1個のインダクタを使うだけで、複数種の電源電圧を出力できる昇降圧コンバータIC

1個のインダクタを使うだけで、複数種の電源電圧を出力できる昇降圧コンバータIC

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Frederik Dostal

Frederik Dostal

はじめに

通常、今日の電子回路では複数種の異なる電源電圧が使われます。そして、各電源電圧は、それぞれの条件に応じた適切なアーキテクチャのレギュレータ回路によって生成しなければなりません。実際の電子回路では、スイッチング方式のDC/DCコンバータを複数用意することによって要件を満たすことになるでしょう。この設計方法では、各DC/DCコンバータに対して1個のインダクタを用意することになります。一方、最終製品では、プリント基板の面積をできるだけ小さくすることが求められます。また、実装に伴うコストをできる限り少なく抑えることも重要です。これらの課題を解決するための有効な手段が集積化です。リニア・レギュレータも含めて、DC/DCコンバータを実現するために必要な回路をチップ上に集積すれば、消費電力を抑えつつ、実装面積や実装コストを削減することができます。集積化を活用すれば、1つの入力と1つの出力を備えるDC/DCコンバータだけでなく、様々な形態の製品を実現することが可能です。実際、集積度を高めることによって非常に多くの機能を搭載した様々なDC/DCコンバータICが製品化されています。そうしたICは、パワー・マネージメントIC(PMIC:Power Management IC)とも呼ばれています。図1に示した「ADP5014」は、そうしたDC/DCコンバータICの一例です。

図1. ADP5014のアプリケーション回路(概念図)。同製品は集積度の高いDC/DCコンバータICの一例です。1つの入力電圧を基に、最大4種の出力電圧を生成することができます。
図1. ADP5014のアプリケーション回路(概念図)。同製品は集積度の高いDC/DCコンバータICの一例です。1つの入力電圧を基に、最大4種の出力電圧を生成することができます。

では、図1の回路のサイズを更に縮小する方法は存在しないのでしょうか。実は、インダクタをパッケージ内に収めれば、更なる小型化を図ることができます。そのような製品の例が「LTM4668」です(図2)。このDC/DCコンバータICも4つのチャンネルを備えています。図1の例との大きな相違は、一般的にサイズ上の制約になると見なされるインダクタをパッケージ内に収容している点にあります。このことは、外付け部品の数の削減という面でも有利に働きます。

図2. LTM4668のアプリケーション回路(概念図)。この製品は各出力に対応するインダクタをパッケージ内に収容しています。そのため、非常にコンパクトなソリューションとなります。
図2. LTM4668のアプリケーション回路(概念図)。この製品は各出力に対応するインダクタをパッケージ内に収容しています。そのため、非常にコンパクトなソリューションとなります。

この製品ファミリ(LTMモジュール)を採用すれば、高い電力密度、卓越したEMC(電磁両立性)性能、非常に優れた堅牢性を得ることができます。但し、図1のように外付け部品を使用するソリューションと比べてコストが高くなる可能性があります。

最後に紹介するのが、本稿の主題であるSIMO(Single-inductor Multiple Output)コンバータです(図3)。このソリューションには図1のソリューションと似た面がありますが、1個のインダクタを使用するだけで複数種の出力電圧を得ることができます。SIMOコンバータでは、エネルギー蓄積素子(電流蓄積素子)として使用する1個のインダクタを全チャンネルで共有します。その動作/機能については、多くの異なるバージョンが考えられます。例えば、あるタイミングでインダクタに充電したエネルギーを、異なるチャンネルから分割して放電するといったことが行えます。また、別の実装を採用すれば次のような動作を実現できます。すなわち、1つのチャンネルでインダクタの充電と完全放電を実施した後、空になったそのインダクタを次のチャンネルに引き渡します。そのチャンネルで再び充放電を行い、更に次のチャンネルにインダクタを引き渡します。この動作を、全チャンネルに電力が供給されるまで繰り返すといった具合です。

SIMOコンバータは、実装方法に依存して異なる特性を示します。また、一般的には消費電力が比較的少ない用途に適していると言えます。内蔵MOSFETのサイズと1個の外付けインダクタの設計は、消費電力が少ないケースに対して最適化されています。

図3で使用している「MAX77655」はSIMOコンバータの一例です。同製品は複数のスイッチを内蔵しています。それらによって、1個のインダクタを全チャンネルで使用できるよう制御を行います。それだけでなく、入力電圧を基に、それよりも高い電圧や低い電圧を生成することができます。内蔵MOSFETを適切に駆動することによって、各動作モードを切り替えながら必要な機能を実現することが可能です。

図3に示したSIMOコンバータであれば、エネルギー蓄積素子としてわずか1個のインダクタを使うだけで複数種の電圧を効率的に生成することができます。つまり、よりコンパクトな電源アーキテクチャが実現されています。その結果、コストを低減することも可能になります。

図3. MAX77655のアプリケーション回路(概念図)。同製品はSIMOコンバータICの一例です。この1個のICと1個のインダクタを組み合わせて使用するだけで、4種の電圧を生成することができます。
図3. MAX77655のアプリケーション回路(概念図)。同製品はSIMOコンバータICの一例です。この1個のICと1個のインダクタを組み合わせて使用するだけで、4種の電圧を生成することができます。

※初出典 2023年 TECH+(マイナビニュース)