質問:
デバイスの1つを、低消費電流で高性能の新しい部品に 変えました。ところが、システムがまったく機能しない ばかりか、交換したデバイスが燃えてしまいました。い ったい何が起こったのでしょうか?
回答:
リニア電圧レギュレータは極めてシンプルなデバイスで、問題となることはそう多くありません。とは言うものの、やはり時折トラブルは起こります。
フィールド・アプリケーション・エンジニアとしての私の役割の中で、現在使用している他のサプライヤのデバイスの代替品として推奨デバイスをお客様から求められることがよくあります。このようなケースでは、多くの場合、デバイスを交換するという決定はお客様の製造/購買チームによってなされ、オリジナル回路の設計者は関与していないものです。この決定プロセスは非常にシンプルで、代替品は、現在使われているデバイスと同じ機能、パッケージ、ピン配置で、同等以上の電気的仕様を備えていることが求められます。これらすべての点が確認されると、必要な比較データをコンポーネント・エンジニアに示した上で、その新しいコンポーネントがセカンド・ソースによる代替品として部品表に追加されます。以上で、準備はすべて完了のはずです。しかし、順調なのはここまでで、それまで古いコンポーネントでは極めて良好に動作していた製品が、代替品に交換したとたん、その生産ラインでトラブルが発生するようになってしまいます。何が悪かったのでしょうか?
私も、このようなケースに1度関わったことがあります。その場合も、私たちは上に述べたようなプロセスに従い、お客様の設計に使われている別のサプライヤのセカンド・ソースとして絶縁型 RS-485 トランシーバーの1 つをデザイン・インしていただきました。このデバイスは、形状、大きさ、機能の面で互換性を備えており、電気的仕様は従来品より優れていました。お客様は予定を進め、アナログ・デバイセズにこの部品を大量に発注しました。問題となるようなことは何もないように思われました。しかし、お客様から、新しい RS-485 トランシーバーが出荷用テスト・ベッドで故障を起こし始めたという報告が入ります。このデバイス以外に設計を変更した箇所はないので、新しいデバイスに何らかの問題があるということになります。
さらに調査を続けた結果、トランシーバーのバス側に電力を供給しているリニア電圧レギュレータが、必要値の5 V まで電圧を調整しておらず、はるかに高い電圧になっていることが分かりました。私たちは、古いトランシーバーと交換用トランシーバーの間でデータシートの見直しと比較を念入りに行うとともに、リニア電圧レギュレータのデータシートを検討して問題を突き止めなければなりませんでした。
何がより望ましいかは定性的な条件であって、検討対象となるパラメータによって異なります。例えば、速度/CMRR/PSRRの場合は高いほうが良く、オフセット電圧/ドリフトに関しては低いほうが良いということになります。そして、消費電力については常に低いほうが望ましいというのは、技術的な洞察力がなくても想像がつきます、しかし、本当にそうでしょうか?この特殊なケースにおいては、そうではなかったことが分かりました。古いトランシーバーの消費電流はアイドル状態時バス側で15 mA(typ)でしたが、新しいデバイスではわずか2 mAでした。データシート上は、新しいデバイスのほうが優れているように見えても不思議ではありません。残念ながら、リニア電圧レギュレータにとってはそうではなかったようで、正常に動作しなくなってしまいました。
この記事の最初に述べたように、リニア電圧レギュレータは極めてシンプルなデバイスで、満たすべき条件はそれほど多くありません。その特別な条件の1つが、正しく動作するには最小負荷電流が必要ということです。この条件が満たされないとレギュレータは正しい安定化動作を行わず、出力電圧が範囲を外れてしまいます。レギュレータへの入力電圧が、所望の出力電圧よりはるかに高い場合、この状況はさらに悪化する可能性があります。この件については、こちらの記事に詳しく解説しています1。
今日の多くのリニア電圧レギュレータでは、この現象に対処して同様の問題が起こらないようにするため、設計に特別な配慮がなされています。一部の古いデバイス(このお客様が使っていたようなデバイス)では、このような配慮がなされていないため、システム設計時に特別な注意が必要になります。多くの場合、可変出力 LDO用に帰還抵抗回路を設けることによって、最小負荷電流の問題に対応しています。残念ながら、比率を同じにしてこれらの抵抗を非常に大きな値にすると、期せずしてこの問題に直面することがあります。また、LDO が電力を供給しているデバイスが、通常動作中は負荷条件を満たしていても、スタンバイ動作中には満たしていないという事態も考えられます。これらはすべて隠れた落とし穴となり得るので、LDO のデータシートを注意深く読む必要があります。最小負荷電流に関する要件が定められている場合は、通常、何らかの形で言及されているはずです。以下に、例を2つ示します。
今日の多くのリニア電圧レギュレータでは、この現象に対処して同様の問題が起こらないようにするため、設計に特別な配慮がなされています。一部の古いデバイス(このお客様が使っていたようなデバイス)では、このような配慮がなされていないため、システム設計時に特別な注意が必要になります。多くの場合、可変出力 LDO用に帰還抵抗回路を設けることによって、最小負荷電流の問題に対応しています。残念ながら、比率を同じにしてこれらの抵抗を非常に大きな値にすると、期せずしてこの問題に直面することがあります。また、LDO が電力を供給しているデバイスが、通常動作中は負荷条件を満たしていても、スタンバイ動作中には満たしていないという事態も考えられます。これらはすべて隠れた落とし穴となり得るので、LDO のデータシートを注意深く読む必要があります。最小負荷電流に関する要件が定められている場合は、通常、何らかの形で言及されているはずです。以下に、例を2つ示します。
流れるようにすることで問題を解決
この問題は、おとぎ話のような幕引きとなりました。多少の「出血」はあったものの、結果的にすべての関係者にとってハッピーエンドとなったのです。
参考文献
1. Luca Vassalli「Minimum Load Current Operation—Zero-Load Operation」Analog Dialogue 48-09