フォトダイオードは、数多くの光ベースの測定に使用される最も一般的なセンサー・タイプの1 つです。吸光および発光分光法、色測定、混濁度、ガス検出など多くのアプリケーションが、いずれも高精度の光測定をフォトダイオードに依存しています。
フォトダイオードは、その受感部に当たる光に比例した電流を生成します。ほとんどの測定アプリケーションでは、トランスインピーダンス・アンプを使用して、フォトダイオードの電流を出力電圧に変換しています。代表的な回路の簡略図を図1 に示します。
この回路では光起電モードでフォトダイオードを動作させ、オペアンプによってフォトダイオードの電圧を0V に維持します。これが、高精度アプリケーションの最も一般的な構成です。フォトダイオードの電圧対電流の曲線は、通常のダイオードと非常によく似ていますが、光のレベルが変化するのに伴って曲線全体が上下にシフトする点が異なります。代表的なフォトダイオードの伝達関数を図2a に示します。図2b は伝達関数を拡大したもので、光がない状態でもフォトダイオードが少量の電流を出力する様子を示しています。この「暗電流」は、フォトダイオードの逆電圧の増大に伴って大きくなります。ほとんどのメーカーは、フォトダイオードの暗電流を10mV の逆電圧で仕様規定しています。
フォトダイオードの受感部に光が当たると、陰極から陽極へ電流が流れます。この時、フォトダイオード電流のすべてが図1 に示す帰還抵抗を通って流れ、フォトダイオードの電流値に帰還抵抗値を乗じた値に等しい出力電圧を発生させることが理想的です。回路は概念的には単純ですが、システムが最大限の性能を発揮できるようにするには、解決すべき課題がいくつかあります。
DC に関する考慮事項
最初の課題は、DC の仕様がアプリケーションの要求を満たすオペアンプを選択することです。ほとんどの高精度アプリケーションでは、入力オフセット電圧が低いことが最も優先されます。入力オフセット電圧は、アンプの出力に現れて全体的なシステム誤差に影響しますが、フォトダイオード・アンプでは更に誤差が追加されます。入力オフセット電圧がフォトダイオードに加わると、暗電流が増加し、それによってシステムのオフセット誤差が一層大きくなります。基本的なDC オフセットは、ソフトウェア・キャリブレーション、AC カップリング、もしくはその両方の組み合わせを通じて除去できますが、オフセット誤差が大きいと、システムのダイナミック・レンジが低下します。幸い、入力オフセット電圧が数百マイクロボルト、更には数十マイクロボルトのオペアンプが多数あります。
次に重要なDC 仕様は、オペアンプの入力リーク電流です。オペアンプの入力に流れ込む電流、あるいは帰還抵抗以外の部分を流れる電流は、すべて測定誤差を発生させます。入力バイアス電流がゼロのオペアンプは存在しませんが、一部のCMOS またはJFET 入力オペアンプはそれに近い値を示します。例えば、 AD8615 の最大入力バイアス電流は室温で1pAです。従来型オペアンプのAD549 は、最大入力バイアス電流が60fA ですが、これは保証値で、出荷テストも行われています。FET 入力アンプの入力バイアス電流は、温度の上昇と共に指数関数的に増大します。多くのオペアンプは 85 ºC と 125 ºC で仕様が規定されていますが、規定されていない場合は、温度が 10 ºC 上昇するごとに電流値が 2 倍になると考えれば、おおよ その目安とすることができます。
もう1 つの課題は、低入力バイアス電流オペアンプの性能を損なうおそれのある外部リーク経路を最小限に抑えた回路とレイアウトを設計することです。最も一般的な外部リーク経路は、プリント回路基板自体を介した経路です。例えば、図 1 のフォトダイオード回路図について考えられるレイアウトを図 3に示します。ピンクのパターンはアンプの電源を供給する +5V レールで、基板の他の部分に続いています。この +5V のパターンとフォトダイオード電流を流すパターン間の基板抵抗が 5G Ω (図 3 の RL)の場合、 +5V の パターンからアンプに 1nA の電流が流れます。このため、このアプリケーション用に 1pA のオペアンプを慎重に選択したとしても、その目的が損なわれることは明らかです。この外部リーク経路を最小限に抑える 1 つの方法は、フォトダイオード電流を流すパターンと他のパターン間の抵抗を大きくすることです。これは、パターン周辺に大きい配線禁止領域を追加して、他のパターンへの距離を大きくするという簡単な方法で実現できます。要求が極めて厳しい一部のアプリケーションでは、 PCB の配線をすべてなくしてしまい、フォトダイオードのリードを空 中から直接オペアンプの入力ピンに接続するという方法をとる技術者もいます。
外部リークを防ぐもう1 つの方法は、フォトダイオード電流が流れるパターンに隣接させてガード・パターンを配置し、両方が同じ電圧で駆動されるようにすることです。図 4 に、フォトダイオード電流を流す回路周辺に配置したガード・パターンを示します。この場合、 +5V パターンから生じるリーク電流は RLを通じてアンプではなくガード・パターンに流れ込みます。この回路のガード・パターンと入力パターン間の電圧差は、オペアンプの入力オフセット電圧によるものだけとなります。これが、入力オフセット電圧の小さいアンプを選ぶもう 1 つの理由です 。
ACに関する考慮事項
ほとんどの高精度のフォトダイオード・アプリケーションは低速になる傾向がありますが、その場合でも、システムの AC 性能がアプリケーションにとって妥当なものかどうかを確認する必要があります。ここで主に懸念されるのは、信号帯域幅(またはクローズドループ帯域幅)とノイズ帯域幅の 2 つです。
クローズドループ帯域幅は、アンプのオープン・ループ帯域幅、ゲイン抵抗、および合計入力容量に依存します。フォトダイオードの入力容量は、高速フォトダイオードの数ピコファラドから、大面積高精度フォトダイオードの数千ピコファラドまで大きく異 なります。しかし、オペアンプの入力に容量を追加すると、帰還抵抗と並列に容量を追加してこれを補償しない限り、オペアンプの動作が不安定になります。この帰還容量は、システムのクローズドループ帯域幅を制限します。位相マージンが 45ºとなる最大可能クローズドループ帯域幅は、式 1 を使って計算できます。
ここで、
fU はアンプのユニティ・ゲイン周波数、
RF は帰還抵抗、
CIN は入力容量(ダイオードの容量と基板上のその他すべての寄生容量を含む)、
CM はオペアンプのコモン・モード容量、
CD はオペアンプの差動容量です。
例えば、フォトダイオード容量が15pF でトランスインピーダンス・ゲインが1MΩ のアプリケーションでは、式1 から、1MHz の信号帯域幅を実現するには、ユニティ・ゲイン帯域幅が約95MHz のアンプが必要になると予測できます。この場合の位相マージンは45ºで、信号のステップ変化時にピーキングが生じます。設計位相マージンを60º以上にしてピーキングを下げることもできますが、それにはより高速のアンプが必要です。中間的な帯域幅であっても、高ゲイン・フォトダイオード・アプリケーションにはADA4817-1(最大入力バイアス電流20pA、ユニティ・ゲイン周波数約400MHz)のようなデバイスが適しているのはこのためです。
ほとんどのシステムの合計入力容量はフォトダイオード容量に支配されますが、一部のアプリケーションでは、入力容量が極めて低いオペアンプを選ぶように特に注意する必要があります。この問題に対応するために、オペアンプの中には、入力容量の低減を目的に特別なピン配置を採用しているものもあります。例えば、図5 はADA4817-1 のピン配置ですが、オペアンプ出力は反転入力に隣接するピンに接続されています。
また、システム・ノイズも、フォトダイオード設計時の代表的な課題です。出力ノイズに関与する主な要因は、アンプの入力電圧ノイズと帰還抵抗のジョンソン・ノイズです。帰還抵抗からのノイズは、増幅されることなくそのまま出力に現れます。フォトダイオード電流を増幅するために抵抗のサイズを変えた場合、ゲイン抵抗によるノイズの増大は抵抗値増加分の平方根に留まります。実際、これは、2 つめのアンプ段を追加するよりも、フォトダイオード・アンプのゲインをできるだけ大きくするほうが有利であることを意味します。追加アンプ段では、ゲインに比例してノイズも増大します。
アンプの出力ノイズは、入力電圧ノイズにアンプのノイズ・ゲインを乗じた値です。ノイズ・ゲインには、帰還抵抗だけでなく帰還容量と入力容量も関係するので、周波数が変化するとノイズも変化します。図6 は、アンプのノイズ・ゲインの代表的な周波数特性を示したプロットで、参考用にクローズドループ・ゲインを重ねています。このプロットから2 つのことがわかります。まず、ある周波数で出力ノイズが増加すること、およびノイズがピークとなる周波数範囲は、アンプのクローズドループ・カットオフ帯域幅より高くなる場合があるということです。
この帯域幅の利点を生かすことができないため、アンプの信号帯域幅にローパス・フィルタ・セットを使ってノイズを減らします。
プログラマブル・ゲインを使ってダイナミック・レンジを拡大
帰還抵抗のジョンソン・ノイズの増加は抵抗値の平方根に比例するので、第2 段のアンプではなく、フォトダイオード・アンプのゲインをできるだけ大きくするのが合理的です。この方法は、図7 に示す回路のように、使用するフォトダイオード・アンプにプログラマブル・ゲインを追加することによって、もう一歩進めることができます。
スイッチS1 は、異なる信号に対して最適なゲインが得られるように、必要な帰還経路を選択します。残念ながらアナログ・スイッチにはオン抵抗があり、そのため回路にはゲイン誤差が生じます。このオン抵抗は印加電圧、温度、その他の要因で変化するので、回路からこの抵抗を除去する方法を考える必要があります。2 セットのスイッチを使って帰還ループのオン抵抗による誤差を除去する方法を、図8 に示します。この回路では、図7 と同じように帰還ループ内に1 個のスイッチがありますが、アンプの出力電圧を考慮するのではなく、スイッチS2 によって回路の出力とゲイン抵抗を直接接続します。これで、スイッチS1 を流れる電流によるゲイン誤差を除去することができます。この回路を使用する場合のトレードオフの1 つに、アンプの出力インピーダンスにマルチプレクサS2 のオン抵抗が含まれることになるため、低インピーダンスでなくなってしまうことがあります。ただし通常、ADC ドライバが含まれている場合のように次段の入力が高インピーダンスであれば、これはそれほど大きな問題にはなりません。
変調と同期検出を使ってノイズを低減
多くの高精度アプリケーションでは、サンプルで吸収または反射されるDC の光強度の測定を行います。
一部のアプリケーションでは周囲光を遮断できますが、他の多くのシステム(主に工業環境)では、周囲光にさらされた状態で動作を余儀なくされます。この場合は光源を変調して同期検出を使用することによって、電気的干渉や光学的干渉が最も大きい低周波スペクトルから信号を離すことができます。最も簡単な変調形態は、光源を高速でオン/オフさせることです。光源によっては、電子的に変調したり、いくつかの旧式装置に見られるように機械的チョッパを使って所定のレートで光をブロックしたりすることができます。
例えば、物質を通過する際の光の吸収を測定して強度を決定したい場合は、数kHz で光源をチョッピングすることができます。これによって、時刻による周囲光の変化や50Hz/60Hz の蛍光灯など、ほとんどの環境に見られる多くの低周波光害から、測定値がどのくらい離れるかを図9 に示します。
変調信号の周波数を制御しているので、同じクロックを使用して受信光を同期的に復調することができます。図10 の回路は、非常に単純な同期復調回路です。フォトダイオード・アンプの出力電圧はACカップリングされ、+1 および–1 のプログラマブル・ゲイン・アンプを介して伝達されます。ゲイン・スイッチは、光がオンになるときにゲインを+1にセットし、オフになるときに–1 にセットするように同期されます。理想的には、これで出力は光パルスの振幅に対応するDC 電圧になります。ローパス・フィルタは、変調クロックに同期していないその他の信号をすべて除去します。ローパス・フィルタのカットオフ周波数は、変調周波数を中心とするバンドパス・フィルタの幅と同じです。例えば、変調周波数が5kHz で、帯域幅が10Hz のローパス・フィルタを使用する場合、回路の出力からは4.99kHz~5.01kHz の信号が得られます。ローパス・フィルタの帯域幅を下げると除去能力は向上しますが、セトリング時間が長くなります。
図9 は、チョッピング使用時には注意すべき点があることを示しています。得られる波形は周波数領域では1 本ではなく(サイン波が必要)、チョッピング周波数における線とその奇数高調波になります。チョッピング周波数の奇数高調波におけるノイズは、すべて最小限の減衰で出力に現れます。これは正弦波変調を使うことによって完全に除去できますが、そのためにはより複雑な、あるいはより高価な回路が必要です。もう1 つの解決法は、既知のどの干渉源とも高調波が一致しない、特殊な基本周波数を選ぶことです。ファームウェアを使って図10 と同じ機能を実装することも可能です。チョッピングした光信号は、変調クロックに同期させてサンプリングし、デジタル信号処理技術を使用して対象周波数における振幅情報を抽出することができます。
まとめ
フォトダイオード・アンプは、ほとんどの高性能光学測定システムにとって重要な構成要素です。適切なオペアンプを選ぶことは、可能な限り高い性能を実現するための重要な第一歩であり、更にプログラマブル・ゲインや同期検出といった他の性能向上手法を使用することは、ダイナミック・レンジの拡大やノイズ除去に有効です。高精度フォトダイオード回路の詳細については、http://instrumentation.analog.com/en/chemical-analysis/segment/im.htmlを参照してください。