業と認証の取得が容易になります。そうした保護用ICが提供する高度な機能を利用すれば、システムの監視や診断も行えます。監視や診断の機能は、複雑化が進む今日の最終製品において大いに役立ちます。完全集積型の保護用ICに対して投資することは、多大なコストを伴うダウンタイムを回避するための最も安価な保険に相当すると言えるでしょう。