低電力ソーラー・パネルを使用したエナジー・ハーベスト

低電力ソーラー・パネルを使用したエナジー・ハーベスト

著者の連絡先情報

Generic_Author_image

Trevor Barcelo

世界的なエネルギー需要の高まりによって石油価格の高騰が続く中、あらゆる分野の設計エンジニアが「無料」エネルギーの活用に取り組んでいます。中でも太陽電池は、最も一般的な代替エネルギーの供給方法であり、太陽光からできる限り多くのエネルギーを引き出す最大電力点追従(MPPT: Maximum Power Point Tracking)アルゴリズムに関しては、おびただしい数の文献が発表され、研究が行われています。しかし、この手法はあまりに複雑かつ高価で、過大なエネルギーを必要とすることから、率直なところ低電力ソーラー・アプリケーションに対して、あまり有効な手法とは言えません。

ここで、必要な電源レールが3.3Vで、平均電力がわずか数十マイクロワット、ピーク電力が数十ミリワットというアプリケーションを考えてみましょう。このようなアプリケーションには、間欠的に動作するリモート・ワイヤレス・センサーやホテルのドア・ロック、工業用制御デバイスなどがあります。設計においては、エナジー・ハーベスト・デバイス(ソーラー・パネル)、エナジー貯蔵デバイス(バッテリ)、バッテリ・チャージャ、電圧コンバータが検討されます。

図1. エナジー・ハーベストでのバッテリ・チャージャ

図1. エナジー・ハーベストでのバッテリ・チャージャ

G24i (www.g24i.com)、IXYS(www.ixys.com)、パナソニックのAmortonシリーズなど、多くのメーカーが低電力太陽電池デバイスを製造していますが、筆者はG24i製品を使用した経験があるため、ここではその色素増感型の太陽電池モジュールに焦点をあてます。屋内アプリケーション向けに設計されたIndy4050は、面積が3050mm2の場合、200ルクス時の出力は90mW、1000ルクス時は465mWです。ちなみに、オフィスの標準的な照明は320~500ルクスです。もう1つ、小電力アプリケーションで重要な仕様は、最大電力時の出力電圧(VMP)です。Indy4050のVMPは、200ルクス時に1.8V、1000ルクス時に2.0Vです。2つのモジュールを直列に接続した場合、その最大電力時電圧は、シングルセルのリチウムイオン・バッテリの電圧とほぼ一致します。

(物理的サイズと容量の両面で)小型のリチウムポリマ・バッテリは、多くのメーカーから入手できます。筆者は、www.batteryspace.comwww.gmbattery.com、およびwww.powerstream.comからバッテリを購入しましたが、これ以外のメーカーも多数あります。以下では、PowerStreamのPGEB016144 3.7V/200mAhバッテリを例に説明します。このバッテリは740mWhの容量があるため、平均で数百マイクロワットの負荷に数千時間の給電が可能です。そのため、ソーラー・パネルは十分な余裕をもってバッテリを再充電することができます。サイズはわずか1mm×44mm×61mmです。更に、2つのG24iソーラー・モジュールを直列接続した場合の最大電力時電圧は3.6V~4.0Vで、バッテリの充電に必要な電圧と同等です。

このソリューションは、そのままで充分優れているように見えますが、パワー・マネージメントに関して重要な問題がいくつか残されています。2つのモジュールの開放回路電圧は、1000ルクス時で約5Vで、これはバッテリが損傷するほどの大きさです。更に、変動するバッテリ電圧を3.3Vにレギュレーションする必要もあります。ソーラー・パネルから得られる低い電力と、バッテリによって供給される貯蔵エネルギー量を考慮すると、その他のパワー・マネージメント機能による自己消費電流をできるだけ少なくすることが重要です。

リニアテクノロジーのLTC4071シャント・バッテリ・チャージャ・システムおよびLTC3388高効率ナノパワー降圧レギュレータは、これらの条件を確実に満たします。最終的なアプリケーション回路図については、図2を参照してください。バッテリ電圧が3.7V、電源が3.3Vで無負荷の場合、LTC4071とLTC3388を合わせた自己消費電流はわずか1.2µAです。太陽電池で生成された電子はすべて、実質的にバッテリに貯蔵されることになります。

図2. LTC4071とLTC3388を使ったエナジー・ハーベスト・システム

図2. LTC4071とLTC3388を使ったエナジー・ハーベスト・システム

筆者は、この構成をLTC3388なしで2日間あまり厳しい条件下で動作させて性能を検証しました。LTC3388の代わりに、バッテリに直接4kΩの負荷(1mA弱、すなわち4mW弱)をかけ、この装置を屋外に置きました。52時間のテスト期間中、ずっと雨が降り続いていました(時折、止んでも日照は全くなし)。このような悪条件下でも、バッテリが実効的に充電されることは明らかでした。更に実験と最適化を重ねれば、この約4mWの定負荷アプリケーションは、より小型のソーラー・モジュールで給電でき、より小さいバッテリ容量で可能なことは間違いありません。以下に、実験データを示します(実験中、精巧な自動データ・アクイジション・システムは使用せず、手作業で何点か測定を行いました)。

図3. バッテリの充電

では、この実験は、なぜ52時間しか行われなかったのでしょうか。それは、重窃盗被害にあったためです(「重」の法的な定義には合わないかもしれませんが、筆者の心情としては「重」でした)。週末、筆者はこの装置を無防備な状態で目立つ場所に置いておきました。すると月曜の朝、この装置は跡形もなく消えていたのです。以上の検証をまとめると、次のようになります。太陽光から電気への変換効率は非常に低いものですが(これについて筆者は何もできません)、変換後には、低電力太陽電池製品は極めて高い効率で使用することができます。重要なのは、使用するICの数をできる限り減らし、それらのICができるだけ少ない電子で動作するようにすることです。もう1点、重要なのは、ソーラー・パネルとエネルギー貯蔵素子との調整です。エネルギー貯蔵素子によって、ソーラー・パネルが常に最大出力時電圧またはその付近で動作するようにできれば、複雑なMPPTアルゴリズムは不要となります。