要約
データセンタなど、温度に注意を払わなければならない環境でエネルギー消費を効率的に管理するためには、状況に応じた柔軟性と精度を兼ね備えた温度管理が必要です。このアプリケーションノートでは、1-Wire®技術を活用して空調管理が必要な環境の消費電力を、2桁削減する方法を紹介します。
このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 66」(PDF、5MB)にも掲載されています。
直面している課題:データセンタにおける消費電力の削減
2006年におけるデータセンタの消費電力は610億kWhで、米国の総電力消費量の1.5%を占めていました(EPA調べ)¹。注目すべきは、IT機器は電力の半分しか消費しておらず、残りの半分は電源や冷却のインフラストラクチャが消費していることです。それにもかかわらず、データセンタにおける消費電力の削減といえば、そのほとんどがIT機器の半導体チップや各種部品のエネルギー効率向上をめざそうというものばかりです。これでは問題の半分にしか対処していません。
データセンタ全体のエネルギー消費量を効果的に最小限に抑えるためには、冷却インフラストラクチャが消費するエネルギーも削減する必要があります。冷却インフラストラクチャをインテリジェント化すれば高い電力密度に対応できるようになり、データセンタの追加設置が不要になるというメリットもあります。また、電力コストを削減するとともに、二酸化炭素排出量も小さくすることができます。
膨大なエネルギーを浪費する従来型冷却インフラストラクチャ
データセンタなど温度管理を行う環境の温度は、場所によって一定ではありません。機器の動作状況やその機器からの距離、または空気の流れにより、水平方向にも垂直方向にも大きな違いが生じます。また、コンピュータルームの空調設備(CRAC)は冷却範囲が重なっていることが多く、冷却過剰となることがあります。要するに、従来のデータセンタにはインテリジェントな温度監視機能がないため、すでに十分に冷却されている部分をさらに冷却し、膨大な電力を浪費しているのです。
環境温度を引き下げなければならない領域を特定することができれば、データセンタの電力消費を引き下げることができます。しかし、これは言うは易く行うは難しです。数多くの温度センサを設置しようとすれば配線やインタフェースも複雑になりますし、膨大な数の温度測定ノードの管理も大変です。このように、マルチポイント温度監視にはさまざまな問題が発生します。
効率的なマルチポイント温度測定
複数の温度測定ノードは、温度データを適切に処理すれば、電力を節約し、コストを削減する最適な環境温度制御システムの構築を可能にします。このようなシステムを構築するにあたり、複雑な配線を行わずにすませる方法がいくつか存在します。Zigbee®などのワイヤレス規格を採用したワイヤレスセンサを使う方法もありますし、マキシムの1-Wire技術などのシンプルなシリアルインタフェースを使用する有線型アプローチもあります。1-Wireシステムでは、すべてのセンサを1本の配線で接続できるため、サーバファームのインフラストラクチャとして敷設されているCAT5ネットワークケーブルの未使用となっているペアを利用することもできます。
設置が簡単なのは、配線が不要なワイヤレスソリューションです(電源コードを近くのコンセントにつなぐだけですみます)。しかしこのようなセンサは1モジュール当りUS $10以上もするため、全体としては数千ドルから数万ドルものコストがかかることになります。シンプルな1-Wireシリアルインタフェースによる有線システムであれば、ノードあたり1mA以下と消費電力が少なく、配線から電源を取ることができ、ノードあたりのコストを2~3ドルに抑えることができます。
このように、1-Wireインタフェースであれば大規模なマルチポイント温度検出アレイを複雑な配線なしで設置することができます(図1)²。1-Wireを使うと、CAT5ケーブルなど、低コストのツイストペア1組だけでエンクロージャ内あるいは空間内に複数のセンサを設置することができます。各センサあるいはセンサグループの温度データは、1-Wireプロトコルでディジタル的にホストプロセッサへ送られます。
位置を認識する温度センサ
データセンタで数多くのポイントの温度を監視するのは難しい作業です。どうしたらセンサの測定データと物理的位置を関連づけることができるでしょうか。マニュアルで1つ1つ設定するのは時間もコストもかかりますし、間違いも起きてしまいます。一部の1-Wire温度センサに搭載された新機能、チェーンモードを使えば、この問題を解決することができます(図2)。
すべての1-Wire温度センサには、変更不可能な固有の64ビットID値が工場出荷時に設定されており、この値を1-Wireマスタデバイスから読み取ることができます。中でもDS28EA00にはシーケンス検出機能(つまりチェーンモード)を実現するための2本の端子が用意されています。DS28EA00のチェーンモードを利用すれば、1-Wireマスタでセンサの登録番号を読み取り、マルチドロップ構成におけるデバイスの物理的位置と関連づけることができます。シーケンス検出機能が不要な場合、この2本の端子は汎用入力または出力として使用することができます。
したがって、チェーンモード機能を使えば、マルチドロップ構成の温度センサが持つ固有のIDがどの順番に並んでいるのか、ホストコントローラ側の自動処理で知ることができます。IDの並びはそのままマルチドロップ構成アレイの物理的な構造に対応する、つまりはエンクロージャにおける温度センサの物理的位置に対応します³。こうしてDS28EA00の64ビットIDとエンクロージャにおける物理的位置の相関がとれれば、さまざまな高さあるいは位置でストレージタワーの温度を測定し、環境制御アルゴリズムを使用可能になります。
寄生電源の活用
温度の多点検出アプリケーションでは、温度センサアレイへの電源供給が複雑で、コストもかさむという問題があります。しかし1-Wire温度センサであれば、1本のデータラインから電力を得る寄生電源という方法で動作させることができます。寄生モードでの動作は、1-Wire製品が持つ基本的な特長の1つです。
ICレベルでは、個々の1-Wireデバイス、すなわちセンサには、1-Wireデータ波形から電荷を取り出し、それを蓄める回路を内蔵しています。そして1-Wireラインがロジック0になると(つまり、値が0のデータを伝送すると)、蓄積された電荷を取り出して電源とします。ただし、この内蔵寄生電源回路に蓄積される電力だけでは、温度の測定とディジタル化をまかなうことができません。したがって、寄生電源モードを利用するためには、温度変換サイクル中、1-Wireラインをロジック1に保つ必要があります。あるいは、外部から電力を供給し、寄生電源モードを使わなければ、このような制限は発生しません。(DS28EA00には、オプションの外部電源用VCC端子が用意されています。)
正確で信頼できる測定
高精度の環境温度制御システムを実現するためには、まず、高精度の温度測定が必要です。データセンタのような環境では、通常、±1℃以内の温度測定精度が必要とされます。このような要件を満足するために、DS28EA00をはじめとする1-Wire温度センサでは±0.5℃という測定精度を実現しています。
DS28EA00には、ユーザ設定可能な温度測定アラームとして利用可能なサーモスタットのような機能が用意されています。アラームは電子的にポーリングすることができます。また、汎用I/O端子を使って、LEDやブザーなどの視覚的または聴覚的な表示器をオン/オフし、温度状態が設定範囲外となったことを知らせることもできます(図3)。
サーバファームでは、複数のサーバの各ラックにいくつかの温度センサが搭載されていることがあります。これらのセンサは、ファーム内の他のラックのセンサとともに温度測定値をサーバファームを監視するホストシステムに送信し、ホストシステムは、システム全体の冷却を制御します。これと平行して1-Wireセンサの内蔵アラーム機能を活用すれば、各1-Wireセンサがインジケータやアラーム、および/または温度サブシステムを制御して部分的な冷却を行うこともできます。
マルチポイント温度監視で冷却エネルギーを30%削減
DS28EA00を採用したマルチポイント温度監視を、ある大手メーカーが大型サーバシステムに導入しました。導入当初で、データセンタの冷却エネルギーは30%も削減されました。 現在では年間200万kWhもの節電となっており、これは、大気中に放出されるCO2が年間1300トン以上も削減されることを意味します。
まとめ
冷却インフラストラクチャは、データセンタにおける電力消費の半分を占めています。このため、データセンタの消費電力を効果的に削減するためには、インテリジェントな温度監視が不可欠です。
エネルギー効率の高いデータセンタなど、21世紀に求められるアプリケーションを実現するためには高度な温度監視が必要となりますが、それを費用対効果の高い形で提供するのがDS28EA00などの1-Wire温度センサです。数多くの温度センサを用いて効果的な監視を行うと、システム全体の管理を改善し、全体の消費電力を大幅に削減することができる実績が示されています。