D級アンプでポータブルアプリケーションのEMIを低減し、高い効率を維持

D級アンプでポータブルアプリケーションのEMIを低減し、高い効率を維持

著者の連絡先情報

Generic_Author_image

Trang Nguyen

要約

D級アンプは、一般的に効率が極めて高いため、長いバッテリ寿命と少ない放熱を必要とするポータブルアプリケーションにとって理想的なアンプと言えます。しかし、D級スイッチング回路に伴う一般的な問題として電磁干渉(EMI)があります。アクティブ放射制限は、電磁放射を低減すると共に「フィルタレス動作」を可能にするため、設計者は、小型で、効率が高く、EMIが少ないポータブルアプリケーションを作ることができます。

この記事と同様の記事が、2012年3月28日に「Hearst Electronic Products」に掲載されました。
スマートフォン、タブレット、ポータブルスピーカなどのバッテリ駆動の民生用エレクトロニクスの急速な普及により、効率的なオーディオアンプの需要は着実に高まっています。高効率のオーディオアンプは、電磁干渉(EMI)レベルを抑えながらバッテリ寿命の延長と消費電力の低減を図る上で必要です。
今日、D級アンプはこうしたアプリケーションに広く採用されていますが、これは、標準的なAB級アンプのピーク効率が50%であるのに対し、D級アンプのピーク効率がおよそ90%であることによります。この効率の増加は、設計者が消費電力の低減、バッテリの長寿命化、より小さな部品の使用、発熱の低減を実現するのに役立つため重要です。

D級アンプとEMI

確かに、高い効率にも設計上の問題があります。D級オーディオアンプのスイッチングトポロジは、設計者が軽減しなければならないEMIを発生します。EMIは放射ノイズと伝導ノイズを発生させ、このノイズは、信号レベルとともに増大し、さらにはデバイス内の他のサブシステムに干渉します。エンジニアは、米国内で生産、販売されている消費者製品に関する米国連邦通信委員会(FCC)のEMI標準に対応しなければなりません。同様のEMI仕様は世界中に存在します。
デバイスの外形サイズが小型化され続けているため、EMIの管理はさらに難しくなっています。したがって、ポータブルアプリケーションに携わっているエンジニアには、外形サイズの設計をより一層小型化しなければならないというプレッシャーがあります。スペースが限られているため、設計者は、EMIの抑制に役立つ出力フィルタ、筺体、さらにはシステムレベルのシールディングを排除せざるを得ない場合があります。しかし、これらのコンポーネントを排除して貴重なスペースを節約することで、D級アンプが引き起こすEMIはより一層対応が困難になります。
D級オーディオアンプにおいてEMIがどのように発生するかを把握するためには、D級アンプのアーキテクチャを理解する必要があります。D級アンプは、オーディオ入力信号で高周波三角波形を変調します(図1)。非変調オーディオ信号に対応する方形波が出力されます。スピーカには当然ながらローパスフィルタが内蔵されており、高周波搬送波を除去し、元のオーディオ波形を回復します。このアプローチは、D級アンプが連続的にオン、オフするため有効です。その結果、D級アンプを使用しているデバイスの電力損失は、一部の出力が常に作動しているAB級アンプを使用しているデバイスと比べて遥かに少なくなっています。詳細については、アプリケーションノート3977 「D級アンプ:基本動作と開発動向」をご覧ください。
図1. 基本的なハーフブリッジD級アンプの簡略ブロック図。1つのパルス幅変調器、2つの出力MOSFET、1つのローパスフィルタ(LFおよびCF)で構成され、出力方形波から増幅されたオーディオ信号を再生します。
図1. 基本的なハーフブリッジD級アンプの簡略ブロック図。1つのパルス幅変調器、2つの出力MOSFET、1つのローパスフィルタ(LFおよびCF)で構成され、出力方形波から増幅されたオーディオ信号を再生します。
しかし、方形波のエッジは、プリント基板(PCB)パターンにより簡単に放射される高調波を発生します。これらの急激な出力変化は、オーバーシュートも生じる可能性があり、オーバーシュートは、EMI性能にとって好ましくない新たな高調波を発生させます。幸運なことに、アクティブ放射制限(AEL)などのエッジレート制御技術は、これらのEMIに関する問題に対応し、大型出力フィルタが不要なため、多くのD級アンプに組み込まれています。

先進技術によりEMIを制御し貴重なスペースを節約

AELは、多くのMaxim® D級アンプに組み込まれている独自のエッジレート制御技術です。AEL回路は、オーディオ性能を低下させることなく狭帯域化部品を低減します。AEL回路の詳細な説明は、アプリケーションノート3973 「マキシムのアクティブ放射制限回路の説明」をご覧ください。
高速出力遷移は、出力デバイスの立ち上げ時間および立ち下げ時間に起因する損失を最小限に抑えることで効率を向上させます。しかし、これらの高速遷移は、放射性能に悪影響を及ぼす高周波成分も生じます。AELの使用により、レール・ツー・レール出力振幅は、依然として高い効率を維持しつつ出力の不要な高速スイッチング周波数を低減すべくインテリジェント制御されます。AELを備えていないD級アンプ(図4および図5)と比較した、AELを備えたMAX98314 D級アンプの効率およびEMI性能を図2ならびに図3に示します。AEL技術は、最大93%の効率を維持しながらEMI放射を大幅に低減します。
図2. AELを備えたMAX98314 D級アンプの標準的なオーディオ効率
図2. AELを備えたMAX98314 D級アンプの標準的なオーディオ効率
図3. AELを備えたMAX98314 D級アンプのEMIスペクトル。AELは、EMIを低減し、従来のD級デバイスで採用されていた出力フィルタを不要にします。60cmのスピーカケーブルでのEMI性能、出力フィルタなし。
図3. AELを備えたMAX98314 D級アンプのEMIスペクトル。AELは、EMIを低減し、従来のD級デバイスで採用されていた出力フィルタを不要にします。60cmのスピーカケーブルでのEMI性能、出力フィルタなし。
図4. AELを備えていないD級オーディオアンプの効率
図4. AELを備えていないD級オーディオアンプの効率
図5. AELを備えていないD級オーディオアンプのEMIスペクトル
図5. AELを備えていないD級オーディオアンプのEMIスペクトル

結論

AELを使用することにより、設計者は、D級アンプ自体のスイッチング回路に起因するEMIの心配をすることなくアンプの高効率を活かすことができます。AEL技術は、EMIを低減し、同時にフィルタ、さらには他のEMI対策部品を不要にします。D級オーディオアンプとAELを使用することにより、設計者は、EMIの低減、アプリケーションの小型化、コストおよび部品数の削減、今日のポータブルアプリケーションで使用されているバッテリの長寿命化を実現することができます。