デューティ・サイクルの上限

デューティ・サイクルの上限

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Frederik Dostal

Frederik Dostal

スイッチング・レギュレータは、デューティ・サイクルを利用して電圧や電流のフィードバック制御を行います。デューティ・サイクルとは、オン時間(TON)と全サイクル時間(オン時間にオフ時間(TOFF)を加えたもの)との比のことで、これによって入力電圧と出力電圧のシンプルな関係が規定されます。計算をより正確に行うには、他の要因も考慮する場合がありますが、このことは以降の説明では重要ではありません。スイッチング・レギュレータのデューティ・サイクルは個々のスイッチング・レギュレータの回路構成によって異なります。図1に示す降圧コンバータのデューティ・サイクルDは、D = 出力電圧/入力電圧に従います。一方、昇圧コンバータの場合は、デューティ・サイクルD = 1 –(入力電圧/出力電圧)となります。

図1 ADP2441を使用した代表的な降圧スイッチング・レギュレータ

図1 ADP2441を使用した代表的な降圧スイッチング・レギュレータ

このような関係は、連続導通モード(CCM)に該当します。この場合、1周期Tの間、インダクタ電流は0まで低下することはありません。このモードは、定格負荷で動作する回路でよく見られます。負荷が低い場合や、意図的に断続動作をさせた場合は、オフ時間にコイル電流が放電されます。このモードは、不連続導通モード(DCM)と呼ばれます。この2つの動作モードには、特定の入力電圧と出力電圧に対して各々のデューティ・サイクルについて、固有の関係があります。

図2にスイッチング動作の例を時間領域で示します。ここでは、非断続的な動作モード、すなわち連続導通モードでの降圧スイッチング・レギュレータについて説明します。デューティ・サイクルは、スイッチング周波数とは無関係です。周期Tは、通常20µs(50kHz)~330ns(3MHz)の範囲にあります。入力電圧値と出力電圧値を等しくする場合は、デューティ・サイクルを1にする必要があります。つまり、すべてオン時間で、オフ時間はありません。ただし、これはすべてのスイッチング・レギュレータに適用できるわけではありません。図1の場合、これを実現するには、ハイサイドMOSFETが常にオンになっている必要があります。このスイッチにNチャンネルMOSFETを使用する場合、これを動作させるにはゲート電圧を回路の入力電圧より高くする必要があります。デューティ・サイクルが1より小さい場合のように、各オン時間の後に一定のオフ時間がある場合は、チャージ・ポンプの原理によって電源電圧より高い電圧をかなり容易に生成できます。しかし、デューティ・サイクルが100%の場合は、これが不可能です。そのため、100%のデューティ・サイクルが可能なスイッチング・レギュレータの場合は、スイッチング・レギュレータのMOSFETとは独立して動作する精巧なチャージ・ポンプを実装するか、図1に示すハイサイド・スイッチにPチャンネルMOSFETを使用する必要があります。どちらの方法も労力とコストを伴います。

図2 コイル電流がCCMで降圧スイッチング・レギュレータを流れる際ののスイッチング動作を時間領域で表示

図2 コイル電流がCCMで降圧スイッチング・レギュレータを流れる際ののスイッチング動作を時間領域で表示

図3に、スイッチング・レギュレータADP2370を示します。この図のように、ハイサイド・スイッチにPチャンネルMOSFETを使用することで、100%のデューティ・サイクルを実現できます。このタイプの降圧コンバータでは、入力電圧を出力電圧の非常に近くまで低下させることができます。Pチャンネル・スイッチをスイッチング・レギュレータに内蔵することで、コストの増加が避けられます。

図3 100%デューティ・サイクルが可能なスイッチング・レギュレータの例

図3 100%デューティ・サイクルが可能なスイッチング・レギュレータの例

入力電圧を出力電圧設定値に非常に近いレベルまで下げられることを求められるアプリケーションでは、デューティ・サイクルを1、すなわち100%にできるスイッチング・レギュレータを選択する必要があります。 

このデューティ・サイクル上の制限は、スイッチング・レギュレータを構成するハイサイド・スイッチによって決まりますが、デューティ・サイクルは他の要因によっても制限を受けます。それらについては、今後パワー・マネージメントのヒントの記事の中で扱います。