説明
はじめに
このアプリケーションノートは、低電力プロジェクタ用RGB LEDドライバのリファレンスデザインを提供します。この大電流LEDドライバは単一のMAX16821デバイスに基づいており、ステップダウンモードで1µs未満のターンオン/ターンオフ時間にて1組のRGB LEDを10Aで駆動します。カラーLEDは1度に1つだけ駆動され、RGBの各色が、要求された割合でPWM周期を共有します。
LEDドライバ仕様
- 入力電源電圧:10V~15V
- LED駆動電流:10A
- LED順方向電圧:4.5V~6V
- LED電流立上り/立下り時間:1µs未満
- LED電流リップル:10%ピークトゥピーク(max)
入力
- VIN (J4):電源電圧入力
- PWMR、PWMB、PWMG (J8ピン1、3、および4):RGB PWM入力信号。振幅は3.3V~5Vでなければなりません。出力は1µs以内の立上り/立下りが可能なため、2µsを超えるいずれのPWM周期も使用することができます。上記の3つの信号のうち、1度に1つだけをハイにする必要があります。
- PWMN (J8ピン4):PWMR、PWMG、およびPWMBのディジタルNOR。3つのPWM信号のすべてがローであるときにのみ、PWMNはハイになります。
- オン/オフ(J1):ドライバをイネーブルするにはオープン状態を維持するか、+5Vを駆動します。基板をディセーブルするにはGNDに接続します。
出力
- LEDR、LEDG、LEDB (J5、J6、およびJ7):10AのRGB LED出力。LED+をピン3、4、および5に接続します。また、LED-をピン6、7、および8に接続します。
- OUTV (J2):LED電流に比例する信号を生成します。OUTV端の電圧は、並列に接続されたR12とR16の両端の電圧の135倍になります。
- VIN_OUT (J3):他の基板に接続するための入力電源電圧出力。ピン1および2はVIN+です。また、ピン3および4はGNDです。
回路説明
低電力のプロジェクタは単一のDLPチップを使用してRGBの色を処理します。いずれの時点においても、1つの色だけがDLPを光らせます。この手法によって、追加スイッチを備えた単一の大電流ドライバを使用して複数のLEDを切り替えることができます。これによって、コストを重視したコンパクトなプロジェクタを設計することができます。 このLEDドライバのリファレンスデザインでは、単一のステップダウンコンバータを使用して、次々にRGB LEDを10Aの電流で駆動します。MOSFETのQ8、Q9、およびQ10は、PWM信号に基づき、RGB LEDの1つに対して、安定化されたインダクタ電流を選択して流します。
10V~15Vの入力電源を4.5V~6VのLED順方向電圧にステップダウンするコアバックコンバータの段は、平均電流モードコントローラであるMAX16821Bに基づいています。このバックコンバータはグランドを基準にした出力に同期モードで接続されています。ModeピンはGNDに接続され、グランド基準のバックドライバモードでIC動作を選択します。コンバータは300kHzのスイッチング周波数で動作します。この周波数は、小型のインダクタを使用して非常に効率的な設計となるように最適に選択されています。
この設計では、LED電流の立上り/立下り時間が1µs未満であることが要求されます。これを実現するためには、出力フィルターコンデンサの値を非常に小さくする必要があるため、負荷リップル電流が増大します。代わりに、通常より大きなインダクタを選択して、インダクタリップル電流が負荷リップル電流の制限を下回るようにします。1µFのコンデンサを出力(C11)端で使用し、出力電流スルーレートを10A/µs近くに制限し、寄生部品が起こすオーバーシュートを防ぎます。
このLEDドライバはインダクタを流れる10Aの電流を制御および維持します。いかなる時点においても、駆動されるLEDに応じて、Q8、Q9、またはQ10がオンになり、インダクタ電流が対応するLEDに流れます。3つのLEDのすべてがオフのとき、インダクタ電流は局所的にQ4に流れます。
MAX16821には2つの制御ループがあり、内部ループはインダクタ電流を制御し、外部ループはLED電流を駆動するのに必要なインダクタ電流を決定します。ステップダウンコンバータでは、インダクタ電流はLED電流と同じです。このため、制御はインダクタ電流を監視する単一のループに効率的に低減されます。この設計では、インダクタ電流の副調波発振を防ぐために、R5は電流誤差アンプのゲインを11.5V/Vに制限しています。電流ループ補償には、低周波数でゲインを増大する極-零ペアがなく、電圧ループがプログラムした値にインダクタ電流を正確に安定させます。電圧誤差アンプは、並列に接続されたR11とR17の両端のLED電流検出電圧を内部の100mV基準と比較し、誤差を70dBのゲインで増幅します。この増幅した出力は内部電流ループを駆動します。内部電流ループゲインが電圧誤差アンプの高ゲインのためにこれより低い場合でも、LED電流は10Aに安定します。
インダクタ電流がRGB LEDとQ4が作る局所ループとの間で切り替わるとき、電圧誤差アンプの出力は4つの異なるレベルになければなりません。これらの4つのレベルが必要となるのは、4つの条件のそれぞれにおける出力電圧が異なるためです。4つの異なる補償コンデンサ(C7、C10、C13、およびC14)は、4つの異なる負荷条件に対応し、電圧誤差アンプの出力を保存します。補償コンデンサはアナログスイッチ(Q2、Q5、Q6、およびQ7)を使用して1つずつこの回路に接続されます。LEDがオンになると直ちに、対応する補償コンデンサが、誤差アンプ出力を前サイクルで保存された電圧に即座に調整します。このため、LED電流はすばやく10Aまで上昇することが可能になります。
内部電流ループはインダクタの極を吸収します。出力極はLEDダイナミックインピーダンスと出力コンデンサC11によって形成されますが、スイッチング周波数よりもはるかに高くなります。電圧ループの極は1つだけで、電圧誤差アンプの極です。補償コンデンサ(C7、C10、C13、およびC14)は原点で極を生成し、電流ループクロスオーバー周波数の10分の1で電圧ループが0dBを超えるようにします。
MAX5054のデュアルMOSFETドライバ(U2およびU3)は(Q2、Q5、Q6、およびQ7を)駆動し、LED負荷と10A/1µsの大電流スルーレートとの間の高速スイッチングを可能にしています。損失スナバは、C9とR10によって形成されますが、LXノードでスイッチングエッジを遅め、また、いかなるオーバーシュート/アンダーシュートやリンギングを止めます。R3およびR4による過電圧保護フィードバックは、出力電圧が6.4Vを超えるとU1をシャットダウンします。出力電圧が5.4Vを下回ると、U1はスイッチングを再開します。フィルターコンデンサC1はノイズによる誤作動を防ぎます。RCネットワークは電源ターンオンのエッジから3msの遅延を生じます。このためU1は入力電源が安定してから開始することができます。 回路の波形
温度測定値
- VIN:12V
- IOUT:RGB LEDに対して10Aで、PWMが各色に対して20%
- 冷却:強制換気によって基板を冷却
- 基板温度:+53℃
- Q1およびQ3のケース:+60℃
- Q4、Q8、Q9、およびQ10:+58℃
- U1の上部:+53℃
- L1の巻線温度:+70℃
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電源投入手順
- 10AのRGB LEDをJ5、J6、およびJ7に接続します。
- PWMR、PWMG、PWMB、およびPWMNの信号をローに保ちます。
- 電流が0.3Aを超えないように注意しながら、電源電圧を10Vまで徐々に増大します。
- PWM信号、すなわちPWMR、PWMG、およびPWMBを15%~20%のPWMデューティサイクルで加えます(各PWMオンパルスは1度に1つのPWM信号だけがハイになるように配置する必要があります)。PWMN信号はPWMR、PWMG、およびPWMBのディジタルNORにする必要があります。3つのLEDはすべて、設定されたデューティサイクルに対して10Aで交互に駆動されます。