ソフトウェア設定可能I/Oでインダストリ4.0の課題を解決

概要

本稿では、ソフトウェア設定可能な入出力(I/O)デバイスとその専用電源デバイス、および、従来のアナログ信号処理と産業用イーサネットの間の溝を埋める上での課題を解決するのに役立つデータ・ソリューションについて述べ、ソフトウェア設定可能I/Oデバイスに備わる、チャンネルの柔軟性、フォルト検出、および診断機能について説明します。システムレベルの評価結果も示し、システムの堅牢性や消費電力などのシステム・ソリューションの全体的な長所を例示します。

はじめに

産業用イーサネットの進歩によって、工場におけるスマートなコネクテッド・マニュファクチャリングが可能となりました。フィールド計測器は、従来のアナログ信号(4mA~20mA、0V~10V)を用いてイーサネット・ドメインに接続する必要があります。これは、機能が固定されたI/Oモジュールにとっては難しい課題となります。システム設計者は、様々なセンサーやアクチュエータに対応できる複数のモジュールを設計する必要があります。しかし、固定機能型のモジュールのチャンネルの中には、使用されず余剰となるものもあります。ソフトウェア設定可能なI/Oモジュールを用いれば、I/Oシステムの全チャンネルを有効に利用できます。ケーブル配線が密集していると、センサーやアクチュエータとこれらの固定機能型I/Oとの接続を誤る可能性があります。こうしたフォルトのデバッグや修正は時間を浪費し、また、手動で負荷をI/Oチャンネルにつなぎ直すことが必要になります。

ソフトウェア設定可能I/Oシステムは、従来の信号処理から産業用イーサネット・ドメインへのなめらかな移行を可能にします。ソフトウェア設定可能なI/Oデバイスは、リモート構成を通じて任意のチャンネルに任意の機能(アナログI/O、デジタルI/O、RTD)を提供できるため、性能検証を容易なものにするのに役立ちます。この柔軟性と診断機能を組み合わせることで、トラブルシューティングをリモートで行うことができ、技術者の時間と労力を節減できます。図1は、従来のアナログ信号処理から、なめらかな移行を可能にするソフトウェア設定可能I/Oを用いたスマートでデジタル的に接続されたセンサーへの、産業用コネクティビティの進展を示したものです。

図1 従来のデバイスとイーサネットの間の溝を埋めるソフトウェア設定可能なI/O

図1 従来のデバイスとイーサネットの間の溝を埋めるソフトウェア設定可能なI/O

アナログ・デバイセズの、ADP1032 2チャンネル絶縁型マイクロパワー・マネージメント・ユニット(µPMU)と結合したAD74413Rソフトウェア設定可能I/Oは、堅牢なソフトウェア設定可能I/Oソリューションの一例です。AD74413Rは、クワッドチャンネルのソフトウェア設定可能I/Oで、自動のフォルト検出機能および診断機能が備わっています。ADP1032は、絶縁型の電源とデータ・チャンネルを提供できるようAD74413R用に調整されたもので、小型で絶縁型のソフトウェア設定可能I/Oシステムを可能にします。

チャンネルの柔軟性

I/O条件が異なる様々な産業用アプリケーションに対し、システム設計者は、手早く設定して要求を満たすことができる柔軟なシステムを必要とします。AD74413Rの4つのチャンネルは、以下のような、様々な入出力モードに設定可能です。

  • 高インピーダンス
  • 電圧入力
  • 電圧出力
  • 外部電源による電流入力
  • ループ電源による電流入力
  • 電流出力
  • デジタル入力ロジック
  • ループ電源によるデジタル入力
  • RTD測定

4チャンネルのいずれかの機能をサポートし、完全な柔軟性を実現するには、一式の外付けディスクリート部品が必要です。アクチュエータやセンサーの配線に誤りがあった場合、そのチャンネルは1つのSPIで再構成できます。

1つのパッケージですべての機能を利用できるため、ハードウェア設計で必要な部品数が少なくなり、それによって、以下が実現できます。

  • アセンブリコストや試験コストを削減できる
  • 信頼性が向上し、デバッグが容易になる
  • 調達が簡単になる
  • ユニバーサルI/Oをディスリートに実装することに比べ、チャンネル密度を高くできる

図2に、接続対象の負荷とは無関係に、AD74413Rの全機能をサポートするために必要な外付け部品を示します。

図2 全機能に対応するために必要な外付け部品を備えたAD74413R

図2 全機能に対応するために必要な外付け部品を備えたAD74413R

フォルト検出および診断機能

AD74413Rは、自動的なフォルト検出機能と様々な診断機能が備わっており、フォルトの分離に役立ちます。ALERTピンをアサートして、フォルト状態の間マイクロコントローラを中断するために使用できます。その後ユーザは、アラート・レジスタを調べることでフォルトの正確な原因を判定できます。また、診断信号を有効化して、特定されたフォルトを更に診断することもできます。

図3 ソフトウェア設定可能I/Oのフォルト検出

図3 ソフトウェア設定可能I/Oのフォルト検出

AD74413Rで検出できるフォルトは次のとおりです。

  • リセット
  • キャリブレーション・メモリ・エラー
  • SPI CRCエラー
  • ADCエラー
  • 電源エラー
  • 温度エラー
  • オープンサーキット/ショートサーキット・エラー

ユーザは、こうした機能を用いることで、システムに発生する任意のフォルトをリモートでトラブルシューティングできます。既存の多くのシステムでは、センサーやアクチュエータは、制御室から遠く離れた場所にあり、危険な場所に設置されている場合もあります。更に、ケーブルの配線が密集していると、どのケーブルがどのセンサーやアクチュエータに接続されているかを判別するのが困難になり、こうしたシステムの配線を物理的にやり直すには、コストや時間の浪費につながります。AD74413Rモジュールは、構成設定が可能で、どのセンサーやアクチュエータが特定のチャンネルに接続されているかを判定する診断機能を備えています。

絶縁型電源とデータ・ソリューション

ディスクリート実装


AD74413Rのディスクリート絶縁型電源ソリューションには、図4に示すように、複数の部品が必要です。電源とデータの絶縁を行うには、個別のアイソレータを用います。そのため、部品数が増加し、大きなボード面積が必要になるという問題が生じます。

図4 AD74413Rディスリート電源ソリューションのブロック図

図4 AD74413Rディスリート電源ソリューションのブロック図

ADP1032によるソリューション


図5に、AD74413RがADP1032から給電される場合のブロック図を示します。ADP1032は、絶縁されてレギュレーションされた2つのレールと、7つのデータ・アイソレーション・チャンネルをすべて1つのパッケージに収めることで、絶縁型電源およびデータ・チャンネルに対する条件を満たしています。これにより、ディスクリートの電源およびデータ・アイソレーション・ソリューションに比べ、ボード面積を約3分の1に縮小できます。そのため、ユーザは、モジュールの全体的なチャンネル密度を増加できます。AD74413Rの4つのSPI信号は、ADP1032の高速絶縁型データ・チャンネルを使用します。これは、15nsという低伝搬遅延を実現できるよう最適化されているため、最大16.6MHzのSPIクロックに対応できます。低速絶縁型データ・チャンネルは、LDACRESETALERTの各信号など、タイミングが重要でない場合に使われます。

図5 AD74413RがADP1032から給電される場合のブロック図

図5 AD74413RがADP1032から給電される場合のブロック図

システムの堅牢性


AD74413Rによるシステム・ソリューションは、過酷な工業環境でも堅牢であるよう設計されており、次のような保護機能を備えています。

  • スクリュー端子でのTVS(サージ発生に対する保護)
  • ピンに接するスクリュー端子は±50V以上のDCに耐えられます(トランジェント発生に対する保護)
  • 誤配線時、スクリュー端子からはデバイスに給電できません

SPIのCRCおよびSCLKカウント機能は、誤ったSPIトランザクションの発生を防止します。更に、ADP1032は、絶縁された電力をAD74413Rの2つの正側レールに供給し、4つのSPI信号と3つのGPIO信号のデータを絶縁します。ADP1032は、汚染度2の場合に最大300Vの基本絶縁を実現しています。ADP1032の電源およびデータ・チャンネルのガルバニック絶縁は、高電圧トランジェントからシステムを保護し、グラウンド・ループからのノイズを低減し、物理的な安全性をもたらします。 

図6 ADP1032 + AD74413Rソフトウェア設定可能I/Oシステムの堅牢性

図6 ADP1032 + AD74413Rソフトウェア設定可能I/Oシステムの堅牢性

ADP1032とAD74413Rは、全機能内蔵型のシステムとして測定と検証が行われ、図7に示すように、CISPR 11クラスBの放射エミッション・レベルに6dBを超える余裕を持って適合しています。

図7 CISPRクラスBに適合するAD74413R + ADP1032の放射エミッション

図7 CISPRクラスBに適合するAD74413R + ADP1032の放射エミッション

消費電力


柔軟なマルチチャンネル・システムを持つことは、システムの消費電力とのトレードオフをもたらします。それは、ソフトウェア設定可能I/O AD74413Rの各チャンネルは様々なモードに設定される可能性がありながら、AD74413Rの電源は単一の出力電圧に固定されているためです。設計者は、必要な電圧ヘッドルームと負荷特性を考慮し、最も厳しい条件に対応できるよう、AD74413Rの最大のAVDD電源電圧を用いて、各モードの適切な動作を確保する必要があります。AD74413Rが、負荷抵抗が600Ω、電流入力範囲が最大20mAの電流出力モードで動作する場合を考えてみます。この出力は、スクリュー端子で最大12Vの出力電圧に変換されます。AD74413Rのデータシートによると、電流出力モードに必要なヘッドルーム電圧は、4.6Vです。最大出力電圧にこのヘッドルーム電圧を加えると16.6Vになります。これが、電流出力モードのAD74413Rに最低限必要なAVDD電源となります。これと同じAVDD電源電圧の計算を、他の入力モードや出力モードについて行い、その中で最大のAVDD電圧を、ADP1032のVOUT1の出力として用いる必要があります。

ADP1032 + AD74413Rシステムの消費電力は、図8に示すように、全システムをブラック・ボックスとして扱い、システムに供給される入力電力(PIN)から、負荷に供給される出力電力(POUT)を差し引くだけで計算できます。システムの消費電力には、ADP1032の電力変換、AD74413Rの静止電流、デジタル・チャンネル・アイソレータの静止電流からの損失、特にヘッドルームで必要とされるAD74413R出力経路の損失が含まれます。図9に、AD74413Rの全4チャンネルを同じ動作モードおよび同じ負荷特性で構成した場合のシステムの消費電力を示します。この例では、AD74413R AVDDに供給されるADP1032 VOUT1が16.6Vに設定されています。これは、事前設定された負荷および入出力条件で異なるすべての動作モードに対応することを想定したものです。ADP1032の入力電源は24Vです。図9に示すように、システムの消費電力は電流出力モードの場合に最も悪い値となっていますが、それでも、フルスケール出力で4チャンネルが動作した場合で1W未満です。消費電力は、負荷だけでなくAD74413Rの入出力のレベルからも大きく影響を受けます。

図8 ADP1032 + AD74413のブラック・ボックス図

図8 ADP1032 + AD74413のブラック・ボックス図 

図9 様々な動作モードおよび負荷(全4チャンネルが同じ構成)でのAD74413R + ADP1032システムの消費電力、ADP1032の入力電源 = 24V

図9 様々な動作モードおよび負荷(全4チャンネルが同じ構成)でのAD74413R + ADP1032システムの消費電力、ADP1032の入力電源 = 24V

ADP1032の入力電源(VINP)を選ぶ際には注意が必要です。ADP1032 VINPの選 択によって、AD74413Rに供 給されるADP1032の最大出力電流が決まります。図10に、様々なVOUT1設定に対するADP1032の最大出力電流を、VINPの範囲にわたって示します。ADP1032に対して選択する入力電源は、4つのチャンネルすべてが20mAの最大出力電流を駆動している出力電流モードの場合のような、最も厳しい場合でのAD74413Rの電流条件に対応できる必要があります。

図10 入力電源電圧に対する、様々な出力電圧でのADP1032 VOUT1最大出力電流

図10 入力電源電圧に対する、様々な出力電圧でのADP1032 VOUT1最大出力電流

まとめ

工場のデジタル化は、生産高、工場稼働率、労働生産性の向上をもたらします。しかし、従来のシステムには10BASE-T1L対応のセンサーやアクチュエータがないため、デジタル・ファクトリへの移行は難しい課題です。ADP1032と組み合わせたソフトウェア設定可能I/O AD74413Rは、イーサネット対応のフィールド計測器との溝を埋めるものです。AD74413Rの4つのチャンネルは柔軟で、それぞれ8通りのI/O構成に設定することができます。フォルト検出および診断機能により、システムのデバッグや性能検証の時間を節約できます。また、診断機能を使用して、メンテナンス用にシステムをモニタすることもできます。最後に、ADP1032は、データと電源のガルバニック絶縁が可能であるため、電力やデータの安全で効率的な転送が可能です。

参考資料

Misthal, Barry, Reinhard Geissbauer, Jesper Vedso, and Stefan Schrauf. “Industry 4.0: Building the Digital Enterprise.” PwC, 2016.

O’Dowd, Brendan. “エッジでのビッグ・データの分析を可能にする「10BASE-T1L」”アナログ・デバイセズ、2020年。

O’Brien, Maurice、Volker E. Goller.“10BASE-T1Lで、フィールド・デバイスのイーサネット接続をシームレスに実現”アナログ・デバイセズ、2021年。

Uenlue, Hakan. “柔軟性の高い産業用I/Oモジュール、ソフトウェアによってあらゆる構成に対応”アナログ・デバイセズ、2021年。

Bien Javier

Bien Javier

Bien Verlito A. Javierは、現在、フィリピンでアナログ・デバイセズの製品アプリケーション・エンジニアとして勤務しています。2011年9月にアナログ・デバイセズに入社し、製品エンジニアリング、設計評価、製品アプリケーションなど、様々な分野の開発職を経験しました。ポリテクニック・ユニバーシティ・オブ・ザ・フィリピン・マラゴンドン・キャンパスで電子工学の学士号を取得しました。

Jefferson A Eco

Jefferson Eco

Jefferson A. Ecoは、現在、フィリピンでアナログ・デバイセズのアプリケーション開発エンジニアとして勤務しています。2011年にアナログ・デバイセズに入社しました。米国特許を1つ保有し、GSPS ADCに給電するスイッチング・レギュレータやフェライト・ビーズの理解をテーマにした技術文書の著者や共著者となっています。Jeffersonの担当製品については、産業用アプリケーション向けのパワー・マネージメントや、フライバック、降圧、反転昇降圧、LDOレギュレータなど様々なトポロジの汎用DC/DCコンバータに焦点を置いています。フィリピンのナガ市にあるカマリネス・スル・ポリテクニック・カレッジで電子工学の学士号を取得しました。