新しい高性能プロセッサ、FPGA、ASICは、世代を追うごとに電力消費が大きくなってきていますが、そのような重い負荷を支える電源回路に用意されるスペースは逆に狭くなっていく傾向にあります。1V以下で数十アンペアを超えるような電源を複数チャネル、それも負荷の近くに置かなければならない状況が当たり前のようになってきているのが現状です。
狭いスペースで大きな負荷電流を供給する必要がある電源回路を比較する際には、ワット/cm2で示される電力密度が使われます。実際のところ、最近のモジュール電源やディスクリート回路は、驚くほど高い電力密度を持っているかのように宣伝されます。電源メーカーは小さなパッケージに大きな電力を詰め込むことに成功したかのように思われるほどです。残念ながらこれらでうたわれている驚くほど高い電力密度が実際に実現されるためには、隠れている大きな問題を解決する必要があります。それは熱の問題です。(4ページの補足記事を参照)。
放熱の問題は、高い電流と低い電圧の電源を実現するうえで大きな問題です。多くのシステムでは電力密度を上げることで問題が更に複雑化します。なぜなら、狭いスペースに多くの電力を詰め込むということは狭いスペースに多くの熱を詰め込むということと同じだからです。必要な電力を基板に詰め込むだけでは不十分で、電力損失と熱抵抗についても他の項目と同様に十分な検討が必要になります。高い電力密度を持っているという宣伝は魅力的に見えますが、電源が発生する熱の取り扱いがしっかりとされなければこれらの宣伝は空しい約束になってしまいます。
LTM4620 は、熱抵抗を最小限に抑え、それによって熱管理を簡単にするために独自に設計されたデュアル出力のレギュレータをすべて15mm× 15mm× 4.41mmのLGAパッケージに集積することにより、電力密度の真の問題を解決します。パッケージには、上面および底面を効果的に放熱できる内部ヒートシンクなどの最先端機能が組み込まれており、高温環境でも最大負荷電流でデバイスを動作することが可能です。
LTM4620 の15mm × 15mm × 4.41mmLGAパッケージを図1に示します。1つのデバイスで供給できる電流は、2つの独立した出力で13A(図4)、または1つの出力で26A(図5)です。複数のLTM4620 を組み合わせると、50Aから100Aを超える電流(図7)を発生させることができます。
電力密度の実際のコスト
発熱にご注意を!
不要な熱は、高性能電子機器システムの設計者が直面する大きな課題です。最近のプロセッサ、FPGA、およびカスタムASICは、処理能力の向上につれて増え続ける消費電力に伴って大量の熱を発生します。こうした電力消費をまかなうため、電源の出力を大きくする必要がありますが、その結果、電源での電力損失も増加し、既に高温になっているシステムをさらに加熱することになります。すみやかに外に熱を逃がさない限り、システム全体の温度は、大半の部品の使用可能な温度範囲を超えて上昇する可能性があります。
システムと熱の担当技術者は、複雑な電子システムのモデル化と評価を行ってシステムから不要な熱を取り除くために相当な時間とエネルギーを費やします。ファン、冷却プレート、ヒートシンク、さらには冷却槽での浸漬などの対策が、発熱を克服するために必要になってきます。これらの対策により、冷却に使われる部品のサイズ、重量が増え、さらに保守に要するコストが増えてきます。このコストは製造上の予算の大きな割合を占めてきています。
システムの機能と性能が上がるにしたがって、発生する熱は増える一方です。ほとんどのプロセッサおよび電源は可能な限り効率的に動作するように設計されており、冷却システムが原価に占める割合が増え続けています。このため、部品レベルでの電力損失を改善することによって簡素化と費用節減の方策を見つける必要があります。問題は、小さくまとめすぎた電源ソリューションの中には、電力損失が大きすぎるか、熱抵抗が高すぎるものが含まれていることです。このような電源は、発生する熱を効果的に取り除けない限り、出力電流の大幅なディレーティングが必要となることになります。
見た目ほど高くない実際の電力密度
高電力密度のDC/DCレギュレータという用語は誤解されやすい用語です。レギュレータそれ自体の動作を温度に関して規定していないからです。システム設計者は、W/cm2(単位面積当たりの電力)で表される電力密度を最も重要視するので、それに対応する形で電源メーカはデータシートにみごとな数値を掲げています。それにも関わらず、電力密度よりも重要な変換効率と熱抵抗の数値は、どのデバイスのデータシートにも後ろの方に隠れています。
たとえば、負荷に54Wを供給する2cm× 1cmのDC/DCレギュレータを考えます。これにより、電力密度の定格は27W/cm2という立派な数値となります。この数値は、これだけを見ると設計者の要件を満たしているかもしれません。しかし、忘れられがちなのは、基板温度の上昇をもたらす電力損失です。データシートには、重要な情報がDC/DCレギュレータの熱抵抗として記載されています。これには、パッケージの接合部-ケース間、接合部- 外気間、および接合部-PCB間の熱抵抗の値があります。
この例を続けると、このレギュレータには興味を引く別の特質があります。レギュレータは90%という高い効率で動作します。このような高効率であっても、出力に54Wを供給すると同時に、接合部- 外気間熱抵抗が20°C /Wのパッケージ内で6Wを損失します。6Wに20°C /Wを掛けると、結果は周囲温度に対する温度上昇が120°Cとなります。周囲温度が45°Cのとき、このDC/DCレギュレータのパッケージの接合部温度は165°Cまで上昇します。この値は、ほとんどのシリコンICに対して規定されている標準的な最大温度(およそ120°C)よりはるかに高い値です。この電源をその最大定格で使用するには、接合部温度を120°Cより低い値に保つために大掛かりな冷却が必要です。
DC/DCレギュレータがシステムに関するすべての電気的要件および電源要件を満たしていたとしても、熱に関する基本的な基準を満たすことができない場合や、放熱に必要な対策を考慮すると費用がかかりすぎることが判明した場合には、素晴らしい電気的仕様はすべて机上の空論となります。DC/DCレギュレータの熱的性能を評価することは、レギュレータを電圧、電流、サイズの値で判断する場合と同じくらい重要であると言っても過言ではありません。
独自のパッケージ設計による高電力密度を実現
LTM4620 は、現実的に放熱可能な高い電力密度を持つデュアル出力またはシングル出力電源を実現できるように設計されています。他の高電力密度を謳うソリューションとは異なり、このデバイスは真に自己完結型のソリューションであり、最大負荷電流で動作させるために巨大なヒートシンクや液体冷却は必要ありません。
モールド(成型)されていない状態でのLTM4620の側面図および上面写真を図2に示します。パッケージは、高い電流を流すのに適した低い抵抗の銅層を持ち、システム基板に対する熱抵抗が低く熱伝導率の高いBT基板で構成されています。内蔵のパワーMOSFETは独自のリード・フレーム内に積み重ねられており、デバイスの上面および底面の両方に対して、低い接続抵抗および高い熱伝導率が得られるようになっています。独自の内部ヒートシンクが、パワーMOSFETスタックとパワー・インダクタの両方に接する形で取り付けられており、パッケージ上面からの放熱を効率よく行えるようになっています。
パッケージ上面全体への強制空気流という単純な熱管理方式でも、ヒートシンクとモールド封止の構造によってデバイスを冷却状態で動作させることができます。より堅牢な解決策にするには、上面の金属部分にヒートシンクを外付けすれば、さらに優れた熱管理を行うことができます。
12V 入力から1V/26A 出力を得る回路でのLTM4620の熱画像とディレーティング曲線を図3 に示します。ヒートシンクなしで空気流が200LFMのとき、周囲雰囲気からの温度上昇はわずか35°Cです。ディレーティング曲線は周囲温度80°Cまで最大負荷を出力から供給可能であることを示しており、全面動作時のデバイスの熱画像が示す65°Cを十分に超えています。
この結果は、熱特性が改善された高密度パワー・レギュレータ・ソリューションの真価を明らかにしています。独自のパッケージ設計により、このデバイスは限られたスペースで大電力を発生できるだけでなく、熱の問題に苦しんだりディレーティングを必要とすることなく大電力を発生できます。他のいわゆる高電力密度ソリューションでは、多くのコストをかけて放熱用の部品を追加したりしない限り実現できないことが多いのが実情でしょう。
デュアル13Aレギュレータ
デュアル出力設計のLTM4620µModuleレギュレータの簡略ブロック図を図4に示します。内部にある2つの高性能同期整流式降圧レギュレータにより、それぞれが13Aの負荷電流能力を持つ1.2Vと1.5Vのレールが生成されます。入力電圧範囲は4.5V ~ 16Vです。
LTM4620の出力電圧範囲は0.6V ~ 2.5Vであり、LTM4620Aの場合は0.6V ~ 5.5Vです。全出力精度は±1.5%で、工場で全数検査済みの正確な電流分担、高速トランジェント応答、クロック自己生成機能とプログラム可能な位相シフト機能を備えたマルチフェーズ並列動作、周波数同期、および高精度リモート・センス・アンプが特長です。保護機能には、帰還電圧を参照する出力過電圧保護、フォールドバック過電流保護、および内部温度検出ダイオードのモニタがあります。
放熱設計が容易な1.5V/26A出力の電源を15mm2に収容
LTM4620 の2つの出力チャネルを並列にしてデュアルフェーズで動作する1.5V/26A出力のソリューションを図5 に示します。RUN、TRACK、COMP、VFB、PGOODおよびVOUTの各ピンは、並列動作を実現するために互いに接続されています。この回路例は、LTM4620の内部温度検出ダイオードをモニタするLTCR2997温度センサも備えています。
デュアルフェーズの場合の1.5V出力の効率と、2 つのチャネルの電流分担を図6 に示します。86%という効率は、このような高密度、高降圧比のソリューションにとっては非常に良好な値であり、熱特性の結果は、図3に示した1Vソリューション以上です。基板搭載後の熱抵抗θJAが低いので、温度上昇は十分に制御されます。上面および底面を効果的に放熱することにより、LTM4620はフルパワーで動作しても温度上昇が少なくて済みます。
図6はVOUT1とVOUT2 の電流分担のバランスが良好であることを示したものです。LTM4620の内部コントローラは、出力電流を正確に分担するためにトリミングされ、テストされています。
LTM4620の電流モード・アーキテクチャにより、高い効率と高速トランジェント応答が得られます。これらは、高性能プロセッサ、FPGA、およびカスタムASICの低電圧コア電源を実現する上で最も重要な性能です。もともとの出力電圧精度が良く、さらにリモート・センス機能を持っているので、負荷側での電圧の安定化が正確に行えます。
LTM4620のパッケージの低い熱抵抗と、高精度の電流分担機能により、100A以上の出力電流を得ることが容易に可能です(図7参照)。マルチフェーズ動作を設定するのに外部クロックは必要ありません。CLKINピンとCLKOUTピンにより、並列化された他のチャネルに対してプログラム可能な位相シフトを持つ内部クロックを生成することができます。LTM4620は、外部クロックへの同期と内部クロックの両方をサポートしています。
真の電力密度:空冷状態、面積50mm2以内で100A
4つのµModuleレギュレータを並列に接続して8相、100Aを出力する回路例を図7に示します。4つすべてのレギュレータのバランスの取れた電流分担特性を図8に示します。図7に示すように、全体で100A出力のソリューションが占める基板面積は、約1.95平方インチに過ぎません。この大電流であっても、4つすべてのモジュールの上面全体にシンプルなヒートシンクを取り付けて空気流を流すことにより、電力損失を十分に取り除いてディレーティングを不要にすることができます。上面からの放熱は、システム基板を冷却して他の部品の加熱効果を最小限に抑えるのに役立ちます。
まとめ
LTM4620 µModuleレギュレータは、本当の意味での高密度電源ソリューションです。このデバイスは、高い電力密度を謳う他のソリューションの持ちがちな欠陥である熱の問題を解決しているので、電力密度の高いレギュレータの分野で、差別化を実現しています。優れた放熱性を持つパッケージに2つの高性能レギュレータを搭載しており、狭いスペースに収まる大電力設計が可能で、外部からの冷却は最小限で済みます。組み込みのマルチフェーズ・クロック同期機能と工場で検査済みの正確な電流分担により、出力電流を25A、50A、および100A以上に簡単に拡張できます。LTM4620の低い熱抵抗により、高い周囲温度の中でもフルパワーでの動作が可能です。