はじめに
前回、今回の 2 冊の技術ノートは、前編・後編としてアナログ・フロントエンド(アナログ入力段。信号源の電圧・電流を増幅したりフィルタしたりする前段の信号処理回路)こみで ADC(Analog to Digital Converter)でのノイズ特性最適化をどうするかについて、NF(Noise Factor/Noise Figure)を指標として考察していくものです。
前回の前編ではそのウォーミング・アップとして、量子化ノイズの考え方、そして有効ビット分解能 ENOB を探究してみました。フロントエンドで生じるノイズこみこみでの AD 変換の系として、「基本的に」ノイズ性能をどう考えればよいかの指標である、ENOB を得られることがご理解いただけたものかと思います。
今回はいよいよ、アナログ・フロントエンドと、その後段に ADC が接続された、ミックスド・シグナル・システム(系)での NF の計算方法を考え、ADC の適切な分解能をどう判断すればよいか、そしてフロントエンドと ADC のノイズ配分(フロントエンドの増幅率)をどう最適化すればいいかを、じっくりと解きほどいていきたいと思います。
この探究には TNJ-076 [1]での OP アンプ回路を代表とする、50 Ωで整合終端されてない、一般的な増幅系全体の NF計算方法が基本になります。また今回も理論的しくみを考えていくことから、現場で一般的に用いられる、dB で表される Noise Figureではなく、真値である Noise Factor を用いていきますので、注意してください。
また議論は「ノイズは 1st Nyquist Zone に現れるものが支配的(アンチエイリアシング・フィルタが適切に設定されている)」という仮定のもとに進めますので、注意してください。このことは一つ前の技術ノート TNJ-077 でも説明しています。
なおこの技術ノートでは「前段の増幅回路(フロントエンド) と ADC とのシステム」を「系」と表現します。
フロントエンドと ADC とのノイズ配分を考える
ここでは ADC の分解能や SNR が最初に規定されたとき(以降の課題 1)とか、デジタル信号処理で帯域制限を行ったとき(以降の課題 2)、最適な NF を実現するためには、どうすればフロントエンドと ADC のノイズ配分を最適にできるかを考えてみましょう。
これはフロントエンドの増幅率設定をどうするかという意味でもあります。フロントエンドの増幅率によって ADC に加わるノイズ量が変化するからです。
課題その 1「ADC の SNR や分解能が与えられたとき」
ADC の SNR とか分解能が最初に与えられたとき、最適なノイズ配分は、という課題を考えます。
図 1 をご覧ください。説明してきたように、ADC を用いた系では、ADC で付加されるノイズ𝑉𝑁_𝑎dcがあります。これは分解能から決まる量子化ノイズ𝑉𝑁Qも含みます。そしてアナログ・フロントエンドからのノイズ、𝑉𝑁_𝑎feもあります。
なお𝑉𝑁_𝑎feのノイズ帯域は1st Nyquist Zoneに制限されているものとします。
使用する ADC などの条件、たとえば分解能などにより、最初にこの𝑉𝑁_𝑎dcが与えられたと考えてみましょう。このとき AD変換の系全体で最適なローノイズ特性を実現するには、𝑉𝑁_𝑎dcと𝑉𝑁_𝑎feの関係をどうすればよいのでしょうか。
これがひとつめの課題です。
帯域制限が高い SNR の基本なのだが…課題その 2「帯域制限をしたとき NF を最適化したい」
もうひとつの課題は「帯域制限」です。帯域制限を行うことが高い SNR を実現する基本になります。
図 2 は系全体の SNR が-8.2dB の条件で、100Hz の信号を AD 変換し FFT した結果です。ノイズが平坦に広がっており、100Hzに信号が見えます。
このままデジタル信号処理をすると SNRは-8.2dBのままです。時間軸で見ると信号振幅はノイズに隠れてしまいます。
このように FFT すれば、信号スペクトルは観測できるものの、 SNR が 1 より低い状態であり、単純な信号処理ではそのまま信号を検出できません。
そこでデジタル信号処理でフィルタリングを施し、帯域制限を行います。それにより、例えば図中の赤線のように、ローパス・フィルタ処理を行い、余計なノイズ成分を取り除きます。
無線通信などでは IF(中間周波数; Intermediate Frequency)帯域やベースバンド帯域をバンドパス・フィルタやローパス・フィルタで帯域制限処理して、最適な(最高の)SNRを実現するというのは常套手段です。
帯域制限には、図 3 の上側の FIR フィルタがデジタル・フィルタとしてよく用いられますが、同図下の移動平均も帯域制限を実現できるものです。移動平均はアベレージングと同じ操作です。この移動平均は sinc フィルタとしても知られています。ΣΔ ADC ではこの sinc フィルタが好んで用いられています。
FFT もある意味、フィルタといえます。各周波数における成分を検出するわけですから、フィルタリングをしているわけです。 図 2 の FFT 結果においても、SNR が 1 より小さい条件でも信号スペクトルが観測できることから、その意味合いもご理解いただけるものと思います。
いまノイズ等価帯域幅、つまり帯域制限する帯域幅を𝐵とします。単純には帯域幅𝐵はフィルタの帯域幅になります。こうすると SNR を
で上昇させることができます。ここで𝑓𝑆はサンプリング周波数です。このように帯域制限が高SNRの基本なのです。
帯域制限をしたとき AD 変換の系全体の SNR を最適化するには
帯域制限で SNR が向上するのは分かりました。しかしどのようにすれば「AD変換の系全体で最適なローノイズ特性」を実現できるでしょうか。
1Hz 密度で考えることで適切に評価ができる
このような課題を検討する場合、1Hz あたりのノイズ電圧密度、もしくは電力密度を適切に評価することが必要です。
1Hz あたりの密度を適切に評価することで、AD 変換の系の SNR や NF を適切に計算できるわけです。
それではまず、量子化ノイズ𝑉𝑁Qを周波数スペクトルで見てみましょう。量子化ノイズ𝑉𝑁Qの大きさは前回のTNJ-077 の式(4) のとおりで
図 4 に量子化ノイズ𝑉𝑁Qの周波数スペクトルを示します。この図の横軸は周波数ですが、𝑓𝑆はサンプリング周波数です。図では 𝑓𝑆/2 [Hz]までが表記されていますが、0Hz~𝑓𝑆/2 [Hz]がナイキスト帯域というものになります。ナイキスト帯域とは、ナイキストの定理を満足する、サンプリング周波数𝑓𝑆の半分の周波数までの帯域を指します。
量子化ノイズ𝑉𝑁Qは一般的に 0Hz~𝑓𝑆/2 [Hz]のナイキスト帯域の全域に一様に分布します。量子化ノイズの 1Hz あたりの電圧密度𝑉𝑁Q_𝑃SDは
なお単位は V/√Hzです。これが単位周波数あたり、つまり 1Hz あたりの量子化ノイズ電圧密度になります。
50Ωで終端されたアンプをカスケード接続したときの NF
前々回の TNJ-076、その前の TNJ-075 で示しましたが、NF は
前々回の TNJ-076 で、50Ωで整合終端された各アンプをカスケード接続した系全体の NF 計算と、OP アンプ回路を代表する、整合終端ではない各アンプをカスケード接続した系全体のNF計算をそれぞれ説明しました。どちらにも共通する非常に重要なポイントは、「1 段目(初段)のアンプの NF が支配的」ということです。
例として図 5 に、TNJ-076 の図 4、TNJ-075 の図 1 の再掲となりますが、50Ωで整合終端されたアンプをカスケード接続した系全体の NF の考え方を示します。
アンプを 3 段、カスケード接続した系全体の NF 𝐹𝑎llは
ここで𝐺1, 𝐺2, 𝐺3は初段、2 段目、3 段目の各アンプの電力増幅率、𝐹1, 𝐹2, 𝐹3は同じく各アンプのNF(Noise Factor)です。
NFは1Hz あたりの電力密度で考えることで、その考え方を見通し良いものにすることができます。各段の NFを 1Hzあたりの電力密度で表記すると
ここで𝑁𝐼𝑁は信号源抵抗のサーマル・ノイズ電力密度、𝑁𝐴MPはアンプ出力に現れるノイズ電力密度、𝐺はアンプの電力増幅率です。𝑁𝐴MP/𝐺はアンプ自体から生じるノイズ電力密度を入力換算としたものです。
これは図 6 のように表記できます(前々回の TNJ-076 の図 5、さらにその前の TNJ-075 の図 5 再掲)。信号源抵抗のサーマル・ノイズ電力密度𝑁𝐼𝑁とアンプ自体から生じるノイズ電力密度の入力換算量𝑁𝐴MP/𝐺が足し算され、アンプ全体の入力換算ノイズ電力密度を形成します。
それと信号源抵抗のサーマル・ノイズ電力密度𝑁𝐼𝑁とで、NF を比として計算することができます。このように NFはアンプでどれだけのノイズが付加されたかを示す指標であり、NF でアンプのノイズ特性を判断できます。
アナログ・フロントエンドと ADC のカスケード接続の場合はどう考える
このようにそれぞれのアンプが 50Ωで整合終端しているケースであれば、式(6)で単純に NF を計算することができます。また OP アンプ回路を代表する、整合終端ではない各アンプをカスケード接続した系全体での NF についても、前々回の TNJ-076 でだいぶがんばって解き明かしてみました。
それではアナログ・フロントエンドと ADC のカスケード接続の場合(AD 変換の系)はどのように NF を考えればよいのでしょうか。これを今回の技術ノートの本題としてみましょう。
ADC を含めた系全体での NF を計算する
アナログ・フロントエンドと ADC とのカスケード接続の場合でも、「自乗和平方根」つまり RSS の考え方をきちんと適用すれば、同様にNFを得ることができます。このノイズ・モデルの全体を図 7 にまず示します。この図では、アナログ・フロントエンドを AFE と表記しています。なおVAFE_OUTとなるアナログ・フロントエンド出力のノイズ帯域は、1st Nyquist Zoneに制限されているものと仮定します。
信号源抵抗から発生するサーマル・ノイズ電圧密度は
ここで𝑘はボルツマン定数、𝑇は絶対温度、𝑅は信号源抵抗の抵抗値です。アナログ・フロントエンドはハイ・インピーダンス入力だとして、信号源電圧また信号源抵抗からのサーマル・ノイズ電圧がそのまま(減衰せず/分圧されず)増幅されるものとします。
信号源抵抗のサーマル・ノイズ電圧密度の二乗値を𝑁𝑆RCとすれば(図 8)、この条件では
の信号源抵抗から発生するサーマル・ノイズ電力密度が得られます。自乗値にすることで、1Ωを仮の基準としたノイズ「電力」密度になります。これが電圧増幅率𝐴をもつアナログ・フロントエンドに加わると考えます。
アナログ・フロントエンド「自体」から生じるノイズの入力換算量、その 1Hz あたりのノイズ電圧密度の二乗値(電力相当)を𝑁𝐴MPとすれば、アナログ・フロントエンド「全体」のノイズの入力換算量、その 1Hz あたりのノイズ電圧密度の二乗値(電力相当)𝑁𝐴FE_𝐼𝑁は(図 9)
これがアナログ・フロントエンドの電圧増幅率𝐴の自乗で増幅され、アナログ・フロントエンド出力の 1Hz あたりのノイズ電圧密度の二乗値(電力相当)𝑁𝐴FE_𝑂UTとして(図 10)
さらにこれがADCの入力換算ノイズ電圧密度の自乗値𝑁𝐴DCと足し算され(図11)
これが AD 変換されたデジタル値に含まれる 1Hz あたりのノイズ密度の二乗値、𝑁𝑂UTになります。アナログ・フロントエンド出力のノイズが、1st Nyquist Zone帯域以上にも計算に影響を与える量として存在する場合は、その折り返し分も上記の式の第1項で考慮する必要があります。
なお𝑁𝐴DCは先に示したように ADC の全入力換算ノイズ電圧密度の自乗値(電力相当)であり、量子化ノイズ電圧密度𝑉𝑄_𝑃SDも含まれており
ここで𝑉𝑁_𝐼nput(𝑃SD)は ADC入力段で生じる、量子化ノイズ「以外」のADC入力換算ノイズの 1Hz あたりのノイズ密度です。
ADC で AD 変換されデジタル値となったノイズ密度𝑁𝑂UTは、1Ωを仮の基準としたノイズ「電力」密度に相当します。
ADC 出力のデジタル値であっても入力換算で考えればよい
𝑁𝐴DCは「ADC で AD 変換されデジタル値になったノイズ密度」です。しかしここでちょっとした不安感というか、「AD変換されデジタル値になったといっても、式(11)は ADC の入力換算値ではないの。AD変換値として考えてしまっていいの?」ということが頭をよぎるのではないでしょうか。
しかしこれは単純な話しで、ADC への入力電圧を𝑉𝐴𝐼𝑁、出力データ(デジタル数値)を𝑉𝐷OUTだとすれば、
と仮定しておけばよい話しです。そうでなくても、変換係数(伝達関数)が𝐶倍だとしても、SN の計算では分母・分子に𝐶が係りますから、結局キャンセルされ、この変換係数(伝達関数)𝐶は考える必要がありません。
AD 変換の系全体の NF を計算する
さて、Noise Factor はさきに示したように
また
なので
ノイズ電力密度と電力増幅率𝐺のみの式に変形できます。ここにここまでの𝑁𝑂UT[式(11)]を代入し、系全体の Noise Factor を 𝐹𝑎llとすると
この右辺の第 1 項はアナログ・フロントエンドの NFです。アナログ・フロントエンドの NF が𝐹𝑎llにそのまま表れることは、図 5 の初段アンプの NF への影響度と同様です。
第 2 項ですが、ADCの全入力換算ノイズ電力密度𝑁𝐴DCはアナログ・フロントエンドの電力増幅率𝐴2で割られるため、影響度は低減します。
これは図 5 の 2 段目のアンプの NF への影響度と同じです。しかし、もしここで𝑁𝐴DCがあまりに大きく、別の言いかたをすれば分解能が低く量子化ノイズが大きい条件で、電力増幅率𝐴2が十分ないと、つまりこの項が 1 より小さくないと、ADC の NF への影響度は増加します。
結論としてフロントエンド側のノイズ配分を大き くする(増幅率を大きくしすぎてもダメ)
結論として、最良の NF を実現したいなら、
が必要です。これはフロントエンド側のノイズ配分を大きくする、つまり電圧増幅率𝐴を上げるということです。
もしアナログ・フロントエンド出力のノイズが、1st Nyquist Zone帯域以上においても、計算に影響を与える量として存在する場合は、その折り返し分も考慮する必要があります。しかし一般的にはエイリアシングを避けるため、アンチエイリアシング・フィルタ(AAF)を設置しますので、式(16)で問題なく検討することができます。
ここで𝐴2𝑁𝑆RCを十分に大きくすれば、増幅率𝐴を十分大きくすればよいのでは、とも思いますが、ADC の入力フルスケールを信号がオーバしてしまうこともあるため、適当な、言い方を変えると、必要十分な程度の増幅率が必要です。実際は影響度を考えると、この比は 1:2~1:5、つまり 3dB から 7dB 程度で十分でしょう。
その結果、系全体の NF をフロントエンドの NF で決定できるようになる
そしてその結果として、系全体の NF をフロントエンドの NF のみで決めることができるように構成できます。そうすればフロントエンドの NFを低下させる設計に価値が出てくることになり、系全体のローノイズ最適化が可能となります。
フロントエンド側のノイズ配分を大きくする、増幅率を上げる理由を視覚的にみてみる
さて、ここまでで𝑁𝐴DC、つまり ADCの入力換算ノイズ密度と、𝐴2𝑁𝑆RC、つまり前段からのノイズ密度とは
という関係が必要だと説明しました。これはフロントエンド側のノイズ配分を大きくする、増幅率を上げるということです。ここではこのようにする理由を視覚的に見てみましょう。
8 ビット ADC にノイズの無い 0.64 LSBp-p の信号を加える
図 12 は 8 ビット分解能の ADC に対して、周波数が 100Hz、信号のピーク・ツー・ピークが 0.64 LSB、つまり分解能以下の振幅レベルが加わった例です。二本の赤線が 1 LSB の区間で、前に出てきた記号では𝑉𝐿SBに相当します。
これはフルスケールに対して-52dB の信号レベルになります。この 100Hz の信号はノイズが全く含まれていないものです。フロントエンド側のノイズ配分がかなり低い例ともいえるものです。
AD 変換という視点からすれば、この入力信号の変動は AD 変換 結果では検出されません。信号の振幅が 1 LSB の閾(しきい)値を越えていませんから、AD変換結果のデジタル出力値は「ゼ ロ、つまり無変動」になります。それこそ一番最初にご説明したように、実際の入力信号の変動と「ゼロ、つまり無変動のデジタル出力値」の間の差分が、量子化ノイズ𝑄です。
8 ビット ADC の理論的 SNR𝑄_𝑑Bは、前回の TNJ-077 の式 (11)に𝑁= 8を代入することにより
AD 変換結果を FFT してみる
図 13 はさきの図 12 の信号を FFT した結果です。信号レベルは 1 LSB 以下で変動していますので、FFT した結果にも 100Hz の信号は全く検出されていません。
なお、この右端はサンプリング周波数𝑓𝑆の 1/2 であり、ここまでがナイキスト周波数範囲になります。また上端をフルスケール振幅レベルとし、ここを 0dB としています。
理論的 SNR が 50dB で、信号レベルが-52dB フルスケールになりますから、100Hz の信号が検出されないのは、当然といえば当然です。しかし逆の見方をすれば、変動する信号が入力されているにも関わらず、それが変換結果には表れない、つまり「量子化誤差」を生んでいる状態だとみることもできます。
8 ビット ADC に 0.5 LSBrms のノイズが重畳した 0.64 LSBp-p の信号を加える
つづいて図 14 は、同じ 8 ビット分解能の ADC に対して、さきほどと同じ周波数、振幅レベルも同じ 0.64 LSBp-p(ピーク・ツー・ピーク)の信号が加わった例ですが、ここでは信号に対して、さらにノイズ𝑉𝑁_𝑟rmsが、実効値 0.5 LSBで重畳しています。
これはフロントエンド側のノイズ配分を増やした状態に相当します。
ノイズが加わったことで、1 LSB の閾(しきい)値を越えていることが図からも分かります。
まず、このままの SNR を考えてみましょう。信号の実効値は
と得られます。
系全体のノイズの実効値は、信号源からのノイズ𝑉𝑁_𝑟ms = 0.5 LSBと、量子化ノイズ[式(2)のとおり]
を RSS で足し算すると、
これから SNR は
ここでも AD 変換結果を FFT してみる
図 15 はさきほどの条件での AD 変換結果を FFT したものです。信号レベルは 1 LSB 以下での変動ですが、0.5 LSB のノイズ付加により、100Hz の信号が検出されています。
図 13 と同じく、上端はフルスケール振幅レベルで、ここを 0dB としています。またそこから-50dB 下がった赤破線のところが理論的 SNRになります。50dBの理論的 SNRより低い信号レベルとなる-52dB フルスケールの 100Hz の信号が検出されています。
これは FFT をした結果ですが、若干ノイズがあると理論的 SNR SNR𝑄より低い信号も「検出できそう」ということです。
デジタル・フィルタでは計算するビット幅を増やす必要がある
しかしこのままでは SNRは-8.2dBのままで、SNRが 1 より小さいため、100Hz の信号を単純に時間軸でデジタル信号処理できません。
そこで図 3 で示したようなデジタル信号処理でデジタル・フィルタを施し、帯域制限を行います。ここでは同図のようにデジタル・ローパス・フィルタを構成したとします。
とはいえ、8 ビット分解能の ADC だからと 8 ビット計算でのデジタル信号処理、つまり 8 ビット幅のデジタル・フィルタでは、このように SNR が 1 より小さい信号を検出することができません。8 ビット計算では、この理論的 SNR SNR𝑄のレベルまでしか分解能が無いからです。
そこで計算ビット幅を増やして、たとえば 8 ビットを 16 ビット にしてデジタル・フィルタ計算をすることで、このような SNR が 1 より小さい信号を検出できるようになります。
得られる SNR は
デジタル・フィルタ計算で SNR も改善します。先に示したように帯域制限する帯域幅を𝐵𝐵とすると、帯域制限により SNR は [式(1)再掲]
で上昇します。結局これは、AD変換においてデジタル・フィルタを併用して帯域制限をかけ、また入力信号に若干のノイズがあると、理論的 SNR SNR𝑄より低い信号も検出できるということです。先に示したように FFT も同様です。
そしてこれは式(16)で示した「𝑁𝐴DC < 𝐴2𝑁𝑆RCにすれば系全体の NF をフロントエンドの NF のみで決めることができる」と同じ結論です。
まとめ
ADCの SNR とか分解能が最初に与えられたとき、また帯域制限を考慮したとき、ADC とアナログ・フロントエンドとの最適なノイズ配分を考えることが、系全体のノイズ特性を最適化させるキー・ポイントです。
その方法は、ADC の入力換算ノイズより、前段、つまりフロントエンドからのノイズ・レベルを適度に大きくすることがポイントです。実際の構成方法はアナログ・フロントエンドの増幅率を大きくすることです。これにより ADC の入力換算ノイズが系全体で見えなくなります。しかしその増幅率はダイナミック・レンジを考慮し、過大に大きくしてはいけません。
その結果、フロントエンドをローノイズ化するアプローチが有効となり、系全体として最適なローノイズ特性を実現できます。