オートゼロノイズフィルタリングは計測アンプ出力を改善する

オートゼロノイズフィルタリングは計測アンプ出力を改善する

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Maurizio Gavardoni

要約

このアプリケーションノートでは、オートゼロ、間接電流フィードバック計測アンプの出力ノイズを抑制する単純な技法を示します。設計例として、MAX4209計測アンプが示されています。

同様の記事が、EN-Genius NetworkのウェブサイトのacquisitionZONEのセクションにも掲載されています。

はじめに

計測アンプは、高コモンモード電圧が存在する状態で小さい差動信号の増幅が必要なアプリケーションで一般的に使用されています。これらのアプリケーションの一部は、超低オフセットおよびドリフト、低利得誤差、および高コモンモード除去比(CMRR)を備えた超高精度なアンプを必要とします。このアプリケーションノートでは、オートゼロ計測アンプをこれらのアプリケーションに検討するよう設計者に勧めています。

オートゼロ計測アンプは、高精度オフセット電圧、ドリフト、利得、およびCMRRを提供します。しかし、これらのアンプには、オートゼロ周波数とその倍数近傍に大きなノイズが生じる欠点があります。オートゼロ周波数は、標準計測アンプで利用可能な帯域幅外にあります。計測アンプの出力をアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)に供給する一部のアプリケーションでは、このノイズが問題となる可能性があります。

このアプリケーションノートでは、このオートゼロノイズを抑制するための単純なフィルタ技法について説明します。この技法では、新しい間接電流フィードバックアーキテクチャを備えたオートゼロ計測アンプとともに、最小限の外付け部品を使用します。

標準アプリケーションにおける計測アンプ

計測アンプを使用する重要な医療向けシステムアプリケーションの1つは、心電図(ECG)機械です。ECG装置は、複数の皮膚表面センサを用いて心拍の監視に使用されます。ECGのセンサは、対で使用され、大きなオフセット電圧が存在する状態で、数百マイクロボルトから数ミリボルト位の微小差動信号を検出します。たとえば、患者の左腕と右腕の間のオフセットを200mV位に設定可能です。このような差動AC信号は、DCコモンモード電圧を除去する計測アンプによって増幅されます。また、ハイパスフィルタリングも各センサの潜在的に異なるDC部品を除去するために実行されます。

計測アンプは、多くの場合、アンプチェーンの第1段として配置されるため、高インピーダンスと高CMRRを提供する必要があります。また、入力差動信号がミリボルト未満の範囲であるため、このアンプは標準的な0.05Hz~150Hzの帯域幅範囲の高利得を持つ必要があります。このアナログチェーン全体は、最大1000の利得を持つことができるため、(計測アンプの)第1段は20~100位の利得となり得ると予想することは妥当です。この高利得のため、十分な出力ダイナミックレンジを確保するには、入力オフセット電圧(VOS時)が低い必要があります。

隣接装置や50Hz/60Hzの電力線からのノイズ耐性は、ECG装置の基本的要件です。そのため、計測アンプが50Hz/60Hzの周波数で強いCMRRと電源除去比(PSRR)を持っていることが重要となります。最後に、多くのポータブルECGシステムでは、シャットダウン機能を備えた低電力デバイスも必須要件となります。

間接電流フィードバックアーキテクチャ

計測アンプでは初めての、マキシムの間接電流フィードバックアーキテクチャは、オペアンプ3つの構成の従来の方式(図1)に比べていくつかの重要な利点を備えています。間接電流フィードバックアーキテクチャの詳細については、マキシムのウェブサイトを参照してください。

図1. 従来の3つのオペアンプ構成の計測方式。点線は、この抵抗がデバイスの外付けであることを示しています。
図1. 従来の3つのオペアンプ構成の計測方式。点線は、この抵抗がデバイスの外付けであることを示しています。

図2は、MAX4209で使用される革新的な間接電流フィードバックアーキテクチャを示しています。

図2. MAX4209の間接電流フィードバック計測アンプ
図2. MAX4209の間接電流フィードバック計測アンプ

図2のAおよびBブロックは、2つの相互コンダクタンスアンプで、各差動入力電圧から出力電流を生成してコモンモード入力信号を除去します。Cブロックは、高利得アンプで、抵抗R1とR2を使用して負のフィードバックを供給します。負のフィードバックは、アンプAおよびBの2つの差動入力が等しくなるように強制します。この場合、アンプの出力と差動入力VINの関係は次式のようになります。

VOUT = VIN × (1 + R2/R1)

ここで、

VIN = VIN+ - VIN-

この間接電流フィードバックアーキテクチャには、従来の方式に比べて2つの重要な利点があります。

  1. T入力コモンモード電圧は第1段で除去される。これによって、計測アンプは単一電源電圧で駆動され、すべての利得においてグランドもしくはグランド以下まで検出が可能。
  2. アンプの利得は2つの内部整合した抵抗の比によって設定される。利得精度を改善する設計。

オートゼロアンプの基礎

アンプのオフセット電圧を連続的に補償するために、オートゼロアンプは、信号経路に並行したヌルアンプ、および数十キロヘルツ位(typ)のオートゼロ周波数(fC)で内部発振器を使用します。この動作は、図3に示すように、2つの位相に分割されます。オートゼロ位相では、両方のスイッチは位置1に設定され、コンデンサ(C1)はヌルアンプ(A2)のオフセット電圧に充電されます。メインアンプ(A1)のオフセット電圧は、C2によって保持され、NULLピンを通じて補償されます。増幅位相では、各スイッチは位置2に設定されます。C1はヌルアンプ(NULLピンで補償)のオフセット電圧を保持し、A1のオフセット電圧はA2で測定されてC2に保持されます。

図3. オートゼロアンプの基本動作回路図
図3. オートゼロアンプの基本動作回路図

オートゼロアンプはサンプリングデータシステムを構成します。したがって、このアンプは、サンプルまたはオートゼロ周波数fCと信号周波数(fS)の合計と差分の両方を生成します。そのため、エイリアスを避けるため、信号帯域幅はfCの1/2以下に制限されます。

オートゼロ技法によって、アンプは、VOSを摂氏温度あたり数マイクロボルトまで、オフセット電圧ドリフトを数10分の1のマイクロボルトまで、大幅に低減することができます。FCがノイズのコーナー周波数よりも十分高い場合、1/fノイズも連続的にヌル制御されます。理論的には、オートゼロは1/fノイズを持っていません。ただし、三角波の立つアクションによって広帯域出力のホワイトノイズが増加します。

オートゼロ周波数近傍のノイズの抑制方法

MAX4209は、間接電流フィードバック計測アンプで、その内部オートゼロ回路によって超高DC精度を備えています。MAX4209の出力がADCに供給されるアプリケーションの場合、出力ノイズの除去が重要となります。出力ノイズは、fCとその倍数に位置する白色広帯域成分とスプリアス信号で構成されます。このフィルタリングは、ADCのサンプル周波数とf Cが対象の帯域幅内にある場合は特に必要となります。

このアプリケーションノートで説明された実験は、固定利得が100のMAX4209Hを使用して実施されたものです。このアンプの信号帯域幅は7.5kHzで、fCは約45kHzです。アンプのOUTとFB端子の間、内部抵抗(R2)に並行させて、外付けコンデンサ(C)を配置し、単純な1次ローパスフィルタが実装されました。このフィルタの極はCとR2によって決定されます。MAX4209Hの場合、R2は99kΩです。ノイズ測定値は、図4の回路を使用して取得されました。

図4. MAX4209Hのノイズ測定に使用される回路
図4. MAX4209Hのノイズ測定に使用される回路

入力換算ノイズのプロットは、図5図6に示されています。Cがない場合、C = 1nFの場合、C = 10nFの場合という、3種類の測定値が取得されました。Cがない場合、-3dBの帯域幅はMAX4209H (7.5kHzの信号帯域幅のため)のみに制限されます。

図5. MAX4209Hの入力換算ノイズ密度のグラフ:フィードバックコンデンサなしで、1nFおよび10nFコンデンサを使用した場合
図5. MAX4209Hの入力換算ノイズ密度のグラフ:フィードバックコンデンサなしで、1nFおよび10nFコンデンサを使用した場合

図6. MAX4209Hの入力換算総RMSノイズのグラフ:フィードバックコンデンサなしで、1nFおよび10nFコンデンサを使用した場合
図6. MAX4209Hの入力換算総RMSノイズのグラフ:フィードバックコンデンサなしで、1nFおよび10nFコンデンサを使用した場合

アプリケーションに応じて、希望のノイズ除去と信号帯域幅上の制限との間で妥協点が必要となる場合があります。この妥協点は、以下の表に、コンデンサなしの場合、C = 1nFまたはC = 10nFの場合がまとめられています。

Capacitor (nF) -3dB Bandwidth (Hz) Total Input Referred
Noise (µVRMS)
None 7500 117
1 1600 84
10 160 38

いずれのアプリケーションの場合もノイズ除去が十分でない可能性があります。フィードバックコンデンサのみ以上の数の外付け部品を配備可能な場合は、アンプの出力に接続した単純なローパスRCフィルタによって、さらにノイズの減衰を達成することができます。図7図8は、出力ローパスフィルタがRL = 39Ω、CL = 760nFの場合の入力換算ノイズのグラフを示しています。これらの値の場合、RCフィルタの極は5kHz近くに配置され、45kHzのfCの場合、約18dBの減衰が達成されます。

図7. MAX4209Hの入力換算ノイズ密度のグラフ:外付けRCフィルタと各種フィードバックコンデンサ値を使用した場合.
図7. MAX4209Hの入力換算ノイズ密度のグラフ:外付けRCフィルタと各種フィードバックコンデンサ値を使用した場合

図8. MAX4209Hの入力換算総RMSノイズのグラフ:外付けRCフィルタと各種フィードバックコンデンサ値を使用した場合
図8. MAX4209Hの入力換算総RMSノイズのグラフ:外付けRCフィルタと各種フィードバックコンデンサ値を使用した場合

まとめ

一部のアプリケーションは、高コモンモード電圧が存在する状態で、微小入力信号を分解する必要があります。そうした状況では、計測アンプは、オフセット電圧、ドリフト、利得、およびCMRRが超高精度である必要があります。オートゼロ間接電流フィードバック計測アンプはこれらの特性を提供することができますが、その場合、出力ノイズが増加します。このアプリケーションノートでは、1つの外付け部品(コンデンサ)か、または最大3つの外付け部品をMAX4209の間接電流フィードバック計測アンプに追加することによって出力ノイズを抑制する非常に単純な方法を示しています。