Thought Leadership
宇宙アプリケーションにおける電子回路の課題
まず、本稿に示す検討の背景を設定するために、次のようなシナリオを考えます。あなたはいま、宇宙飛行士としてNASAの宇宙船「オリオン」のクルー・モジュールに乗り組んでいるものと考えてください。あなたは、これまで設計された中で最大のロケットであるNASAスペース・ローンチ・システムに点火するための最終的なカウントダウンを前にして、火星への飛行のために、ロケットの最先端で最終装置チェックリストに従いチェックを進めています。あなたが座っているのは高さ384フィートの空中、重量130トンの巨大なロケットの先端で、これは過去最大の打ち上げ能力を持つ強力な打ち上げ機です。「gentlemen, we have ignition(皆さん、点火しました)」という有名な言葉が聞こえたときには、920万ポンドの推力があなたを宇宙空間へ向けて押し出します。宇宙船「オリオン」は人類を火星や深宇宙へ送り込むために設計されており、その飛行時には2000ºC以上の温度と致命的な量の放射線にさらされ、飛行速度は20,000mphに達します。
ここで自問してみましょう。あなたが搭乗する宇宙船の制御システムには、どのような品質グレードの電子部品が選ばれたのでしょうか?宇宙レベル・アプリケーション用部品の選択時には、高い信頼性と宇宙開発の歴史の中で培われてきた経験を反映したデバイスが重要な要素となります。普通、NASAはレベル1、つまり認定メーカー・リストのクラスV(QMLV)デバイスを指定し、より高い品質レベルを実現できるかどうかを尋ねるのが常です。宇宙飛行アプリケーション用の電子部品を識別するためにNASAが使用する包括的な選択プロセスを知っているからこそ、飛行士はロケットの先端に安心して座っていることができるのです。
宇宙船の厳しい環境条件と電子機器に及ぶ危険
宇宙用電子機器が最初に越えなければならない最初のハードルが、打ち上げ機によって生じる振動です。打ち上げ時にロケットとそのペイロードに課される要求は過酷です。打ち上げロケットには非常に大きな騒音と振動が発生します。故障したり火の玉と化したりするおそれのある物は、文字通り数千個に及びます。宇宙空間でロケットから衛星が分離するときは、衛星の本体構造に大きな衝撃が加わります。パイロショックは、火工品が作動(爆発)したときに構造に加わる動的な衝撃です。パイロショックは、衛星の射出や多段ロケットにおける2つの段の分離に使われるような炸薬の爆発による結果として、構造に伝搬する高周波数・大振幅の応力波に対する構造の応答です。パイロショックにさらされると、回路基板の損傷や電気部品の短絡、その他あらゆる種類の問題が生じる可能性があります。打ち上げ環境を理解すれば、衝撃と振動に関する要求と、宇宙レベルのアプリケーション用に設計された電子部品に課される検査についての認識を深めることができます。
ガスの放出はもう1つの大きな懸念事項です。プラスチック、接着剤、粘着性物質などからはガスが発生する可能性があり、また、実際に発生します。プラスチック製品から発生する蒸気は、光学デバイスに堆積して性能を低下させるおそれがあります。例えば、自動車のプラスチック製ダッシュボードから蒸気が発生して、その蒸気がフロントガラスのフィルムに堆積する場合があります。これは、私の個人的な経験から明言できる実際的な例です。プラスチック部品ではなくセラミックを使用すれば、電子機器におけるこの問題を回避できます。地球低軌道(LEO)において揮発性シリコーンから発生するガスは、宇宙船の周囲に汚染物質の雲を形成することがあります。ガス発生、通気、リーク、スラスタ噴射から生じる汚染物質は、宇宙船の外表面を劣化させ、変質させる可能性があります。
表面に付着した高濃度の汚染物質は静電放電の一因となり得ます。衛星は帯電や放電に対して脆弱です。そのような理由から、宇宙用アプリケーションにはフロート状態の金属を持たないコンポーネントが必要とされます。衛星の帯電とは、周囲の低電位プラズマに対する衛星の相対的な静電電位の変化です。帯電の程度は、衛星の設計と軌道によって異なります。帯電に影響する2つの主要なメカニズムは、プラズマ衝撃と光電効果です。対地同期軌道上の衛星には20,000Vもの放電が発生することが知られています。保護設計手段を講じなければ、静電放電、つまり宇宙環境からのエネルギーの蓄積によってデバイスが損傷するおそれがあります。対地同期軌道(GEO)に使われる設計ソリューションは、衛星の外表面を導電性の物質でコーティングすることです。LEO上の大気は約96%の原子状酸素で構成されています。酸素には様々な形態のものがあります。普段私たちが呼吸しているのはO2です。O3は地球の上層大気内に存在し、O(1原子)は原子状酸素です。原子状酸素は宇宙船外面の有機物質と反応して、徐々にそれらの物質を損傷させる可能性があります。原子状酸素による物質の侵食はNASAの最初のスペース・シャトル・ミッションで確認されました。このミッションで原子状酸素の存在が問題を引き起こしたためです。スペース・シャトルの材料が酸素状原子の存在によって実際に侵食されて表面の状態が変化したため、霜が降りたように見える状態になりました。NASAは、原子状酸素と反応しない薄膜コーティングを開発することによって、この問題に対処しました。プラスチックは、原子状酸素や電離放射線に対して非常に敏感です。原子状酸素への耐性を有するコーティングは、プラスチックの一般的な保護方法です。もう1つの障害は、宇宙船が経験する非常に大きな温度変動です。衛星の地球周回軌道は、日照フェーズと日陰フェーズ2つのフェーズに分けられます。日照フェーズでは衛星は太陽によって熱せられ、衛星が周回を続けて地球の裏側、つまり日陰側へ移動するにつれて、その温度は300ºCも変化します。更に、GEO静止軌道を周回する衛星はLEOを周回する衛星より太陽に近いので、その温度変動ははるかに大きくなります。
興味深いのは、月面では温度が昼と夜で約–200ºCから+200ºCまで変化することがあるという点です。この事実から、そのような環境でどうやって人間が月面を歩くことができたのか、という疑問を抱くのではないかと思います。このような環境でもセラミック・パッケージは温度変動の繰り返しに耐えることが可能で、他と比較してより高いレベルの密封性を実現し、より高い消費電力レベルと温度で機能を維持することができます。セラミック・パッケージは、過酷な環境でも高い信頼性を提供します。では、電子機器から発生した熱をどうやって放出すればよいのでしょうか?電子機器の精度と平均寿命は、継続的な高熱によって低下する可能性があります。熱を伝達する方法は3つあります。対流、拡散、そして放射です。宇宙は真空なので、熱対流や熱伝導は起こりません。放射による熱伝達が真空中で熱を伝達する主な方法なので、衛星の冷却は宇宙空間への熱放射によって行われます。
宇宙空間の真空は錫ウィスカの発生に望ましい環境なので、禁止物質が関心事となります。宇宙空間で使用するIEEE部品および関連ハードウェアに、純粋な錫、亜鉛、カドミウムによるメッキを施すことは禁止されています。これらの材料を使用するとウィスカが自然に成長して、短絡を発生させることがあります。錫ウィスカは導電性で、時によって、最終仕上げとして錫が使われている表面から錫の結晶構造が成長します。純粋な錫のリードを使っているデバイスにはこの錫ウィスカ現象が発生する可能性があり、それにより電気的な短絡が生じるおそれがあります。高いストレスの下でデバイスを使用する場合は、鉛ベースのハンダを使用すれば短絡発生のリスクは避けられます。最後に、宇宙の放射線環境が宇宙船の電子機器に悪影響を及ぼす可能性があります。宇宙船が遭遇する放射線のレベルとタイプには大きな違いがあります。低地球軌道、扁平率の大きい楕円軌道、対地同期軌道、そして惑星間を飛行するミッションの環境は、それぞれ大きく異なります。加えて、これらの環境はそれぞれが変化します。放射線源は太陽の活動の影響を受けます。太陽周期は、太陽活動極小期と太陽活動極大期という2つの活動段階に分けられます。宇宙船のミッションが行われるのは極小期か、極大期か、あるいは両方にまたがるのでしょうか?ここで重要なポイントは、宇宙空間の環境が大きく異なるということです。また、打ち上げ機に関する要求も、それが対地同期衛星用なのか火星探査車用なのかによって大きく異なります。それぞれの宇宙プログラムは、信頼性、放射線耐性、環境ストレス、打ち上げ日、ミッションの予想ライフ・サイクルなどに関して評価を行う必要があります。
アナログ・デバイセズは、過去40年以上にわたり、高い信頼性を備えたデバイスによって航空宇宙および防衛市場のサポートを続けてきました。焦点となる分野は、電子戦、レーダー、通信、アビオニクス、無人航空機(UAV)システム、ミサイルおよびスマート兵器などのアプリケーションです。現在の焦点は宇宙市場です。アナログ・デバイセズは奥深く幅広い技術を擁しており、その範囲は、センサー、アンプ、RFおよびマイクロ波デバイス、ADC、DACから、航空宇宙および防衛産業の厳しい要求へのソリューションを提供する各種出力デバイスまで、シグナル・チェーンのあらゆる領域に及んでいます。
2015年の衛星産業の収益は2,080億ドルでした。衛星産業には、衛星の製造、衛星用打ち上げ機器、地上局用機器、および衛星サービスという4つの分野があります。現時点では衛星サービスが最大の分野であり、今後も衛星産業全体の推進役となる重要な要素であり続けるものと予想されます。それでは、最近の衛星はどのような役割を果たしているのでしょう。現代の生活がどれだけ衛星サービスに依存しているのかを知れば、ほとんどの人が驚くに違いありません。もし、現在運用されている1,381機の衛星が期せずしてその活動を停止したら、現代生活は大混乱に陥るでしょう。国際金融、電気通信、輸送、気象、国防、航空、その他多くの分野は、衛星サービスに大きく依存しています。衛星サービス市場には大きく分けて3つの分野があります。衛星航法、衛星通信、そして地球観測です。航法衛星は、位置確認、位置特定、および計時サービスの提供を目的として、航法用の信号とデータを世界のあらゆる場所へ配信するために使われます。利用可能なサービスの例としては、交通の管理、観測およびマッピング、運用機材や資産の管理、および自動運転技術などが挙げられ、無人自動車やトラックは次の大きな核心技術になると目されています。電気通信衛星(SATCOM)の例は、テレビ、電話、ブロードバンド・インターネット、衛星無線などです。これらのシステムは、地上に設定された通信ネットワークに損害を与えるような災害が発生した場合でも、途切れることなく通信サービスを提供することができます。企業や航空会社の運航する航空機が飛行中に利用できるインターネットやモバイル・エンターテイメントは、この市場の成長分野です。環境データの送信には地球観測衛星が使われます。宇宙からの地球観測はサステナブルな農業を促進し、気候変動への対応、土地や野生生物の管理、エネルギー資源管理などの助けとなります。地球観測衛星は水資源確保の助けとなり、気象予報を改善します。したがって衛星サービスの範囲は非常に広く、その範囲は更に広がりつつあります。
では、衛星にはどのような電子システムが使われているのでしょうか。宇宙船の基本要素は、プラットフォーム(またはバス)とペイロードの2つに分けられます。プラットフォームは、ペイロードを支援する5つの基本サブシステムで構成されます。すなわち、構造サブシステム、テレメトリ・トラッキングおよびコマンド・サブシステム、電源および給電サブシステム、熱制御サブシステム、および姿勢および速度制御サブシステムです。構造サブシステムは機械的な構造で、応力と振動に耐えるための剛性を提供します。また、放射線から電子機器を遮蔽する役割も果たします。テレメトリ、トラッキング、およびコマンド・サブシステムには、レシーバー、トランスミッタ、アンテナと、温度、電流、電圧、タンク圧力用のセンサーが含まれます。また、様々な宇宙船サブシステムのステータスも提供します。電源および給電サブシステムは太陽エネルギーを電力に変換して、宇宙船のバッテリを充電します。熱制御サブシステムは、極端な高温や低温から電子機器を保護する助けとなります。そして最後に、姿勢および速度制御サブシステムは軌道制御システムで、船体の方向を測定するためのセンサーとアクチュエータ(リアクション・ホイールやスラスタ)から構成されており、船体を正しい軌道位置へ乗せるためのトルクと力を発生させます。姿勢および制御システムの代表的なコンポーネントには、太陽および地球センサー、恒星センサー、モーメンタム・ホイール、慣性計測ユニット(IMU)、および信号を処理して衛星位置を制御するために必要な電子機器が含まれます。
ペイロードは本来のミッションに使われる装置です。GPS航法衛星の場合、これには、原子時計、航法信号発生器、そして高出力RFアンプとアンテナが含まれます。電気通信システムの場合、ペイロードには、アンテナ、トランスミッタとレシーバー、低ノイズ・アンプ、ミキサーとローカル発振器、復調器と変調器、パワー・アンプが含まれます。地球観測ペイロードには、気象予報用のマイクロ波および赤外線観測装置、可視赤外イメージング放射計、オゾン全量分光計、可視光および赤外線カメラ、および各種センサーが含まれます。
数年前のアナログ・デバイセズとヒッタイト・マイクロウェーブの統合により、現在ではDC~110GHzの周波数域に対応することが可能です。アナログ・デバイセズのソリューションは、航法、レーダー、6GHz未満の通信システム、衛星通信、電子戦、マイクロ波帯のレーダー・システム、レーダー・システム、ミリ波帯の衛星画像などの範囲に及んでいます。アナログ・デバイセズは、すべてのRFおよびマイクロ波シグナル・チェーンとアプリケーションをカバーする1000種類以上の部品を提供しています。ヒッタイトのあらゆるRFファンクション・ブロック、アッテネータ、LNA、PA、RFスイッチと、アナログ・デバイセズが提供する高性能リニア製品、高速ADC、DAC、アクティブ・ミキサー、そしてPLLのポートフォリオを組み合わせれば、エンドtoエンドのシステム・ソリューションを提供することができます。
宇宙空間の自然放射線環境が電子機器に与える影響
放射線が電子機器に与える影響は、宇宙レベルのアプリケーションにとって主要な懸念事項です。地球の大気という保護カバーの外側では、太陽系は放射線に満ちています。宇宙の自然放射線環境はデバイスを損傷させる可能性があり、その影響は、パラメータ性能の低下から完全な機能喪失まで様々な範囲に及びます。これらの影響は、ミッション寿命の短縮や深刻な衛星システムの故障といった結果を招くおそれがあります。地球付近の放射線環境は、バン・アレン帯に捉えられた粒子および過渡照射という2つのカテゴリに分けられます。バン・アレン帯に捉えられた粒子は、エネルギー陽子、電子、重イオンで構成されています。過渡放射は、銀河宇宙線粒子と太陽現象(コロナ質量放出と太陽フレア)により生じる粒子で構成されます。放射線が衛星の電子機器に与える影響には、主にトータル・ドーズ(TID)効果とシングル・イベント効果(SEE)という2つの形態があります。TIDが長期的な故障メカニズムであるのに対し、SEEは一時的な故障メカニズムです。SEEはランダム故障率で表されますが、TIDは故障発生までの平均時間で記述できる故障率です。
TIDは時間に依存した、ミッションの寿命全般にわたってデバイス内に蓄積される電荷です。トランジスタを通過する粒子は、熱酸化物の内部に電子と正孔のペアを発生させます。蓄積された電荷は漏れ電流を発生させたり、デバイスのゲイン低下、タイミング特性への影響、更に場合によっては完全な機能喪失などを招いたりする可能性があります。合計蓄積ドーズ量は、軌道と時間によって異なります。LEOにおける主要な放射線源は電子と陽子(内帯)で、GEOの場合は電子(外帯)と太陽陽子です。デバイスのシールディングを使用してTIDの放射線量蓄積を効果的に削減できることは、注目に値します。
SEEは、1個の高エネルギー粒子がデバイスを通過して回路に電荷を注入することにより生じます。通常、SEEはソフト・エラーとハード・エラーに分けられます。
JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)では、ソフト・エラーを、エネルギー・イオンの衝突によって生じる非破壊的な機能的エラーと定義しています。ソフト・エラーはSEEのサブセットであり、シングル・イベント・アップセット(SEU)、マルチビット・アップセット(MBU)、シングル・イベント・ファンクショナル・インタラプト(SEFI)、シングル・イベント・トランジェント(SET)、およびシングル・イベント・ラッチアップ(SEL)を含みます。SELが発生するとCMOSウェルに寄生バイポーラ動作が生じ、電源とグラウンドの間に低インピーダンス・パスが誘導されて大電流状態になります。したがって、SELは潜在的なハード・エラーを引き起こす可能性があります。
ソフト・エラーの例としては、ビット・フリップや、メモリ・セルまたはレジスタの状態変化などが挙げられます。SETは、高エネルギー粒子からデバイスに注入される電荷によって生じるトランジェント電圧パルスです。これらのトランジェント・パルスはSEFIを引き起こすことがあります。SEFIは、コンポーネントのリセット、ロックアップ、その他の機能不良を検出可能な形で引き起こすソフト・エラーですが、機能を回復するために電源のオン/オフを行う必要はありません。多くのSEFIは制御ビットやレジスタの異常に関係しています。
JEDECではハード・エラーを、通常はデバイスまたは回路の1つまたは複数の要素の恒久的損傷に関係するような不可逆的な動作の変化、と定義しています(例えばゲート酸化物の破損や破壊的なラッチアップ現象)。このエラーが「ハード」と呼ばれるのは、データが失われて、電源をリセットしてもそのコンポーネントやデバイスが正しく動作しなくなるからです。SEEハード・エラーは破壊的な結果を招くおそれがあります。ハード・エラーの例は、シングル・イベント・ラッチアップ(SEL)、シングル・イベント・ゲート・ラプチャ(SEGR)、およびシングル・イベント・バーンアウト(SEB)です。SEEハード・エラーはデバイスを破損させたりバス電圧を低下させたりするほか、場合によってはシステム電源を破損させる可能性もあります。
技術トレンドと放射線の影響
衛星ペイロードに関しては、各種計測器がより複雑化する傾向にあります。かつての通信衛星は、基本的に信号を中継するベント・パイプ・リピータ・アーキテクチャでした。今日の通信衛星はマルチビームであり、オンボード処理(OBP)アーキテクチャが採用されています。より複雑な電子機器では、放射線の影響によるリスクも大きくなります。多数の小型衛星で構成されるコンステレーションでは、より一般的な民生用のプラスチック・コンポーネントを使用しています。商用オフザシェルフ(COTS)デバイスは、通常、放射線の影響により敏感な傾向にあります。また、小型衛星の場合、電子機器を遮蔽する構造の質量が小さくなります。IC形状がより微細で酸化物層が薄い場合、TID放射線の影響に対する感度が低下して、TIC許容値は改善されます。その一方で、ICスケーリングが小さくなるとSEEが増大し、SETやSEUを発生させるために必要なエネルギーは小さくなります。
高周波数のデバイスではSETがより多くのSEUに変化して、SEFIの数が増加するおそれがあります。また、より高速のトランジェント信号に対応するために使われる軽減手法が、より難しくなる可能性があります。
宇宙レベル・アプリケーションのサポートにおけるアナログ・デバイセズの努力
宇宙製品グループは、宇宙産業のサポートに、アナログ・デバイセズのデバイス・ポートフォリオを活用しています。アナログ・デバイセズには、宇宙レベル・アプリケーションに適した放射線耐性を実現する独自のシリコン・オン・インシュレータ(SOI)プロセスがあります。デバイスの放射線耐性を強化するために、コア・シリコンに変更を加える場合もあります。放射線強化型SOIプロセスに各種の設計を移植することも可能です。アナログ・デバイセズでは、密封型セラミック・パッケージにダイを組み込んで、防衛用の拡張温度範囲でデバイスの特性評価を行います。アナログ・デバイセズは、モノリシック・デバイスには米国防補給庁(DLA)のMIL-PRF 38535システム、クラスKハイブリッドおよびマルチチップ・モジュールにはMILPRF 38534を使用して、要求に完全に適合したクラスS QMLV製品を開発しリリースすることを目標としています。放射線検査に関しては、アナログ・デバイセズは現在、高ドーズ・レート(HDR)および低ドーズ・レート(LDR)テストを実施したモデルを提供しており、新製品のリリースに関してはシングル・イベント効果テストのデータを提供しています。
また、アナログ・デバイセズは、民生用、工業用、強化型製品(EP)、自動車、防衛、および宇宙用品質のデバイスを提供しています。EPデバイスは、主に航空宇宙および防衛産業におけるミッション・クリティカル・アプリケーションや高信頼性アプリケーションに使用できるように設計されています。その他の製品グレードには、防衛用グレードのモノリシック・デバイス、マルチチップ・モジュール、QMLQおよびQMLHデバイス、宇宙用品質のモノリシック・デバイス、および防衛仕様の下にQMLVおよびQMLKデバイスとして設計されたマルチチップ・モジュールが含まれます。アナログ・デバイセズでは、ハイブリッド・モジュールやマルチチップ・モジュールのソリューションを開発しているお客様向けに、宇宙用品質のクラスKダイも提供しています。クラスKに適合したダイは、標準的な航空宇宙データシートと客先のソース管理図面に対して提供されます。
アナログ・デバイセズは、EP、ミッション・クリティカルな要求を満たすように設計されたプラスチック封入デバイス、および高信頼性アプリケーションの要求を満たすデバイスを提供しています。お客様からのご要望に基づき、アナログ・デバイセズは、強化型製品プラス(EP+)デバイスとして位置付けた宇宙アプリケーション用の新しい製品カテゴリを立ち上げる予定です。お客様は、サイズ、重量、消費電力、より高い性能、広い帯域幅、動作周波数の増大、ペイロードの柔軟性、最大限の信頼性などの点での改善を求めています。宇宙船設計者は、小型化、低消費電力化、低コスト化が進む宇宙船において、高レベルの性能を実現するために民生用デバイスを使用するという圧力にさらされるようになっています。上空でのインターネットが良い例です。世界の人口の60%はインターネットを利用できないと見積もられています。この市場に対応するために、各社は地球を周回する低コストの小型衛星からなる大規模なコンステレーションを展開して、世界的通信ネットワークへのアクセスを可能にすることを計画しています。アナログ・デバイセズは、EP+を定義してこの発展が見込まれる新たな市場に対応するために、お客様と協力しています。EPは、カスタム・アップスクリーニングのための追加コストなしで、高信頼性アプリケーション用のCOTSソリューションを提供します。EPは、–55ºC~+125ºCの防衛用温度範囲でリリースされたプラスチック封入デバイスです。拡張温度範囲の要求に加えて、EPには、鉛を使用していないこととウィスカがないことも求められます。更にこれらのデバイスには、管理された製造ベースライン、独立したデータシート、およびEP変更通知プロセスも求められます。また、米国防補給庁の文書システムの下では、関連するV62ベンダー・アイテム図面も必要になります。現在リリースされているEPは特別なEPサフィックスによって識別され、独立したデータシートも用意されています。
既に述べたように、アナログ・デバイセズは宇宙レベル・アプリケーションEPと、LEOシステムおよび高高度アプリケーション用の新しいデバイス概念も開発しています。アナログ・デバイセズは、現在、ソース管理図面に対してEP+をサポートしていますが、宇宙レベル・アプリケーション向けに標準COTSグレードのデバイスを提供したいと考えています。EP+アプローチでは、アナログ・デバイセズは標準EPデバイスとMIL-STD-883グレード・デバイスの中間的なデバイスを考えており、カスタム・アップスクリーニングによる追加的なコストを発生させることなく、宇宙レベル・アプリケーション用のCOTSソリューションを提供します。EP+アプローチでは、COTSデバイスを製造して、ウェーハ・ロットのトレーサビリティとロット固有の放射線検査データを提供することができます。
重要なのは、図1の曲線に示すように、信頼性とコストの適切なバランスを決定することです。より厳密なスクリーニングが必要になれば、それだけ単価も上がります。この新しい製品カテゴリを定義するにあたり、衛星業界とアナログ・デバイセズにとっての現在の課題は、宇宙レベル・アプリケーションに使用する民生用デバイスについて、スクリーニング・レベルとコストの最適な妥協点を決定することです。
要約すると以下のようになります。アナログ・デバイセズの目標は宇宙レベル・アプリケーション向けにすべてを備えた製品を提供することであり、単なる一部品を提供することではありません。
- 業界をリードするデバイス信頼性を備えた、業界で最も幅広いポートフォリオを提供
- シングル・ロット日付コードによる調達を提供
- 過酷な環境的課題を解決する高度なパッケージングと特性評価
- 錫ウィスカに対応するための金および錫鉛熱ハンダ浸漬によるリード仕上げ
- 禁止物質不使用証明の提供
- 材料トレーサビリティに関する要求への適合を示す包括的証明書
- 包括的なQMLV飛行ユニット・テスト・レポート
- –55ºC~+125ºCの拡張温度範囲で電気的性能の出荷テストを実施
- 100%のスクリーニングと品質確認検査によって要求に完全に適合したQMLVデバイスを提供
- 放射線耐性を備えたデバイスを提供 … HDR、LDR、SEE
- 長い製品ライフ・サイクルがアナログ・デバイセズのビジネス戦略の基礎
- 製品サポートおよびアプリケーション・サポート用の航空宇宙および防衛分野専門チームが存在
現在、アナログ・デバイセズは90以上の標準的な一般宇宙用品質デバイスを提供しており、更にグレードとパッケージが異なる350以上のモデルが存在します。新機能を備えた宇宙用品質の製品の例としては、ADA4084-2S、ADA4610-2S、ADuM7442Sなどのデバイスが挙げられます。
5962R1324501VXA(ADA4084AF/QMLR)は、SMD図面に基づくQMLV適合の宇宙用品質デバイスとして提供される、低ノイズ、低消費電力の新しい宇宙用品質高精度アンプです。このデバイスは10MHzのユニティ・ゲイン帯域幅と、レールtoレールの入出力を備えています。これらのアンプは、AC性能と高精度DC性能の両方を必要とする単電源アプリケーションに最適です。
5962R1420701VXA(ADA4610-2BF/QMLR)は、デュアルチャンネル、高精度、超低ノイズ、低入力バイアス電流、広帯域幅の宇宙用品質JFETデバイスです。これらのアンプは、高インピーダンス・センサーの増幅や、精密電流測定などに特に適しています。
ADuM7442R703Fは、25Mbps、クワッド・チャンネルの宇宙用品質デジタル・アイソレータで、3つのフォワード・チャンネルと1つのリバース・チャンネルを備えています。これらのデバイスは双方向通信が可能です。宇宙用品質のデバイスはガルバニック絶縁されています。つまり、入力回路と出力回路は電気的に直接接続されていません。これは競合ソリューションに対し、サイズ、重量、および信頼性の面で利点となります。