デジタル・アイソレータを用いた絶縁型LVDSインターフェース

現在は、インダストリ4.0に代表されるように、デジタル化、オートメーション化が急速に進行している状況にあります。それにあたって重要な役割を果たすのが、信号やデータの伝送技術です。その種のアプリケーションにおいて、製造フロアの内外で機械やシステム、個々のセンサーをネットワークに接続するには、安定したインフラが必要になります。特に、安全、高速、高精度で、外乱を引き起こすことのない広帯域幅の伝送パスの存在が重要です。アプリケーションによっては、非常に過酷な環境条件に耐えることのできる伝送パスが求められることもあるでしょう。データの伝送には、有線、無線、シリアル、パラレルなど、いくつもの方式があります。そして、いずれの伝送方式にも、長所と短所があります。したがって、各アプリケーションにどの方法を適用するかは、慎重に比較/検討を行った上で決定しなければなりません。

有線のシステムとは異なり、ワイヤレス技術は、一連の重要なパラメータ、異なるコンポーネントに加え、その時点での環境的な条件からの影響を受けます。無線通信の重要な要素としては、通信距離(送信アンテナと受信アンテナの位置に依存)、送信電力、局所環境の条件、周波数範囲が挙げられます。無線伝送アプリケーションの計画を立案する際には、距離をはじめとし、受信信号の品質に関連する様々な条件について検討する必要があります。

以前は、インターフェース・コンバータや産業用バックプレーンなどのアプリケーションでは、数Mbpsの帯域幅があれば十分でした。また、SPI(Serial Peripheral Interface)やRS-485といったインターフェースでは、部分的に絶縁が必要になることがあります。それについては、現在でも標準的なソリューションを採用することで対処できます。しかし、インダストリ4.0やIoT(Internet of Things)といった最新のトレンドを導入する際には、大量の測定データを扱わなければならなくなります。また、非常に複雑な制御システムも構築しなければなりません。そのため、インターフェースには更に高速なデータ・レートと広い帯域幅が求められます。インターフェースについては、その他にも、絶縁耐性と信頼性をより高めて安全性を強化することや、必要な実装面積をより小さくすることなど、様々な要件が課せられつつあります。そうした状況に対しては、もはや従来のソリューションでは不十分です。それに代わる最良のソリューションは、デジタル・アイソレータです。デジタル・アイソレータであれば、上述した安全性、性能、信頼性に対する要求の高まりに対応できます。それだけではなく、複数の入出力が統合された形で絶縁機能が提供されるからです。

信号伝送のアプリケーションに適用される一般的な手法としては、LVDS(Low Voltage Differential Signaling:低電圧差動信号)を利用する方法が挙げられます。この方法では、シリアル・データ伝送向けの確立されたインターフェース規格であるTIA/EIA-644を採用します。この技術には、消費電力が非常に少なく、最高で数Gbpsという高いデータ・レートに対応できるという特徴があります。加えて、ノイズ耐性が高いという長所もあります。こうした優れた特質は、インターフェース回路の内部で適用される電流制御によって得られるものです。具体的には、ドライバ・モジュールの最大出力電流は、3mAまでに制限されます。また、信号の差動電圧はわずか20mVです。伝送時には、その信号がレシーバ側で300mV(差動)のロジック・レベルに増幅し直されます。このような方法により、EMI(電磁妨害)を非常に小さく抑えられる、スイッチング速度を高められる、といった多くのメリットが得られます。

多くのシステムでは、電子回路の間の配線や短いケーブルを介して、大量のデータを送信しなければなりません。LVDSインターフェースは、そうしたシステムの制御と調整によく用いられます。アプリケーション全体のレベルで各コンポーネント間の同期をとるために、クロック信号を非常に高速に個々のコンポーネントに分配する手法としても用いられます。産業用の計測システムや制御システムのアナログ・フロント・エンドは、LVDSの標準的なアプリケーションの1つです。一方で、LVDSは、HDMI®などを介して、複数のデータ・ノード間での通信やビデオ信号の伝送を行うためのデジタル・インターフェースの実装にも用いられています。そして、忘れてはならないのが、LVDS回路では、電気的な絶縁を実現可能であるということです。このことから、電子回路やバックプレーンなど、通信インターフェースの絶縁が必要になる様々なケースにも、LVDSは広く使用されています。

バックプレーンは、様々なアドオン・ボード・モジュールに対応するための複数のコネクタを備えた回路ボードです。これにより、プラグ&プレイ方式でアセンブリを追加して、ベースとなるシステムを簡単に拡張することができます。但し、そうしたアドオン・モジュールは、高電圧のトランジェントにさらされることが少なくありません。多くのアプリケーションにおいて、配電網に接続されるコンポーネントと直接接触するからです。つまり、アドオン・モジュールは、落雷などの外的事象の影響を受けやすくなります。人間との接触で生じる静電気放電(ESD)や、アドオン・モジュールを接続したり取り外したりした際の内部コンデンサの急激な充電、逆極性での充電/放電も、大きなトランジェントにつながる可能性があります。したがって、その種のシステムでは、インターフェースの安全を確保するための絶縁が不可欠です。適切に絶縁を行わなければ、接続されたアセンブリが簡単に破損したり、電圧トランジェントが生じてユーザーが危険にさらされたりするおそれがあります。また、産業用の計測器に対しては、通信用のインターフェースに機能的な絶縁を施すと、大きな効果が得られます。つまり、A/Dコンバータ(ADC)とマイクロコントローラの間などに、フローティング・グラウンドを設けるために絶縁インターフェースを使用するということです。それにより、アプリケーションの他の部分から影響や干渉を受けないよう、測定の対象となる信号を隔離することができます。

絶縁型のLVDSインターフェースを実現するためのものとして、既に多様な製品が提供されています。例えば、アナログ・デバイセズは「ADN4650」、「ADN4651」、「ADN4652」で構成される絶縁型LVDS製品ファミリ(以下、ADN465x)を提供しています。これらは、非常に優れた効率と信頼性を提供するソリューションです。最高600Mbpsのデータ・レートをサポートすると共に、非絶縁型の標準的なLVDSインターフェースに匹敵するレベルの性能を発揮します。例えば、標準的なデジタル・アイソレータのデータ・レートは150Mbps程度です。一方、アナログ・デバイセズのADN465xは、iCoupler®技術により、絶縁を行いつつ非常に高いデータ・レートを達成しています。iCouplerは、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ベースのトランスを使用することにより、デジタル信号に対してシンプルかつコンパクトに絶縁を施すための技術です。

また、ADN465xは、非常に精密なタイミング性能を備えているほか、タイミング・ジッタとしても知られるジッタを非常に小さく抑えています。ジッタとは、理想的な時間基準に対するデジタル信号の立上がり/立下がりエッジの変動のことです。データ・レートが高い場合、ジッタが小さいことが非常に重要な意味を持ちます。例えば、600Mbpsでは、1ビットのデータがわずか1.6ナノ秒で送信されるため、エッジの変動量が大きいと正しくデータを送受信できなくなります。また、ADCが正しくサンプリングを実行できるようにするには、信号の立上がり/立下がりエッジのジッタを抑えて、ハイまたはローのレベルの時間を十分に確保しなければなりません。ADN465xの場合、ジッタの標準値は70ピコ秒です。また、ADN465xは、2つの絶縁型LVDSチャンネルを備えています。ADN4651では、1つが送信チャンネルでもう1つが受信チャンネルです。ADN4652では、ADN4651とは逆向きに各チャンネルが配置されています。ADN4650では、配線に応じて2チャンネルとも送信用か受信用になります(両チャンネルが同じ方向に配置されています)。ADN465xは、内部的には2.5Vの電源電圧で動作します。産業用システムの場合、残念ながら2.5Vの電源電圧は存在せず、3.3Vしか利用できないことが多いはずです。そこで、3.3Vの外部電源電圧を入力として使用できるように、ADN465xは、LDO(低ドロップアウト)レギュレータを搭載しています。3.3Vの電源電圧が存在しない場合には、絶縁型のDC/DCコンバータ「ADuM5000」のような製品を使うことで、入力側と絶縁出力側に電力を供給できます(図1)。同ICを使用すれば、500mWの最大出力で5Vまたは3.3Vの絶縁出力電圧を生成できます。

 

図1. ADN4651とADuM5000で構成した絶縁型のLVDSインターフェース
図1. ADN4651とADuM5000で構成した絶縁型のLVDSインターフェース

先述したように、今日の産業用アプリケーションで使用される絶縁型のLVDSインターフェースに対しては、多くの要件が課せられます。ADN465xとADuM5000を組み合わせることで、そうした要件を満たすことができます。また、集積度の高いこのソリューションは、標準的なバス通信のあらゆる前提条件も満たします。LVDSインターフェースは、消費電力を抑えたいアプリケーションで使われることもよくあります。ADN465xとADuM5000を組み合わせたソリューションであれば、フォトカプラを用いた従来のソリューションと比べて、消費電力を大幅に削減できます。なお、絶縁を施した複数のチャンネルを提供することも、よく求められる要件です。

LVDSアプリケーションでは、スループット/ボー・レートを最大限に高めるために、チャンネルは並列に使用されます。図1の回路は、4チャンネルのアイソレータ、2つの送信チャンネル、2つの受信チャンネルを備えています。わずか1つの電子アセンブリ上で、2つの完全な送信/受信チャンネルによる信号伝送を、非常に高速な伝送レートで実施できるということです。

ADN465xを使用すれば、ほぼDCから最高600Mbpsまでのデータ・レートを容易に達成できます。但し、最大パルス幅歪みの仕様は遵守する必要があります。加えて、差動信号の高速伝送に必要ないくつかの項目を考慮して、基板レイアウトを実施しなければなりません。つまり、入力側と出力側のパターン長を整合させると共に、グラウンドを基準としたインピーダンスが約50Ω、信号線の間が100Ωになるようにします。また、図2に示すように、100Ωの終端抵抗をLVDSの入力部に接続することが推奨されます。

 

図2. ADN4651を用いた絶縁型LVDS回路。シールド付きワイヤ・ペアを使用して配線を行っています。
図2. ADN4651を用いた絶縁型LVDS回路。シールド付きワイヤ・ペアを使用して配線を行っています。

 

ケーブル長とコネクタの種類も、最大データ・レートに影響を及ぼします。200Mbpsまでの低いデータ・レートで、高速データ・レート用のコネクタとシールド付きワイヤ・ペアを使用すれば、ケーブル長は数mまで延長することが可能です。

ADN465xは、信号線に対して絶縁を施すためのLVDSバッファです。ジッタが極めて小さく抑えられており、最大600Mbpsのデータ・レートで動作します。ADuM5000と組み合わせることにより、短い距離であれば600Mbps、数m程度の距離であれば200Mbpsの高速信号伝送を実現することができます。

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brand。2015年、修士論文作成の一環で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始。卒業後、アナログ・デバイセズのトレイニー・プログラムを受講。2017年、フィールド・アプリケーション・エンジニアとなる。中央ヨーロッパの産業分野の大型顧客をサポートすると共に、工業用イーサネットの分野を専門とする。モースバッハ産学連携州立大学で電気工学を専攻後、コンスタンツ応用科学大学で国際セールスの修士課程を修了。