要約
このアプリケーションノートでは、システムの他の部分に接続するスイッチおよびマルチプレクサにおける過電圧保護の必要性について考察します。MAX4711/MAX4712/MAX4713アナログスイッチは、フォルト保護を内蔵しており2.7V~11Vで動作します。その他のフォルト保護の方法について、それぞれの利点および不利点とともに考察します。
現行のシステムの標準電源電圧(ユニポーラでは3.3Vまたは5V、バイポーラでは±3.3Vまたは±5V)は通常、基板上で使用可能な最も高い電圧です。基板の入力端子は、電源電圧より高い電圧にさらされる場合があります。基板への電力がオフのとき、電圧が入力端子に残っている場合があります。過電圧によって影響を受ける最初の素子は、多くの場合、マルチプレクサまたはスイッチであるため、これらが下流回路を保護する必要があります。
アナログスイッチのパス素子は、1つ以上のMOSFETを内蔵し、ESD保護のために電源電圧に対する寄生クランプダイオードを備えています。図1は、閉アナログスイッチ用の等価回路図を示しています。V+とV-が存在し、入力電圧がそれらのレイルをクランプダイオードの順方向バイアス電圧(0.6V、typ)より上回らない限り、ダイオードは逆バイアスされ、電流は流れません。
図1. 閉スイッチ用の等価回路図。
不適切な電源電圧シーケンシングが過電圧フォルトを引き起こす可能性があるため、多くのスイッチは最も正の電圧が最初に印加され、最も負が最後に印加される必要があります。電源オフ時の入力電圧や電源電圧を上回る入力電圧によって、電流がクランプダイオードを流れます。これらのダイオードは、電力損失による発熱がスイッチを永久的に損傷する前に、わずか数ミリワット(ICの半導体プロセスによって異なる)しか処理することができません。
より低い電流レベルが、ラッチアップ、すなわちスイッチが機能せず、電源から過度の電流が流れる状態を引き起こす可能性があります。ほとんどの場合、すべての電圧をスイッチから取り除けば、スイッチを損傷せずにラッチアップを終了させることができます。ただし、基板は電源を一度落とすまで、正しく動作しません。
外部保護
アナログスイッチをラッチアップから保護する簡単な方式(図2)は、0.3V (max)の低い順方向バイアス電圧を持つ大電流ショットキーダイオードを追加する方法です。入力電圧が電源電圧を上回ると、標準順方向バイアス電圧0.6Vのクランプダイオードを電流が流れないように、この低いショットキー電圧が保証します。
図2. 外付けショットキーダイオードによるラッチアップ保護。
結果として得られるラッチアップのない回路には、(2つの保護ダイオードの追加コストのほかに) 1つの不利点があります。ショットキーダイオードは、電源電圧より最低0.3V高いすべての電圧を通します。電源電圧が不在(V+とV-がグランドレベル)で、V+とV-に接続された各素子の入力電圧が絶対最大定格より低く維持されている場合は、この動作は問題となりません。
しかし、この回路は過電圧に対する保護を提供しません。たとえば、V+ = 5Vで、スイッチ入力上のフォルト電圧が8Vである場合、V+は約7.7Vにプルされます。これはV+に接続された大部分のディジタル素子にとって高すぎる値です。V+がスイッチのみに給電され、スイッチがフォルトに耐える場合でも、高電圧は閉スイッチを通って、下流素子を損傷する可能性があります。マルチ入力スイッチは、各入力とV+間にショットキーダイオードを必要とするため、コストと基板面積もさらに追加されます。
図3の回路は、スイッチへの電源電圧が存在しないとき入力電圧が常にオフであるアプリケーションに良好な過電圧保護を提供します。順方向バイアス電圧VD (通常のシリコンダイオードの場合)は通常、0.7Vで、そのため、ツェナー電圧Vz1はVD + Vz1 < V+を満たすように選択される必要があります。同じことは、負レイルとVz2にも当てはまり、|VD + Vz2| < |V-|となります。これらのダイオード(ツェナーと標準シリコンタイプ)の最大電圧定格は、最大許容フォルト電圧に応じて選択される必要があります。
図3. 外付けダイオードによる過電圧保護。
連続的な過電圧フォルト(スパイクではない)の場合、グランドとツェナーダイオード接続の間に配置された抵抗によって、ダイオードを通る電流が制限されます。このような保護の最大の不利点は、スイッチの入力電圧範囲に対する制限です。ダイオードはバイアス電圧が非常に異なるため、ダイオードネットワークの最小/最大制限値も非常に異なります。ネットワークがワーストケース制限に合わせてサイズ設計されている場合、ダイオード電流は電源電圧よりはるかに低い電圧で流れるため、スイッチのレイルトゥレイル特性がなくなります。
入力チャネルと直列の抵抗(kΩ範囲)も、スイッチ内のクランプダイオードを流れるフォルト電流を制限することによって、いくらかの保護を提供することができます。ただし、過電圧は依然としてスイッチから下流の素子を損傷する可能性があります。この抵抗はスイッチのオン抵抗を劇的に増大させます。温度におけるこの抵抗のあらゆる変化は、増大したオン抵抗を流れるスイッチからのリーク電流と同様、信号品質を破壊する可能性があります。
内部保護
アナログスイッチを使用したフォルト保護を集積した最初の方式は、nチャネル/pチャネル/nチャネルの順に3つのMOSFETを直列に構成したパス素子タイプのマルチプレクサでした。このアーキテクチャは、最大±100Vまでのあらゆる信号経路を保護します(図4)。マルチプレクサは、電源電圧を上回る入力電圧のときオン抵抗が急激に増大しますが、入力電流を制限することによって、それ自身(およびマルチプレクサの前後の素子)を保護します。フォルト電流を制限すると、フォルトが別のチャネルに結合するのが阻止されます。
図4. オン抵抗 対 信号電圧:古いフォルト保護スイッチの場合
直列MOSFET方式は、電源が存在しない場合も保護を提供します。一方、MAX388またはHI-509Aなどの古い製品は、±4.5~±18Vの範囲のみで動作し、大型パッケージで提供され、高オン抵抗(350Ω min、3.5kΩ max)を備えており、電源電圧より~2V下回らない入力信号電圧は通すことができません。
9V~36Vまたは±4.5~±20Vの範囲で動作するデバイスのこれらの問題に対処する最初のステップは、新しいスイッチアーキテクチャの開発であり、低電圧フォルト保護として以下に説明するアーキテクチャに類似したものでした。この新しい方式は、レイルトゥレイル動作と低オン抵抗を可能にすることによって、3FET直列技術よりも大きな進歩を遂げています。内部回路は、フォルトを検出すると、スイッチをオフにするため、このフォルトがスイッチやマルチプレクサを通って他の回路に達するのを阻止します。
フォルト状態時、リーク電流のみがスイッチまたはマルチプレクサを流れるため、チップは電力損失によって破損する可能性はありません。先行の3FET方式と同様、この新しいプロセスとアーキテクチャで構築されたスイッチやマルチプレクサは、ハイインピーダンス状態に戻ることによって、電力がオフのときのフォルト問題を解消します。このような製品(スイッチのMAX4511やマルチプレクサファミリのMAX4508など)は、±40Vに対するフォルト保護を必要とする高電圧システムに適しています。しかし、一般的な3Vおよび5Vシステムには適していません。上記の製品は、この電圧範囲に対して規定されておらず、5V電源でのRDS(ON)は数千Ωの単位で測定されると考えられます。
低電圧フォルト保護
最新のフォルト保護スイッチファミリの製品は、ユニポーラ3.3Vまたは5V電源、あるいはバイポーラの±3.3Vまたは±5V電源での動作用に最適化されています。これらは、外部保護が不要で、30Ω (±5V電源)または100Ω (+3V電源)の低い最大オン抵抗を備えています。
図5に示すように、これらのスイッチはnチャネルFET (N1)とpチャネルFET (P1)を並列して構成され、入力と出力間に低値の抵抗を形成しています。電源レイル以内、またはレイルをわずか150mV上回る入力信号は、COM端子へのスイッチを通るため、レイルトゥレイル動作が可能になります。
図5. 低電圧フォルト保護スイッチのブロック図
2つのコンパレータは、入力電圧を電源電圧V+およびV-と連続的に比較することによって監視します。NO (ノーマリオープン)またはNC (ノーマリクローズ)上の信号がV+とV-間にある場合、スイッチは普通に動作します。この信号が電源レイルを約150mV上回る(フォルト状態)と、出力電圧(COM)は同じ極性の電源電圧に制限されると共に、入力はハイインピーダンスを保ちます。このアクションは、フォルトコンパレータによって実行され、N1とP1をオフにします。これらは、次のように、クランプFET N2およびP2も制御します。スイッチが負フォルトより先に閉じている場合、N2はCOMをV-に接続します。正フォルトより先に閉じている場合、P2はCOMをV+に接続します。スイッチがフォルトより先に開いた場合、出力はハイインピーダンスを前提とします。
フォルト時、入力はスイッチの状態や負荷抵抗に関係なく、ハイインピーダンスを前提とします。入力上の最大フォルト電圧は、スイッチの絶対最大定格によって制限され、MAX4711ファミリの場合は±12Vです。たとえば、MAX4711が+5V電源を持つ場合、正レイル上で最大+12Vのフォルト電圧、負レイル上で-7Vに対して保護されます(5V +|-7V| = 12V)。このデバイスは、電源電圧が存在しないとき入力ピン(NOおよびNC)にフォルト保護を提供し、オフの場合には保護はさらに良好になります。この場合、フォルト電圧はいずれのレイルも±12V近くになります。
ロジック入力(IN)は、最大(V-)+12Vの正フォルトに対して保護されますが、負フォルトは1ダイオードドロップ分だけ負電源を上回ることができます。出力端子(COM)はフォルト保護されておらず、COM電圧はいずれの電源電圧も0.3V以上超えることはできません(上述)。
図6は、両極の入力フォルト時における閉フォルト保護スイッチの出力電圧を示しています。通常、入力電圧がV+ (またはV-)を約150mV上回った状態がの200ns続いたあと、出力(COM)は正(または負)電源電圧 – FETによる1ドロップ電圧と等しくなります。入力フォルトが電源レイル以内に戻ると、出力が回復して入力の続行を再開するまで700ns (typ)の遅延が経過します。この遅延は、COM出力の抵抗と容量によって決まり、フォルトの振幅に依存しません。COMにおける抵抗と容量が高くなるほど、回復時間が増大します。
図6. フォルト状態時の入力 対 出力電圧。
アプリケーション
低電圧のフォルト保護スイッチは当然、ATEや工業機器のアナログ入力を保護する際に使用されますが、他の多くのアプリケーションにおける設計作業やスペース要件もこれらのデバイスによって容易になります。
たとえば、ラック内機器のパワーダウンを回避するため、多くのアプリケーションは拡張ボードを電源がON状態のバックプレーンに差し込む能力を必要とします。MAX4271などのホットスワップコントローラがカードの突入電流を制限するために使用可能ですが、その信号ラインは容易に保護されません。たとえば、カードを5V TTL経由で通信するデータバスのバックプレーンに差し込むと、電源電圧が印加される前に、ディジタルIC (マイクロコントローラ、ASICなど)の入力には5Vが印加されます。上述したように、この状態によってラッチアップが発生したり、ボードが損傷したりする可能性があります。
敏感な素子とバックプレーン接続間の低電圧のフォルト保護スイッチ(図7)によって、必要とする過電圧保護が提供されます。これらのスイッチは、カードの電源電圧が供給され、バックプレーンへのスイッチ接続を閉じるまで、各COM出力をハイインピーダンス状態に維持します。スイッチの保護された(NO)入力は、バックプレーンに接続され、電源がオフの間±12Vの保護を提供します。また、電源電圧が存在するときはカードをバックブレーンからの過電圧に対して保護します。さまざまなベンダーの人気あるロジックバススイッチでは、このような保護を提供していないことに注意してください。それらのスイッチは、標準CMOS素子より高いラッチアップ電流の許容値を備えていますが、連続的な過電圧に耐えません。
図7. ホットスワップバックプレーン信号。
図8の低電圧フォルト保護スイッチは、ACアダプタ(PS)などの外部電源を検出すると、9Vバッテリ(または2つの直列リチウムコイン電池など)からの内部電源を切断します。通常、このスイッチはピン13でバッテリによって給電されます。外部電源が接続されると、低電圧ショットキーダイオードが再充電不可バッテリの充電を阻止します。
図8. 外部電源が存在するときのバッテリ切断。
ピン10のスイッチがVCCを取り出します。これは大部分のアプリケーションでこのスイッチの後の電圧レギュレータによってレギュレートされます。ボードが外部電源電圧を検出するとすぐに、マイクロコントローラがスイッチ1と4を閉じ、スイッチ3を開きます。出力コンデンサCは、スイッチ3からスイッチ4への遷移時にシステム電力を供給します。バッテリを損傷から保護するために、スイッチ4が閉じているとき、スイッチ3は常に開いている必要があります。外部電源が取り除かれると、スイッチ4と1が開き、スイッチ3は閉じます。外部電源がバッテリ電圧より高いとき、バッテリが放電され外部電圧が接続されているとき、あるいはCが充電されバッテリが取り外されたとき、フォルト保護入力はこのスイッチを保護します。
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