パワー・システム・マネージャの統合で、48V対応のデータ・センター用クォータ・ブリック電源の強化を図る
質問
48Vの電源電圧を使用するデータ・センターには、PSMが不可欠なのでしょうか?
回答
はい。その種の電源システムにはPSMが不可欠です。PSMを導入しなければ、データ・センターのインフラにおいていくつもの不都合が生じます。例えば、障害の確実な検出、給電に関する調整、ロジック動作の管理、冗長性の維持、重要な負荷の保護を実現できません。また、システムの規模が大きくなるにつれ、その振る舞いの予測は困難になります。加えて、システムの安全性が低下します。結果として、適切に管理された状態でシステムを運用することが難しくなります。

はじめに
テレコム/データコムの分野では、48Vの中間バス電圧が広く使用されています。その場合、電源システムの中核的な要素としてQB電源(標準的なクォータ・ブリック・サイズのDC/DCコンバータ)が使用されます。QB電源は、効率が高く、ホット・スワップに対応したものでなければなりません。また、産業分野の新たな規格では、PMBusに対応するインターフェースと堅牢性の高い保護回路を統合することも義務づけられています。それを反映して、ラック型のサーバ機器やネットワーク機器では、デジタル管理機能を備える電源ソリューションの採用が進んでいます。
アナログ・デバイセズの「LTC2971」は、上述した要件を満たすための最適なPSMです。同ICはデュアルチャンネルの製品であり、-60V~60Vのレギュレートされた2つの出力電圧を生成できます。また、それらの出力電圧のシーケンス制御やトリミングを実現可能です。加えて、重要なイベントに関するログを内蔵EEPROMに記録する機能も備えています。更に、PMBusインターフェースを内蔵しているので、システムの監視に用いる標準的なアーキテクチャとシームレスに統合することができます。データ・センターでは、電源用の複雑なプラットフォームが使用されます。そうしたプラットフォームにはPSMが不可欠です。PSM(デジタルPSM)は、シーケンス制御、マージンのテスト、障害の検出、テレメトリなどを実現するための機能を提供します。また、PSMが内蔵するEEPROMと独立したウォッチドッグ・タイマーを利用すれば、ホストの介入を最小限に抑えた自律的な動作を実現可能です。それにより、システム全体の信頼性が向上します。
通常、QB電源は電圧のトリミングに用いるVADJ(アナログ調整入力)ピンを備えています。PSMは、RUN/ENABLEピン、VOUT_SNS/FBピン、温度検出用のピンに直接接続されます。また、ISENSEピン(入力)は、インダクタのDCR(直流抵抗)または外付けのシャント抵抗を使用して出力電流を正確に測定するために使用されます。加えて、精度の高いVDACの出力により、抵抗分圧器を介して出力電圧の微調整を実施することが可能です。PSMを電源のボードに統合することにより、高精度のデジタル・テレメトリ機能を実現できます。具体的には、PMBusを介して全電源レールの電圧/電流、ボードの温度のデータを一元的に取得することが可能です。データ・センターでは、電源の性能について厳しい仕様が規定されています。従来のアナログ・ベースの監視用ソリューションによって、その仕様を満たすのは容易ではありません。PSMを採用すれば、旧来のソリューションよりもはるかに高い精度と柔軟性が得られます。
QB電源のリファレンス設計
本稿では、2kWという卓越した給電能力を備えるQB電源のリファレンス設計を例にとります(図1)1。このリファレンス設計は、信頼性の高い4相アーキテクチャを採用しています。そのアーキテクチャでは、アナログ・デバイセズの最新のDC/DC中間バス・コンバータ(IBC:Intermediate Bus Converter)と、結合インダクタ(CL:Coupled Inductor)を使用しています。また、テレメトリ機能を備えており、I2C/PMBusを介して継続的な電圧の監視、障害の迅速な検出、リアルタイムの構成を実現できます。このソリューションは、QBという標準化されたサイズ(フットプリント)で設計されています。そのため、多様なお客様のプラットフォームにシームレスに統合することが可能です。容易に導入できるだけでなく、システムの柔軟性と効率の向上にも寄与します。
QB電源に関する主要な知見、統合の必要性
QB電源にPSM(LTC2971)を統合すれば、複数の重要なメリットが得られます。以下、これについて解説します。
高精度のテレメトリ機能
LTC2971は分解能の高いADCを内蔵しています。そのため、電圧と温度を高い精度で監視できます。QB電源のボード上では、約±0.5~1.0%の精度で出力電圧と温度を測定できることが実証されています。つまり、LTC2971からは、電圧/電流/温度について信頼性の高い測定結果が通知されることになります。それらを利用すれば、電力バジェットを正確に管理できます。また、様々な条件下におけるソリューションの振る舞いについて深く理解することが可能になります。そうすれば、性能を安全に限界まで引き出すことができます。加えて、このソリューションでは、パラメータの制限値をEEPROMにプログラムし、テレメトリによって取得したデータに基づいて警告に使用する閾値を微調整することが可能です。そうすれば、不要な障害を発生させることなく、QB電源が一貫して最高の性能を発揮可能な状態を維持できます(図2)。
デジタルによるシーケンス制御
データ・センターにおける重要な要件の1つは、電源のシーケンスを正確に制御することです。QB電源により、制御された適切なタイミングでプロセッサに安全に給電し、その起動を完了させる必要があります。PSMを使用すれば、複数の電源レールの起動、シャットダウン、電圧のマージニングを完全に自動化できます。また、時間ベースのシーケンス制御とトラッキングによるシーケンス制御の両方に対応可能です。加えて、スケーラブルな設計を実現するために、複数のQB電源をカスケード接続することもできます。PSMのDRV_EN/RUNとVOUT_ENに関するパラメータには、パワーオンに伴う遅延、立ち上がり時間、シーケンス制御のポリシーなどが含まれます。それらの値は、PMBusのコマンドを介してプログラムすることが可能です。それにより、相互接続された電源レールが常に協調的にパワー・アップ/パワー・ダウンすることを保証できます。このようなシーケンス制御により、電源の各サイクルにおける電圧のオーバーシュート/アンダーシュートを最小限に抑えられます。結果として、データ・センターのラックの信頼性が向上します。
故障の管理
LTC2971には1つ重要な長所があります。それは、障害を管理するための堅牢性の高い機能とイベントのログを記録する機能が統合されているというものです。このことから、電圧/温度が設定した許容範囲を超えた場合に、シャットダウン用のラッチや自動リトライをトリガするように設定できます。あるいは、制御された方法で電源を滑らかに停止するように設定することも可能です。LTC2971にはもう1つ重要な長所があります。それは、ステータスとテレメトリの情報がRAMに継続的にバッファされるというものです。同ICは、障害を検出すると、それらのデータを自動的にコミットし、不揮発性のEEPROMに保存します。このブラックボックス機能により、障害が発生した際の電圧、電流、温度の完全なスナップショットが保存されます。そのため、障害の根本的な原因を的確に分析することができます。LTC2971のデータシートに概念図が示されていますが、循環バッファのデータは障害が発生すると自動的にEEPROMへ転送されます。PMBusの障害用の基本的なレジスタや外付けのウォッチドッグ・タイマーとは異なり、PSMはエラーのフラグを立てるだけでなく、動作の状態を完全に記録します。このような高度な機能により、QB電源の信頼性が強化されます。また、ライフサイクルの詳細な評価が可能になります。更に、継続的な監視とログの記録によって稼働寿命も延伸されます(図3)。
PMBusの統合
データ・センターの仕様では、PMBusのプロトコルに対応する堅牢性の高い通信インターフェースを用意しなければならないと定められています。LTC2971はPMBusに対応するデバイスであり、産業分野の規格に準拠しています。そのため、システムの管理に用いられる既存のプラットフォームにシームレスに統合できます。LTC2971が備えるステータスの監視機能と制御機能には、PMBusの標準的なコマンドによってアクセスすることが可能です。また、デジタル・パワー・マネージメントIC用の開発環境「LTpowerPlay®」を使用すれば、同ICの設定や制御などを効率的に実施できます。例えば、電源レールの値/制限値/シーケンスなどに関するレジスタの値をオフラインで定義し、EEPROMに直接プログラムするといったことが可能です。このことから、開発時間が大幅に短縮されます。LTC2971のFAULTBピン(入出力ピン)を使用すれば、必要に応じて、障害の生じたラインを複数のデバイスで共有したり分離したりすることができます。そのため、障害を柔軟に管理することが可能です。ここまでに説明したように、LTC2971はサーボ・トリミングやシーケンシングなどのための多様なデジタル制御機能を備えています。そのため、純粋なアナログ・ソリューションを使用する場合と比べて、高度なパワー・マネージメント機能をはるかに効率良く実装できます。
実装の結果
QB電源のボードの性能2を評価した結果、LTC2971によって、IBCの動作、入力電圧、各種の性能指標を高い信頼性で監視できることが実証されました。PMBusを利用したテレメトリ機能は安定しており、それによる測定結果は、キャリブレーション済みのデジタル・マルチメータによる測定結果と一致していました。また、フォルト・インジェクションのテストを実施した結果、LTC2971は障害の生じたチャンネルを正しくラッチ・オフし、そのイベントの情報をMFR_FAULT_LOGレジスタに正確に記録することが確認されました。加えて、システム・レベルの検証により、LTC2971を統合したことが原因で、ノイズが増大したり、システムが不安定になったりすることはないことも実証されています。更に、制御されたソフト・スタートのアルゴリズムにより、ゲート・ドライバのシュートスルーが効果的に防止され、クリーンな出力波形が得られることも確認されました。I2Cに対応するインターフェースは、100kHz~400kHzの範囲でプログラムすることが可能であり、通信に関する様々な要件に対応できます。電圧と温度の測定結果は手作業による測定結果とよく一致しており、それぞれ±0.1%と±0.5%の範囲内に収まっています(図4)。
以上の結果から、次のようなことがわかります。すなわち、QB電源にPSM(LTC2971)を追加すれば、同電源の機能/性能を大幅に強化できます。LTC2971を追加することにより、精度の高い監視、きめ細かな制御、診断用の詳細なデータの収集が可能になります。同ICはPMBusに対応しているので、相互運用性に関する問題を最小限に抑えつつ、最新のテレコム・システムに導入することができます(図5)。
まとめ
本稿では、代表的なPSMの例としてLTC2971を取り上げました。同ICをQB電源のリファレンス設計に統合することで、DC電源システムに対して次のような大きなメリットがもたらされることが確認できました。まず、LTC2971は分解能が16ビットのテレメトリ用の入力機能を備えているので、精度の高い監視を実現できます。それにより、DC精度に関する厳しい要件を満たせます。また、同ICが内蔵するシーケンス制御機能やクローズドループのトリム機能により、複数の電源レールのパワー・アップ/パワー・ダウンを高い精度で制御できます。PMBusに対応するインターフェースも備えているので、ラックを管理するための最新のインフラとのシームレスな統合を図れます。加えて、障害に関するログを自律的に記録する機能を利用すれば、アナログ回路だけでは実現が難しい高度な診断機能を実装可能です。これらの機能を活用するには、慎重な設定、キャリブレーションの実施、バスの動作の信頼性の向上といった設計上の新たな配慮が必要になります。ただ、その結果として信頼性、可視性、制御性が向上するので、課題の解消に費やす労力に見合う価値が得られます。通信やデータ・センターのアプリケーションでは、ネットワーク管理型の自動化された電源サブシステムに対する需要が高まっています。そうしたなか、PSMのようなデバイスは標準的なビルディング・ブロックとして位置づけられつつあります。次世代の電源シェルフにPSMを適用すれば、堅牢性の高いデジタル制御機能や高精度のテレメトリ機能を利用することが可能になります。
但し、9個を超える電源モジュールを並列に接続しなければならない場合には、PMBusのアドレス指定の制限によってLTC2971の長所を活かせない可能性があります。そのような場合には、高度なアドレス指定機能を備える他のPSMを利用するとよいでしょう。アナログ・デバイセズは、そのようなPSM製品も提供しています。
参考資料
1Karl Audison Cabas、Christian Cruz「未来のイノベーションを支える中間バス・コンバータ 【Part 1】長所」Analog Devices、2025年7月
2Karl Audison Cabas、Christian Cruz「未来のイノベーションを支える中間バス・コンバータ 【Part 2】性能」Analog Devices、2025年7月.



