モーション・コントロールにイーサネットを使う3つの理由

産業用途で重要性を増すイーサネット

これまで、産業用オートメーション・システムや制御システムの分野では、イーサネット、フィールドバス、PCI(PeripheralComponent Interconnect)などの技術が互いにしのぎを削ってきました。中でも、モーション・コントロールのアプリケーションには確定性が求められるという特徴があります。つまり、ネットワークにおいて、対象となるノードで時刻どおりに処理が行われるという保証が必要になるということです。これは、位置の保持を保証するために必須の要件です。また、他のタスクを行っている間に、高精度かつ正確にドライブの加速/減速を行うためにも必要になります。

IEEE 802.3で定められた標準的なイーサネットは、上記の点で必要なレベルに達しているとは言えません。全二重スイッチングやコリジョン・ドメインの分離によって、CSMA/CD型のデータ・リンク・レイヤは使用されなくなりました。ただ、標準的なイーサネットは予測可能性を備えていません。また、代表的なスタックにはTCP/IPが含まれていますが、それらは複雑なものであり、高い信頼性でトラフィックをリアルタイムに配信するために最適化されているとは言えません。そのため、モーション・コントロール向けのソリューションとしては、フィールドバスと、ASICをベースとするPCIカードを使用したPC指向の制御アークテクチャが広く使われてきました。

EtherNet/IPやEtherCATといったイーサネットをベースとするソリューションは、上述した欠点に独特な方法で対応してきました。モーション・コントロールの分野では、産業用イーサネットは決して優勢だとは言えません。しかし、産業用イーサネットは他に勝る優れたメリットを備えています。そのため、産業用イーサネットは、今後数年間のうちに必ず普及を果たすはずです。本稿では、その3つの理由を説明します。

1. 「複雑さ」から「収束」へ

現在は、エンタープライズITと生産現場の間でネットワークの相互接続が進んでいる状況にあります。そのため、標準的なイーサネット、産業用イーサネット、フィールドバスが混在する複雑なシステムが生み出されています。例えば、機械において、以下のようなネットワーク/プロトコルが利用されるケースが増えてきました。

  • サーボ・デバイスと通信するためのSercos1
  • 可変周波数ドライブ向けネットワークのためのPROFIBUS®
  • フェイルセーフのフィールドバス通信のためのSafetyBUS p
  • センサーを接続するためのDeviceNet
  • エンド・ユーザーにデータを送信するために、ゲートウェイを介してアクセスされるイーサネット

このようなネットワークは、セットアップや保守が複雑で、多くのコストがかかります。各プロトコルは、それぞれ異なる実装手順、インストーラ、トレーニングを必要とします。一方、イーサネットは、モーション用、安全用といった個別のネットワークを、比較的接続しやすいという特徴があります。また、多くのベンダーによって広くサポートされており、将来的にも有用な技術だと考えられます。そうしたことから、イーサネットは、コスト効果の高いインフラストラクチャに各種ネットワークを統合できる可能性を提示するものだと言うことができます。

イーサネットが開く異種ネットワーク統合の可能性

EtherNet/IPは、実際にどのように統合が果たされるのかを示す良い例です。同プロトコルを使用して統合を図ったシステムでは、次のような手法により、ビジネス用途と産業用途の両方に対応できるようになります2。すなわち、TCP/IPやUDP/IPなどの標準的なイーサネット技術と共に、CIP(Common IndustrialProtocol)Syncのような機能を同時に使用するという手法です。CIP Syncには、IEEE 1588 PTP(Precision Time Protocol)に基づく分配クロックの同期機能が実装されます。

2. モーション・コントロールに適した確定性

モーション・コントロールの性能は、通信の精度に依存します。その精度は、タイムスロットをベースとするスケジューリング機能を使用することによって成り立ちます。各デバイスは、他のデバイスと通信するためのスケジュールを獲得します。そして、制御機能の実行に向けて、サーボ用のドライバやコントローラがそれぞれのタイミングを把握できるようにするためにデルタTの値が算出されます。ただし、データの配信についての予測が行えなかった場合には、それらの値は廃棄されます。そのため、ループの安定性を保証するために確定性が必要になります。

イーサネットは製造現場の厳密なモーション・コントロールに対応可能

EtherNet/IPと共に使用するIEEE 1588の実装は、Intel社のICに搭載された加速度センサー回路によって実現されるケースがあります。ただ、これは確定性を強化するためにイーサネット・ソリューションで使用される一般的なメカニズムの1つにすぎません。EtherCATのオンザフライ処理も、モーション・コントロールのアプリケーションにおいて、常に予測が可能な性能をどのようにして実現するのかを示す例の1つです。

PCIをベースとする中央集約型の通信は、高速ではあるものの、物理的制限が厳しく、機械の処理ユニットとサーボ向けプロセッサの間の距離を短くする必要があります。それと比較すると、EtherCATはより優れていると言えます。

Machine Design誌の2010年の記事の中で、Jason Goerges氏は「EtherCATをベースとする分散処理のアーキテクチャは、中央集約型で制御を行うためのパワーに加えて、分散ネットワークの優位性を活かすための十分な帯域幅、同期機能、物理的な柔軟性を備えています3。実際、この方式を利用したプロセッサを使えば、20kHzのサンプリング・レート/アップデート・レートによって最大64軸を細かく制御することができます。その制御項目には、整流に加え、位置、速度、電流ループも含まれます」と説明しています。

3. IIoTに向けた長期的な実現可能性

当初、LAN技術として導入されたイーサネットに対しては、多くの変更が加えられてきました。現在では、レガシーなフィールドバス用のコンポーネントはわずかな数量しか生産されなくなりました。また、PCIは、現在ではあまり使われることがなくなったISA(Industry Standard Architecture)と同じ道をたどっているとも言えるでしょう。それに対し、イーサネットは進化を続け、現在ではIPをベースとするIIoT(Industrial Internet of Things)にも活用されるようになっています。

IEEE 802.1 TSN(Time Sensitive Networking)のように、IEEE1588を改良してネットワークの統合を実現しようという動きも加速しています。そのような中で、イーサネットは、現在/将来のモーション・コントロール向けの理にかなった選択肢になっています。ただ、フィールドバスとPCIが全く使われなくなるということではありません。オートメーションの業界がIIoTに向かって歩みを進めるにつれて、イーサネットの優位性が高まり続けていくということです。

参考資料

1 Paul Brooks「Using EtherNet/IP for Motion Control(Ether-Net /IPによるモーション・コントロール)」Industrial IP Advantage、2015年10月

2Working Successful Motion Control via Standard Ethernet(標準的なイーサネットによるモーション・コントロール)」Industrial Ethernet Book, Vol. 48, No. 71.

3 Jason Goerges「EtherCAT Enables High Performance Motion Control(EtherCATによる高性能のモーション・コントロール)」Machine Design、2010年11月ber 2010.