スペクトラム拡散によるクロック生成

2005年10月03日
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要約

電子システムの設計者にとって、電磁障害(EMI)の低減は、今もなお設計上の重要な課題です。スペクトラム拡散クロック(CLK)は、このEMIを低減する効率的な方法です。このアプリケーションノートでは、スペクトラム拡散CLKの定義方法について説明し、EMIの抑制を概算するための簡単な式を紹介します。この式は、マキシムのクロック(CLK)生成チップMAX9492で生成したデータを用いて検証しています。

ディジタル信号には2つの主要な形態があります。ディジタルデータとディジタルクロック(CLK)です。

ディジタル信号は、今日のディジタル電子製品における主要な信号形態です。通常、ディジタル信号はCMOSやTTLなどシングルエンドの信号方式のフォーマットで生成されます。ディジタルデータ信号は、パルス幅の異なる一連のパルスと捉えることができるのに対し、通常、CLK信号は同じパルス幅の方形パルスが連続しています。

ディジタルデータ信号とCLK信号のどちらの周波数成分にも高次の高調波が含まれています。信号そのものおよび高調波がともに、電子システム内や電子システム間で電磁障害(EMI)を引き起こします。EMIを低減する簡単かつ効率的な方法は、CLK周波数[1、2]にディザを加えることです。このアプリケーションノートでは、スペクトラム拡散CLK (MAX9492)について紹介し、CLK用に規定されたパラメータを使用してEMIの低減量の迅速な計算を提供します。

スペクトラム拡散CLK:定義および測定

CLK周波数をディザリングすることによってスペクトラム拡散CLKを生成するということは、見かけ程簡単ではありません。ここでは、スペクトラム拡散CLKを構成するパラメータの定義から始めます。パラメータとは、拡散率、拡散様式、変調速度、および変調波形です。拡散率は、元のCLK周波数fCに対するディザリング(すなわち拡散)周波数の幅の割合です。拡散様式には、ダウン拡散、センター拡散、アップ拡散があります。拡散周波数の幅をΔfと仮定した場合、拡散率δは次式で定義されます:

ダウン拡散:δ = -Δf/fC × 100%

センター拡散:δ = ±1/2Δf/fC × 100%

アップ拡散:δ = Δf/fC × 100%

変調速度fmは、CLK周波数の拡散サイクルレートを求めるために使用するもので、CLK周波数がΔfを介して変化し、元の周波数に戻るまでの時間です。変調波形は、時間に関するCLK周波数の変動曲線を描いたもので、ほとんどの場合のこぎり波で表されます。図1は、変調波形を示し、その変調波形とδおよびfmとの関係を示しています。

図1. スペクトラム拡散CLKの周波数プロファイル
図1. スペクトラム拡散CLKの周波数プロファイル

CLKスペクトルをより平坦化するには、「Hershey Kiss™」という名前の特別な曲線を変調波形として使用します(図2)。

図2. 「Hershey Kiss」変調波形
図2. 「Hershey Kiss」変調波形

図1または図2に示した波形によるCLK拡散では、拡散幅の電力密度は一様になります。図3は、周波数拡散を行った場合と行わない場合の、MAX9492のCLKスペクトルの曲線を示しています。この場合、拡散率δは、ダウン拡散の-2.5%です。変調速度fmは30kHz、CLK標準周波数fCは133.33MHzです。このスペクトルプロットは、Rohde & Schwarzスペクトルアナライザを使用し、100kHzの分解能帯域幅と10Hzの掃引速度にて測定しました。グラフが示すとおり、スペクトルのピークは約13dB低減し、同様の減衰がfCの高調波でも起こります。これは、スペクトラム拡散CLKによって、スペクトルのピークにてEMIを13dB低減可能であることを示しています。

図3. 拡散のある場合とない場合のMAX9492のCLKスペクトル
図3. 拡散のある場合とない場合のMAX9492のCLKスペクトル

EMI低減レベルのおよその概算

設計者は、EMIの抑制がどの程度スペクトラム拡散CLKのパラメータに関連するのかをよく質問します。この関連性を調べるために、まず拡散CLKのスペクトルを計算します。上記の定義から、信号スペクトルとは、周波数に関する電力密度です。分析を簡単にするため、CLK信号の基本波のみを対象とします。非拡散CLKの場合、信号は次のように表すことができます。

Eqn01

また、拡散CLKの場合は、次のように表すことができます。

Eqn02

ここで、Eqn03は変調波形です。非拡散CLKのスペクトルは、以下の振幅を備えた周波数fCにおけるスペクトルラインです。

Eqn04

このスペクトルはスペクトルラインであるため、その振幅はスペクトルアナライザの分解能帯域幅Bには依存しません。ただし、拡散CLKのスペクトル振幅は、分解能帯域幅Bに依存します。拡散CLKの電力は、幅がΔfの周波数帯域にて、ほぼ一様に拡散しているため、スペクトルアナライザの分解能帯域幅Bで測定した概算電力は、次のようになります。

Eqn05

したがって、EMI低減レートSは、次式で表すことができます:

EMI抑制レート(dB) Eqn06 (1)

スペクトラム拡散CLKのパラメータ(拡散率δ、CLK周波数fC、および変調様式)を再び引用すると、Sは以下の方法で計算することができます:

ダウン拡散またはアップ拡散:Eqn07 (2a)

センター拡散:Eqn08 (2b)

EMI抑制レートSは、fSW << fm << fC、fSWはスペクトルアナライザの掃引速度)である限り、変調速度fmには無関係であることがわかります。

例として、MAX9492のδとfCの値がそれぞれ-2.5%と133.3MHzとします。これらの値を(2a)式に代入すると、EMIの低減レートは、次のように計算することができます:

Eqn09

図3で測定したように、EMIのピーク低減量は12.91dBで、スペクトラム拡散の平均レベルに対するEMIの低減量は15.07dBです。一般にピーク間のEMI低減量を概算するとき、式2から得られた概算値は、スペクトラム拡散のリップルのため1dB~2dBだけ大きくなる可能性があります。ただし、ピークと平均レベルの間の低減量については、概算値は測定した低減量に極めて近くなります。

設計者は、この簡単なEMI低減量の概算法を使用することによって、電磁環境適合性の規制で要求される、所望のEMI低減レートに対する拡散率、CLK周波数、およびスペクトル分解能帯域幅を迅速に求めることができます。

参考資料
[1] アプリケーションノート1995 「民生品における放射ノイズを減少するために スプレッドスペクトラム発振器を使用
[2] Intel®社の技術仕様、"CK00 Clock Synthesizer/Driver Design Guidelines" (English only)。

HersheyおよびHershey Kissesは、Hershey Chocolate and Confectionary Corp.の商標です。

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