電流リファレンス方式のスイッチング・レギュレータにより、LDOのヘッドルーム電圧を制御する【Part 2】設計、実装、評価
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要約
本稿では、低ドロップアウト(LDO:Low Dropout)レギュレータのヘッドルーム電圧(入力電圧と出力電圧の差)を制御するためのシンプルかつ効果的な方法を紹介します。その方法では、電流リファレンス方式のアーキテクチャを採用したスイッチング・レギュレータを使用することで制御を実現します。また本稿では、ヘッドルーム電圧を制御するだけでなく、様々な出力電圧において効率とノイズ性能のバランスをとるための体系的なアプローチを紹介します。それらの解説を通じ、実用的な回路例、シミュレーションによる検証結果、実際の回路の評価結果などを示していくことにします。更に、エネルギー効率に優れたシステムとノイズの影響を受けやすいシステムを例にとり、それぞれを設計する際に考慮すべき事柄について解説を加えます。
はじめに
本稿は、LDOレギュレータのヘッドルーム電圧を制御する方法について解説する記事の2回目(Part 2)です。前回(Part 1)は、その方法で利用するスイッチング・レギュレータの様々なノイズ源を特定することに重点を置きました。特に、それらがアナログ・シグナル・チェーンの様々なコンポーネントに及ぼす影響について詳しく分析しました。その上で、それらのノイズを低減することによりシステムの性能を高める方法について概観しました。今回は、電流リファレンス方式のスイッチング・レギュレータを使用してLDOレギュレータのヘッドルーム電圧を制御する回路の設計と実装について解説します。図1に示すのが、電流リファレンス方式のスイッチング・レギュレータ(降圧コンバータ)を使用するアーキテクチャの概要です。スイッチング・レギュレータの出力電圧は、同レギュレータが内蔵する電流リファレンス回路(IREF)と、同レギュレータのSETピン(製品によってはISETピン)に接続された外付け抵抗に基づいて生成されます。
この方法には1つ重要な特徴があります。それは、グラウンドだけではなく任意の電圧源をSETピンの基準として使用できることです。つまり、抵抗RSETによって決まるオフセットを加えた状態で、LDOレギュレータ(フィルタとしての機能も担うポストレギュレータ)の出力電圧などに、スイッチング・レギュレータの出力電圧を追従させることができます。このような柔軟性が得られることは、LDOレギュレータのヘッドルーム電圧を一定に維持しながら、その出力電圧を動的に調整する必要があるアプリケーションにとって非常に有用です。
図1に示したように、RSETをLDOレギュレータの出力に接続したとします。その場合、降圧コンバータの出力電圧(BuckOUT)、つまりLDOレギュレータの入力電圧(LDOIN)は以下の式によって決まります。
この構成により、LDOレギュレータの出力電圧(LDOOUT)の変動に依存することなく、降圧コンバータの出力を動的に調整してヘッドルーム電圧を一定の値に維持することができます。この方法は、LDOレギュレータの出力電圧が動的に調整されるアプリケーションに最適です。なぜなら、レギュレーション性能を保ちながら効率を維持することに役立つからです。通常、ヘッドルーム電圧の値は、アプリケーションにおいて優先される要件に応じて電源電圧変動除去比(PSRR:Power Supply Rejection Ratio)と効率の最適なバランスが得られるように設定されます。例えば、LDOレギュレータのヘッドルーム電圧を特定の値に設定することが求められる場合、以下の式に示すようにRSETの値を選択します。
図1の構成は非常に堅牢性に優れています。仮に、過負荷やグラウンドへの短絡によってLDOレギュレータの出力電圧が0Vまたはその近くまで低下したとします。そのような場合でも、電流リファレンス方式のスイッチング・レギュレータは、LDOレギュレータの出力電圧に対して十分なヘッドルーム電圧を維持し続けます。つまり、LDOレギュレータは必要なバイアス電圧が印加された状態で維持されます。また、上記のような障害が発生したとしても、それが解消されれば正常な状態に復帰できます。このように、ヘッドルーム電圧は回路の適切な起動と障害からの回復に寄与します。ヘッドルーム電圧の値は、LDOレギュレータの最小動作入力電圧を上回るように設定しなければなりません。
図2に具体的な回路の例を示しました。この回路では、INTVCCピンとISETピンの間にダイオードを接続しています。これにより、LDOレギュレータの入力電圧VINを最小動作電圧以上に維持します。
LDOレギュレータ「LT3086」に印加される最小電圧は、降圧コンバータ「LTC3649」が内蔵するレギュレータの出力電圧INTVCC(代表値は3.45V)からダイオードの順方向電圧Vd(代表値は0.7V)を差し引くことで決まります。つまり、LT3086の入力電圧は約2.75Vになります。
ただ、このLDOレギュレータは最小1.4Vの入力電圧でも動作します。そのため、レギュレータとしての機能を損なわずに入力電圧を更に低くすることが可能です。これについては、図3に示すように、ダイオードと直列に抵抗RINTVCCを追加することで実現できます。
RINTVCCは、LDOレギュレータに所望の最小入力電圧Vminを印加するために使用します。この抵抗の値は、以下の式で求められます。
例として、LDOレギュレータのヘッドルーム電圧が0.5V(RSETは10kΩ)で、最小動作入力電圧が1.4Vであるとしましょう。LTC3649が内蔵するレギュレータの出力電圧VINTVCCは、3.25V(最小)から3.65V(最大)の範囲で変化します。最小入力電圧Vminは1.8Vに設定されており、VINTVCC、Vd、電流源の変動、抵抗の許容誤差といった要素を考慮しても十分なマージンが確保されています。これらの値を式(3)に代入すると、RINTVCCの値は7.3kΩになります。
RINTVCCとしてE24系列の7.5kΩの抵抗を選択すると、目標とする電圧の要件を満たせます。
続いて、図4に示す構成について考えます。この例では、LDOレギュレータをTEC(Thermoelectric Cooler)用のコントローラとして使用しています。同レギュレータは、温度を制御するために0V~9Vの電圧を出力します。その出力電圧(LDOOUT)は、TEC用のコマンド信号に基づいて動的に設定します。スイッチング・レギュレータとしては、「Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ) 3」(以下、SS3)に対応する降圧コンバータまたは電流リファレンス方式の任意の降圧コンバータを使用できます。このような構成により、低い周波数からスイッチング・レギュレータのスイッチング周波数の範囲で高いノイズ性能が得られます。
シミュレーションと実測評価の結果
ここまでに説明した方法の有用性を実証するために、シミュレーションと実測評価を実施しました。降圧コンバータとしては「LT83201」、LDOレギュレータとしては「LT3080」を使用することにしました。LT83201はSS3を採用した製品であり、18Vの入力電圧、1Aの出力電流に対応します。LT3080は抵抗1本で出力電圧の値を設定できる製品であり、出力電流は1.1Aです。これらのICを使用して、図5に示した回路を構成しました。この電源は出力電圧を高い精度でレギュレートする必要がある用途に最適です。また、出力電圧は0Vまでの範囲で設定できます。
LT3080(LDOレギュレータ)は、出力電圧を適切にレギュレートするために、1.35V(代表値)のVCONTROLを必要とします。この要件を満たしつつ、回路が対応しなければならない条件を網羅する形で堅牢な動作を確保する必要があります。そのために、図5に示した回路では、LDOレギュレータのヘッドルーム電圧を1.5Vに設定しています。
その場合、RSETの値は以下の式によって計算できます。
ここで、100μAという電流値はLT83201のIREFに相当します。
図6に示したのは、「LTspice®」による図5の回路のシミュレーション結果です。ご覧のように、LDOレギュレータ(LT3080)の入力電圧と出力電圧の関係をプロットしています。LT3080のSETピンに印加したコマンド電圧は、5ミリ秒以内に0Vから9Vまで上昇するようにしました。また、次の5ミリ秒で9Vから0Vまで下降させます。それにより、出力電圧の動的な振る舞いを確認しました。
図5、図6に示したとおり、LDOレギュレータの入力は降圧コンバータの出力に接続されています。そして、LDOレギュレータの入力電圧は、その出力電圧よりも常に1.5V高い電圧に維持されていることがわかります。LDOレギュレータのヘッドルーム電圧がその最小値の要件を上回っている限り、動作範囲全体にわたって安定したレギュレーションを維持できます。
ここまでに示した方法についてシミュレーションによって検討することに加え、実測評価も実施しました。そのための回路は、LT83201の評価用ボード「EVAL-LT83201-AZ」とLT3080の評価用ボード「DC995A」を組み合わせて実装しました。それにより、本稿で示した概念の実現可能性を実証したということです。その評価では、LT3080のSETピンに周波数が100Hzで0Vから9Vまでの範囲を行き来するのこぎり波を印加しました。そのような条件下で、ヘッドルーム電圧が約1.5Vに維持されることが確認できました(図7)。つまり、ヘッドルーム電圧が動的に調整されることが実証されたということです。実際にハードウェアを使用して回路を構成すれば、シミュレーションでは得られない実証結果を示すことができます。ここでは概念の実証に現実の回路を利用したわけですが、実用的な実装方法についてもご理解いただけたでしょう。
システムの効率と出力ノイズ
LDOレギュレータのヘッドルーム電圧を制御する方法を採用した場合、いくつかの重要なメリットが得られます。その1つが、効率が全体的に向上するというものです。図8(a)を見ると、電源の効率を表す曲線にそのメリットが明確に現れています。ヘッドルーム電圧の制御機能を備えていない電源では、スイッチング・レギュレータの出力を10.5Vに固定しています。その場合の効率を橙色の線で示しました。それと比較すると、ヘッドルーム電圧の制御機能を備える電源の効率(青色)は、LDOレギュレータの出力電圧の全範囲にわたってより高い値になっていることがわかります。図8(b)は、負荷電流を1Aに固定した場合の効率を示したものです。これを見ると、ヘッドルーム電圧の制御機能によるメリットがより明確に現れています。グラフに示したように、ヘッドルーム電圧の制御機能を使用しない場合、出力電圧を5V未満に調整することはできません。この制限は、熱的な制約とLDOレギュレータのパッケージにおける放熱能力の限界によって生じます。
図9に示したのは、スイッチング・レギュレータの出力の周波数スペクトルです。LDOレギュレータをポストレギュレータとして使用した場合と使用しない場合を比較しています。いずれも電源システムとしての最終出力で測定した結果です。スイッチング・レギュレータの入力電圧は18Vに設定しました。LDOレギュレータを使用する場合の出力電圧は1.8Vです。どちらの構成においても、負荷電流は500mAとしました。LDOレギュレータを使用する場合のヘッドルーム電圧は1.5Vに設定しました。図9に示すように、スイッチング・レギュレータとLDOレギュレータを組み合わせることで、基本波の出力リップルと高調波成分が効果的に抑制されることがわかります。LT3080の高いPSRRによって、リップルとその高調波が除去されているということです。つまり、LDOレギュレータはノイズの低減という面で重要な役割を果たしており、よりクリーンな出力電圧が得られます。また、スイッチング・ノイズを抑制しつつ、高い精度のレギュレーション性能と優れた過渡応答性能を得ることが可能です。この結果から、LDOレギュレータを使用することにより、非常に重要なメリットが得られることを確認できました。
設計時に考慮すべき事柄
ここでは、本稿で紹介した方法を採用して設計を行う場合に考慮すべき事柄についてまとめます。特に重要なのは、使用するスイッチング・レギュレータの絶対最大定格を超えないように設計することです。特に、SETピンとOUTSピンの定格を遵守しなければなりません。LT83201の場合、どちらのピンも最大定格は13Vです。つまり、LDOレギュレータの出力電圧と必要なヘッドルーム電圧の合計が13Vを下回っている場合に限り、LT83201を使用することができます。この制限値を超えないようにすることで、設計の完全性を確保し、デバイスの損傷を回避することが可能になります。ただ、SETピンとOUTSピンの絶対最大定格を超える可変出力電圧が必要なシステムを構成したいケースもあるでしょう。
その場合、図10に示すように、分圧回路を実装してSETピンとOUTSピンに印加される電圧を低減する方法を検討してください。この手法を採用すれば、SETピンとOUTSピンの電圧を制限の範囲内に維持しながら、より高い出力電圧を生成することができます。図10に示した回路の最大出力電圧は15Vです。絶対最大定格を考慮すると、その出力をLT83201のSETピンに直結することはできません。そこで、LDOレギュレータの出力を抵抗分圧器で分圧し、SETピンの電圧が絶対最大定格の範囲内に収まるようにしています。例えば、出力電圧が最大になったときに、SETピンの電圧が12Vになるように設定するといった具合です。その場合、抵抗R5、R6には以下のような関係があります。
また、システムが0Vから起動できるようにするには、R5とR6の並列合成抵抗にISETを乗じた値が、LDOレギュレータに必要なヘッドルーム電圧以上になるようにしなければなりません。それだけでなく、その値がSETピンの絶対最大定格よりも低くなるようにする必要もあります。つまり、以下の式を満たすことが条件になります。
ここで、VheadroomはLDOレギュレータに必要な最小ヘッドルーム電圧、SET(Abs max rating)はSETピンの最大定格電圧です。
式(5)と式(6)を組み合わせると、R6の値を求める式は以下のようになります。
図10に示した回路の場合、1.5Vのヘッドルーム電圧が必要です。それを踏まえてR6の値を計算すると50kΩになります。次に式(5)を用いれば、R5の値は21.43kΩと算出されます。実際の回路では、標準的な22kΩの抵抗をR5として使用すればよいでしょう。
SETピン用の分圧回路の定数を決定したら、次にOUTSピン用の分圧回路について計算を実施します。LT83201のデータシートに記載されているように、抵抗R1、R3の値は5kΩより低くなるように選定するとよいでしょう。そうすれば、これらの抵抗によって生じるノイズを、LT83201自体によって生じるノイズよりも小さく抑えることができます。R3の値を10kΩに固定したとすると、R1の値は以下の式を用いて決定することができます。
以上で回路の設計は完了しました。その回路のシミュレーション結果を図11(a)に示します。適切に電圧がレギュレートされるようにするためには、データシートに記載されているように最小の負荷電流を維持する必要があります。LT3080の場合、動作条件の全体にわたり出力を安定させるには、少なくとも1mAの負荷電流が必要です。但し、図11(a)に示すように、出力電圧が低下するにつれて、ヘッドルーム電圧がわずかに増大することに注意してください。SETピンとOUTSピン用の分圧回路の比は同一ではありません。そのため、LDOレギュレータの入力電圧と出力電圧の差を表す直線にはわずかな傾きが生じます。図11(b)に示すように、ヘッドルーム電圧は出力電圧の全範囲にわたって一定に保たれるわけではなく、わずかな傾きを持った直線として変化していきます。設計上の配慮として、出力電圧が最大になる際にヘッドルーム電圧が1.5Vになるようにすれば、LDOレギュレータのヘッドルーム電圧は出力電圧の全範囲にわたり十分に確保されます。
まとめ
本稿では、電流リファレンス方式のスイッチング・レギュレータを用いてLDOレギュレータのヘッドルーム電圧を制御する方法について説明しました。シンプルながらも大きな効果が得られることをご理解いただけたはずです。この方法を使用すれば、電圧入出力制御(VIOC:Voltage Input-to-Output Control)機能に対応していないLDOレギュレータを使用する場合でも、ヘッドルーム電圧の動的な制御が可能になります。本稿では、ヘッドルーム電圧の制御機能を適用した回路の実装方法、シミュレーション結果、実測評価の結果を示しました。それらにより、この方法の有用性を明確に実証することができました。例えば、LDOレギュレータをフィルタとしての機能も担うポストレギュレータとして使用することで、出力の周波数スペクトルが大幅にクリーンになることがわかりました。具体的には、基本波の出力リップルとその高調波が低減されます。また、ヘッドルーム電圧を高い精度で制御するための有用な方法をいくつか紹介しました。実測結果によって示したとおり、それらの方法を利用すれば、スイッチング・レギュレータの出力は所望の電圧オフセットを維持した状態でLDOレギュレータの出力に厳密に追従します。そのオフセットの値は、1本の抵抗を使用するだけで正確に設定することができます。この方法により、出力電圧の全範囲にわたり、効率とノイズ性能のバランスをとることが可能になります。言い換えれば、効率が高くノイズが小さい電源が得られるということです。加えて、本稿ではLDOレギュレータの出力電圧が低い場合に同レギュレータの最小動作電圧を維持する方法も示しました。更に、LDOレギュレータの出力電圧が高い場合に電流リファレンス方式のスイッチング・レギュレータのピンの電圧が絶対最大定格を下回るようにする方法も紹介しました。










