イーサネットPHYの選択時には、何を重視すべきなのか?

2022年02月11日
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はじめに

私たちの日常生活は、デジタル化によって支えられています。今後もあらゆる面でデジタル化が進んでいくことは間違いありません。そのためには、異なるデバイスやマシンの間で、より大量のデータを絶えず交換できるようにする必要があります。しかし、この要件は従来の通信技術では満たすことができないかもしれません。実際、産業分野ではそのような問題が顕在化しています。その問題を解決するために新たな標準として使われているのが、産業用のイーサネットです。産業用のイーサネットを採用すれば、最長100mの距離に対応しつつ、ギガビット・レベルの非常に高いデータ・レートを実現できます。また、光ファイバ・ケーブルを使用すれば、数kmにも及ぶ距離に対応して通信を行うことが可能です。

イーサネットは、IEEE 802.3で定義されているインターフェース仕様です。そして、その仕様の構成要素の1つがイーサネットのPHY層(物理層)です。イーサネットのPHY層は、データやイーサネット・フレームを送受信する役割を果たします。また、それらの機能を実現するトランシーバーICは、多くの場合イーサネットPHYという名称で製品化されています。なお、イーサネットの仕様は、OSI(Open Systems Interconnection)参照モデルのレイヤ1(PHY層)とレイヤ2(データ・リンク層)の一部に対応しています。

PHY層は、電気信号の種類、信号レート、メディアとコネクタの種類、ネットワーク・トポロジを規定します。イーサネットPHYは、表1のOSI参照モデルにおける物理層の部分に相当します。

表1. OSI参照モデル
OSIモデルのレイヤ(層) TCP/IPモデル
ホスト層 7 ¦ アプリケーション層 アプリケーション層
6 ¦ プレゼンテーション層
5 ¦ セッション層
4 ¦ トランスポート層 TCP/UDP
メディア層 3 ¦ ネットワーク層 IP
2 ¦ データ・リンク層 イーサネット MAC & LLC
1 ¦ 物理層 PHY

PHYは、物理的なインターフェースを形成します。また、デジタル・システムと信号伝送メディアの間でデータの符号化/復号化を実施する役割を担います。すなわち、インターフェースにおけるデジタル部と電気的な接続の間をつなぐブリッジとして機能します。

データ・リンク層は、メディア上における通信方法と、送受信されるメッセージのフレーム構造を定義します。つまり、ビット列からデータを抽出できるようにするために、ワイヤから得られるデータにおいて各ビットがどのように配置されているのかということを定義します。イーサネットでは、これをMAC(Media Access Control)と呼びます。MACはデータ・リンク層の中でもPHYに近接する位置に存在し、通常はコントローラまたはスイッチに実装されます。

PHYは独立したコンポーネント(ディスクリートのPHY)として提供されることもありますし、イーサネット用のコントローラが内蔵していることもあります。図1に、イーサネット用の各種コンポーネントとディスクリートのPHYで構成したシステムの例を示しました。

図1. イーサネットに接続するためのシステムの構成

ディスクリートのPHYを使用する設計を選択する場合には、いくつかの基準を考慮してPHY製品を選択する必要があります。

産業用のイーサネットPHYの選択時に考慮すべき重要な基準

産業用のアプリケーションにおいて、データの伝送は、広い温度範囲にわたり信頼性が高くフェイルセーフなものでなければなりません。ネットワークについても同じことが言えます。更に言えば、このことはすべてのコンポーネントにある程度当てはまります。


ネットワークのサイクル・タイム


ネットワークのサイクル・タイムとは、コントローラが、自身に接続されたデバイスからデータを収集し、更新するために要する時間のことです。遅延の小さいPHY製品を採用すれば、このサイクル・タイムを短縮することができます。その結果、ネットワークにおける更新時間が改善されます。このことは、タイム・クリティカルなアプリケーションにおいて特に重要な意味を持ちます。なぜなら、より多くのデバイスをネットワークに接続できるようになるからです。


干渉波に対する感受性、堅牢性


多くの産業用アプリケーションは、過酷な環境において稼働します。そして、PHYは直接または小型の磁石を介してケーブルに接続されます。そのような状況では、PHYに干渉波(放射性または伝導性)が結合することがあります。したがって、PHY製品としては、外部の支配的な要因に対する耐性を備えるものを選択しなければなりません。

PHY製品の仕様を評価する際には、各種のEMC(Electromagnetic Compatibility)規格が基準として使用されます。例えば、CISPR 32やIEC 61000-4-2/3/4/5/6といった規格です。そうした規格の認証を容易に取得するためには、堅牢性の高いPHY製品を選択すべきです。そうすれば、認証の取得に向けて、煩雑な再設計を実施しなければならないといった事態を回避できます。


損失と温度範囲


一般に、産業用アプリケーション向けのデバイスは、IP65/IP66に対応するために防塵/防水を考慮して設計されます。その結果として、電子機器を冷却するために使われるエアフローの効果が制限されてしまいます。また、産業用アプリケーション向けのデバイスは、高温にさらされることも少なくありません。更に、ライン・トポロジやリング・トポロジでは、2つのイーサネット接続を実現するために2つのPHYが必要になります。その場合、データの入出力に使われるPHYの損失は2倍になります。このような理由から、自己発熱を最小限に抑えられるように、損失の少ないPHY製品を選択しなければなりません。


アナログ・デバイセズのPHY製品


アナログ・デバイセズは、産業用イーサネット向けのポートフォリオとしてADI Chronousを提供しています。同ポートフォリオの構成要素として、堅牢性の高い産業用イーサネットPHY製品も用意しています。10Mbps/100Mbpsに対応する「ADIN1200」、10Mbps/100Mbps/1Gbpsに対応する「ADIN1300」、10BASE-T1Lに対応する「ADIN1100」といったディスクリートのPHY製品です。これらは、産業用途で求められる要件を重視して設計されています。

著者について

Thomas Brand
Thomas Brandは、2015年10月、修士論文を作成する中で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始しました。2016年5月~2017年1月、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア向けトレーニング・プログラムに参加し、その後、2017年2月よりフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての業務を開始しました。この業務において、主に産業分野の大型顧客を担当しています。更に、産業用イーサネットを専門...

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