DS2715バッテリチャージャICの負荷切替え機能の最適化

DS2715バッテリチャージャICの負荷切替え機能の最適化

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はじめに

他の充電用ICと比較したとき、DS2715の独自性として、バッテリへの充電経路と放電経路を単一のトランジスタを通して提供する点があります。この機能に加えて、10セルの給電が可能であることから、様々な種類のバッテリ駆動デバイスで非常に人気の高い充電ソリューションになっています。このアプリケーションノートでは、DS2715による安定化トランジスタの具体的な制御方法を説明し、DS2715を用いたアプリケーションを最適化するために設計者が行うことのできる回路の調整について解説します。最初に、3セルバッテリパック用の標準動作回路について詳述します。次に、不連続な動作を行う負荷にDS2715を接続するアプリケーション向けの改良型回路と、バッテリから負荷に対して直接給電を行うための回路の、2つの代替回路を示します。

 

図1. 標準的なスイッチモードの動作回路

図1. 標準的なスイッチモードの動作回路

放電モードでは、VCHがローになり、Q1が完全にターンオンします。このとき、負荷電流はQ1の寄生ダイオードからドレイン-ソース経路に移行します。VDDが十分ではなく、DS2715がパワーオンリセットに移行するのを防ぐことができない場合、Q1はターンオンせず、その寄生ダイオードが負荷にとって唯一の放電経路になります。注意すべき点として、3セル構成で負荷に給電する場合、DS2715はバッテリの有効放電容量サイクルの大部分にわたって無動作のリセット状態になります。これは、UVLO (低電圧ロックアウト)電圧が3.9Vであるのに対し、公称バッテリ電圧は3.6Vであるためです。したがって、放電モードに関しては少なくとも4セルを使用する必要があります。放電モードへの移行に成功した後については、負荷が切り離された場合、または充電器が再び接続された場合に何が起こるかを考えることが重要になります。

DS2715が放電モードのときに充電器が再び接続されると、充電器によって負荷への給電が行われ、DS2715は充電サイクルを再スタートします。放電モード時に負荷が切り離されると、電流の大部分はバッテリから流れなくなります。残りの電流は、DS2715の電源電流(仕様では200µA未満)と、VCHによってシンクされる電流になります。この電流は、主としてバッテリの電圧とQ1のバイアス回路によって変化しますが、通常は5mA~10mAです。DS2715の放電ラッチのセットおよびリセットのスレッショルドの仕様を参照すると、セットとリセットの値の間にヒステリシスが存在するのは明白です。そのため、5mA~10mAの電流では放電モードを抜けるのに十分ではありません。充電方向に電流が流れることによってSNS+とSNS-の間に-10mVの降下が生じるまで、DS2715は放電モードのままになります。放電モードは、VBATTの電圧とは関係なしに、VDDがUVLO+ヒステリシスのスレッショルドを下回るまで無期限に継続します。

標準動作回路の過渡特性

充電器が外された場合、バッテリは負荷に対して必要な電力の給電を開始して、過度の電圧低下を防止する必要があります。負荷が存在すると仮定して、最初はQ1の寄生ダイオードおよびダイオードD4がバッテリから負荷に給電するための電流経路を提供します。電流が放電ラッチのセットに十分である場合、VCHはローになり、Q1は内部容量が充電され次第、完全導通状態になります。このVCHの制御の変化は、およそ1µsで行われます。デカップリングコンデンサC1およびC2の放電に伴って、負荷接点の電圧は充電器とほぼ同じ値からバッテリとほぼ同じ値まで遷移します。図2に、充電器を外したときの負荷端子の遷移を示します。DS2715に対して十分なVDDを維持するため4セルを使用し、500mAの負荷電流をデカップリングするためC1には470µFのコンデンサを使用しています。

図2. 充電器の除去に対する4セルスイッチモード回路の過渡特性(C1 = 470µF)

図2. 充電器の除去に対する4セルスイッチモード回路の過渡特性(C1 = 470µF)

この基本的な動作回路は、放電モードに依存しない3セル以下のアプリケーション、または4セル以上のアプリケーションで良好に動作します。しかし、4セル以上の回路において、バッテリの充電頻度が非常に低く、1度に何日間も回路が放電モードになる場合には、デメリットが発生します。そうした場合、Q1を放電モードに保つための静的電流によって消費されるバッテリのエネルギーが、許容範囲を超える可能性があります。4セル以上のアプリケーションで、大半の時間は負荷が使用されず、バッテリが何日間も(あるいはそれ以上)持続することが求められる場合には、基本的な回路に若干の変更を加えることで性能の改善が可能です。これらの変更は、2セルおよび3セルのアプリケーションに同等の放電モードの機能を追加する場合にも有効です。

改良型の動作回路

負荷がバッテリの電力によって短時間かつ低頻度で動作する場合は、無動作期間のバッテリ消費量を最小限に抑えることがバッテリの持続時間を延ばす上で最も効果的です。不連続的に動作する負荷への接続を目的とする場合、DS2715の標準動作回路にトランジスタ1個と受動部品数個による変更を加えて、性能を大幅に改善することが可能です。図3に、変更を加えた回路を示します。

図3. DS2715が断続的な負荷に接続されるアプリケーション向けに改良したスイッチモード動作回路

図3. DS2715が断続的な負荷に接続されるアプリケーション向けに改良したスイッチモード動作回路

第一の重要な変更は、Q5の追加です。給電効率を最大化するため、RDS(ON)が非常に低いpFETを使用してください。VGSは、回路および負荷の要件に基づいて選択してください。理想的には、最も低い有効バッテリ電圧でもVGSによってオン状態に保たれるようにQ5を選択すべきです。また、バッテリ電圧がバッテリの有効過放電リミット以下に低下するとQ5のシャットオフが開始するようにVGS定格を選ぶことによって、バッテリの過放電に対する抑止効果が得られます。過放電の発生よりずっと早い時点で負荷がパワーダウンする場合が多く、かつNiMHセルは多少の過放電に対して適度な耐性を備えているため、ほとんどの回路ではこの機能は必須ではないかも知れません。Q5は予想される最大電圧条件に応じた定格である必要があります。また、最大負荷電流および相当する電力消費に対応可能である必要があります。R8は、充電器が外されたとき確実にQ5をターンオンさせるために回路に含まれています。R11は、Q5のスイッチング遷移のスルーレート制御の一部とするか、あるいは他の部品を代わりに使用してFETに必要なESD (静電放電)保護を提供することが可能です。

もう1つの必要な変更は、R1の接続をD1のアノードからカソードに移動することによって、充電器から直接DS2715に給電を行うことです。これによってQ5が負荷スイッチとして機能することが可能になり、バッテリが負荷に給電しているときは常にDS2715がパワーダウンするようになります。DS2715がパワーダウンされて負荷が切り離された状態では、バッテリ容量を減少させるのはわずかな漏れ電流とバッテリ自体の自己放電だけです。DS2715のパワーダウンによって内部ステートマシンのリセットも行われ、充電サイクルが再スタートします。これは、標準動作回路(図1)ではQ2によって実現されていた処理です。改良型の回路では、たとえ4セル未満でも、元の回路では放電状態のDS2715に十分な給電を行うことができない条件下で、バッテリに適切な放電を行わせることが可能です。

このトポロジーのもう1つのメリットは、充電用と放電用のトランジスタを個別に選択して、それぞれの機能にとって最も重要な特性を最適化することができる点です。負荷接続トランジスタにとって重要な特性についてはすでに説明しました。スイッチモードアプリケーションのQ1については、Q3を含む単純なブートストラップターンオフヘルパ回路を最適化するために、低VGSのトランジスタが望まれます。また、低RDSと低ゲートチャージの間で適切な妥協点を設定することで、全体的な電力損失が十分に低い回路が得られます。リニアモード安定化トランジスタの場合、通常は電力消費定格が最も重要な要素になります。

この回路では直接バッテリを負荷に接続するため、電源電圧が過度に低下すると自らシャットオフするタイプの負荷が推奨されます。抵抗性の負荷を接続すると、負荷によってバッテリが過放電する可能性があります。

改良型動作回路の性能

以下の図は、充電器の除去に対する改良型動作回路の過渡特性を示しています。図4は、C1に22µFのアルミ電解コンデンサを実装した場合の結果を示します。図5は、コンデンサの値を470µFに変えて同じ測定を行った場合の結果です。負荷FETのターンオンに伴って、負荷電圧は充電器のレベルからバッテリのレベルに遷移します。この場合の負荷は、500mAの電流シンクでした。除去前の充電器は9Vであり、負荷と充電動作の両方に給電を行っていました。どちらの図でも、上側のトレースが負荷ノードの電圧に相当し、下側のトレースがQ5のゲート電圧に相当します。どちらの電圧もグランド基準です。

図4. 充電器の除去に対する改良型動作回路の過渡波形(C1 = 22µF)

図4. 充電器の除去に対する改良型動作回路の過渡波形(C1 = 22µF)

図5. 充電器の除去に対する改良型動作回路の過渡波形(C1 = 470µF)

C1が22µFの場合、バッテリ電圧以下への若干の電圧低下が発生します。デカップリング容量を470µFに増大することで、この特定のバッテリ、負荷、および回路の構成についてアンダシュートを排除することができます。

バッテリから負荷への直接給電

場合によっては、充電器の電圧とバッテリパックの電圧の両方による給電に負荷が耐えるようにできないことも考えられます。バッテリから負荷に直接給電することが可能ですが、いくつか考慮すべき点があります。図6に、バッテリから負荷に直接給電するための回路を示します。

図6. 交互切替え式の負荷接続ポイントのアプリケーション回路図

図6. 交互切替え式の負荷接続ポイントのアプリケーション回路図

図のように負荷を接地して、充電中にバッテリが意図通りの充電電流を受け取るようにする必要があります(負荷電流は検出抵抗R7を通って流れません)。また、負荷が直接バッテリに接続されているため、DS2715の放電モードを使用する必要はなく、Q1をターンオンさせるためにバイアス回路を通して余分な電流を流す必要もありません。R1/C3のフィルタ接続、したがってDS2715のVDDを直接充電器に移動することによって、充電器が外されるたびにDS2715がリセットされ、使用されなくなります。この構成では、充電が完了した後は、充電器が接続されているか否かにかかわらず、(D2/R2を通る電流を除く)すべての負荷電流がバッテリによって供給される必要があります。アプリケーションとしては、新しい充電サイクルの準備が整うまで、完全にバッテリによってユニットの給電が行われるものが対象になります。

この構成では、(検出抵抗を除く)充電回路にも負荷電流が流れます。そのため、充電電流と負荷電流のワーストケースの組み合わせに対応するように、すべての部品を選定する必要があります。スイッチモードの場合、上乗せされる負荷電流およびそのスイッチング特性への影響に応じて、Q1のターンオフを補助するブートストラップ回路の再調整が必要になる可能性があります。充電中にバッテリが取り外される可能性がある場合は、たとえクランプ部品が存在しても発生する可能性があるスイッチモードの誘導性スパイクに負荷が耐えられることを保証するための対策を講じておく必要があります。場合によっては、追加のバイパスコンデンサまたはレイアウトに関する特別な配慮が必要になります。いつ充電を開始してよいか、あるいは充電を停止する必要があるかどうかを、充電器が存在する状態でアプリケーションコントローラによって制御する必要がある場合は、図に示すようにQ2およびR8をこの回路に含めることができます。Q2を使用して充電を停止するたびに、充電サイクルは存在検出状態に戻ります。したがって、Q2を使用して頻繁に充電の停止と再スタートを行うべきではありません。特に充電サイクルの終わり近くで行われた場合、ある程度の過充電につながる可能性があるためです。

結論

DS2715は、NiMHバッテリパック用の充電機能を制御するための、独自の低コストな方法に加えて、バッテリ駆動の動作用に負荷を接続するための方法を提供します。アプリケーションで使用するバッテリのセル数および負荷の特性に応じて、基本的な回路にいくつかのオプションの変更を加えることで、広範なアプリケーションにわたって良好な充電特性および負荷給電特性を保証することができます。