概要
高性能のプロセッサやFPGAなど、最新の電子デバイスはより多くの電力を消費するようになりました。そのため、それらのデバイスに適用するパワー・マネージメント・ソリューションにも進化が求められています。つまり、設計上の柔軟性を保ちつつ、より多くの電流を供給できるようにしなければなりません。本稿では、マルチチャンネルのパワー・マネージメントIC(PMIC:Power Management IC)を使用し、大電流を供給可能な単一出力の電源を構成する方法を紹介します。具体的には、レギュレートされた複数の出力を並列に接続し、位相がずれた状態で各チャンネルを動作させます。この位相インターリーブの動作により、電圧を厳密にレギュレートしつつ、熱に関する各チャンネルのバランスを維持します。この方法を用いれば、トータルの電流容量を最大限に活かすことが可能になります。また、この手法であれば電源のアーキテクチャの簡素化を図れます。加えて、設計の再利用性を高めたり、基板面積を削減したりすることができます。更に、DSP、プロセッサ、FPGA、マイクロコントローラといった複雑な電子デバイスに関する熱設計を最適化することが可能になります。
はじめに
PMICは、電源の複雑なアーキテクチャに設計上の柔軟性をもたらすものとして高く評価されています。そのため、最新の電子システムを設計する際にはPMICが広く使われるようになりました。旧来の電源ソリューションでは、電圧を正確にレギュレートできることと高い効率が得られることが重視されていました。それらは、PMICでも重要な要素です。ただ、PMICの場合、コンパクトな単一のデバイスに様々な機能が統合されます。例えば、複数のレギュレータや、電源シーケンスを制御するためのロジック回路、障害に対する保護機能、テレメトリ機能などが統合されます。マルチチャンネルのPMICは、電源として使用される複数の出力を管理できるように設計されます。各チャンネルは、システムの特定の部分に対してレギュレートされた電圧を供給します。例えば、DSP、プロセッサ、FPGA、マイクロコントローラなどには値の異なる複数の電圧を供給する必要があります。マルチチャンネルのPMICは、そうした用途で一般的に使用されています。マルチチャンネルのPMICの中には、マルチフェーズの電源として構成できるものがあります。位相インターリーブの機能を使用し、複数のチャンネルを束ねて大電流を供給可能な単一チャンネルの電源回路を構成できるということです。この方法では、元々、1つのチャンネルによって大電流を供給するように設計されたレギュレータとは異なり、並列化された各チャンネルが負荷電流を均等に分担することになります。それにより、特定のチャンネルが過負荷の状態に陥ることを防止できます。このような柔軟性は、効率と信頼性を維持しながら大電流を供給しなければならないアプリケーションにとって特に有用です。
上記のような使い方に対応できるマルチチャンネルのPMICの例としては「LT7200S」が挙げられます。この製品のパッケージは、サイズが5.0mm×6.0mmで低背型の48ピンLQFNです。「ADP5055」、「ADP5056」も、そのような使い方ができる製品の例です。これらは、5.0mm×5.5mmのLGAパッケージで提供されています。これら3つの製品は、複数の出力を並列に接続して使用するための機能を備えています。それらの機能を使用することにより、大電流に対応可能な単一の出力を得ることができます。
代表的なアプリケーション
FPGAやSoC(System on Chip)は、データの伝送速度の向上や処理負荷の増大に対応できるよう進化を続けています。それに伴い、電源も進化しています。つまり、より多くの電流を供給しつつ、より高い電力密度を提供できるようになっています。但し、シンプルであることと信頼性が高いことも重要です。15A以上の電流を必要とするシステムにLT7200Sを適用する場合、同ICの複数の出力を束ねて使用します。それらを並列に接続し、位相をずらして動作させれば、安定した給電と高い効率を実現できます。図1、図2に示したのは、LT7200Sの標準的なアプリケーション回路例です。図1は4相動作の出力、図2は2相動作の出力を並列に接続しています。このように回路を構成することで、負荷に対して多くの出力電流を供給することが可能になります。同ICは、同期整流方式の降圧コンバータを4つ内蔵しています。4相動作に対応するアーキテクチャによってそれらの出力を並列に接続すれば、大電流と高い効率を得ることが可能です。同ICの各チャンネルは、±5Aの電流をソース/シンクできます。4相出力を並列に接続すれば、トータルで最大±20Aの電流を供給できることになります。これは、高精度の電流モード制御により、全チャンネル間で正確に電流を分担することで実現されます。このような制御により、各チャンネルの熱のバランスとシステムの信頼性が向上します。
LT7200Sの位相インターリーブ動作はPHMODEピンによって制御します。互いに位相がずれた状態で各チャンネルを動作させることにより、入出力リップルを大幅に低減できます。また、MODE/SYNCピンを使用すれば外部クロックとの同期を容易に実現可能です。そのようにして協調的なスイッチング動作を実行すればノイズを最小限に抑えられます。つまり、ノイズの影響を受けやすいアプリケーションに適した動作が得られるということです。
LT7200Sのスイッチング周波数は、外付け抵抗を使用することにより400kHz~3MHzの範囲でプログラムできます。上記のとおり、スイッチング・ノイズに敏感なアプリケーションでは外部クロック入力に基づく同期動作を利用するとよいでしょう。LT7200Sのアーキテクチャは、独自の位相同期、オンタイムの制御、固定周波数、電流モードに対応します。そのため、高いスイッチング周波数、高速な過渡応答、高い降圧比が求められるアプリケーションに最適です。
LT7200Sには、革新的な設計とパッケージング技術を駆使したSilent Switcher®(サイレント・スイッチャ) 2技術が適用されています。それにより、高い効率を実現しつつ、電磁干渉(EMI)を低減することができます。この独自の技術を適用したレギュレータICの性能は、プリント回路基板のレイアウトにほとんど依存しません。そのため、設計を簡素化しつつ高い性能を得ることが可能です。
LT7200Sの性能
図3は、LT7200Sを使用したソリューションの効率を示したものです。この例では、図1に示した4相の構成を採用し、1MHzのスイッチング周波数で12Vから1.2Vへの降圧を実施しました。この構成により、最大20Aの負荷電流を連続して供給できます。図1を見ると、入力電圧が12Vである場合、88%のピーク効率が得られることがわかります。また、20Aの全負荷の条件でも86%の効率を達成しています。この例では、PHMODEピンをグラウンドに接続することにより、各チャンネルの位相を90° ずつずらしています。このインターリーブ動作により、入力電流のリップルが低減されます。また、熱負荷がボード全体にわたり均等に分散されます。加えて、入力コンデンサと出力コンデンサの要件が緩和されます。更にはEMIを最小限に抑えられ、システム全体の安定性が向上します。定常状態と起動時の電流を良好に分担できるようにするために、ITHxピン、FBxピン、TRACKxピンを相互に接続しています(xは1、2、3、4)。
図4に示したのは、LT7200Sの熱画像です。入力が12V、出力が1.2V/20Aという条件で取得しました。4相動作によって電流を良好に分担できていることがわかります。
ADP5055/ADP5056の特徴
ADP5055とADP5056は、高性能の降圧レギュレータを3つ搭載した製品です。パッケージは43ピンのLGAであり、性能と実装スペースに関する厳しい要件を満たすことができます。
ADP5055/ADP5056は、プリレギュレータを使用することなく、最大18Vという高い入力電圧に直接接続できます。3つのチャンネルは、いずれもハイ・サイドとロー・サイドのパワーMOSFETを備えています。この構成により、効率を最適化したソリューションを実現可能です。チャンネル1とチャンネル2は、3.5Aまたは7Aの電流を出力するようにプログラムできます。両チャンネルを並列接続で使用すれば、最大14Aの電流を単一の出力として供給可能です。チャンネル3は、1.5Aまたは3Aの電流を出力するようにプログラムできます。
ADP5055は、分解能が8ビットで高精度のD/Aコンバータ(DAC)を内蔵しています。PMBus®に対応する2線式のインターフェースを介してそれを利用することで、出力のダイナミック電圧スケーリング(DVS:Dynamic Voltage Scaling)を実施できるようになっています。また、PMBusのインターフェースを使用すれば高い柔軟性で様々な構成を実現できます。例えば、起動時/シャットダウン時のシーケンス制御、強制パルス幅変調(FPWM:Forced Pulse Width Modulation)または省電力モード(PSM:Power Saving Mode)の選択、出力の放電用スイッチ、パワーグッド信号などに関する設定を行えます。定格のジャンクション温度は-40℃~150℃です。
まとめ
LT7200S、ADP5055/ADP5056は、大電流に対応可能なPMICです。これらのICは、効率、柔軟性、信頼性に優れるパワー・マネージメントが必要なアプリケーションに適しています。いずれも、性能、柔軟性、集積度が高く、通信、データセンター、産業用オートメーションなどの分野で使用される複雑なシステムに最適です。複数の出力を並列に接続して使用すれば、電流容量を増やしつつ、信頼性を高められます。これは、スケーラブルで堅牢性の高い電源ソリューションを必要とするアプリケーションにとって非常に重要なことです。
