通信の応用範囲は、日常生活のあらゆる側面へと急速に拡大しています。この分野における信号の検出やデータの送信/受信には、様々なデバイスが必要になります。例えば、光センサー、RF対応のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス、PINダイオード、APD(Avalanche Photodiode)、レーザー・ダイオード、高電圧に対応するD/Aコンバータ(DAC)などです。多くの場合、そうしたデバイスの動作には、数百Vの電圧が必要です。結果として、効率、実装スペース、コストの面でも厳しい要件に対応できる高電圧対応のDC/DCコンバータが必要になります。
アナログ・デバイセズの「LT8365」は、150V/1.5A対応のスイッチを内蔵する汎用/モノリシック型の昇圧コンバータです。携帯型の機器を含めて、高電圧を使用する通信分野のアプリケーションに最適な製品です。2.8V~60Vの入力電圧を基に、高い出力電圧を容易に生成できます。この種の製品で一般的に用いられる多くの機能を備えるだけでなく、EMI(電磁干渉)の低減に有効なSSFM(Spread Spectrum Frequency Modulation:スペクトラム拡散周波数変調)機能もオプションで利用できます。
図1と図2は、それぞれLT8365を使用する昇圧コンバータ回路と反転コンバータ回路の例です。高電圧(絶対値の大きい正/負の電圧)を使用するDACやオペアンプ、MEMSデバイス、RFスイッチに必要な電圧を供給するための回路です。12Vの入力を基に、各デバイス向けの正の電源電圧(図1)、負の電源電圧(図2)を生成します。DCM(Discontinuous Conduction Mode:不連続導通モード)で動作し、約80%の変換効率、250V/-250Vの出力電圧、10mAの出力電流を得ることができます。
1:40を超える昇圧比
昇圧コンバータをDCMで動作させることにより、いくつかのメリットが得られます。1つは、デューティ・サイクルに依存することなく、高い昇圧比を得られることです。また、インダクタと出力コンデンサとして値とサイズの小さいものを選択することが可能になります。その結果、プリント回路基板上の実装面積を抑えることができます。例えば、図3の回路であれば、1cm2未満の面積に容易に収められます。
非常に低い入力電圧しか使用できないのに、高い出力電圧が必要とされるケースがあります。図3に示す昇圧コンバータ回路は、PINダイオードやAPDなど、高いバイアス電圧を必要とするデバイスを駆動するためのものです。3Vの入力電圧を基に、125Vの出力電圧、最大3mAの出力電流を得ることができます。
図4に示す昇圧コンバータ回路も、3Vの入力電圧を基に高電圧の出力を生成します。出力電圧は、図3の125Vから更に250Vまで高めています。出力電流は約1.5mAです。通信分野には、バイアス電圧として、このような高い電圧を必要とするデバイスが数多く存在します。
どこまで高くできるか、どこまで低くできるか
非常に高い正の電圧や非常に低い負の電圧が必要な場合、乗算器段を使用して昇圧コンバータの出力(絶対値)を2倍、3倍、あるいはそれ以上に高めることで対応できます。図1と図2のコンバータ回路は、この手法を適用した例です。スイッチによって得た正/負の電圧を乗算器段によって2倍にしています。また、図5に示した3段構成の昇圧コンバータ回路では、12Vの入力から375V/8mAの出力を得ています。
なお、LT8365の内蔵スイッチが許容できる電力は変わらないので、出力電圧を高めると、供給できる出力電流が減少することに注意してください。例えば、20mAを供給するために設計された1段構成のコンバータに2段目を加えると、出力電流は約10mAになります。段数を増やす場合には、スイッチを流れるピーク電流の値が、常に制限値以下に収まるようにしてください。
出力電圧の検出を簡素化
LT8365は、出力電圧を検出するためのFBXピンを備えています。本稿で示した各回路のように、FBXピンに接続したシンプルな抵抗分圧器によって、出力の極性に関係なく、出力電圧を検出することができます。
まとめ
LT8365を使用すれば、コンパクトかつ高効率の昇圧コンバータ回路を実現することができます。特に、通信分野でよく使われる2.8Vという低電圧を基に、非常に高い出力電圧を得ることが可能になります。またLT8365は、反転コンバータや、Cukコンバータ、SEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)コンバータなどのトポロジも構成できます。パッケージは小型で熱性能が高められた16ピンMSOPです。