概要
MEMS(Micro Electro Mechanical System)ベースの加速度センサーは様々な環境で活用されています。なかでも、極度に大きい機械的応力が頻繁に印加される環境で使用されるケースが増えていると言えるでしょう。そうした過酷な条件下では、MEMS加速度センサーの衝撃耐性と振動耐性がシステムの信頼性を左右する要因になります。本稿では、まずこれら2つの重要な仕様の違いを明らかにします。また、両仕様に関する試験の規格や、故障のメカニズム、設計の堅牢性を高めるための戦略について解説を加えます。続いて、アナログ・デバイセズの加速度センサー製品を例にとり、振動が生じている際、機械的なヘッドルーム(余裕)と減衰特性が性能に及ぼす影響について説明します。更に、衝撃試験によってシステム・レベルの耐性を評価する方法も紹介します。性能と信頼性に関する要件を満たせるようセンサー製品を適切に選択するためには、こうした事柄について正しく理解することが不可欠です。
はじめに
MEMS加速度センサーは、機械的な応力の発生が予想される環境で使用されることが少なくありません。しかも、単に応力が発生することがあるというのではなく、常に応力が印加される過酷な環境で使用されるケースが増えています。多くの場合、MEMS加速度センサーのデータシートには衝撃耐性と振動耐性という2つの重要な仕様についての記載があります。これら2つの仕様は、似たようなものに感じられるかもしれません。しかし、両者には明確な違いがあります。そのため、各仕様についての試験方法も異なります。アプリケーションに最適なセンサーを選択するためには、両者の違いを理解することが不可欠です。
衝撃耐性 - 対象となるのは予期せぬイベント
MEMS加速度センサーには、反復性はないものの非常に大きな加速度を伴うイベントに耐える能力が求められます。その能力のことを衝撃耐性と呼びます。通常、その種のイベントはコンポーネント(IC)をハンドリングする際やアセンブリの際、誤って落としてしまった際などに生じます。衝撃耐性については、以下のようにまとめることができます。
- 試験規格:IEC 60068-2-27
- 試験方法:規格で定義された振幅と持続時間に対応する半正弦波パルスを、すべての軸に対して印加します。
- 目的:稀にしか発生しないものの極端に大きい衝撃を受けた後でも、デバイスが機能し続けることを保証します。
- 故障のメカニズム:通常、大きな衝撃はMEMS構造のビーム(梁)の破損といった重大な故障につながります。ボンディング・ワイヤの剥離やダイの割れといったシステム・レベルの問題が生じることもあります。
振動耐性 - 対象となるのは定常的な状態
産業用のアプリケーションや輸送のアプリケーションなどでは、連続的または反復的な振動が生じます。つまり、振動が生じているのが定常的な状態だと言えます。振動耐性は、そのような条件下でもMEMS加速度センサーが確実に機能するか否かを表す指標です。振動耐性については、以下のようにまとめることができます。
- 試験規格:通常はMIL-STD-883 Method 2007。メーカーが定義した規格が使われることもあります。
- 試験方法:振幅と周波数が規格で定義された範囲内にある連続的かつランダムな振動を印加します。
- 目的:振動が生じた状態で動作している場合の長期的な信頼性について検証します。
- 故障のメカニズム:多くの場合、保護機構の摩耗によってスティクション(凝着)や粒子汚染が生じます。
なぜ、両仕様の区別が重要なのか?
衝撃と振動は、MEMS加速度センサーに対して根本的に異なる形で応力を与えます。例えば、数千gの衝撃耐性を備えるMEMS加速度センサーでも、数百gの連続的な振動が加わると故障する可能性があります。ここで、「g」は重力加速度を表します。その値は9.81m/s2です。基本性能と耐性の面でアプリケーションに最適なMEMS加速度センサー製品を選択するためには、衝撃と振動を明確に区別することが重要です。衝撃耐性は、反復性のない極めて大きな衝撃に対する耐性です。その衝撃は、システム・レベルの故障を引き起こす可能性があります。それに対し、振動耐性は長期的な信頼性を表す指標として用います。
MEMS加速度センサーがどのように設計されているのかは、衝撃耐性と振動耐性の許容誤差を定義する上で重要な意味を持ちます。図1にMEMS加速度センサーの構造を示しました。MEMS加速度センサーのメカニカル・ストッパとアンチスティクション・コーティング材は、MEMS構造の完全性を保護するための対策として設計に盛り込まれます。アンチスティクション・コーティングには、表面のエネルギーを低減したり電気的な絶縁を実現したりする効果があります。一方、メカニカル・ストッパは、プルーフ・マスが固定フィンガー・セットに完全に接触するのを防ぎます。通常、メカニカル・ストッパには幅が4μm~5μmの鋸壁(小さな凹凸)が設けられます。鋸壁は、大きな衝撃が発生した際の接触面積を減らすためのものです。これは、スティクションを防止する役割を果たします。
ブルドーザーのような重機では、加速度センサーをチルト・センサー(傾斜センサー)として使用します。それにより、起伏のある地面の上で重機を適切に動作させることが可能になります。また、同センサーは土地を平らにする作業などにも利用されます。そうしたアプリケーションでは、加速度センサーが最大で数十g(場合によっては100g以上)の連続的かつランダムな振動にさらされる可能性があります。そのような状況下でも、高い精度で傾斜を検出することが求められます。
また、温度に対する安定性や測定の再現性も得られるようにしなければなりません。このような用途に対し、「ADXL357B」のようなMEMSベースの3軸加速度センサーは性能の面で完璧な選択肢になります。同製品の場合、フルスケールの測定レンジは±40gですが、それよりも大きな振動に対する耐性が得られます。振動に関する安全領域は、共振周波数、減衰特性、メカニカル・ストッパの作動に必要な加速度入力(機械的なヘッドルーム)など、センサーの機械設計に大きく依存します。機械的なヘッドルームと周波数の関係を明確にすれば、振動に関する安全領域を図示することができます(図2)。
この図を活用すれば、プルーフ・マスがストッパに当たるまでにはどれだけの余裕があるのかを把握できます。また、それに対してセンサーの共振周波数とQ値がどのように関与するのかを理解することにも役立ちます。入力される振動がQ値によって機械的に増幅されるにつれ、振動の周波数はセンサーの共振周波数に近づきます。そうすると、機械的なヘッドルームが実質的に小さくなります。
電気的な帯域幅、機械的な限界
通常、MEMSベースの加速度センサーはアナログ・フィルタとデジタル・フィルタを含むシグナル・チェーンを内蔵しています。それに加え、「ADXL380」のような新たな製品はデジタル・イコライザ・フィルタも備えています。それにより、平坦な周波数応答を示す帯域幅が実質的に4kHzまで拡張されます。このことは、ロード・ノイズ・キャンセレーション(RNC:Road Noise Cancellation)のようなアプリケーションにおいて大きな意味を持ちます。RNCでは、効果的なアンチノイズ信号を生成するために広帯域にわたる振動を正確に検出することが不可欠であるからです。但し、電気的なフィルタリングやイコライゼーションによってMEMS構造の物理的な励振が除去されるわけではありません。この点には注意が必要です。つまり、加速度センサーに機械的な応力がかかり、機械的なヘッドルームの範囲を超えて動作することがあり得ます。そうすると、スティクションや疲労、構造的な劣化が生じる可能性があります。拡張された帯域幅の全体にわたり線形な電気的出力が得られているように見える場合でも、振動の振幅が必ず機械的限界の範囲内に収まるようにしなければなりません。
衝撃とフルスケール・レンジの関係
「ADXL373」は、フルスケールのレンジが±400gのMEMS加速度センサーです。この製品は、最大振幅が10000g、パルス幅が0.1ミリ秒の半正弦波に対応できるレベルの衝撃耐性を備えています。一方、ADXL357Bはフルスケールのレンジが±40gの製品です。また、ADXL380のフルスケール・レンジは最大で±16gです。このようにADXL357B/ADXL380のフルスケールのレンジはADXL373よりかなり狭くなっています。それにもかかわらず、ADXL357B/ADXL380はADXL373と同等の衝撃耐性を備えています。但し、振動に対する機械的なヘッドルームはADXL373の方がはるかに大きくなります。衝撃耐性の評価は、システム・レベルの試験だと見なすことができます。つまり、MEMSのダイだけでなく、ボンディング・ワイヤ、ダイ・アタッチ、パッケージ、ハンダ接合部も含めた全体が試験に耐えられるか否かを検証するということです。上記の各MEMS加速度センサーであれば、構造的に破損することなく10000gを超える反復的な衝撃にも耐えられる可能性があります。しかし、デバイスを構成するシステムの他の部品はそのような衝撃には耐えられないかもしれません。
衝撃試験
一般に、規格で定められた衝撃試験を社内でそのまま再現するのは容易ではありません。高さが数mにも達し、精密に制御することが可能な落下塔や衝撃台など、特殊な装置がいくつか必要になるからです。その結果、実用的な代替策が用いられることが多くなります。一般的な代替策としては、最大加速度を下げてパルスの持続時間を長くすることにより、規格で定められた試験と同等の衝撃エネルギーが得られるようにする方法が挙げられます。加速度と時間の関係を表すグラフにおいて、曲線の下の部分の面積(速度に相当)は振動の重要な指標になるだけでなく、衝撃エネルギーとも相関を持ちます。上記の代替策は、この原則に基づいたものです。半正弦波の衝撃パルスの強度に対応する衝撃の速度は、以下の式を使用することで見積もれます。
ここで、Vはm/s単位の速度(sは秒)、Aはm/s2単位の最大加速度、Dはミリ秒単位のパルスの持続時間です。IEC 60068-2-27を見ると、3ミリ秒間続く200gの衝撃についても、0.2ミリ秒間続く3000gの衝撃についても、衝撃の速度は約3.8m/sになると規定されています。この等価性を利用すれば、よりシンプルな試験装置によって、標準的な衝撃の機械的なエネルギーに近い値を再現することが可能になります。
まとめ
衝撃耐性と振動耐性は似たような仕様だと誤解されることが少なくありません。しかし、MEMS加速度センサーについて言えば、応力のプロファイルと故障のメカニズムの面で両者は根本的に異なるものであることがわかります。実際のアプリケーションでは、衝撃のイベントが発生することは滅多にありません。但し、そのイベントは非常に激しいものなので、壊滅的な損傷を防ぐための堅牢な機械設計が必要になります。それに対し、振動は持続的であったり潜行的であったりするイベントです。そのため、MEMS加速度センサーには振動に対応するための長期的な信頼性と耐摩耗性が求められます。
過酷な環境で使用するMEMS加速度センサーを選ぶ際には、衝撃耐性と振動耐性の違いについて理解しておくことが非常に重要です。その上で、機械的なヘッドルーム、減衰特性、システム・レベルの堅牢性などについて慎重に検討しなければなりません。それにより、そのアプリケーションにおいて生じ得る衝撃に耐えられるだけでなく、長期にわたって確実に動作する製品を選択することが可能になります。
重要なのは、アプリケーションにおける機械的な応力のプロファイルと仕様がマッチするセンサー製品を選択することです。それにより、求められる耐久性と精度を両立できます。また、選択したセンサーの限界と強みについて明確に理解することも重要です。そうすれば、非常に過酷な環境で稼働するアプリケーションに対し、自信を持ってMEMS加速度センサーを適用することができます。
参考資料
IEC 60068-2-27: Environmental Testing - Part 2-27: Tests -Test Ea and Guidance: Shock(IEC 60068-2-27:環境試験第2-27部:衝撃試験方法と指針(試験記号:Ea))
MIL-STD-883 Method 2007: Test Method Standard for Microcircuits(MIL-STD-883 Method 2007:マイクロ回路の試験方法の規格)
ADI「Reliability Handbook(信頼性ハンドブック)」、Analog Devices、2014年11月
謝辞
本稿の執筆にあたり助言をいただいたMark Looney氏とTyler Dunn氏に感謝します。
