多様なシステムを監視/制御する際には、できれば中心的な拠点からSPI(Serial Peripheral Interface)のような標準的な通信手段を用いてセンサーやアクチュエータに直接アクセスできるようにすべきです。SPIは、同期式のシリアル・データ・バスです。これを利用すれば、センサーなどのデバイスと中央の制御ユニットの間で長距離のデータ交換を容易に行うことができます。SPIは、マスタ/スレーブ方式による全二重通信を採用しています。SDI、SDO、SCKの3つの信号線で構成されます。
一般に、SPIは約10mまでの通信に適しています。それよりも長い距離になると、長いケーブルの抵抗成分が増加し、信号の減衰が生じるため、リピータが必要になることが少なくありません。それにより、信号を再び増幅するということです。また、リピータを適用すれば、S/N比も向上します。このような用途に使用できるのがアナログ・デバイセズの「LTC6820」です。これは、isoSPIに対応する通信インターフェースICです。
ツイスト・ペア・ケーブルと適切なトランスを使ったガルバニック絶縁にLTC6820を組み合わせれば、比較的容易に絶縁型のSPI通信を実現できます。
産業分野では、厳しい環境下でシステムを運用しなければならないことが少なくありません。システムの信頼性を保証するだけでなく、危険な電圧から人を保護するために、ガルバニック絶縁に対応する通信用のコンポーネントが必要になることがよくあります。絶縁を施せば、安全性が高まるだけでなく、コモンモード電圧が発生した場合でも、正確な計測を行えるようになります。絶縁バリアによって、システムの入力段を残りの部分から物理的に切り離しつつ、接続自体は保たれている状態を実現する上では、LTC6820のようなICが重要な要素となります。
図1は、1つのマスタによってすべてのスレーブを制御する方法を示したものです。マスタとスレーブの具体的な例としては、SPIに対応するマイクロコントローラやA/Dコンバータなどが考えられます。LTC6820は、ガルバニック絶縁が施された2つのデバイス間における双方向のSPI通信を実現します。マスタからのSPI信号は、最高1Mbpsの差動信号に符号化され、絶縁バリアとツイスト・ペア・ケーブルを介して送信されます。ケーブルの反対側では、別のLTC6820によって差動信号を受信します。その際、SPI信号への復号化が行われ、スレーブのバスに転送されます。また、LTC6820は、絶縁バリアを越えて信号を駆動するために必要な電流を供給します。電流の値は、外付けの抵抗を使用し、ケーブル長、S/N比、イミュニティといったシステムの条件に応じて調整することができます。
但し、SPI通信にリピータを適用した場合でも、データ・レートは制限されます。データ・レートはケーブル長に依存して決まることに注意してください。例えば、図1の例では、長さが100mに及ぶCAT5のケーブルを使っているとします。その場合、回路のデータ・レートは、約0.5Mbpsにとどまります。LTC6820は1Mbpsに対応できますが、実際のデータ・レートはその半分にしか達しないということです(図2)。
isoSPIに対応する通信用のICを使用することにより、従来の回路で使用していた数多くのコンポーネントが不要になります。長距離にわたる絶縁型のSPI通信を実現するために必要だった複雑な回路が簡素化されるということです。また、LTC6820は、産業環境でよく使われる最高100mの通信距離にも対応できます。加えて、LTC6820を使えば、1つのマスタが複数のスレーブを制御するデイジーチェーン接続のアプリケーションを容易に実現することが可能になります。例えば、リチウム・イオン・バッテリでは、発火などの可能性を完全に排除することはできません。そのため、充電ユニットには、ガルバニック絶縁を適用した通信機能が求められます。LTC6820は、そうしたバッテリ監視システムにとって理想的なデバイスだと言えます。