42V入力/同期整流方式のモノリシック型降圧レギュレータ、2.5μAの静止電流と極めて高いEMI性能を実現

はじめに

効率が高くEMI(電磁干渉)性能に優れる降圧レギュレータは、至るところで使用されています。車載、産業、医療、通信といった分野の多様なアプリケーションにおいて、様々な入力源を基に電力供給する役割を果たしています。なかでも、バッテリ駆動のアプリケーションは、かなり長い時間にわたってスタンバイ・モードの状態で稼働することが少なくありません。したがって、バッテリによる長時間の動作を実現するために、あらゆる電気回路には静止電流をできるだけ少なく抑えることが求められます。

LT8606」、「LT8607」、「LT8608」は、広い入力電圧範囲、優れたEMI性能、小型化が求められる用途に向けて最適化されたモノリシック型の降圧レギュレータ・ファミリです。いずれも、熱性能が強化された10ピンのMSEパッケージまたは2mm×2mm/8ピンのDFNパッケージを採用しており、実装スペースの削減に貢献できます。表1に示すように、各製品は出力電流の仕様に大きな違いがあります。

表1. LT860xファミリの主な特徴
品番 出力電流 パッケージ 動作モード
LT8606
350mA 10ピンMSE Burst Mode動作、
パルス・スキッピング・モード、
スペクトラム拡散モード、
同期モード
8ピンDFN Burst Mode動作のみ
LT8607
750mA 10ピンMSE Burst Mode動作、
パルス・スキッピング・モード、
スペクトラム拡散モード、
同期モード
8ピンDFN Burst Mode動作のみ
LT8608
1.5A 10ピンMSE Burst Mode動作、
パルス・スキッピング・モード、
スペクトラム拡散モード、
同期モード
8ピンDFN Burst Mode動作のみ

静止電流が少ないLT8606/LT8607/LT8608は、アイドル電流を少なく抑えなければならないバッテリ駆動のアプリケーションに最適です。いずれもオプションのBurst Mode®に対応しており、出力電圧を安定させつつ入力源からの消費電流(静止電流)をわずか2.5µAに抑えることができます。そのため、バッテリ駆動のアプリケーションにおいて、待機時間を非常に長く確保することが可能です。また、3V~42Vという広い入力電圧範囲に対応するため、安定した質の良い電圧源が得にくい産業用/車載用アプリケーションにも対応することができます。更に、スペクトラム拡散機能を使用することにより、極めて高いEMI性能を得ることも可能です。

回路の説明と機能

図1に示したのは、10ピンのLT8607を使用して構成した5V出力の電源回路です。最高42Vまでの入力電圧に対応可能であり、2MHのスイッチング周波数、5V/750mAの出力を条件として設計されています。インダクタL1をはじめとする数個の受動部品を使用するだけで、完全なソリューションが実現されています。この回路により、92.5%のピーク効率を達成することが可能です(図2)。

図1. 高効率のLT8607を使用して構成した同期整流方式の降圧レギュレータ。12Vから5Vへの降圧を実現します。

図1. 高効率のLT8607を使用して構成した同期整流方式の降圧レギュレータ。12Vから5Vへの降圧を実現します。

図2. LT8606/LT8607/LT8608を使用して構成した降圧コンバータの負荷電流と効率の関係。12Vの入力から5Vの出力を得る場合の結果を示しています。

図2. LT8606/LT8607/LT8608を使用して構成した降圧コンバータの負荷電流と効率の関係。12Vの入力から5Vの出力を得る場合の結果を示しています。

軽負荷時の効率を改善するBurst Mode

バッテリ駆動のアプリケーションでは、負荷が軽い状態、または無負荷のスタンバイ・モードにおいて、電源回路のアイドル電流が少なく、効率が高いことが非常に重要です。このような要件に対し、LT8606/LT8607/LT8608は理想的なソリューションとなります。静止電流はわずか2.5µAで、オプションのBurstMode動作にも対応しているからです。軽負荷/無負荷の状態において、LT8606/LT8607/LT8608で実現したレギュレータでは、徐々にスイッチング周波数を下げて、出力電圧のリップルを低く抑えながらスイッチングに伴う電力損失を削減します。図3に、図1に示した回路における軽負荷時の効率を示しました。.

図3. 図1の回路における負荷電流と効率、電力損失の関係

図3. 図1の回路における負荷電流と効率、電力損失の関係

高いスイッチング周波数、非常に優れたEMI性能

車載、産業、コンピュータ、通信などの分野では、効率の高さに加えて、EMI規格やEMC(電磁両立性)規格への準拠が求められます。スイッチング周波数を高くするとソリューションのサイズを小型化できますが、EMI性能の低下を招くことが少なくありません。LT8606/LT8607/LT8608の内蔵MOSFET、内部補償回路、2.2MHzのスイッチング周波数は、ソリューションのサイズ縮小に貢献しますが、高度なプロセス技術を採用していることから優れたEMI性能も実現されています。加えて、スイッチング周波数に対するスペクトラム拡散動作により、更にEMIを低減することも可能です。図4に、図1に示した回路について、CISPR25で定められたEMIのテストを実施した結果を示しました。

図4. 図1の回路の放射性EMI性能。CISPR25のクラス5で定められた規格を満たしています。

図4. 図1の回路の放射性EMI性能。CISPR25のクラス5で定められた規格を満たしています。

まとめ

LT8606/LT8607/LT8608は、パワーMOSFETと内部補償機能を備える使いやすいモノリシック型降圧レギュレータです。いずれの製品も、広い入力電圧範囲とEMIの低減が求められるアプリケーションに対して最適化されています。また、2.5µAの静止電流とオプションのBurst Mode動作によって、バッテリのスタンバイ時間の大幅な延伸が可能になっています。バッテリ駆動の降圧コンバータとして理想的なソリューションです。加えて、200kHz~2.2MHzのスイッチング周波数に対応し、極めて消費電力が少ないことが求められるほとんどのアプリケーションに適用できます。更に、MOSFETも内蔵するほど集積度が高く、スイッチング周波数も最高2.2MHzまで高められるため、ソリューション全体のサイズを最小化できます。高い放射性EMI性能を達成しており、CISPR25の最も厳しい規格に準拠することが可能です。

著者

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Dong Wang

アナログ・デバイセズのパワー製品のアプリケーション・マネージャ。2013年リニアテクノロジー(現アナログ・デバイセズ)入社。現在は非絶縁モノリシック降圧コンバータのアプリケーション・サポートを担当。高周波数電力変換、分散型電源システム、力率補正手法、低電圧、大電流変換技術、高周波磁気統合、コンバータのモデリングと制御などを含め、パワー・マネージメント・ソリューションとアナログ回路に幅広い関心を持つ。中国杭州市の浙江大学を卒業し、同大で電気工学の博士号を取得。