低ノイズのSilent SwitcherアーキテクチャによるEMI設計の簡素化
車載、輸送、産業といった分野のアプリケーションは、ノイズの影響を受けやすいため、EMI(電磁妨害)を低く抑えた電源ソリューションが求められます。従来は、スイッチング信号の立上がり/立下がりエッジ(スイッチング・エッジ)が急峻にならないようにしたり、スイッチング周波数を下げたりすることで、EMIを制御していました。どちらの方法も、効率が低下する、最小オン/オフ時間が長くなる、サイズが大きくなるといった、望ましくない影響を伴います。EMIを抑制するためのフィルタ(EMIフィルタ)や金属シールドなどの代替手段を使用すると、基板上の実装面積の増加、コンポーネントの数の増加、組み立ての煩雑さの増大といった理由で、コストが大幅に増加します。また、熱管理やテストが複雑になるというデメリットも加わります。
アナログ・デバイセズは、そうしたスイッチング・レギュレータの課題を解決するために、µModule®製品を提供しています。µModuleは、ノイズの低減にも貢献するSiP(System inPackage)技術です。「LTM8003」は、このµModuleを適用したレギュレータ製品です。当社独自のSilent Switcher®アーキテクチャを採用しており、EMIを最小限に抑えつつ、高いスイッチング周波数と高い効率を両立します。Silent SwitcherのアーキテクチャとµModuleの内部レイアウトは、レギュレータの入力ループを最小化するように設計されています。そのため、スイッチング・エッジが非常に急峻な場合でも、スイッチングするノードのリンギングと、それに伴ってホット・ループに蓄積されるエネルギーが大きく低減されます。このような低ノイズのスイッチングが可能であることから、優れたEMI性能を実現しつつ、ACスイッチング損失を最小限に抑えることができます。つまり、効率を大きく損なうことなく、高いスイッチング周波数で動作させることが可能です。
このアーキテクチャとスペクトラム拡散周波数変調(SSFM)を組み合わせることによって、EMIフィルタの設計とレイアウトが大幅に簡素化されます。したがって、LTM8003は、ノイズの影響を受けやすい環境に最適な選択肢となります。図1は、LTM8003を使用したデモ用の回路です(評価用ボード「DC2416A」に実装されています)。入力側には、シンプルなEMIフィルタが配置されています。図2に示すように、この回路はCISPR 25のクラス5で求められる性能を、余裕を持って満たすことができます。
3.5Aの連続電流、6Aのピーク電流に対応可能な供給能力
LTM8003の内部レギュレータは、最大6Aのピーク出力電流を安全な状態で供給することができます。また、同ICを使用し、12Vの公称入力を基に、負荷に対して連続的に3.3Vまたは5Vの電圧、3.5Aの電流を供給する場合、熱管理の仕組み(気流やヒートシンク)を追加する必要はありません。そのままの状態で、産業用ロボット、FA(Factory Automation)機器、車載システムのバッテリ駆動といったアプリケーションのニーズを満たすことが可能です。
-40°C~150°Cの広い動作温度範囲
車載、産業、防衛といった分野のアプリケーションでは、周囲温度が105°Cを超える条件下で、連続的に安全に動作する電源回路を用意しなければなりません。あるいは、温度上昇に備えてかなりのヘッドルームを設けておくことが必要になります。LTM8003H(Hグレード・バージョン)は、-40°C~150°Cの内部動作温度範囲で仕様を満たすように設計されています。内部過熱保護(OTP:Over Temperature Protection)機能によってジャンクション温度を監視し、あまりにも高い場合にはスイッチングを停止します。
図3(a)に示したのは、7V~40Vという広範な入力電圧を基に、5V/3.5Aを出力するソリューションです。12Vの公称入力電圧における熱性能は、図3(b)のようになります。入力が12Vで、負荷に供給する電流が2Aの場合、標準的な効率は92%を超えます。
3.5V~35Vの入力から-5Vの負出力を生成
図4に示したのは、入力が公称12V、最大35Vで、出力が-5V/4Aのソリューションです。この場合、BIASピンはグラウンドに接続する必要があります。
まとめ
LTM8003は、Silent SwitcherのアーキテクチャとµModule技術を採用した降圧レギュレータです。入出力範囲が広く、低ノイズであり、3.5Aの電流を供給することができます。3.4V~40Vの入力から0.97V~18Vの出力を生成できるので、バッテリや工業用電源との間に他のレギュレータを追加する必要はありません。ピン配置は故障モード影響解析(FMEA:Failure Mode andEffect Analysis)に対応するように特別に設計されています。そのため、離接するピン同士が短絡していたり、1つのピンがグラウンドに短絡していたり、ピンがフローティングの状態にあったりしても、出力はレギュレーション電圧またはそれ以下に維持されます。各ピンは冗長構成になっており、電気的な接続が強化されています。つまり、車載、輸送などの分野のアプリケーションにおいて、振動、経年劣化、大きな温度変化により、ハンダ付けされた部分の強度が低下したり、外れたりしても、正常な動作が妨げられる可能性が低減されています。
LTM8003のパッケージはBGAで、そのサイズは 6.25mm × 9mm× 3.32mmです。入力側/出力側のコンデンサを含めたソリューション全体でも、LTM8003単体と比べて、それほど大きくないスペースに収まります。静止電流は25µA(標準値)で、-40°C~150°Cの広い動作温度範囲(Hグレードの場合)に対応しています。以上のような特徴を備えることから、同製品は、実装スペースに制約があり、動作環境が過酷で、静止電流が少ないことと信頼性が高いことが必須のアプリケーションに最適です。この製品を使用することにより、設計にかかる労力を最小限に抑えつつ、産業用ロボット、FA機器、航空用電子機器、車載システム向けの最も厳しい規格を満たすことができます。