ノイズ指数の測定方法と公式

ノイズ指数の測定方法と公式

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要約

ノイズ指数を測定する3種類の方法、すなわち利得法、Y係数法、およびノイズ指数メータ法について説明します。また、この3つの手法を表で比較します。

はじめに

ワイヤレス通信システムにおいて、「ノイズ指数(NF)」または関連する「ノイズ係数(F)」は、無線レシーバの性能を規定するために使用される数値です。ノイズ指数の値が低いほど、性能が優れています。このチュートリアルでは、この重要なパラメータについてさらに詳しく解説し、3つの異なるノイズ指数の測定手順を説明します。

ノイズ指数とノイズ係数

ノイズ指数(NF)をノイズ係数(F)と呼ぶことがあります。この関係は単純なもので次のようになります。

NF = 10 × log10 (F)

定義

ノイズ指数(ノイズ係数)は、RFシステムのノイズ性能についての重要な情報を含んでいます。基本的な定義は、次のとおりです。

Equation 1

この定義から、他にも多くの一般的なノイズ指数(ノイズ係数)の式が導かれます。

以下は、標準的なRFシステムのノイズ指数の表です。
Category MAXIM Products Noise Figure* Applications Operating Frequency System Gain
LNA MAX2640 0.9dB Cellular, ISM 400MHz ~ 1500MHz 15.1dB
LNA MAX2645 HG: 2.3dB WLL 3.4GHz ~ 3.8GHz HG: 14.4dB
LG: 15.5dB WLL 3.4GHz ~ 3.8GHz LG: -9.7dB
Mixer MAX2684 13.6dB LMDS, WLL 3.4GHz ~ 3.8GHz 1dB
Mixer MAX9982 12dB Cellular, GSM 825MHz ~ 915MHz 2.0dB
Receiver System MAX2700 3.5dB ~ 19dB PCS, WLL 1.8GHz ~ 2.5GHz < 80dB
*HG = 高利得モード、LG = 低利得モード

測定方法は、各アプリケーションに応じて異なります。上の表が示すように、高利得で低ノイズ指数のアプリケーションもあれば(HGモードでの低ノイズアンプ)、低利得で高ノイズ指数のアプリケーションもあり(LGモードにおけるミキサおよびLNA)、また非常に利得が高くてノイズ指数が広範囲に及ぶものもあります(レシーバシステム)。測定方法は慎重に選ぶ必要があります。ここでは、「ノイズ指数メータ」について説明し、また「利得法」および「Y係数法」というその他2つのよく知られた方法についても説明します。

ノイズ指数メータの使用方法

図1に示すように、ノイズ指数メータ/アナライザを利用します。

図1.

図1.

ノイズ指数メータ(Agilent N8973Aノイズ指数アナライザなど)は、28VDCのパルス信号を生成してノイズ源(HP346A/B)を駆動し、これがノイズを生成して被試験デバイス(DUT)を駆動します。次に、ノイズ指数アナライザでDUTの出力を測定します。アナライザはノイズ源の入力ノイズおよび信号対ノイズ比を認識しているため、DUTのノイズ指数を内部で計算し、表示することができます。図1が示すように、アプリケーション(ミキサやレシーバ)によっては、LO信号が必要な場合もあります。また、周波数範囲やアプリケーション(アンプ/ミキサ)などの特定のパラメータは、測定の前にノイズ指数メータで設定する必要があります。

ノイズ指数メータを使用することが、ノイズ指数を測定する最も簡単な方法です。ほとんどの場合、この方法が最も正確でもあります。エンジニアは、特定の周波数範囲にわたってノイズ指数を測定することができ、またアナライザは、ノイズ指数とともにシステム利得を表示することができ、測定に役立ちます。ただし、ノイズ指数メータには限界もあります。また、アナライザにも特定の周波数範囲があります。たとえば、Agilent N8973Aは10MHz~3GHzの範囲で動作します。また、10dBを超えるような高いノイズ指数を測定するときには、結果が極めて不正確になるおそれがあります。この方法には、非常に高価な機器が必要です。

利得法

前述したように、ノイズ指数メータを直接使用する以外にも、ノイズ指数を測定するいくつかの方法があります。これらの方法では、より多くの測定と計算が必要になりますが、ある条件下では、極めて便利で正確であることがわかっています。よく使われる方法の1つは「利得法」と呼ばれるもので、先に挙げたノイズ係数の定義に基づいています。

Equation 2.

この定義では、「ノイズ」は2つの影響によって生じます。1つは、所望の信号とは異なる信号の形態でRFシステムの入力に侵入する干渉です。もう1つは、RFシステム(LNA、ミキサ、レシーバなど)内のキャリアの不規則な変動によるものです。後者の影響は、ブラウン運動の結果です。これは、熱平衡におけるいずれの電子デバイスにも当てはまり、このデバイスから得られるノイズ電力は、PNA = kTΔFになります。

ここで、

k = ボルツマン定数(1.38 × 10-23ジュール/ΔK)
T = 絶対温度(ケルビン)
ΔF = ノイズ帯域幅(Hz)

室温(290ΔK)におけるノイズ電力密度PNAD = -174dBm/Hzです。

したがって、以下の式が成り立ちます。

NF = PNOUT - (-174dBm/Hz + 10 × log10(BW) + Gain)

この式で、PNOUTは測定した出力ノイズの総電力です。-174dBm/Hzは、290°Kの周囲ノイズのノイズ密度です。BWは、対象の周波数範囲の帯域幅です。Gainはシステム利得です。NFはDUTのノイズ指数です。式の項はすべて対数尺度です。この式をより単純にするため、出力ノイズ電力密度(dBm/Hz)を直接測定すると、式は次のようになります。

NF = PNOUTD + 174dBm/Hz - Gain

「利得法」を用いてノイズ指数を測定するには、DUTの利得をあらかじめ求めておく必要があります。次に、DUTの入力を、特性インピーダンス(大部分のRFアプリケーションでは50Ω、ビデオ/ケーブルのアプリケーションでは75Ω)を用いて終端処理します。次に、出力ノイズ電力密度をスペクトルアナライザで測定します。

「利得法」の場合のセットアップを図2に示します。

図2.

図2.

例として、MAX2700のノイズ指数を測定しています。指定のLNA利得の設定値とVAGCにて、利得を測定すると80dBになります。次に、上図のようにデバイスを設定し、50Ωの終端抵抗でRF入力を終端処理します。これで出力ノイズ密度は-90dBm/Hzになります。ノイズ密度の読み取り値を正確で安定したものにするためのRBW (分解能帯域幅)とVBW (ビデオ帯域幅)の最適比率はRBW / VBW = 0.3です。これによって、NFを計算すると次のようになります。

-90dBm/Hz + 174dBm/Hz - 80dB = 4.0dB

「利得法」は、スペクトルアナライザが許容する限り、いずれの周波数範囲にも対応します。最も大きな制限は、スペクトルアナライザのノイズフロアによるものです。式が示すとおり、ノイズ指数が低い場合(10dB以下)、(POUTD - 利得)は-170dBm/Hzに近づきます。通常のLNA利得は約20dBです。この場合、-150dBm/Hzのノイズ電圧密度を測定する必要があり、これは、大部分のスペクトルアナライザのノイズフロアより低くなります。ここでの例では、システム利得が非常に高いため、たいていのスペクトルアナライザは正確にノイズ指数を測定することができます。同様に、DUTのノイズ指数が非常に高い場合にも(たとえば30dBを超える場合)、この方法は非常に正確なものとなります。

Y係数法

Y係数法もまた、ノイズ指数を測定するよく知られた方法です。Y係数法を使用するには、ENR (過剰ノイズ比)源が必要です。これは、「ノイズ指数メータ」の項で述べたノイズ源と同じものです。このセットアップを図3に示します。

図3.

図3.

ENRのヘッドは通常、高DC電圧の供給を必要とします。たとえば、HP346A/Bノイズ源では28VDCが必要です。これらのENRヘッドの働きは極めて広い帯域(例:HP346A/Bの場合、10MHz~18GHz)にわたり、また特定の周波数においてそれ自身の標準的なノイズ指数パラメータを備えています。例を以下の表で示します。各項目の周波数におけるノイズ指数は推定によるものです。

表1. ノイズヘッドのENRの例

HP346A HP346B
Frequency (Hz) NF (dB) NF (dB)
1G 5.39 15.05
2G 5.28 15.01
3G 5.11 14.86
4G 5.07 14.82
5G 5.07 14.81

エンジニアは、ノイズ源のオン/オフを切り替えて(DC電圧のオン/オフによる)、スペクトルアナライザで出力ノイズ電力密度の変化を測定します。ノイズ指数を計算する公式は、次のとおりです。

Equation 3

ここで、ENRは、上表で与えられた数値です。これは、通常、ENRヘッド上に表示されています。Yは、ノイズ源がオンの場合とオフの場合の出力ノイズ電力密度の差です。

この式は、以下によって得られます。

ENRノイズヘッドは、2つの「ノイズ温度」でノイズ源を提供します。高温のT = TH (DC電圧が印可されているとき)および低温のT = 290°Kです。ノイズヘッドのENRの定義は、次のとおりです。

Equation 4.

過剰ノイズは、ノイズを発するダイオードをバイアスすることで得ています。ここで、低温のT = 290°K、続いて高温のT = THを入力として加えることによって、アンプ(DUT)から出力される電力比について考えてみましょう。

Y = G(Th + Tn) / G(290 + Tn) = (Th/290 + Tn/290) / (1 + Tn/290)

これはY係数であり、この方法の名前はこれに由来します。

ノイズ指数の観点から、F = Tn/290 + 1で、Fはノイズ係数です(NF = 10 × log(F))。これによって、Y = ENR / F + 1となります。この式では、すべてが線形であり、ここから上式が得られます。

Y係数法を用いたノイズ指数の測定例として、再度MAX2700を使用してみましょう。このセットアップは上の図3に示しています。HP346A ENRノイズヘッドをRF入力に接続します。28V DCの電源電圧をノイズヘッドに接続します。これで、スペクトルアナライザ上で出力ノイズ密度を監視することができます。DC電源を切断してから再度投入することによって、ノイズ密度は-90dBm/Hzから-87dBm/Hzに増加しました。したがってY = 3dBとなります。ここでも、ノイズ密度の読み取り値を正確で安定したものにするため、RBW/VBWを0.3に設定します。表1から、2GHzで、ENR = 5.28dBとなります。これによってNFを計算すると、5.3dBが得られます。

まとめ

ここでは、RFデバイスのノイズ指数を測定する3つの方法について説明しました。これらの方法のそれぞれに長所と短所があり、適するアプリケーションも異なります。以下に長所と短所をまとめた表を掲載します。理論的には、同じRFデバイスの測定結果は同じになるはずですが、RF機器の制限(可用性、精度、周波数範囲、ノイズフロアなど)があるため、最適な方法を慎重に選んで正しい結果を得る必要があります。


適するアプリケーション 長所 短所
ノイズ指数メータ法 超低N
便利。超低NF (0~2dB)を測定するときに非常に正確 機器が高価。周波数範囲が限定される
利得法 利得またはNFが非常に高い セットアップが簡単。非常に高いNFを測定するときでも極めて正確。あらゆる周波数範囲に最適 スペクトルアナライザのノイズフロアによって制限される。低利得で低NFのシステムには対処できない。
Y係数法 NFが広範囲 利得に関係なく、あらゆる周波数で広範囲のNFを測定可能 非常に高いNFを測定するときに誤差が大きくなる可能性がある