未来のイノベーションを支える中間バス・コンバータ【Part 2】性能
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要約
データ・センターの分野では、48Vのアーキテクチャが登場したことで、クォータ・ブリック電源が非常に重要なコンポーネントとして位置づけられるようになりました。同電源は、フォーム・ファクタをクォータ・ブリック(QB:Quarter Brick)のサイズに抑えつつ、高い効率と優れた負荷過渡応答が得られるように設計する必要があります。つまり、小さなフォーム・ファクタで、業界をリードする2kWの出力電力や高い効率、優れた負荷過渡応答を達成しなければならないということです。アナログ・デバイセズは、このQB電源のリファレンス設計を開発しました。そのリファレンス設計は、入力電圧が48Vの場合に98.59%のピーク効率、同54Vの場合に97.68%の全負荷効率を達成します。
はじめに
データ・センターで使用される次世代のマシンでは、前世代のマシンと比べて電力に関する要件がより厳しくなります。その背景としては、より強力なプロセッサ・コアが開発されたことが挙げられます。また、AI対応のICが広く使用されるようになったことも要因の1つです。加えて、次世代のマシンでは、前世代からの移行に伴う初期費用を最小限に抑えるために、従来のフォーム・ファクタを維持する必要があります。つまり、次世代のICに必要な電力を供給するために、前世代とサイズが等しくより性能の高い電源を使用できるようにしなければなりません。このような理由から、次世代のシステムを設計する際には、標準化されたQB電源を採用すべきだと言えるでしょう。QB電源は、すぐに使用可能な機能を提供します。それだけでなく、異なるメーカーの製品との間で互換性が得られます。その結果、システム設計の複雑さが軽減されます。
しかし、ひと言でQB電源と言っても、採用しているトポロジや得られる性能は製品ごとに異なります。そのため、QB電源製品を選択する際には要件に応じて慎重に検討を実施する必要があります。QB電源を使用する場合、様々なパラメータについて考慮した上で設計を進めなければなりません。重要なパラメータとしては、入力電圧、出力電圧、ピーク効率、全負荷効率、負荷過渡応答、熱性能、スケーラビリティなどが挙げられます。
本稿では、QB電源(ディスクリート電源)の性能に注目します。特にQB電源において、非常に高い効率で、出力電力に関するより厳しい要件を満たすにはどうすればよいのかを明らかにします。
性能の評価結果
本稿では、アナログ・デバイセズが開発したQB電源を例にとります。以下では、その評価結果を示していくことにします。具体的には、起動時と定常状態における各種性能の評価結果や、機能/性能を表す信号波形、動作時の熱画像などを示します。評価の対象としたのは、QB電源のリファレンス設計(システム・ボード)です。そのシステム・ボードにはホット・スワップ回路も実装されています。動作条件は以下のように設定しました。
- 入力電圧:40V~60V
- 出力電圧:12V
- 出力負荷:0A~166.67A
- スイッチング周波数:150kHz
以下、リファレンス設計の性能を表す評価結果を示していきます。
効率と電力損失
QB電源は、複数の相(4相など)に対応するDC/DCコンバータを使用することでも構成できます。そうすれば、1相当たりの電流量が少なくなると共に、伝導損失が減少します。本稿の例では、入力電圧が48V、同54Vの2つの条件でQB電源の効率を評価しました。図1に示したのがその結果です。ご覧のように、入力電圧が低い場合(48Vの場合)、必要な出力電力が少なければピーク効率は高くなります。出力する電力の量を増やしていくと、入力電流が増えることから効率は徐々に低下していきます。一方、入力電圧が54Vの場合、ピーク効率は低くなりますが、全負荷効率は高くなります。
本稿で例にとるリファレンス設計のプリント基板の面積はQBの仕様を満たしています。この小型の電源は、入力電圧が48Vで出力電力が800Wの場合に、約98.59%のピーク効率、97.33%の全負荷効率を達成します。入力電圧が54Vで出力電力が1000Wの場合には、98.45%のピーク効率、97.68%の全負荷効率が得られます。
このQB電源は、同期整流方式を採用しています。そのため、ダイオードにおける伝導損失が生じず、効率が最適化されます。また、品質が高く等価直列抵抗(ESR)が小さい入出力コンデンサと適切な結合インダクタ(CL:Coupled Inductor)を選択すれば、重要なコンポーネントにおける損失を抑えられることになります。このように細心の注意を払って部品の選択や設計を行うことで、全般的な電力損失を削減することが可能になります。更に、基板のレイアウト、温度の管理方法、制御ループのパラメータを最適化すれば、信頼性と効率に優れる電源ソリューションを実現できます。
負荷過渡応答と拡張電力供給
アナログ・デバイセズのQB電源は、中間バス・コンバータ(IBC:Intermediate Bus Converter)として動的に電力を供給する用途に最適です。このQB電源は、4相のアーキテクチャを採用しています。そのため、負荷分散を効率的に実現できます。その結果、予期せぬ負荷変動の影響を軽減することが可能になります。この革新的な設計を支えているのは、変化する電力需要に迅速かつ効果的に適応できるコントローラの能力です。それにより、過渡的な事象が発生した場合でも一定のレベルの出力電圧が得られます。また、QB電源全体としては、インターリーブ動作により、急激な負荷の変動に対して迅速に応答することが可能になっています。このような優れた応答性能は、電源を迅速に調整する必要がある状況において非常に重要になります。
アナログ・デバイセズのQB電源は、限られた時間内であれば拡張電力を供給できるように設計されています。つまり、突然大きな負荷が生じた場合でも、出力電圧がレギュレートされた状態で電力を供給できます。図2、図3は、このQB電源が拡張電力を供給している際の様子を表しています。このQB電源の定格出力電力は2kWです。図2では50ミリ秒にわたってその1.5倍、図3では500マイクロ秒にわたって同1.8倍の拡張電力を供給していることがわかります。
このQB電源の負荷過渡応答は、タイプ2の補償回路を調整することで更に最適化できます。レギュレーションの精度を高めることにより、出力電圧の変動を最小限に抑えることが可能になります。
熱性能
QB電源のリファレンス設計全体において、熱性能は非常に重要な意味を持ちます。温度を適切に管理することにより、デバイスが高い信頼性で動作することが保証されます。また、性能の低下や電子部品の寿命の短縮につながりかねない過熱を防止できます。図4に示すのは、QB電源が動作している際の熱画像です。これらは、ヒート・シンクとベースプレートを実装していない状態で取得しました。
QB電源に効果的なヒート・シンクを組み込めば、熱性能を高められます。デバイスの周囲で十分な空気流を確保することが可能になり、放熱が確実に行われるようになるからです。通常、データシートには、熱抵抗や許容可能な最大ジャンクション温度など、ヒート・シンクを適切に設計するために必要な詳細情報や推奨事項が記載されています。そうしたガイドラインに従い、コントローラICやFETといった重要なデバイスが許容温度を超えないようにしなければなりません。その結果、信頼性の高い連続動作を実現することが可能になります。また、アナログ・デバイセズのQB電源は、熱の問題からデバイスを保護するために役立つ過熱保護などの機能を備えています。それらの機能により、過度な温度上昇が生じた場合にコントローラを自動的にシャット・ダウンしたり、出力電力の値を低下させたりすることができます。QB電源は、そのような形でデバイスや周囲の部品の損傷を防ぎます。
起動時の応答
QB電源が起動する際には、まず主電源からの少ない入力突入電流によってバルク・コンデンサが充電されます。続く初期のパワーアップのフェーズにおいて、出力電圧が徐々に上昇していきます。QB電源では、このような形で突入電流と電圧のオーバーシュートを防ぎます。その結果、電源システムの信頼性が向上します。また、下流のコンポーネントが損傷しないよう保護することも可能になります。更に、コントローラは障害を監視するための機能を備えています。それにより、起動時に異常な状態が検出されたら、適切な応答をトリガして潜在的な問題を回避します。図5に、QB電源が起動する際の応答を示しました。これは、出力電圧が上昇する前後の状態を表しています。
アナログ・デバイセズのQB電源は、起動時に出力電圧を慎重に上昇させ、通常の動作モードへの滑らかな移行を実現します。QB電源に接続されたコンポーネントに対し、電圧の急激な変化の影響が及ぶ可能性があるアプリケーションには、このような制御手法が不可欠です。コントローラは様々な条件下での起動に対処できるように設計されており、広範な入力電圧と多様な負荷のシナリオに対応することが可能です。また、アナログ・デバイセズが開発したQB電源のリファレンス設計にはホット・スワップ・コントローラ「LTC4287」が適用されています。それにより、入力電圧が滑らかに上昇するようにしています(図6)。
出力リップル
電源の出力リップルとは、出力電圧の変動や変化のことを指します。アナログ・デバイセズのQB電源では、結合インダクタを用いた位相インターリーブによって出力リップルを低減しています。位相インターリーブでは、スイッチング期間の位相を互いに少しずつずらして動作させます。それにより、出力リップルが効果的に低減され、よりクリーンで安定した電圧が得られます(図7)。
QB電源の出力リップル性能は、入出力コンデンサの品質、インダクタの選択、全体のレイアウト設計など、様々な要因からの影響を受けます。品質が高くESRが小さいコンデンサと適切に選択したインダクタを使用することで、出力リップルを最小限に抑えることが可能になります。通常、データシートには、出力リップル性能を最適化できるようにするために、部品の適切な選択に向けたガイドラインや推奨事項が記載されています。アプリケーションによっては、出力電圧リップルをいかに小さく抑えるかが重要になることがあるでしょう。その場合、多相動作を実現する機能/設計を採用すれば、滑らかで正確にレギュレートされた出力を得やすくなります。適切な機能を実現するために、電子部品やシステムに対して非常に安定した電圧を供給しなければならない場合、上記の手法は特に有用です。
入力電圧リップルと出力電圧リップルの評価結果は、測定環境からの影響も受けます。定常状態における真のリップル性能を測定するには、最も近くに存在するセラミック・コンデンサに短いプローブを接続する方法を用いるとよいでしょう。
まとめ
QB電源は、多様なアプリケーションに適用可能な高効率/高性能の電源ソリューションです。実際、コンパクトな設計、高いエネルギー効率、優れた堅牢性/信頼性という面で高い評価を得ています。また、電力密度が高く、電圧レギュレーションの精度に優れ、高度な保護機能を備えていることから、様々な業界で不可欠なものとして活用されています。
アナログ・デバイセズが開発した最新の中間バス・コンバータも、効率が高く、堅牢性に優れ、高度な制御機能を備えています。そのため、データ・センターで活用すれば様々なメリットが得られます。具体的には、給電の最適化、信頼性の向上、運用コストの削減を図れます。そのため、データ・センターで使用する効率/信頼性の高いパワー・マネージメント・ソリューションとして理想的なものだと言えます。
参考資料
Christian Cruz「48Vの電源電圧がシステム・レベルのアプリケーションにもたらすメリット」Analog Dialogue、Vol. 58、2024年7月
Bruce Haug「72Vに対応するハイブリッド型DC/DCコンバータ、中間バス・コンバータのサイズを最大50%縮小可能に」Analog Dialogue、Vol. 52、2018年2月
Alexandr Ikiriannikov、Laszlo Lipcsei「結合インダクタを活用した多相降圧レギュレータ、48Vから12Vへの変換効率が大幅に向上」Analog Devices、2023年10月
「結合インダクタ技術の利点」Maxim Integrated、2015年3月