資料ライブラリ
AN-44: LT1074/LT1076 デザイン・マニュアル
はじめに
スイッチング・レギュレータの使用は1980年代に劇的に増加し、90年代に入ってもこの勢いは衰えていません。この理由は単純で、熱と効率の点で有利であるためです。今日のシステムは小型化の一途をたどると同時に、より高い電子的「能力」を提供しています。この2つを実現するために低効率のリニア電源を使用したとすれば、内部温度は許容できないほど高くなるでしょう。大部分のシステムは空間的に閉鎖されており、「内部」から「外部」に対する熱伝導が低いため、通常ヒートシンクではこの問題は解決しません。
バッテリ駆動システムには、バッテリ寿命を長くするために高効率電源が必要です。また、入出力電圧の相対関係からもスイッチング技術が必要です。たとえば、リニア電源ではバッテリ自身より高い出力電圧を発生させることはできません。低価格の再充電可能なバッテリが利用できるようになり、バッテリ駆動システムが激増し、それに伴ってスイッチング・レギュレータの使用も増加しました。
LT®1074およびLT1076スイッチング・レギュレータは、特に使いやすく設計されています。これらは負荷に電力を供給するのに、入力、出力、およびグランド接続しか必要ない、究極の「3端子ボックス」の概念に近いものになっています。残念ながらスイッチング・レギュレータは、魔法の道具ではなく、設計の最終段階においてとんでもない間違いに遭遇する可能性が残されています。このアプリケーション・ノートは、スイッチング・レギュレータ設計の内部動作を説明し、スイッチング・レギュレータで設計者が犯す最も一般的な誤りをなくすことを目的としています。また、コア損失とピーク電流の数学的モデルに基づく、インダクタ設計への斬新なアプローチも提示しています。これによって、インダクタ値の許容範囲を素早く確認し、コストやサイズなどのニーズに基づく妥当な判断を下すことが可能です。この手順は従来の設計手法とは大きく異なるため、多くの熟練設計者は最初はうまくいかないと考えるものです。しかし、この手順によって標準的な手間のかかる試行錯誤的手法と同じ結果が導かれることをご理解いただければ、すぐにご納得いただけることでしょう。
木工芸には、「2回計って1回切れ」という古い格言があります。このアドバイスはスイッチング・レギュレータにもあてはまります。要旨を理解するためにAN44にざっと目を通してください。次に、設計を2回、3回、4回と何回も分断するのを避けるために、関係するセクションを注意深く再読してください。コンデンサの過大なリップルなど、一部のスイッチング・レギュレータのエラーはいわば時限爆弾であり、費用のかさむ現場での故障前に解決しておくのが最善です。
この資料が最初に記述された後で、リニアテクノロジーはSwitcherCAD™と呼ぶスイッチング・レギュレータ用CADプログラムを開発しました。このプログラムは本アプリケーション・ノートに記述されている概念を用いていますが、副次的影響の要因を計算に加えることによって精度レベルを上げています。また、反復的な設計手順から生じる面倒な作業を取り除き、迅速な「ある条件下での」問題探査を可能にしています。ここに記載した基本概念を習得した後、SwitcherCADを使用することを強くお奨めします。SwitcherCADは、設計時間を大幅に短縮し、動作条件に関する詳細な情報を提供し、信頼性のない設計を防止するための多くの保護手段を備えています。ただし、注意することが1つあります。SwitcherCADには、Novice Mode(初心者モード)と呼ぶ選択項目筆頭の動作シーケンスがあり、データベース内の部品特性を使って非常に保守的な設計を生成します。SwitcherCADで使用される前提条件とデータベース内の部品点数の制限により、この筆頭デザインの結果はAN44の手順と相関性がない場合があります。Expert Mode(熟練者モード)に変更すれば、すべての部品特性を自由に変更することができます。
SwitcherCADはループ安定性のための部品定数計算は行いません。リニアテクノロジーは、この目的のために数種類のプログラムを1993年中に開発する予定です。詳細については弊社にお問い合せください。
絶対最大定格
入力電圧 | |
LT1074/LT1076 | 45V |
LT1074HV/LT1076HV | 64V |
入力電圧を基準にしたスイッチ電圧 | |
LT1074/LT1076 | 64V |
LT1074HV/LT1076HV | 75V |
グランド・ピンを基準にしたスイッチ電圧(VSWが負のとき) | |
LT1074/LT1076 (Note 6) | 35V |
LT1074HV/LT1076HV (Note 6) | 45V |
帰還ピン電圧 | -2V、+10V |
シャットダウン・ピン電圧(VINの電圧を超えないこと) | 40V |
ステータス・ピン電圧(ステータス・ピンを「オン」に切り替えるとき電流は5mAに制限すること) | 30V |
ILIMピン電圧(強制値) | 5.5V |
最大動作周囲温度範囲 | |
LT1074C/76C、LT1074HVC/76HVC | 0℃ ~ 70℃ |
LT1074M/76M、LT1074HVM/76HVM | -55℃~125℃ |
最大動作接合部温度範囲 | |
LT1074C/76C、LT1074HVC/76HVC | 0℃~125℃ |
LT1074M/76M、LT1074HVM/76HVM | -55℃~150℃ |
最大保存温度 | -65℃~150℃ |
リード温度(半田付け、10秒) | 300℃ |
パッケージ/発注情報
Order Part Number | |
LT1074CT LT1074HVCT LT1076CT LT1076HVCT |
|
LT1074MK LT1074HVMK LT1074CK LT1074HVCK LT1076MK LT1076HVMK LT1076CK LT1076HVCK |
|
LT1074CY |
電気的特性
注記がない限りTj=25℃、VIN=25V
Parameter | Conditions | Min | Typ | Max | Units | ||
Switch “On” Voltage (Note 1) | LT1074 | ISW = 1A, TJ ≥ 0°C |
1.85 | V | |||
ISW = 1A, TJ < 0°C |
2.1 | V | |||||
ISW = 5A, TJ ≥ 0°C |
2.3 | V | |||||
ISW = 5A, TJ < 0°C |
2.5 | V | |||||
LT1076 | ISW = 0.5A | • | 1.2 | V | |||
ISW = 2A | • | 1.7 | V | ||||
Switch “Off” Leakage | LT1074 | VIN ≤ 25V, VSW = 0 |
5 | 300 | μA | ||
VIN = VMAX, VSW = 0 (Note 7) |
10 | 500 | μA | ||||
LT1076 | VIN = 25V, VSW = 0 |
150 | μA | ||||
VIN = VMAX, VSW = 0 (Note 7) |
250 | μA | |||||
Supply Current (Note 2) | VFB = 2.5V, VIN ≤ 40V |
• | 8.5 | 11 | mA | ||
40V < VIN < 60V | • | 9 | 12 | mA | |||
VSHUT = 0.1V (Device Shutdown) (Note 8) | • | 140 | 300 | μA | |||
Minimum Supply Voltage | Normal Mode | • | 7.3 | 8 | V | ||
Start-Up Mode (Note 3) | • | 3.5 | 4.8 | V | |||
Switch Current Limit (Note 4) | LT1074 | ILIM Open | • | 5.5 | 6.5 | 8.5 | A |
RLIM = 10k (Note 5) | 4.5 | A | |||||
RLIM = 7k (Note 5) | 3 | A | |||||
LT1076 | ILIM Open | • | 2 | 2.6 | 3.2 | A | |
RLIM = 10k (Note 5) | 1.8 | A | |||||
RLIM = 7k (Note 5) | 1.2 | A | |||||
Maximum Duty Cycle | • | 85 | 90 | % | |||
Switching Frequency | 90 | 100 | 110 | kHz | |||
TJ ≤ 125°C | • | 85 | 120 | kHz | |||
TJ > 125°C | • | 85 | 125 | kHz | |||
VFB = 0V Through 2kΩ (Note 4) | 20 | kHz | |||||
Switching Frequency Line Regulation | 8V ≤ VIN ≤ VMAX (Note 7) | • | 0.03 | 0.1 | %/V | ||
Error Amplifier Voltage Gain (Note 6) | 1V ≤ VC ≤ 4V | 2000 | V/V | ||||
Error Amplifier Transconductance | 3700 | 5000 | 8000 | μmho | |||
Error Amplifier Source and Sink Current | Source (VFB = 2V) | 100 | 140 | 225 | μA | ||
Sink (VFB = 2.5V) | 0.7 | 1 | 1.6 | mA | |||
Feedback Pin Bias Current | VFB = VREF | • | 0.5 | 2 | μA | ||
Reference Voltage | VC = 2V | • | 2.155 | 2.21 | 2.265 | V | |
Reference Voltage Tolerance | VREF (Nominal) = 2.21V | ±0.5 | ±1.5 | % | |||
All Conditions of Input Voltage, Output Voltage, Temperature and Load Current | • | ±1 | ±2.5 | % | |||
Reference Voltage Line Regulation | 8V ≤ VIN ≤ VMAX (Note 7) | • | 0.005 | 0.02 | %/V | ||
VC Voltage at 0% Duty Cycle | 1.5 | V | |||||
Over Temperature | • | –4 | mV/°C | ||||
Multiplier Reference Voltage | 24 | V | |||||
Shutdown Pin Current | VSH = 5V | • | 5 | 10 | 20 | μA | |
VSH ≤ VTHRESHOLD (≅2.5V) VSH = 5V | • | 50 | μA | ||||
Shutdown Thresholds | Switch Duty Cycle = 0 | • | 2.2 | 2.45 | 2.7 | V | |
Fully Shut Down | • | 0.1 | 0.3 | 0.5 | V | ||
Status Window | As a Percent of Feedback Voltage | 4 | ±5 | 6 | % | ||
Status High Level | ISTATUS = 10μA Sourcing | • | 3.5 | 4.5 | 5.0 | V | |
Status Low Level | ISTATUS = 1.6mA Sinking | • | 0.25 | 0.4 | V | ||
Status Delay Time | 9 | μs | |||||
Status Minimum Width | 30 | μs | |||||
Thermal Resistance Junction to Case | LT1074 | 2.5 | °C/W | ||||
LT1076 | 4.0 | °C/W | |||||
• は全動作温度範囲の規格値を意味する。 Note 1: 高電流条件と低電流条件にはさまれた区間では最大スイッチ「オン」電圧を計算するために、直線補間を使用できる。 Note 2: 2.5Vの帰還ピン電圧(VFB)によって、VCピンが低クランプ・レベルに、またスイッチのデューティ・サイクルがゼロに強制される。これはデューティ・サイクルがゼロに接近するゼロ負荷状態を近似する。 Note 3: 適切な安定化動作を行うには、VINピンからグランド・ピンまでの全電圧が始動後に、8V以上でなければならない。 Note 4: 帰還ピン電圧が1.3V以下のときは、スイッチ・オン時間が極端に短くならないように、スイッチ周波数が内部で低下する。テスト中はVFBを調整して1μsの最小スイッチ・オン時間が得られるようにする。 Note 5: 。 Note 6: スイッチ-入力間電圧の制限にも配慮すること。 Note 7: VMAX=LT1074/76の場合は40V、LT1074HV/76HVの場合は60V。 Note 8: スイッチ・リークは含まない。 |
ブロック図
ブロック図の説明
発振器がR/Sラッチをセットすると、LT1074のスイッチ・サイクルが開始します。ラッチをセットするパルスは、ゲートG1を経由してスイッチもロックアウトします。このパルスの有効幅は約700nsで、100kHzのスイッチング周波数では、最大スイッチ・デューティ・サイクルが約93%になります。スイッチはコンパレータC1がラッチをリセットすることによってターンオフされます。C1の一方の入力にはノコギリ波が加えられ、他方の入力にはアナログ・マルチプライヤの出力が送られます。マルチプライヤ出力は、内部リファレンス電圧と誤差アンプA1の出力の積をレギュレータ入力電圧で割ったものになります。このことは標準降圧レギュレータにおいて、安定化出力を一定に維持するのに必要なA1の出力電圧が、レギュレータの入力電圧には関係ないことを意味します。これによって、ラインの過渡応答が大幅に改善され、ループ利得と入力電圧が無関係になります。誤差アンプはヌル時のGMが約5000μmhoの相互コンダクタンス・タイプのものです。正方向のスルー電流は140μAであり、負方向のスルー電流は約1.1mAです。この非対称性が始動時のオーバシュートを防止するに役立ちます。総合ループ周波数補償は、VCからグランドへの直列RCネットワークで達成されます。
スイッチ電流はC2によって絶えずモニタされ、過電流状態が発生するとC2がR/Sラッチをリセットしてスイッチをターンオフします。検出とスイッチのターンオフに必要な時間は約600nsです。したがって、電流制限時の最小スイッチ“オン”時間は600nsになります。完全な出力短絡状態では、出力電流の制御を維持するために、スイッチのデューティ・サイクルを2%まで下げなければならない場合があります。これは、100kHzのスイッチング周波数では、200nsのスイッチ・オン時間が必要となることになるため、非常に低い出力電圧では、FB信号が1.3V以下のときに発振器にFB信号を注入し、リニア周波数ダウンシフトを発生させて周波数を下げます。電流トリップ・レベルは内部320μA電流源でドライブされるILIMピンの電圧で設定されます。このピンがオープンのときは、約4.5Vに自己クランプし、電流制限値をLT1074の場合には6.5A、LT1076の場合には2.6Aに設定します。11ピン・パッケージでは、ILIMピンからグランドに外付け抵抗を接続して、より低い電流制限を設定できます。この抵抗と並列にコンデンサを接続すると、電流制限をソフトスタートさせることができます。C2のわずかなオフセットは、ILIMピンがグランドから200mV以内に引き込まれたときに、C2出力を“H”に保持してスイッチのデューティ・サイクルを強制的にゼロにすることを保証しています。
「シャットダウン」ピンは、ILIMピンを“L”にすることによって、スイッチのデューティ・サイクルを強制的にゼロにするか、またはレギュレータを完全にシャットダウンさせるのに使用されます。前者のスレッショルドは約2.35Vで、完全にシャットダウンする場合のスレッショルドは約0.3Vです。シャットダウン時の全電源電流は約150μAです。10μAプルアップ電流は、シャットダウン・ピンがオープンになっているときに、このピンを強制的に“H”にします。コンデンサを使用して始動を遅らせることができます。入力が希望のトリップ点にあるときに分割電圧が2.35Vになるような分圧抵抗を用いれば“低電圧ロックアウト”をプログラムできます。
LT1074で使用されているスイッチは、飽和状態のPNPでドライブされるダーリントン型NPN(LT1076の場合はシングルNPN)です。特別な特許取得済み回路を使用して、PNPを飽和状態からでも迅速にオンおよびオフにドライブします。この独特のスイッチ構成にはスイッチ出力に接続された「絶縁タブ」がないため、グランドから40V低い電位まで振幅させることができます。
標準的性能特性
ピンの説明
VINピン
VINピンは内部制御回路の電源電圧および高電流スイッチの一端です。過渡ステップまたはスパイクによる誤動作を防止するために、特に低入力電圧時にはこのピンを低ESRおよび低インダクタンスのコンデンサでバイパスすることが重要です。5Aの最大スイッチ電流では、図1に示すようにレギュレータ入力におけるスイッチング過渡状態が非常に大きくなることがあります。入力コンデンサをできるだけレギュレータの近くに配置し、幅の広いトレースを接続してインダクタンスが大きくならないようにします。ラジアル・リードのコンデンサを使用してください。
シャットダウン・モードにおけるVINピンの入力電流は、実際の電源電流(約140μA、最大300μA)とスイッチのリーク電流の総和です。シャットダウン・モードの入力電流が厳密な場合の特別試験については、弊社にお問い合せください。
グランド・ピン
グランド・ピンを説明するのは珍しいことのように思えますが、レギュレータの場合、良好なロード・レギュレーションを実現するために、グランド・ピンを正しく接続する必要があります。内部リファレンス電圧はグランド・ピンを基準にしています。つまり、グランド・ピン電圧の誤差が増幅されて出力に現れます。
優れたロード・レギュレーションを達成するために、この経路に高電流が流れないよう、グランド・ピンは適切な出力ノードに直接接続しなければなりません。出力分圧抵抗も図2に示すように低電流接続ラインに接続します。
帰還ピン
帰還ピンは誤差アンプの反転入力で、デューティ・サイクルを調整してレギュレータ出力を制御します。非反転入力は内部で調整された2.21Vリファレンスに接続されます。誤差アンプが平衡している(IOUT=0)とき、入力バイアス電流は標準0.5μAです。誤差アンプは大入力信号に対して非対称のGMをもち、始動時のオーバシュートを低減させます。これによって、帰還ピンの大きなリップル電圧に対するアンプの感度が向上しています。帰還ピンの100mVp-pのリップルは、アンプに0.7%の出力電圧変化に相当する14mVのオフセットを生成します。出力誤差を避けるには、出力リップル(p-p)を出力分圧器が接続される点のDC出力電圧の4%以下にしなければなりません。
詳細については“誤差アンプ”のセクションを参照してください。
帰還ピンでの周波数シフト
レギュレータの出力電圧が低い場合は、誤差アンプの帰還ピン(FB)を使用して発振器周波数を低下させます。これはスイッチのデューティ・サイクルが極端に低いときでも、出力短絡電流を有効に制御できることを保証するために行われます。連続モードの降圧コンバータに対する理論的なスイッチ“オン”時間は、次式のとおりです。
VIN= 25Vで出力が短絡した( VOUT= 0V)場合、f=100kHzにおいてtONは0.2μsに低下します。電流制限時には、LT1074はtONを約0.6μsの最小値に短縮できますが、VOUT=0Vで電流を正確に制御するにはこれは長すぎます。この問題を解決するために、FBピンが1.3Vから0.5Vに低下すると、スイッチング周波数は100kHzから20kHzに下がります。これは図3に示す回路によって行われます。
出力が安定化されているとき(VFB=2.21V)には、Q1はオフです。過負荷によって出力がプルダウンされるとVFBが低下して1.3Vに達したときQ1をターンオンします。出力が低下し続けると、それに比例してQ1の電流が増加し発振器の周波数が低下します。出力が標準値の約60%になると周波数シフトが始まり、出力が標準値の約20%になると最小値である約20kHzまで低下します。周波数がシフトする速度は、内部の3k抵抗R3と外付け分圧抵抗で決まります。このため、LT1074で高入力電圧と出力短絡状態が同時に起こる可能性がある場合は、R2を4kΩ以上にしてはなりません。
シャットダウン・ピン
シャットダウン・ピンは、低電圧ロックアウト、マイクロパワー・シャットダウン、ソフト・スタート、遅延スタートに使用するか、またはレギュレータ出力の汎用オン/オフ制御として使用します。ILIMピンを“L”にしてスイッチング動作を制御すれば、スイッチが強制的に連続“オフ”状態になります。完全なマイクロパワー・シャットダウンは、シャットダウン・ピンが0.3V以下に低下すると開始されます。
シャットダウン・ピンのV/I特性を図4に示します。2.5Vから約VINまでの電圧では、シャットダウン・ピンから10μAの電流が流れ出します。この電流はシャットダウン・ピンが2.35Vのスレッショルドより低下すると、約25μAに増加します。そして0.3Vスレッショルドでさらに約30μAに増加し、シャットダウン電圧が0.3V以下に低下すると約15μAに低下します。シャットダウン・ピンがオープンのとき、ピンを“H”またはデフォルト状態にする10μA電流源が内蔵されています。この電流はまたシャットダウン・ピンにコンデンサを接続したとき、便利な遅延スタート・アプリケーション用のプルアップ電流を提供します。
Q1がアクティブのとき、図5に示すQ1の標準コレクタ電流は約2mAになります。ILIMピンのソフトスタート・コンデンサは、C1に応じてレギュレータ・シャットダウンを約(5V)(CLIM)/2mA遅延させます。C2とQ1の結合によって、完全なマイクロパワー・シャットダウン後のソフトスタートが保証されます。
低電圧ロックアウト
低電圧ロックアウト点は、図6のR1とR2で設定されます。10μAのシャットダウン・ピン電流による誤差を防止するために、R2は通常5kに設定し、R1は次式から求めます。
消費電流が重要な場合は、R2を15kΩまで増加させることができますが、式のR2項における分母は、VSHをVSH-(10μA)(R2)に置き換えてください。
低電圧ロックアウトのヒステリシスは、図7に示すように、ILIMピンからシャットダウン・ピンに抵抗(R3)を接続すると実現できます。D1はシャットダウン分割器の電流制限が変化するのを防止します。
R3を追加した場合、ロワー・トリップ点(VINが低下する方向)は同じです。アッパー・トリップ点(VUTP)は次式で表されます。
R1とR2を選択すると、R3は次式から得られます。
例: 出力はVIN=20Vになるまで立ち上がらず、VINが15Vに低下するまでは継続して動作することが要求される低電圧ロックアウト。R2=2.32kとすると、
ステータス・ピン(LT1176のみ)
ステータス・ピンは、帰還ピンを「監視する」電圧モニタの出力です。これは帰還電圧が公称値より5%以上高いまたは低い場合に“L”になります。この場合の「公称」とは、±5%ウィンドウをリファレンス電圧相当分にあてはめたときの内部リファレンス電圧を意味します。約10μsの時間遅延により、短いスパイクによって“L”状態にトリップするのを防止します。これが一度“L”になると、別のタイマが約30μs以上この状態になるように強制します。
図8に130μAを4.5Vのクランプ・レベルにプルアップしたステータス・ピンがモデル化されています。シンク・ドライブは約100Ωの抵抗を持つ飽和NPNで、最大シンク電流は約5mAです。外部プルアップ抵抗を追加して、出力振幅を最大20Vまで増加させることができます。
ステータス・ピンを使用して「出力OK」を示すときは、不本意なステータス状態を引き起こす可能性がある条件をテストすることが重要になります。これには、出力オーバシュート、大きな信号過渡、および過大な出力リップルなどがあります。図8に示すように、ステータス・ピンの「偽」トリップは、通常パルス・ストレッチャ回路で制御することができます。始動時などに誤って「真の」信号が出力されないようにするために、出力「OK」(ステータス“H”)信号を遅延させるには、コンデンサ(C1)1個で十分です。ステータス“H”の遅延時間は、ほぼ(2.3×104)(C1)つまり23ms/μFです。ステータス“L”の遅延時間はさらに短い約600μs/μFです。
ステータス“L”の偽トリップが問題になる可能性がある場合は、R1を追加することができます。R1 ≤ 10kΩの場合、ステータス“H”の遅延は同じです。ステータス“L”の遅延は、R1によって約R1 • C2秒に延長されます。“H”の遅延に合わせてC2の値、“L”の遅延に合わせてR1の値をそれぞれ選択してください。
例: ステータス“H”の遅延が10ms、ステータス“L”の遅延が3msの場合
この例ではR1が小さくC2の充電を制限しないので、D1は必要ありません。
非常に高速な“L”トリップと長い“H”遅延を組み合わせたい場合は、D2、R2、R3、C3の構成を使用してください。最初にC3を選択して“L”の遅延を設定します。
次にR3を選択して“H”の遅延を設定します。
tLOW=100μs、tHIGH=10msの場合、C3=0.05μF、R3=200kΩです。
ILIMピン
ILIMピンは電流制限を6.5Aのプリセット値より低くするために使用します。このピンの等価回路を図9に示します。
ILIMピンをオープンにすると、Q1のベース電圧はD2を通して5Vにクランプされます。内部電流制限は、Q1を流れる電流によって決まります。ILIMとグランド間に外付け抵抗を接続すると、Q1のベース電圧を低くして、電流制限を下げることができます。この抵抗には(320μA)(R)の電圧がかかり、D2でクランプされる約5Vに制限されます。与えられた電流制限に必要な抵抗は、次式のとおりです。
たとえば、LT1074で3Aの電流制限には3A (2k)+1k=7kΩが必要です。これらの等式の精度は、2A ≤ ILIM ≤ 5A(LT1074)および0.7A ≤ ILIM ≤ 1.8A(LT1076)に対して±25%です。したがって、ILIMは必要なピーク・スイッチング電流より少なくとも25%高く設定しなければなりません。
フォルドバック電流制限は、図10に示すように、出力からILIMピンに抵抗を付加すると簡単に実現できます。これにより、出力が安定化されているときには電流制限(RLIMがあるなしに係わらず設定した電流)が必要な最大値となるものの短絡状態のときは電流制限を低減することが可能です。RFBの標準値は5kΩですが、これはフォルドバック量を設定するために増減できます。D2は出力電圧により、電流がILIMピンに逆流するのを防止します。RFBの値を計算するには、最初にRLIMを計算し、次にRFBを計算してください。
例: ILIM=4A、ISC=1.5A、RLIM=(4)(2k)+1k=9kの場合
誤差アンプ
図11の誤差アンプは、インバータが付加された単一ステージ設計で、出力を同相入力電圧より高くまたは低く変化させることができます。アンプの片側は、2.21Vに調整された内部リファレンス電圧に接続されています。他方の入力はFB(フィードバック)ピンとして出ています。このアンプは約5000μmhoのGM(電圧「入力」対電流「出力」)伝達関数を持っています。電圧利得は、GM×全等価出力負荷で決まり、その全等価出力負荷は外部の直列RC周波数補償回路網と、それに並列のQ4およびQ6の出力抵抗で構成されます。DCでは外部RCは無視され、Q4およびQ6の並列出力インピーダンスが400kΩの場合、電圧利得は約2000です。数Hz以上の周波数では、電圧利得はRCとCCの外部補償で決まります。
FBピンからVCピンの位相シフトは、外付けCCが利得を制御している中域周波数では90°になり、次にCCのリアクタンスがRCに比較して小さくなると、0°(FBは反転入力のため実際には180°)になります。CCのリアクタンスがQ4およびQ6(r0)の出力インピーダンスと等しくなる低周波数の「ポール」は、次式で表されます。
fPOLEはrOのはらつきによって3:1程変化しますが、中域周波数の利得はGMにのみ関係します。これはデータシートに厳密に規定されています。より高い周波数域の「ゼロ」はRCとCCによってのみ決まります。
誤差アンプのピーク出力電流は非対称です。Q3およびQ4の電流ミラーはユニティゲインですが、Q6ミラーは出力ヌルのときに利得は1.8で、FBピンが“H”(Q1電流=0)のとき利得は8です。これによって、正の最大出力電流は140μAになり、負(シンク)の最大出力電流は約1.1mAになります。故意に非対称となっています。これにより高速始動時または出力の過負荷開放後に、レギュレータ出力のオーバシュートが大幅に減少します。アンプのオフセットは、Q1およびQ2を1.8:1でエリア・スケーリングすることによって低く保持されます。
アンプの振幅は正出力では内部5.8V電源によって制限され、出力が低くなるとD1およびD2によって制限されます。低クランプ電圧はほぼダイオード1個分の電圧降下(約0.7V-2mV/℃)に相当します。
FBピンとVCピンには別の内部接続があることに注意してください。周波数シフトおよび同期に関する検討事項を参照してください。
用語の定義
VIN: DC入力電圧。
VIN': DC入力電圧からスイッチ電圧損失を差し引いたものです。VIN'はVINより1.5V~2.3V低い電圧で、スイッチ電流によって決まります。
VOUT: DC出力電圧。
VOUT': DC出力電圧にキャッチ・ダイオードの順方向電圧を加えたものです。VOUT'は標準でVOUTより0.4V~0.6V高い値です。
f: スイッチング周波数。
IM: 規定最大スイッチ電流IMはLT1074で5.5A、LT1076で2Aです。
ISW: スイッチ・オン時間中のスイッチ電流。この電流は通常は始動時の値に急増した後、ゆっくり増加します。ISWは記述がない限りこの期間の平均値です。これはスイッチ・オフ時間を含むスイッチング周期全体での平均値ではありません。
IOUT: DC出力電流。
ILIM: DC出力電流制限。
IDP: キャッチ・ダイオードの順方向電流。これは不連続動作時にはピーク電流、また連続モード時にはスイッチ・オフ時間中の電流パルスの平均の値です。
IDA: 完全な1スイッチング・サイクルでのキャッチ・ダイオードの順方向電流の平均値。IDAはダイオードの発熱を計算するのに使用されます。
ΔI: インダクタのピーク・ツー・ピーク・リップル電流で、不連続モードではピーク電流となります。ΔIは出力リップル電圧とインダクタ・コア損失を計算するために使用されます。
VP-P: ピーク・ツー・ピーク出力電圧リップル。これには、高速立上り電流とコンデンサの寄生インダクタンスによって生じる「スパイク」は含まれません。
tSW: これは実際の立上り時間または立下り時間ではなく、スイッチの電圧および電流の実効オーバラップ時間を表します。tSWはスイッチの電力消費を計算するために使用されます。
L: インダクタンス。通常、低AC磁束密度およびDC電流ゼロの状態で測定されます。大きなAC磁束密度はLを最大30%まで増やすことができ、大きなDC電流が流れるとLが大幅に減少する(コアの飽和)場合があることに注意してください。
BAC: インダクタ・コアのAピークC磁束密度で、ピーク・ツー・ピークAC磁束密度の半分に等しい値です。ほとんどすべてのコア損失曲線はピーク磁束密度でプロットされるため、ピーク値が使用されます。
N: タップ付きインダクタまたはトランスの巻数比。各アプリケーションについて正確なNの定義に注意してください。
μ: インダクタに使用されるコア材の実効透磁率。μは標準25~150です。フェライト材はこれより高くなりますが、通常は実効値をこの範囲に下げるためにギャップが設けられています。
Ve: コア材の実効体積(cm3)。
Le: コア磁路の実効長(cm)。
Ae: コアの実効断面積(cm2)。
Aw: コアまたはボビンの巻線部分の実効面積。
Lt: 巻線の1巻あたりの平均長。
PCU: 巻線抵抗に起因する電力消費。これには表皮効果は含まれません。
PC: 磁気コアでの電力損失。PCはDC電流ではなく、インダクタのリップル電流にのみ依存します。
E: レギュレータ全体の効率。これは単に出力電力÷入力電力です。
正降圧(バック)コンバータ
図12の回路は、高い正入力電圧を低い正出力電圧に変換するのに使用されます。VIN=20V、VOUT=5V、L=50μH、IOUT=3Aでの連続モード(インダクタ電流はゼロに低下しない)、およびインダクタ電流がスイッチング・サイクルの一部でゼロに低下する不連続モード(IOUT=0.17A)の標準的な波形を図13に示します。連続モードでは出力電力が最大になりますが、大型インダクタが必要です。真の不連続モードでの最大出力電流は、スイッチ電流定格のわずか半分です。連続モード設計において負荷電流が低下すると、最終的には回路が不連続モードに入ることに注意してください。LT1074はどちらのモードでも等しく良好に動作し、負荷電流が減少して不連続モードに移行しても性能に大きな変化はありません。
連続モードにおける降圧コンバータのデューティ・サイクルは次のとおりです。
VfとVSWがわずかに変化することを除いて、デューティ・サイクルは負荷電流によって変化しないことに注意してください。
降圧コンバータは、負荷電流が以下の値と等しくなる時点で連続モードから不連続モードに移行します(デューティ・サイクルは低下し始める)。
負荷過渡応答に不都合がある場合を除いて、軽負荷時の連続モード動作を保証するためにLを増やす理由はありません。
図12の値とVIN=25V、Vf=0.5V、VSW=2Vを使用した場合:
不連続モードでスイッチ「オフ」サイクル中のある点で発生する「リンギング」は、単にインダクタと並列になっているキャッチ・ダイオードおよびスイッチの容量によって生じる共振です。このリンギングは有害ではなく、これを減衰させようとしても効率が無駄になるだけです。リンギング周波数は、以下の式で与えられます。
スイッチ・オフ時間中はダイオードが常に導通していて、効果的に共振を短絡するため、連続モードではオフ状態のリンギングは発生しません。
スイッチ波形の立上りエッジを詳細に観察すると、通常20MHz~50MHz付近の周波数で別の「リンギング」が見られる場合があります。これは入力コンデンサ、LT1074のリード、およびダイオードのリードを含むループのインダクタンスがキャッチ・ダイオードの容量と結合した結果生じるものです。全長4インチのリード線のインダクタンスは約0.1μHになります。これが500pFのダイオード容量と結合して、減衰した25MHzの発振を引き起こし、高速の立上りスイッチ電圧波形に重畳されます。前述したとおり、このリンギングは無害であり、リード線を短くする以外はこのリンギング抑えようとしないでください。相互接続が非常に短く、かつ大容量のダイオードを使用したときのボード・レイアウトでは、「オン」時間中にスイッチ出力と共振してスイッチ出力で小振幅の発振を生じる同調回路を形成する場合があります。これはボード組立時に、いずれか一方のダイオード・リードにフェライト・ビーズを入れて除去することができます。
興味深いのは、標準のシリコン・ファストリカバリ・ダイオードは容量値が低く、低速ターンオフ特性のため効果的にダンプされるので、ほとんどリンギングが生じないことです。この低速ターンオフと大きな順方向電圧は電力損失が追加されることを表しているので、通常はショットキ・ダイオードが推奨されます。
降圧コンバータの最大出力電流は、次式で与えられます。
図示した例で、L=50μHおよびVIN=25Vの場合
インダクタ・サイズを100μHに増やしても最大出力電流は4%しか増加しませんが、これを20μHに減らすと最大電流は4.5Aに低下することに注目してください。出力電流が少ない場合は低インダクタンスを使用できますが、コア損失が増加します。
インダクタ
降圧コンバータで使用されるインダクタは、エネルギー蓄積素子および平滑フィルタとして動作します。良好なフィルタリングとサイズおよびコストの間には、基本的なトレードオフがあります。LT1074で使用される標準的なインダクタ値は、5μHから200μHまでの範囲です。低い値のインダクタは低電力、最小サイズのアプリケーションに使用され、大きな値のインダクタは出力電力を大きくしたり、出力リップル電圧を小さくするのに使用されます。インダクタはコアの発熱を避けるために、少なくとも出力電流と同じ値の電流で定格が規定されていなければならず、リップル電流(どんな周波数でもVとμsの積で表される)にも制約があります。インダクタの選択と損失計算の詳細については、「インダクタの選択」のセクションを参照してください。
出力キャッチ・ダイオード
D1はLT1074スイッチのターンオフ時に、L1電流の経路を作るために使用されます。連続モードでD1を流れる電流は、デューティ・サイクルが(VIN-VOUT)/VINの出力電流と等しくなります。入力電圧が低い場合、D1は50%以下のデューティ・サイクルで動作していることもあるでしょうが、このダイオードの放熱を抑えられる恩恵には十分注意しなければなりません。まず、予想外の高い入力電圧はデューティ・サイクルを増加させます。しかし、さらに重要なのは出力短絡状態です。VOUT=0のとき、どの入力電圧でもダイオードのデューティ・サイクルは約1です。また、電流制限時には、ダイオード電流は負荷電流ではなくLT1074のスイッチ電流制限によって決まります。連続出力短絡に耐えなければならない場合は、D1は十分な定格と放熱能力を有していなければなりません。LT1074の7ピンおよび11ピン・バージョンでは、電流制限を低減してダイオードの消費電力を制限することができます。5ピン・バージョンでは、図20に示す手法を用いて正確な電流制限が可能です。
通常の状態では、D1の消費電力は次式で与えられます。
Vfは電流がIOUTのときのD1の順方向電圧です。ショットキ・ダイオードの順方向電圧は、ダイオードの最大定格電流で標準0.6Vなので、効率を維持し短絡状態時に余裕をもたせるために、出力電流の1.5~2倍の定格を持つダイオードを使用するのが通常の設計方法です。このディレーティングによって、Vfを約0.5Vに低下させることができます。
例: VIN(MAX)=25V、IOUT=3A、VOUT=5Vで、Vf=0.5Vと仮定します。
十分な放熱を提供できない場合は、出力短絡状態でダイオードの消費電力が大きくなるので、電流制限の調整が必要になる場合があります。
逆回復時間は無視できるほど短いと想定されるので、ダイオードのスイッチング損失は無視してあります。標準シリコン・ダイオードを使用する場合、スイッチング損失は無視できません。これらは以下のとおり概算することができます。
例: 同じ回路でtrr=100nsの場合
急峻なターンオフ特性を持つダイオードは、この電力の大部分をLT1074のスイッチに伝送します。ソフト・リカバリ・ダイオードは、ダイオード自体で多くの電力を消費します。
LT1074の消費電力
LT1074には、入力電圧や負荷に関係なく約7.5mAの消費電流が流れます。スイッチ「オン」時間中にはさらに5mAが追加されます。スイッチ自体は負荷電流にほぼ比例する電力を消費します。この電力は純粋な導通損失(スイッチ「オン」電圧×スイッチ電流)と有限のスイッチ電流の立上り時間および立下り時間に起因するダイナミック・スイッチング損失によるものです。LT1074の全電力消費は、以下のとおり計算できます。
例:VIN=25V、VOUT=5V、f=100kHz、IOUT=3Aの場合
入力コンデンサ(降圧コンバータ)
入力電流は高速な立上りおよび立下り時間を持つ方形波なので、降圧コンバータには通常、ローカル入力バイパス・コンデンサが必要です。このコンデンサはリップル電流定格で選択され、ESRとコンバータ入力電流のAC実効値によって生じる加熱を避けるために、容量が十分大きくなければなりません。連続モードの場合:
ワースト・ケースはVIN=2VOUTのときです。
入力コンデンサでの電力損失は高効率アプリケーションにおいてはわずかなものではありません。単純にコンデンサのRMS電流の2乗×ESRになります。
例:VIN=20V~30V、IOUT=3A、VOUT=5Vの場合
ワースト・ケースはVIN=2 • VOUT=10Vのときなので、これに最も近いVIN値である20Vを使用します。
入力コンデンサは、最小30Vの動作電圧と1.3Aのリップル電流で定格が規定されていなければなりません。リップル電流定格は最大周囲温度に応じて変化するため、データシートを慎重にチェックしてください。
入力コンデンサはLT1074のごく近くに配置し、DC入力電圧が12V以下のときは短いリード(ラジアル・リード)を使用することが重要です。リード長が1インチあたり2Vものスパイクがレギュレータ入力に現れます。これらのスパイクの下端が約7V以下にまで達すると、レギュレータの動作が異常になります。ピン説明のところにある「VINピン」を参照してください。
ここで、コンデンサの値についての説明がないのを疑問に思うかもしれません。これはコンデンサの値がそれほど重要ではないためです。大容量電解コンデンサは10kHz以上の周波数で純粋に抵抗性(または誘導性)なので、バイパス・インピーダンスは抵抗性であり、ESRが支配的な要素です。LT1074で使用する入力コンデンサの場合、リップル電流定格に適合する個体は、容量値に関係なく十分な「バイパス」を提供します。リップル電流定格が同じ場合、電圧定格が高い固体の容量値は小さくなりますが、一般に与えられたリップル電流/ESRに適合させるのに必要な体積は、広い容量/電圧定格範囲で一定です。このアプリケーション用に選択されたコンデンサのESRが0.1Ωの場合、電力損失は(1.3A)2 (0.1Ω)=0.17Wとなります。
出力コンデンサ
降圧コンバータでは、出力リップル電圧はインダクタ値と出力コンデンサによって決まります。
この式では出力コンデンサのESRだけを使用することに注目してください。コンデンサは10kHz以上の周波数で純粋に抵抗性であると想定されます。インダクタ値が分かっていれば、この式を整理してESRを求め、コンデンサの選択を助けることができます。
ワースト・ケースの出力リップルは入力電圧が最も高いときです。リップルは、連続モードの場合は負荷とは無関係で、不連続モードの場合には負荷電流の平方根に比例します。
例: VIN(MAX)= 25V、VOUT= 5V、IOUT= 3A、L1=50μH、f=100kHzの連続モードの場合。所要最大ピーク・ツー・ピーク出力リップルを25mVとします。
このESRの10Vコンデンサは、容量が数1000μFになりかねないためサイズがかなり大きくなります。以下のトレードオフが考えられます。
- ボード面積より部品の高さが重要な場合は複数のコンデンサを並列に配置する。
- インダクタンスを増やす。高価なコア(モリパーマロイなど)を使用すれば、サイズを大きくしないでインダクタンスを増やすことができます。
- 出力フィルタの追加。追加部品がかなり低コストで、またメインLおよびCの「小型化」も可能であり、余分に必要なスペースが少なくてすむため、多くの場合は最良の解決策です。「出力フィルタ」のセクションを参照してください。
電流が予めインダクタでフィルタされるため、降圧コンバータの出力コンデンサではリップル電流は通常問題になりませんが、特にコンデンサを「小型化」して追加出力フィルタを利用している場合は、最終的にコンデンサを選択する前に手早くチェックする必要があります。出力コンデンサのRMSリップル電流は、次のとおりです。
このリップル電流は十分に低いため問題ではありませんが、出力フィルタを追加してインダクタを1/2や1/3に小型化し、出力コンデンサを最小にした場合は変化することがあります。
不連続モードでのRMSリップル電流の計算は、ここでの説明には複雑すぎると判断しましたが、伝統的値は出力電流の1.5~2倍です。
出力リップルを小さくするには、出力リードでダイオード(D1)電流とインダクタ電流が循環しないように、レギュレータの出力端子をコンデンサのリードに直接接続しなければなりません。
効率
インダクタと出力フィルタによる損失を除くすべての損失が、この降圧レギュレータのセクションに記載されています。使用した例は、25V入力、5V/3A出力です。計算された損失は、スイッチ1.24W、ダイオード1.2W、スイッチング時間0.89W、電源電流0.21W、および入力コンデンサ0.17Wです。出力コンデンサの損失は無視できます。これらすべての損失の合計は3.71Wです。インダクタ損失は本アプリケーション・ノートの特記事項のセクションに記載されています。このアプリケーションでは、インダクタの銅損失を0.3W、コア損失を0.15Wと仮定します。全レギュレータ損失は4.16Wです。効率は次のとおりです。
特定の損失項の改善やトレードオフを検討するときには、どれか1つの項を変更すると変更分は効率の2乗を乗算した値に低下することに注意してください。たとえば、スイッチ損失が0.3Wだけ減少した場合、これは出力電力15Wの2%に相当しますが、効率は2(0.8)2=1.28%しか改善されません。
出力分圧器
R1とR2はDC出力電圧を設定します。R2はLT1074のリファレンス電圧2.21Vに合わせて、通常2.21kΩ(標準1%値)に設定され、1mAの分圧器電流が流れます。次にR1は次式から計算されます。
R2はその他のニーズに合わせて、いずれの方向にでもスケールできますが、短絡出力状態でもFBピン電圧による周波数シフト作用が確実に維持されるよう4kΩの上限が提案されます。
出力オーバシュート
2ポールLC回路は帰還ループに対してかなり低いユニティゲイン周波数を必要とするので、スイッチング・レギュレータではしばしば始動オーバシュートが発生します。LT1074はオーバシュートの低減を図るために、スルーレートが非対称的な誤差アンプを備えていますが、L1C1とC2R3の組合せによっては依然として問題になる場合があります。オーバシュートはすべての設計で、無負荷状態において最大入力電圧を印加し、出力をゼロからスルーさせることによってチェックしなければなりません。これは入力を変化させるかまたは0V-10Vの方形波に接続されたダイオードを通して、VCピンを“L”にすることによって実行できます。
ワースト・ケースのオーバシュートは、VCピンが高クランプ状態から約1.3Vまでスルーしなければならないため、出力短絡からの回復時に発生する可能性があります。この状態は出力を短絡して解放する手荒な方法で最も効果的にチェックされます。
過大な出力オーバシュートが見られる場合は、これを許容レベルまで低減する手順は、まず補償抵抗を増やしてみることです。誤差アンプの出力は、オーバシュートを制御するために、高速で負にスルーしなければならず、このスルーレートは補償コンデンサによって制限されます。ただし、補償抵抗によりアンプ出力はスルー制限が始まる前に、下方に迅速に「変化」することができます。この変化の大きさは約(1.1mA)(RC)です。RCを3kΩまで増やせる場合、VCピンは非常に速く応答して出力オーバシュートを制御することができます。
RC=3kΩでループの安定性を維持できない場合は、他にいくつか方法があります。出力コンデンサの容量を増やすと、出力の立上り時間が制限され短絡回復オーバシュートが低減されます。電流制限を低くしても、同じ理由から有効です。補償コンデンサを0.05μF以下に減らすと、許容オーバシュート時間中にVCピンが相当量をスルーできるので、オーバシュートの低減に効果があります。
出力オーバシュートの「最終的な解決策」は、VCピンをクランプして出力をシャットオフするのに大きくスルーしなくてもよいようにすることです。通常動作時のVCピン電圧は、内部乗算器によって出力電圧を除くすべての構成要素から独立しているため、かなり正確に分かります。
過渡状態および回路許容差を許容するために、VCピンのクランプ・レベルを計算するのに多少異なる式が使用されます。
VIN(MAX)=30Vで出力5Vの場合
図14に示すように、VCピンをクランプするにはいくつか方法があります。最も簡単な方法は、単にクランプ・ツェナー(D3)を追加することです。ここでの問題は、折曲部以下でリーク電流が少ない低電圧ツェナーを見つけることです。全温度範囲における最大ツェナー・リークは40μA(@ VC=2φ+VOUT/20V)でなければなりません。1つの解決策は、計算したクランプ・レベルが2.5Vを超えないところでLM385-2.5Vマイクロパワー・リファレンス・ダイオードを使用することです。
2つめのクランプ方式は、電圧分割器とダイオード(D4)を使用することです。VXはレギュレータ出力電圧で崩壊しない準安定化電源でなければなりません。20Vまでの出力に対しては、第3の手法を使用することができます。D1とD2の2個のダイオードでVCピンを帰還ピンにクランプします。これらは順方向電圧がφと一致する金無添加の小信号スイッチ・ダイオードです。この理由は始動です。VCは基本的にVOUT=0のとき、出力分圧器を通してグランドにクランプされます。VCは始動を保証するために、十分に上昇できなければなりません。帰還ピンは、帰還ピンとVCピンからの合流電流によって、VOUT=0のときに約0.5Vになります。VC電圧は2φ+0.5V+(0.14mA) (RC)になります。RC=1kΩ、VC=1.94の場合。これは始動を保証するのに十分です。
無効なオーバシュート対策
これらはすでに試みて動作しないことが分かっています。最初は出力電流またはVC電圧をゆっくり上昇させて実行されるソフト・スタートです。最初の問題は、出力がゆっくり上昇すると、VCピンが標準制御点を大きく超えてランプアップするのにより長く時間がかかるため、オーバシュートを停止させるにはさらに低くスルーしなければならないことです。VCピン自体がゆっくり上昇した場合、入力スタートアップ・オーバシュートを制御することができますが、入力シーケンスのすべての条件に対してソフト・スタートのリセットを保証するのは非常に困難になります。いずれの場合も、これらの手法では出力による「リセット」が得られないので、出力の過負荷に続くオーバシュートの問題には対処できません。
もう1つの一般的な方法は、出力分圧器の上側の抵抗にコンデンサを並列に追加することです。これも限定された条件では良好に機能しますが、過負荷状態が発生して、出力が安定点よりわずかに低くなり、VCピンが正の制限値(約6V)に達すると無効になります。追加されたコンデンサは充電されたままで、VCピンは過負荷が解除されたときにオーバシュートを制御するために、ほぼ5Vスルーしなければなりません。結果として生じるオーバシュートは非常に大きく、しばしば致命的となります。
タップ付きインダクタ降圧コンバータ
降圧コンバータの出力電流は通常、最大スイッチ電流に制限されますが、この制約は図15に示すとおり、インダクタにタップを設けて変更することができます。回路図に示すとおり、「入力」巻線対「出力」巻線の巻数比は「N」です。タップの効果は、スイッチ「オン」時間を延長して、スイッチ電流を増やさずに入力からより大きな電力を取り出すことです。スイッチ「オン」時間中にL1を通して出力に送られる電流はスイッチ電流と等しく、LT1074の場合は最大5.5Aです。スイッチがターンオフすると、インダクタ電流はL1の「1」と表示された出力セクションだけを流れ、D1を通して出力に流れます。インダクタでのエネルギー保存には(N+1):1の比による電流増加が必要です。N=3の場合、スイッチ・オフ時間中に出力に送られる最大電流は(3+1)(5.5A)=22Aです。平均負荷電流は5Aおよび22Aの加重平均電流まで増加します。最大出力電流は次式で与えられます。
最後の項(N+1)/(1+N • VOUT/VIN)は、基本スイッチ電流の乗算項です。入力電圧が高いとき、この項はN+1に接近し理論的な出力電流はN=3の場合は18Aに接近します。入力電圧が低い場合、この乗算項は1に接近しインダクタにタップを設ける利点はありません。したがって、最大負荷電流能力を計算するときは、常にワースト・ケースの低入力電圧を使用してください。0.95の乗算項は、副次的影響であるリーク・インダクタンスに相当する追加項です。
例:VIN(MIN)=20V、N=3、L=100μH、VOUT=5V、ダイオードVf=0.55V、f=100kHzの場合。ISW=LT1074の最大値=5.5A、VOUT'=5V+0.55V=5.55V、VIN'=20V-2V=18Vとする。
タップ付きインダクタ・コンバータのデューティ・サイクルは、次式のとおりです。
平均およびピーク・ダイオード電流は、次式のとおりです。
スイッチ・オン時間中の平均スイッチ電流は、次式のとおりです。
ダイオード・ピーク逆電圧は、次式のとおりです。
スイッチの逆電圧は次式のとおりです。
VIN(MAX)=30V、IOUT=8Aで、最大出力電流例のパラメータを使用すると、
これが「オン」時間中の平均スイッチ電流です。スイッチの電力損失を得るには、デューティ・サイクルとスイッチ電圧降下を乗算しなければなりません。全損失にはスイッチの立下り時間も含まれます(立上り時間損失は、L1のリーク・インダクタンスのためにごくわずかです)。
*リード長を2インチと仮定。
スナバ
タップ付きインダクタ・コンバータは、L1のリーク・インダクタンスによって生じる負のスイッチング・スパイクを切り取るためにスナバ(D2とD3)を必要とします。このインダクタンス(LL)は、タップを出力端子に短絡した状態で、タップとスイッチ(N)端子間で測定される値です。理論的に、短絡された巻線は他のすべての端子に対して「ゼロ」Ωになるので、測定されるインダクタンスはゼロになります。実際には、バイファイラ巻を使用しても、全インダクタンスに対して1%以上のリーク・インダクタンスがあります。これはPE-65282の場合は約1.2μHです。LLは「N」部分の入力と直列になった個別インダクタンスとしてモデル化され、インダクタの残りの部分には結合しません。これはスイッチのターンオフ時にスイッチ・ピンに負のスパイクを発生させます。D2およびD3はスイッチの損傷を防止するために、このスパイクを切り取りますが、D2は大きな電力を消費します。この電力は、スイッチのターンオフ時にLLに保存されるエネルギー量(E=(ISW)2 • LL/2)にスイッチング周波数およびD2電圧とインダクタ入力点での通常の逆電圧振幅間の電圧差に依存する乗算項を乗算した値に等しくなります。
この例では:
出力リップル電圧
タップ付きインダクタ・コンバータの出力リップルは、出力に供給される通常の三角形電流に方形波電流が重畳されるため、単純な降圧コンバータより高くなります。出力に供給されるピーク・ツー・ピーク・リップル電流は、次式のとおりです。
RMSリップル電流の極端でない近似値は、ピーク・ツー・ピーク電流の半分です。
出力リップル電圧は単に出力コンデンサのESR×Ip-pです。この例で、ESR=0.03Ωの場合
この高い値のリップル電流および電圧では、出力コンデンサについて若干の検討が必要です。過大なコンデンサにならないよう、複数の小型ユニットを並列にして、5.7Aの組合せリップル電流定格を達成してください。このリップル電圧は多くのアプリケーションにとってなお問題です。ただし、リップル電圧を50mVまで低減するには、0.005Ω以下のESRが必要ですが、これは非現実的な値です。代わりに、リップルを20:1以上減衰させる出力フィルタが追加されています。
入力コンデンサ
入力バイパス・コンデンサは、リップル電流定格に従って選択されます。全コンバータ入力リップル電流が入力コンデンサから供給されるものと仮定しています。RMS入力リップル電流の概算値は、次式のとおりです。
入力コンデンサは100kHzでは純抵抗性であるため、容量値(μF)は特に重要ではありません。ただし、所要リップル電流および最大入力電圧定格が必要です。リード・インダクタンスを小さくするために、ラジアル・リード・タイプを使用するのがよいでしょう。
正-負コンバータ
LT1074は、入力電圧と出力電圧の合計が8Vの最小電源電圧定格より高く、使用する最小正電源電圧が4.75Vの場合は、正電圧から負電圧への変換に使用することができます。図16はLT1074を使用して5Vの負電圧を発生する回路を示します。このデバイスのグランド・ピンは負出力に接続されています。これによって、帰還分割器(R3とR4)を通常の形態で接続することができます。グランド・ピンが接地されていたなら、適切な帰還信号を生成するのに、何らかのレベル・シフトと反転が必要になるところです。
正-負コンバータは、伝達関数に「右半面ゼロ」があり、特に低入力電圧時に周波数を安定させるのがきわめて困難です。R1、R2、およびC4は、低入力電圧時にループの安定性を保証するためだけに基本設計に追加されました。これは、VIN > 10VまたはVIN/VOUT > 2の場合は省略できます。DC出力電圧を計算するために、R1+R2はR3と並列に接続されています。これらの抵抗については、以下のガイドラインを使用してください。
R1とR2を省略した場合:
+12Vから-5Vのコンバータでは、R4=2.21k、R3=2.74kになります。
推奨補償部品は、C3=0.005μFを0.1μFと1kΩの直列RCに並列接続したものです。
コンバータは、LT1074のスイッチが「オン」のとき、入力電圧でL1を充電して動作します。スイッチ「オフ」時間中は、D1を通してインダクタ電流が負出力に送られます。連続モード動作の場合、スイッチのデューティ・サイクルは次式のとおりです。
連続モードのピーク・スイッチ電流は、次式のとおりです。
与えられた最大スイッチ電流(IM)に対する最大出力電流を計算するために、これを次のように整理することができます。
(IM • RL)の項が追加されていることに注意してください。この項はインダクタの直列抵抗(RL)に該当し、低入力電圧時に大きな損失になる可能性があります。
最大出力電流は入力電圧と出力電圧に依存し、本質的に一定の出力電流を供給する降圧コンバータとは異なります。掲載されている回路は、VIN=30Vで4A以上を供給しますが、VIN=5Vでは1.3Aです。IOUT(MAX)の式には、コンデンサのリップル電流、スイッチの立上り時間と立下り時間、コア損失、出力フィルタなど、2次的損失の項は含まれていません。これらの要因によって、低入力電圧や低出力電圧時に最大出力電流が最大10%低下することがあります。図17は各種出力電圧に対するIOUT(MAX)と入力電圧の関係を示します。これは、VOUT=-5Vのときに25μH、VOUT=-12Vのときに50μH、そしてVOUT=-25Vのときに100μHのインダクタを想定しています。
絶対最小サイズの回路が必要で、負荷電流がそれほど高くない場合は、不連続モードを使用できます。規定される負荷に対して必要な最小インダクタンスは、次のとおりです。
不連続モードで供給可能な最大負荷電流があります。この電流を超えるとLMINの式は無効です。不連続モードでの最大負荷電流は、次式のとおりです。
例:VOUT=5V、IM=5A、f=100kHz、負荷電流=0.5A。ダイオード順方向電圧=0.5Vとすると、VOUT'=5.5V。VIN=4.7V~5.3V。VIN'(MIN)=4.7V-2.3V=2.4Vと仮定。
0.5Aの所要負荷電流は、0.76Aの最大値より少ないため、不連続モードを使用することができます。
周波数とインダクタンスの製造上のバラツキに対して最大負荷電流を保証するには、3μHを使用しなければなりません。
最小インダクタンスの式は、インダクタでの高いピーク電流を想定しています(約5A)。最小インダクタンスを使用する場合、インダクタは飽和しないで高いピーク電流を処理できるものを指定しなければなりません。高リップル電流によって、比較的高いコア損失と出力リップル電圧も生じるため、インダクタを小型化するときには、何らかの決断が必要です。詳細は「インダクタの選択」のセクションを参照してください。
不連続モードでのピーク・インダクタおよびスイッチ電流を計算するには、次式を用います。
入力コンデンサ
C1は正-負コンバータに流れる大きな方形波のスイッチング電流を吸収するために使用されます。このコンデンサは、RMSリップル電流を処理し、特に5V入力時にスイッチ・オン時間中の入力電圧の「落ち込み」を避けるために、ESRが低くなければなりません。リップル電流条件と動作電圧条件を満足していれば、容量値は特に重要ではありません。コンデンサのRMSリップル電流は、次式で表すことができます。
例:VIN=12V、VOUT=-5V、IOUT=1A、VOUT'=5.5V、およびVIN'=10Vの連続モード設計の場合
ここで、同じ条件でL=5μH、f=100kHzの不連続モード設計に変更した場合
不連続モードではインダクタ・サイズが小さくなりますが、リップル電流の増加分を処理するために大容量の入力コンデンサが必要になる場合があります。リップル電流が30%増加すると、コンデンサのESRでの発熱が70%増加します。
出力コンデンサ
正-負コンバータのインダクタは、フィルタとしては動作しません。これは入力から出力にエネルギーを転送することができるように、単にエネルギー保存デバイスとして動作しているだけです。したがって、すべてのフィルタリングは出力コンデンサによって行われるので、出力コンデンサは十分なリップル電流定格と低いESRを持っていなければなりません。連続モードでの出力リップル電圧には、3つの主要成分が含まれています。すなわち、スイッチ電流の立上り/立下りレート×出力コンデンサの実効直列インダクタンス(ESL)に等しいスイッチ遷移での「スパイク」、負荷電流とコンデンサのESRに比例する方形波、およびインダクタ値とESRによって決まる三角波成分です。スパイクは標準で100ns以下と非常に狭く、コンバータと負荷間のPCボード・トレースのインダクタンスと負荷バイパス・コンデンサの組合せによって生じる寄生フィルタでしばしば「消滅」します。オシロスコープでこれらのスパイクを観測するときは、細心の注意が必要です。コンバータ出力にスパイクがないときでも、コンバータ巻線での電流変化によって生じる磁界がスクリーン上に「スパイク」を発生します。詳細は「オシロスコープ・テクニック」のセクションを参照してください。
方形波および三角波出力リップル電圧のピーク・ツー・ピークの和は、次式で表すことができます。
例: VIN= 5V、VOUT= - 5V、L= 25μH、IOUT(MAX)=1A、f=100kHzの場合。VIN'=2.8V、VOUT'=5.5V、およびESR=0.05Ωと仮定。
アプリケーションによっては、このやや高目のリップル電圧を許容できる場合もありますが、一般的にはリップル電圧は50mV以下まで低減することが必要です。出力フィルタが掲載されているように、単にESRを低減してこれを達成するのは非実用的です。フィルタ部品は比較的小型かつ低コストであり、メイン出力コンデンサC2のサイズを小型化できるとなればさらに効果的です。詳細は「出力フィルタ」のセクションを参照してください。
C2はリップル電流とESRを考慮して、選択しなければなりません。出力コンデンサのリップル電流は次式で与えられます。
IP=ピーク・インダクタ電流
連続モードの例
IOUT=0.5Aで、3μHのインダクタを使用する不連続モードの場合
この不連続モードの例では、出力コンデンサのリップル電流は、DC出力電流の2倍以上であることに注意してください。不連続モードではインダクタ・サイズを小型化できますが、リップル電流条件を満足するために、入力と出力に大容量コンデンサが必要なためこの効果が相殺されることがあります。
効率
この正-負コンバータの効率は、入力電圧と出力電圧が高い場合にはかなり高く(90%以上)なりますが、入力電圧が低い場合はかなり低くなることがあります。連続モード設計の場合の損失を以下に要約します。不連続モードでの損失を解析して表現するのははるかに困難ですが、標準的に連続モードより1.2~1.3倍高くなります。
スイッチの導通損失=PSW(DC)
過渡スイッチ損失=PSW(AC)
ここで、tSW=50ns+3ns (VOUT'+VIN') /VIN'。LT1074の消費電流によって、PSUPPLYと呼ばれる損失が生じます。
ここで、Vfは以下の式に等しい電流値でのD1の順方向電圧
コンデンサの損失は、RMSリップル電流を計算しそれにコンデンサのESRを乗算して求めることができます。インダクタの損失は、銅(導線)損失とコア損失の和です。
インダクタのコア材が分かれば、PCOREを計算することができます。「インダクタの選択」のセクションを参照してください。
例:VIN=12V、VOUT=-12V、IOUT=1.5A、f=100kHzの場合。RL=0.04ΩでL1=50μHとする。入力および出力コンデンサのESRを0.05Ωと仮定。VIN'=12V-2V=10V、VOUT'=12V+0.5V=12.5V
負昇圧コンバータ
Note:このセクションの式はすべて、VINおよびVOUTの絶対値を使用しています。
LT1074はグランド・ピンを負出力に接続すれば負昇圧コンバータ(図18)として構成できます。これにより、安定化出力が少なくとも8Vあれば、レギュレータは最小4.75Vの低い入力電圧で動作できます。従来の接続と同様に、R1とR2で出力電圧を設定し、R1は次式から選択します。
昇圧コンバータでは信号経路の先頭部分に「右半面ゼロ」があるため、L1はこの「ゼロ」周波数を最大にするために低い値に保持されます。L1の値が大きいと、特に低い入力電圧においてレギュレータを安定化させるのが困難になります。VIN > 10Vの場合、L1を50μHまで増やすことができます。
昇圧コンバータには、覚えておきたい2つの重要な特性があります。まず、入力電圧が出力電圧を超えることはできません。さもないと、D1は単に出力を安定化されない高い電圧に引き上げます。次に、出力を入力以下の電位にすることはできません。さもないと、D1は入力電源を引き込みます。この理由から、何らかの形のヒューズが用意されていない限り、昇圧コンバータは通常は短絡保護されているとは考えられません。ヒューズを使用していても、入力電源に非常に大きなサージ電流が流れる可能性がある場合は、D1が損傷するおそれがあります。
昇圧コンバータは、出力負荷電流よりもはるかに大きなスイッチ電流を必要とします。ピーク・スイッチ電流は、次式で与えられます。
図18の回路で、VIN=5V、(VIN'約3V)、VOUT'約15.5V、出力負荷0.5A場合
この式を整理して、与えられた最大スイッチ電流(IM)に対する最大負荷電流を求めることができます。
IM=5.5Aの場合、この式によってVIN=4.5Vのとき0.82A、VIN=8Vのとき1.8A、VIN=12Vのとき3.1Aが得られます。
スイッチ電流が出力電流よりはるかに大きいという意味は、スイッチ「オフ」時間中にのみ電流が出力に供給されるということです。入力電圧が低いとき、全スイッチ・サイクルに占めるスイッチ「オン」の割合が高く、電流はわずかな時間のみ出力に送られます。スイッチのデューティ・サイクルは、次式で与えられます。
VIN=5V、VOUT=15V、VIN'=約3V、VOUT'=15.5Vの場合
ピーク・インダクタ電流は、ピーク・スイッチ電流と同じ値です。連続モードでの平均インダクタ電流は、次式と等しくなります。
VIN=5Vの場合、0.5Aの負荷電流は2.6Aのインダクタ電流を必要とします。
高いスイッチ電流に加えて、昇圧コンバータには出力負荷電流よりも大きなDC入力電流が流れることを覚えておいてください。コンバータの平均入力電流は、次式のとおりです。
IOUT=0.5A、VIN=5V(VIN'=約3V)のとき
この式はインダクタ、出力コンデンサなどの2次的損失の項を考慮していないため、いくから楽観的です。実際の入力電流は3A近くと考えられます。入力電源が、要求される昇圧コンバータの入力電流を供給できることを確認してください。
出力ダイオード
D1を流れる平均電流は出力電流と等しくなりますが、ピーク・パルス電流はピーク・スイッチ電流と等しく、出力電流の何倍にもなる可能性があります。D1は控え目な定格値が出力電流の2~3倍でなければなりません。
出力コンデンサ
昇圧コンバータの出力コンデンサは高いRMSリップル電流を扱うため、C1を選択する際にはしばしば決定的要素になります。RMSリップル電流の概算値は、次式のとおりです。
IOUT=0.5A、VIN=5Vの場合
C1はリップル電流定格が1A RMSでなければなりません。実際の容量値は厳密でなくてもかまいません。コンデンサのESRは出力リップル電圧を決定します。
出力リップル
昇圧コンバータは、出力コンデンサに高いパルス電流が送られるため出力リップルが大きくなる傾向があります。
この式は連続モード動作を想定し、C1のインダクタンスを無視しています。実際の動作では、C1のインダクタンスによって出力「スパイク」が生じますが、これは出力フィルタで除去しなければなりません。スパイクだけを除去する必要がある場合、このフィルタは数インチの出力ワイヤかトレースと小型固体タンタル・コンデンサで構成した簡単なもので間に合います。基本波を大幅に低減する必要がある場合は、フィルタ・インダクタが必要です。「出力フィルタ」のセクションを参照してください。
図18の回路で、IOUT=0.5A、VIN=5Vで出力コンデンサのESRが0.05Ωの場合
入力コンデンサ
昇圧コンバータは、入力電流パルスについては降圧または反転コンバータよりも良好です。入力電流はDCレベルに三角波リップルが重畳されたものです。入力電流リップルのRMS値は、次式のとおりです。
負荷電流がコンバータを連続モードに保持できるだけ高いものと仮定すれば、リップル電流は負荷電流とは無関係です。図18のコンバータでVIN=5Vの場合
C3はサイズを小さくするために、リップル電流を基準にして選択することができます。C3の値が大きいと、入力電源に戻る伝導EMIが少なくなります。
インダクタの選択
スイッチング・レギュレータ用インダクタの選択には、5つの主な基準があります。まず、最も重要なことは実際のインダクタンス値です。インダクタンスが低すぎる場合は出力電力が制限されます。インダクタンスが大きすぎると、物理的サイズが大きくなり過渡応答が劣化します。次に、インダクタは負荷電流より大幅に大きくなる可能性があるRMS電流とピーク電流を処理できなければなりません。ピーク電流はコア飽和によって制限され、結果的にインダクタンスが失われます。RMS電流は巻線の発熱の影響によって制限されます。同様に重要なのは、コア自体の発熱の影響を決定するピーク・ツー・ピーク電流です。3番目に、多くのアプリケーションでインダクタの物理的サイズまたは重量も重要になることがあります。4番目に、インダクタの電力損失は、特にスイッチング周波数が高いときに、レギュレータの効率に大きな影響を与える可能性があります。最後に、インダクタの価格は具体的な製造方法やコア材に大きく依存し、全体の寸法、効率、実装性、EMI、および形状に影響を与えます。たとえば、「最小サイズ」アプリケーションでより高価なコア材が必要な場合は、大幅にコスト高になることがあります。
価格とサイズの問題は、高い周波数において特に複雑です。部品サイズを小さくするには高い周波数が使用されますが、実際に必要なインダクタンス値は周波数に反比例します。小型高周波インダクタでの問題は、リップル電流が一定の場合には、周波数が高くなると全コア損失がわずかに増加し、この電力はより小さなコアで消費されるため、温度上昇と効率によって、小型化が制限される場合があります。また、コアのサイズが小さいほど巻線用のスペースが少なくなるため、ワイヤ損失が増加する可能性があります。この問題の解決法は、良いコア材を見つけることしかありません。一般的な低コストのインダクタは鉄粉コアを使用しており、これは非常に低コストです。これらのコアは標準磁束密度が300ガウスの場合、40kHzにおいてはほどよい損失を示します。100kHzでは、コア損失がこれらの磁束密度では許容できないほど高い値になる可能性があります。磁束密度を低くするには大きなコアが必要なので、高周波数でのインダクタンス低減による利点が一部失われます。
モリパーマロイの「high flux」、「Kool Mμ」(Magnetics, Inc.製)、およびフェライト・コアは、コア損失がかなり低く、高い磁束密度で100kHz以上で使用可能ですが高価です。ここでの基本的な教訓は、コストを削減し、サイズと効率の目標を達成するには、インダクタの選択に配慮することが非常に重要であることです。
以下のセクションにおいては、与えられたコア材の全コア損失は物理的寸法や形状ではなく、ほぼ完全に周波数とインダクタンス値によって決まることを示す特別な公式が開発されました。この公式は、与えられたコア損失を達成するのに必要なインダクタンスを求めるように整理されており、標準的な100kHz降圧コンバータで低コストの鉄粉コアを使用する場合は、インダクタンスを必要最小値の3倍に増やさなければならないことを示しています。
「標準的な」スイッチング・レギュレータのインダクタはトロイダルです。この形状は線を巻くのは最も困難ですが、コアの利用に優れており、さらに重要なことはEMIの外縁磁界が低いことです。棒状またはドラム状のインダクタは、外縁磁界が非常に大きく、2次出力フィルタとしての用途が考えられる以外は推奨されません。「EE」または「E-C」分割コアで作られたインダクタは、個別のボビンに巻くことは容易ですが、トロイダルより高さが高く、高価になる傾向があります。「ポット」コアは巻線とコアの位置が逆になっています(コアが巻線を取り囲んでいます)。これらのコアは最良のEMIシールド効果を発揮しますが、体積が大きく高価になる傾向があります。また、巻線がコアの内側に納められているため温度上昇が大きくなります。現在、特別に高さの低い分割コア(TDK製の「EPC」など)が、多様なサイズで提供されています。電力/体積比の観点からは、ECコアほど効率的ではありませんが、これらのコアは高さに制約のあるアプリケーションにとっては魅力的です。
インダクタを選択する最良の方法は、最初に最小値の制限を計算することです。これらの制限値は、最大許容スイッチ電流、最大許容効率損失、および不連続モード対連続モード動作の必要性によって課されます(別項のこれらの2つのモードに関連する検討結果の説明を参照してください。)。最小値が確定したらインダクタの動作条件、つまりRMS電流、ピーク・ツー・ピーク・リップル電流、およびピーク電流を確立するための計算を行います。この情報を用いて、次に計算したすべての要求条件を満足するか、または適度にそれにに近い「標準」インダクタを選択します。次に選択したインダクタの物理寸法と価格を確認します。スペース、高さ、およびコストが許容される「計画値」に適合する場合は、インダクタンスを増やして、さらに高い効率、低い出力リップル、低い入力リップル、高い出力電力の1つあるいはいくつかが達成可能かどうか検討することができます。選択したインダクタが物理的に大きすぎる場合、対応策がいくつかあります。異なるコア形状、異なるコア材を選択する(これには効率損失に基づく最小インダクタンスの再計算が必要)か、より高い動作周波数を選択する、あるいは用途に合わせて最適化されたカスタム・メイドのインダクタを検討してください。インダクタを狭いスペースに詰め込もうとするときは、出力の過負荷状態によってインダクタが機能停止する点まで電流が増加する可能性があることを覚えておいてください。考慮すべき主な故障モードは、高い巻線温度による巻線の絶縁不良です。LT1074はインダクタンスが非常に小さくても有効なパルスごとの電流制限機能を備えているため、コアの飽和やコアの温度に起因するインダクタンスの喪失が原因で引き起こされるICの故障は通常問題になりません。
以下の式は、ピーク・スイッチ電流(IM)が制限されていると仮定し、それに基づいて最小インダクタンスを求めます。
所要出力電力を達成するための最小インダクタンス
所要コア損失の達成に必要な最小インダクタンス
インダクタ・コア材での電力損失には、直感的に判断できる要素はありません。まず、おおよそのところ、インダクタンスと動作周波数が決まっている場合、電力損失とコアのサイズは無関係です。次に、周波数が一定の場合、インダクタンスが増加すると電力損失が低下します。最後に、メーカの特性曲線が周波数が上昇するとコア損失が増加することを示していても、与えられたインダクタに対して周波数を高くするとコア損失が減少します。これらの曲線は磁束密度が一定の場合を想定していますが、インダクタンスが一定の場合には該当しません。
コア損失の一般式は、次のように表すことができます。
指数「p」の範囲は、鉄粉コアの場合には1.8~2.4、モリパーマロイの場合は約2.1、フェライトの場合は2.3~2.8です。「d」は鉄粉コアの場合は約1、フェライトの場合は約1.3です。コア損失をスイッチング・レギュレータの基本的な要求条件であるインダクタンス、周波数および入出力電圧に関連付ける完結した式を作成することができます。一般式は以下のとおりです。
これらの式は、連続モードの場合に、自由に選択してコア損失を変更できるのは、コア材、インダクタンス、および周波数だけであることを示しています。不連続モードの場合、変数としてのインダクタンスが消えても、周波数とコア材は変数として残ります。さらに、定数「d」は多くのコア材で1に近く、不連続モードのコア損失は、コア材を除くすべてのユーザ変数に無関係です。
以下の式によって、連続モードで与えられたコア損失を達成するためのインダクタンス計算を行うことができ、不連続モードでの実際のコア損失を示します。
これらの式を使用するときは、最初にVep-2/pを無視できると仮定してください。一般に使用される鉄粉コアおよびモリパーマロイ・コアの場合、指数(p-2)/2が0.1以下なので、比較的広い範囲のコア体積においてその値はほぼ1です。インダクタが選択されVeが分かったら、Vep-2/pの項を計算してLMIN値に対する影響(通常は20%以下)を再確認することができます。
C | a | d | p | μ | 100kHzでの損失500ガウス (mW/cm3) | ||
Micrometals | |||||||
Powdered Iron | #8 | 4.30E-10 | 8.20E-05 | 1.13 | 2.41 | 35 | 617 |
#18 | 6.40E-10 | 1.20E-04 | 1.18 | 2.27 | 55 | 670 | |
#26 | 7.00E-10 | 1.30E-04 | 1.36 | 2.03 | 75 | 1300 | |
#52 | 9.10E-10 | 4.90E-04 | 1.26 | 2.11 | 75 | 890 | |
Magnetics | |||||||
Kool Mμ | 60 | 2.50E-11 | 3.20E-06 | 1.5 | 2 | 60 | 200 |
75 | 2.50E-11 | 3.20E-06 | 1.5 | 2 | 75 | 200 | |
90 | 2.50E-11 | 3.20E-06 | 1.5 | 2 | 90 | 200 | |
125 | 2.50E-11 | 3.20E-06 | 1.5 | 2 | 125 | 200 | |
Molypermalloy | –60 | 7.00E-12 | 2.90E-05 | 1.41 | 2.24 | 60 | 87 |
–125 | 1.80E-11 | 1.60E-04 | 1.33 | 2.31 | 125 | 136 | |
–200 | 3.20E-12 | 2.80E-05 | 1.58 | 2.29 | 200 | 390 | |
–300 | 3.70E-12 | 2.10E-05 | 1.58 | 2.26 | 300 | 368 | |
–550 | 4.30E-12 | 8.50E-05 | 1.59 | 2.36 | 550 | 890 | |
High Flux | –14 | 1.10E-10 | 6.50E-03 | 1.26 | 2.52 | 14 | 1330 |
–26 | 5.40E-11 | 4.90E-03 | 1.25 | 2.55 | 26 | 740 | |
–60 | 2.60E-11 | 3.10E-03 | 1.23 | 2.56 | 60 | 290 | |
–125 | 1.10E-11 | 2.10E-03 | 1.33 | 2.59 | 125 | 460 | |
–160 | 3.70E-12 | 6.70E-04 | 1.41 | 2.56 | 160 | 1280 | |
Ferrite | F | 1.80E-14 | 1.20E-05 | 1.62 | 2.57 | 3000 | 20 |
K | 2.20E-18 | 5.90E-06 | 2 | 3.1 | 1500 | 5 | |
P | 2.90E-17 | 4.20E-07 | 2.06 | 2.7 | 2500 | 11 | |
R | 1.10E-16 | 4.80E-07 | 1.98 | 2.63 | 2300 | 11 | |
Philips | |||||||
Ferrite | 3C80 | 6.40E-12 | 7.30E-05 | 1.3 | 2.32 | 2000 | 37 |
3C81 | 6.80E-14 | 1.50E-05 | 1.6 | 2.5 | 2700 | 38 | |
3C85 | 2.20E-14 | 8.70E-08 | 1.8 | 2.2 | 2000 | 18 | |
3F3 | 1.30E-16 | 9.80E-08 | 2 | 2.5 | 1800 | 7 | |
TDK | |||||||
Ferrite | PC30 | 2.20E-14 | 1.70E-06 | 1.7 | 2.4 | 2500 | 21 |
PC40 | 4.50E-14 | 1.10E-05 | 1.55 | 2.5 | 2300 | 14 | |
Fair-Rite | 77 | 1.70E-12 | 1.80E-05 | 1.5 | 2.3 | 1500 | 86 |
トポロジー | VL |
降圧連続 | VOUT (VIN – VOUT)/2VIN |
降圧不連続 | |
反転連続 | VIN' • VOUT'/[2 (VIN' + VOUT')] |
反転不連続 | |
昇圧連続 | VIN' (VOUT' – VIN')/2OUT' |
昇圧不連続 | |
タップ付きインダクタ | (VIN – VOUT)(VOUT)(1+ N)/2(VIN + NVOUT) |
例: VIN= 20V~ 30V、VOUT= 5V、IOUT= 3A、f =100kHz、最大インダクタ損失=0.8Wの降圧コンバータ
3AはIM/2より大きいため、連続モードを使用しなければなりません。最大入力電圧を使用して式81からLMINを計算します。
ここで、所要コア損失を達成するための最小インダクタンスを計算します。巻線損失が全インダクタ損失の1/2、およびコア損失が1/2と仮定します( PC=0.4W)。Micrometals #26のコア材で計算してみます。VL(表2から)=5(30-5)(/ 2 • 30)=2.08
このインダクタンスは、所要コア損失を達成するために最小値の5倍でなければなりません。52μHはスペースの要求条件に対して大きすぎると仮定して、多少高価ですがより良質なコア材(#52)で試してみます。
標準インダクタが適しているか確認するために、表3を使用してインダクタ電流とV • tの積を計算してください。
IAVG | IPEAK | IP-P | V•μs | |
降圧コンバータ(連続) | IO | |||
正電圧から負電圧(連続) | ||||
負昇圧(連続) | ||||
タップ付き* | ||||
降圧コンバータ(不連続) | ||||
正電圧から負電圧(不連続) | ||||
負昇圧(不連続) | ||||
*タップ付きインダクタのIAVGの値は、スイッチ「オン」時間中にインダクタ全体を流れる平均電流(最初の項)およびスイッチ「オフ」時間中にインダクタの出力部分を流れる平均電流(2番目の項)です。発熱を計算するには、これらの電流を適正な巻線抵抗で乗算し、デューティ・サイクルに応じて減ずる必要があります。 IPEAKは、コアの飽和を防止するために、インダクタンス全体で使用しなければなりません。 ピーク・ツー・ピーク電流は、コアの熱損失を計算するためにインダクタンス全体で使用されます。この値はタップのないインダクタの場合と同じです。 |
このインダクタは最小35μHで、3Aおよび ≥ 42V • μs @100kHzの定格でなければなりません。3.6Aのピーク電流で飽和してはなりません。
例: VIN=4.7~5.3V、VOUT=-5V、IOUT=1A、f=100kHz、最大インダクタ損失=0.3Wの反転モードでVIN'=2.7V、VOUT'=5.5Vとする。不連続モードの最大出力電流(式82)は0.82Aなので、連続モードを使用する。
ここで、コア損失から最小インダクタンスを計算します。コア損失が全インダクタ損失(PC=0.15W)の1/2と仮定します。
Micrometals製のタイプ#26材を仮定すると、
この値は、最小値4.6μHの5倍以上で、高いコア損失を許容できると思われます。素早く確認する方法があります。総合効率を約60%(5V入力で+から-への変換は、スイッチ損失のために非効率)と仮定すると、入力電力は出力電力÷0.6=8.33Wです。コア損失を0.15Wから2倍の0.3Wにした場合、効率は5W(/ 8.33+0.15)=59%になります。これはわずか1%の効率低下にすぎません。この0.3Wのコア損失により、12μHまでのインダクタンス低下を許容できます。12μHのインダクタは過熱せずにコア損失+巻線損失に耐えるものと仮定します。インダクタ電流は次式で表すことができます。
マイクロパワー・シャットダウン
シャットダウン・ピンを0.3V以下に保持すると、LT1074はマイクロパワー・シャットダウン・モードに入り、ISUPPLYは約150μAになります。これは図19に示すとおり、オープン・コレクタのTTLゲート、CMOSゲート、あるいはNPNまたはNMOSディスクリート・デバイスで行うことができます。
基本的な条件は、プルダウン・デバイスが0.1Vのワースト・ケース・スレッショルドで50μAの電流をシンク可能であることです。この条件は、どのオープン・コレクタTTLゲート(ショットキ・クランプではない)、CMOSゲート、またはディスクリート・デバイスでも容易に満足させることができます。.
低電圧ロックアウトのためにR1とR2が追加される場合は、シンク条件がより厳密になります。0.1Vのワースト・ケース・スレッショルドでは、50μA+VIN/R1のシンク能力がなければなりません。シャットダウン・ピンのバイアス電流の影響を小さくするためのR2の推奨値は5kΩです。これにより、低電圧ロックアウト点においてR1とR2を流れる電流が約500μAに設定されます。入力電圧がロックアウト点の2倍の電圧のとき、R1の電流が1mAをわずかに上回るため、プルダウン・デバイスは0.1Vまでこの電流をシンクしなければなりません。これらの条件に対して、VN2222または同等品が提案されます。
始動時間遅延
コンデンサをシャットダウン・ピンに追加すると、始動遅延が生成されます。遅延期間中の平均内部電流は約25μAで、遅延時間=(2.45V)/(C • 25μA)±50%となります。より正確なタイムアウトが必要な場合は、R1を追加して内部電流の影響を相殺することができますが、より大容量のコンデンサが必要であり、タイムアウトは入力電圧に依存します。
タイミング・コンデンサのリセットに多少の工夫が必要です。グランドに抵抗を接続する場合は、リセット時間が遅延時間より標準で10倍長くても良いように、タイミングに大きな影響を与えない十分大きなものでなければなりません。VINに接続されたダイオードは迅速にリセットしますが、すぐに電源を入れ直したときに、VINがゼロ付近まで低下しない場合は時間遅延が短くなります。
5ピン電流制限
LT1074の5ピン・バージョンで電流制限を行ったほうがよい場合があります。これは最大負荷電流が6.5Aの内部電流制限値より大幅に低い場合に特に有用で、インダクタやキャッチ・ダイオードのサイズが最小になりスペースを節約できます。短絡状態では、これらの部品に最大のストレスがかかります。
図20の回路は、ダイオード電流をセンスするために、キャッチ・ダイオードの片方のリードに入れた小型トロイダル・インダクタを使用しています。スイッチ「オフ」時間中のダイオード電流は、出力電流にほぼ比例し、L2はレギュレータの効率に影響を与えることなく、正確な制限信号を生成できます。制限回路で失われる全電力は0.1W以下です。
L2は100回巻きです。したがって、D1の導通時にダイオード電流の1/100をRSに送ります。LT1074の電流を制限するのに必要なRSの電圧は、R4の電圧+順バイアスされたQ1のエミッタ・ベース電圧と等しくなります(約600mV @25℃)。R4の電圧はR3によって1.1Vに設定され出力に接続されます。電流制限はRSを選択して次のとおり設定されます。
図20の回路は、3Aの最大負荷電流を供給するためのもので、ILIMは3.75Aに設定しました。公称VINは25Vで、以下が得られます。
この回路は「フォールド・バック」電流制限を備えています。つまり、短絡電流は最大出力電圧における電流制限値より低くなります。これは出力電圧を使用して、電流制限トリップ・レベルの一部を生成した結果です。短絡電流はピーク電流制限値の約45%で、D1での温度上昇を抑えています。
R5、C3、およびD3によって、電流制限ループの個別周波数補償を行うことができます。D3は通常動作中は逆バイアスされます。出力電圧が高い場合は、ほぼ同じ電流を提供するようにR3とR5を計算してください。
ソフト・スタート
ソフト・スタートとは、スイッチング・レギュレータのターンオン中に、スイッチ電流をゆっくり上昇させることです。これを行う理由は、入力電源のサージ保護、スイッチング素子の保護、および出力オーバシュートの防止などです。リニアテクノロジーのスイッチング・レギュレータは、デバイス故障の不安を解消するスイッチング保護回路を内蔵していますが、入力電源によってはスイッチング・レギュレータの突入電流に耐えられない場合もあります。電流が制限された入力電源、またはソース抵抗が比較的高い電源の場合に問題が発生します。スイッチング・レギュレータに通常の入力電流よりもはるかに高い電流が流れると、これらの電源は低電圧状態で「ラッチ」される可能性があります。これは、以下のスイッチング・レギュレータの入力電流および入力抵抗の一般式によって示されます。
これらの式は入力電流が入力電圧の逆数に比例することを示しています。したがって、入力電圧が1/3に低下すると、入力電流は3倍に増加します。ゆっくり立ち上がる入力電源では、低電圧状態の間は非常に大きな負荷電流が流れます。これは入力電源で電流制限を作動させ、入力電源を永久的に低電圧状態に「ラッチ」するおそれがあります。スイッチング・レギュレータに入力電源より立上り時間が遅いソフト・スタートを設けることにより、入力電源が最大電圧に達するまでの間、レギュレータの入力電流は低く維持されます。
レギュレータの入力抵抗式は、入力抵抗値が負であり、入力電圧の2乗で減少することを示しています。ラッチアップを回避するための正の最大許容ソース抵抗は、次式で与えられます。
この式は、効率80%、負荷1Aの+12Vから-12Vへのコンバータのソース抵抗が2.4Ω以下でなければならないことを示しています。1Aを供給するように設計された入力電源のソース抵抗は通常、これほど高くはないので、何も問題ないように思えるかもしれませんが、急激な出力負荷サージやソース電圧の落ち込みによって永久的な過負荷状態を引き起こすおそれがあります。VINが低く出力負荷が大きい場合は、ソース抵抗が低くなければなりません。
図21では、C2はILIMピンをゆっくり上昇させることによって、スイッチング電流のソフト・スタートを作り出します。ILIMピンから流れ出す電流は約300μAなので、LT1074が最大スイッチ電流(VLIMが約5V)に達するまでの時間は、約(1.6×104)(C)です。VINが最大値に達するまで低いスイッチ電流を保証するためのC2の近似値は、次のとおりです。:
入力電圧が低くなるときは必ず、C2を0Vにリセットしなければなりません。シャットダウン・ピンを使用して低電圧ロックアウトを作り出すときは、内部リセットが提供されます。「低電圧」状態ではC2がリセットされます。ロックアウトを使用しない場合は、C2をリセットするためR3を追加しなければなりません。最大電流制限を行う場合、R3は30kΩでなければなりません。電流制限を低くしたい場合、R3の値は所要電流制限値によって設定されます。「電流制限」のセクションを参照してください。
入力電源のラッチを防止するためだけにソフト・スタートを追加する場合、より良い代替方法は低電圧ロックアウト(UVLO)です。低電圧ロックアウトによって、入力電圧がプリセットされた電圧に達するまで、レギュレータに入力電流が流れるのを防止します。UVLOの利点はこれが真のDC機能であり、低速の立上り入力、短いリセット時間、出力の瞬時短絡などによって無効にできないことです。
出力フィルタ
コンバータの出力リップル電圧が出力電圧の約2%以下でなければならないときは、一般に非常に大きな出力コンデンサを使用して単にリップルを「強制的に抑える」よりも、出力フィルタ(図22)を追加するほうが得策です。出力フィルタは、小さなインダクタ(約2μH~10μH)と通常50μF~200μFの第2の出力コンデンサで構成されます。インダクタは最大負荷電流で定格が定められていなければなりません。コア材によってインダクタの寸法と形状が決まることを除いて、コア材は重要ではありません(コア損失は無視できます)。直列抵抗分は不要な効率損失を避けるために、十分低くなければなりません。これは次式から推定できます。
「E」は総合効率で、ΔEはフィルタにおける効率の損失です。両方とも、比率(たとえば、2%ΔE=0.02、80%E=0.8)として表されます。
フィルタの必要な部品値を得るために、インダクタンス値またはコンデンサのESR値を仮定してから、残りの値を計算しなければなりません。コンデンサはリップル周波数において、基本的に抵抗性であるとみなされるので、実際の容量(μF)は二の次です。フィルタ・コンデンサ値に関する検討事項の1つは、コンバータの負荷過渡応答です。小さな出力フィルタ・コンデンサ(ESRが高い)では、大振幅の負荷過渡が発生した場合は出力が過剰に「バウンス」します。これらの負荷過渡が予測されるときは、リップル制限だけでなく、過渡条件を満たすように出力フィルタ・コンデンサのサイズを増やされなければなりません。この状況では、単にリップル電流条件を満たすためにメイン出力コンデンサを低減することができます。完成した設計は、予測される最大負荷変動での過渡応答をチェックしなければなりません。
コンデンサを先に選択する場合は、リップル減衰条件からインダクタ値を求めることができます。
三角波リップルがフィルタに加わる降圧コンバータの場合
本質的に矩形波のリップルがフィルタに加わる他のすべてのコンバータの場合
例:150mVp-pのリップルを20mVまで低減する必要がある100kHz降圧コンバータ。ATTN=150/20=7.5。フィルタ・コンデンサのESRを0.3Ωと仮定。
例:250mVp-pの出力リップルを30mVまで低減する必要がある100kHz正-負コンバータ。デューティ・サイクルを30%=0.3、フィルタ・コンデンサのESRを0.2Ωとして計算した場合を仮定。
インダクタ値が分かっている場合、これらの式を整理してコンデンサのESRを求めることができます。
出力フィルタがレギュレータの帰還ループの「外側」にある場合、出力フィルタはロード・レギュレーションに影響を与えます。フィルタ・インダクタの直列抵抗分は、コンバータの閉ループ出力抵抗に直接追加されます。この閉ループ抵抗は、標準で0.002Ω~0.01Ωの範囲内にあるので、0.02Ωのフィルタ・インダクタ抵抗はロード・レギュレーションに大きな損失をもたらす可能性があります。これを解決する1つの方法は、センス・ポイントをフィルタの出力に移動することによって、フィルタを帰還ループの「内側」に移動することです。フィルタの位相シフトが追加されてコンバータの安定動作が困難になる可能性があるので、これはできるだけ避けてください。降圧コンバータは、単にループのユニティゲイン周波数を下げることによって、帰還ループ内の出力フィルタを許容することができます。正-負コンバータと昇圧コンバータには、位相シフトの追加に対して非常に敏感な「右半面ゼロ」があります。安定性の問題を避けるために、最初にフィルタによるロード・レギュレーションの劣化が本当に問題かどうかを判断しなければなりません。現在使用されている大部分のデジタルおよびアナログ「チップ」では、多少の電源電圧変動が性能に影響を与えることはほとんどありません。
センス抵抗がフィルタの出力に接続されているとき、安定性の問題を「解決」するには、図23に示すとおりフィルタの入力から帰還分圧器のタップにコンデンサを接続することです。これはフィルタ周辺で「フィードフォワード」経路として働きます。最小サイズのCXはフィルタ応答によって決まりますが、0.1μF~1μFの範囲でなければなりません。
CXは理論上FBピンに直接接続できますが、これはメイン出力コンデンサのリップル電圧が75mVp-p以下の場合にのみ行ってください。
「測定された」フィルタ出力リップルに関する説明。高調波と「スパイク」は非常に大きく減衰するので、真のリップル電圧はスイッチング周波数の基本波成分だけを含んでいなければなりません。オシロスコープで測定したリップルが異常に高いか、高周波を含んでいる場合は、おそらく測定法に問題があるはずです。「オシロスコープ・テクニック」のセクションを参照してください。
入力フィルタ
大部分のスイッチング・レギュレータには、入力電源から矩形または三角形パルス電流が流れます(例外は、インダクタが入力電流のフィルタとして働く昇圧コンバータです)。これらの電流パルスは、主にレギュレータ入力の間近にある入力バイパス・コンデンサで吸収されます。ただし、電源ラインのインダクタンスを含めた供給源インピーダンスが低い場合は、なお入力ラインに大きなリップル電流が流れることがあります。このリップル電流によって入力電源に不要なリップル電圧が生じたり、電源ラインから磁界放射の形でEMIが発生することがあります。これらの場合は、入力フィルタが必要になることがあります。このフィルタは、図24に示すとおり入力電源に直列のインダクタとコンバータの入力コンデンサの組合せで構成されています。
Lの値を計算するには、電源ラインにどのようなリップル電流が許容されるかについての知識が必要です。通常、これは未知のパラメータですので、値を調べるには手間がかかります。値が分かったと仮定すると、Lは次式から求めることができます。
例:VOUT=5V、IOUT=4A、VIN=20V、(DC=0.25)の100kHz降圧コンバータ。入力コンデンサのESRが0.05Ωの場合。このフィルタでは、電源ラインのリップル電流を100mA(p-p)まで低減することが望まれる。Rfが不要(=∞)と仮定。
ダンピング抵抗(Rf)の必要性を含めた入力フィルタの詳細については、アプリケーション・ノート19の「入力フィルタ」セクションを参照してください。
入力インダクタの電流定格は少なくとも次のとおりでなければなりません。
効率または過負荷の検討により、銅損失を低減するために、電流定格の高いインダクタが必要な場合があります。コア損失は通常無視できます。
オシロスコープ・テクニック
スイッチング・レギュレータは、未熟なオシロスコープ・テクニックにピッタリの試験台です。「スコープ」はさまざまな観測が可能で、高速信号と低速信号が混在し、大振幅と微小振幅が結合したスイッチング・レギュレータの状態をすべて表示できます。以下のRogueのギャラリーは、読者が問題解決のために多大な時間を費やさない(そして、質問の電話で筆者をわずらわせない)ようにするのに役立ってくれることでしょう。
グランド・ループ
優れた安全対策は、大部分の測定器の「グランド」システムを電源コードの「第3」(緑)のワイヤに接続することです。都合が悪いことには、これによって他の測定器がテスト中のデバイスの電流をソースまたはシンクするときに、オシロスコープのプローブのグランド・リード(シールド)に電流が流れます。図25にこの影響を詳しく説明します。
信号発生器は5V信号をブレッド・ボードの50Ωにドライブしており、100mAの電流が流れます。この電流のリターン経路は、信号発生器からのグランド(一般にBNCケーブルのシールド)とオシロスコープ・プローブのグランド・クリップ(シールド)で作られる第2のグランド「ループ」間および信号発生器とオシロスコープのそれぞれの「第3線」接続間に分岐します。この場合、寄生グランド・ループに20mAが流れるものと仮定しました。オシロスコープのグランド・リードの抵抗が0.2Ωの場合、スクリーンには4mVの「偽」信号が表示されます。この問題はより高い電流およびスコープ・プローブ・シールドのインダクタンスが重要な高速信号エッジの場合はさらに悪化します。
DCグランド・ループはオシロスコープの3番目のワイヤを取り外す(これは見せかけプラグと呼ばれ推奨されません)か、あるいはオシロスコープの電源接続に絶縁トランスを使用すればなくすことができます。
プローブのシールド・ワイヤを循環電流が流れる別の要因は、信号源とスコープ間の第2の接続です。代表的な例は、発生器のトリガ出力とスコープの外部トリガ入力間のトリガ信号接続です。これは、ほとんどの場合、シールド接続が接地されたBNCケーブルです。これは、信号のグランド・リターン電流の第2の経路を形成し、この経路はスコープのプローブ・シールドによって完結します。ひとつの対策は、シールドを故意に切断したBNCケーブルを使用する方法です。トリガ信号は完全ではないかも知れませんがスコープには問題ありません。このケーブルが通常の用途に使われないように印を付けておいてください。
規則 1:低レベルの測定を行う前に、スコープ・プローブの「チップ」を、所定のブレッドボード・グランドに接続されたプローブのグランド・クリップに触れてください。「スコープ」がフラットなトレースを表示するはずです。信号が表示される場合は、グランド・ループがあるということです。
補償不良のスコープ・プローブ
10Xスコープ・プローブは、プローブのDC減衰量が正確に10:1になるよう「補償」を行って、AC減衰量を調整しなければりません。これが正しく行われていない場合は、低周波信号が歪み、高周波信号は振幅が不正確になります。スイッチング・レギュレータ・アプリケーションでは、「補償不良」のプローブは「本来あり得ない」波形を示すことがあります。代表的な例がLT1074降圧コンバータのスイッチング・ノードです。このノードは、正側は入力電圧より1.5V~2V低いレベルまで、そして負側はグランド電位よりダイオード1個の電圧降下分だけ低い電圧まで振幅します。10Xプローブは、AC減衰量が小さ過ぎるとノードが電源電圧より高く振幅しているように見えたり、ダイオードの順方向電圧が期待した0.5Vではなく何ボルトも高い電圧になっているように見えることがあります。これらの周波数(100kHz)では、プローブは純容量性として働くため、波形が正しいように見えてしまい、間違った振幅がすぐには分からない場合があることを覚えておいてください。
規則 2:面倒なことになる前に、ベテランのやり方で10Xスコープ・プローブ補償をチェックしてください。.
グランド「クリップ」の誘導
オシロスコープのプローブは、ほとんどの場合は末端にワニグチ・クリップが付いた短いグランド「リード」が使われています。このグランド・ワイヤは大変よいアンテナになります。これは局所的な磁界をピックアップし、オシロスコープ・スクリーン上にフルカラーで表示します。スイッチング・レギュレータは大量の磁界を発生します。大電流や高速立上り/立下り時間のために、スイッチ配線、ダイオード、コンデンサ、およびインダクタ・リード、そして「DC」電源ラインさえも大きな磁界を放射する可能性があります。グランド・クリップ問題のテストは、ワニグチ・クリップをレギュレータのグランド・ポイントに接続しておいて、プローブ・チップをこのクリップに接触させて行います。スクリーンに表示されるトレースは、グランド・ループの循環電流、またはグランド・クリップのアンテナ作用によって生じます。
グランド・クリップの「ピックアップ」問題を解決するには、クリップ・ワイヤを取り除いて、それをプローブ・メーカから入手できる特別な半田付けプローブ・ターミネータに交換します。プラスチックのプローブ・チップ・カバーを外し、小さな探針チップにつながる裸の同軸金属チューブ・シールドを露出させます。このチューブをターミネータにはめ込んで、グランドの接続を完全にします。この手法によって、大きな磁界が存在するところでも、スイッチング・レギュレータの出力リップルをミリボルト単位で側定することができます。
規則 3:標準のグランド・クリップ・リードを使用して、スイッチング・レギュレータの低レベル測定を行わないでください。正規のターミネータが入手できない場合は、裸の単線を所定のグランド点に半田付けし、グランド点とチューブ間を最短距離にして、露出しているプローブの同軸チューブに巻きつけてください。プローブの探針チップが所定のテスト点に接触できるように、グランド点の位置決めしてください。
配線材は均一電位になっていない
スイッチング・レギュレータを調べる際によくある誤りは、1本のワイヤ上の電圧はどこでも同じと思いこんでしまうことです。代表的な例は、スイッチング・レギュレータの出力で測定されるリップル電圧です。レギュレータが出力コンデンサに方形波電流を供給する場合、たとえば正-負コンバータでは、電流の立上り/立下り時間は約108A/secになります。このdI/dtによって、出力コンデンサのリード・インダクタンスに1インチあたり約2Vの「スパイク」が発生します。レギュレータの出力(負荷)トレースは、ラジアル・リードの出力コンデンサ・リードが半田付けされるスルーホール・ポイントに直接接続しなければなりません。オシロスコープのプローブ・チップ・ターミネータ(グランド・クリップではありません)を、コンデンサの根元に直接接続しなければなりません。
この2V/inという数値は、高レベル点でも大きな測定誤差を生じる可能性があります。入力バイパス・コンデンサでスイッチング・レギュレータの入力電圧を測定すると、測定されるスパイクはわずか数百mVです。そのコンデンサがLT1074から数インチ離れている場合、レギュレータに「加わる」スパイクは数ボルトにもなります。これによって、特に低入力電圧時に問題が生じる可能性があります。入力配線上の「誤った」測定点を調べると、これらのスパイクが見えなくなることがあります。
規則 4:高いAC電流信号経路に何Vの電圧がかかっていか知りたい場合は、どの部品の電圧を測定しているかを正確に把握し、その部品に直接プローブ・ターミネータを接続します。一例として、回路にスイッチの過電圧に対する保護を行うスナバがある場合は、ICのスイッチ端子に直接プローブ・ターミネータを接続してください。スイッチをスナバに接続しているリードのインダクタンスによって、スイッチ電圧がスナバ電圧より何Vも高くなることがあります。
EMIの抑制
電磁干渉(EMI)は、スイッチング・レギュレータが動作すると発生します。EMIの影響についての検討は設計の早い段階で行い、必要なフィルタリングまたはシールドの電気的、物理的、および金銭的な問題を理解し対策を講じる必要があります。EMIには、入力および出力巻線を伝搬する「伝導型」と電磁界の形態をとる「放射型」の2つの基本的な形態があります。
スイッチング・レギュレータには入力電源から方形波または三角波のパルス電流、あるいはこれらを組み合わせた電流が流れるため、入力ラインに伝導型EMIが発生します。この脈流は入力電源に厄介なリップル電圧を生成することがあり、入力ラインから周囲のラインや回路に放射する可能性があります。
スイッチング・レギュレータ出力の伝導型EMIは通常、出力ノードの電圧リップルに制限されます。降圧レギュレータからのリップル周波数は、ほぼ完全にスイッチング周波数の基本波で構成されているのに対し、昇圧および反転レギュレータの出力には、追加フィルタが使用されていない場合ははるかに高い周波数の高調波が含まれています。
電界はレギュレータのスイッチ・ノードの高速立上りおよび立下り時間によって発生します。通常、この発生源からのEMIが第2の問題であり、これはこのノードへの全接続を可能な限り短くし、周囲を取り囲む部品がシールドとして働くように、このノードをスイッチング・レギュレータ回路の「内部」に含めることによって抑えることができます。
レギュレータ内部での電界問題の主要因は、スイッチング・ノードと帰還ピンとの結合です。スイッチング・ノードのスルーレートは標準0.8×109V/secで、帰還ピンのインピーダンスは標準1.2kΩです。これらのピン間のわずか1pFの結合が帰還ピンに1Vのスパイクを発生し、不規則なスイッチング波形を発生させます。ピンの直近に帰還抵抗を配置して、帰還ピンへのトレースが長くならないようにしてください。スイッチング・ノードへの結合が避けられないときは、LT1074のグランド・ピンから帰還ピンに1000pFのコンデンサを接続すると、ほとんどのピックアップ問題を防止できます。
磁界は、入力および出力コンデンサ、キャッチ・ダイオード、スナバ回路、インダクタ、LT1074自体、およびこれらの部品を接続している多数のワイヤなど、多数の部品によって生じるためさらに厄介です。通常これらの磁界は、レギュレータの問題を発生しないのに対し、ディスク・ドライブ、データ収集、通信、あるいはビデオ処理など、特に低レベル信号の周辺回路に問題を引き起こす可能性があります。以下のガイドラインは、磁界の問題を小さくするのに役立ちます。
- トロイダルまたはポット・コアなどの良好なEMI特性を持つインダクタやトランスを使用します。EMIの観点からすると、最悪なのは「ロッド」型インダクタです。これらは、あらゆる方向に大きな磁束を発生する源と考えてください。「ロッド」型インダクタのスイッチング電源での唯一の用途は、リップル電流が非常に低い出力フィルタです。
- 磁界放射を抑えるために、高リップル電流が流れるすべてのトレースはグランド・プレーン上を通します。これには、キャッチ・ダイオード・リード、入力および出力コンデンサ・リード、スナバ・リード、インダクタ・リード、LT1074の入力およびスイッチ・ピン・リード、入力電源リードが含まれます。これらのリードは短くし、部品はグランド・プレーンに近づけます。
- 敏感な低レベル回路はできるだけ遠ざけ、ツイスト・ペア差動ラインなどのフィールド・キャンセル手法を使用します。
- 厳密なアプリケーションでは、高い高調波を抑制するためにキャッチ・ダイオードに「スパイク・キラー」ビーズを追加します。これらのビーズは、非常に高いdi/dt信号を防止しますが、ダイオードがゆっくり「ターンオン」しているように見えるようになります。これはスイッチ・ターンオフ時に高い過渡スイッチ電圧を生じることがあるため、スイッチ波形を慎重にチェックしなければなりません。
- 入力ラインからの放射が問題になる場合は入力フィルタを追加します。入力ラインのわずか2~3μHのインダクタンスにより、レギュレータ入力コンデンサはレギュレータ入力で生じるほとんどすべてリップル電流を吸収することができます。
トラブルシューティングのヒント
低効率
この主要因はスイッチおよびダイオードの損失です。これらはすぐに計算できます。これらの影響を勘案しても、効率が異常に低い場合はインダクタを疑ってみます。コアまたは銅損失が問題である可能性があります。トポロジーによっては、インダクタ電流が出力電流よりはるかに高くなることを思い出してください。非常に手軽な代用ツールは、大型モリパーマロイ・コアに太いワイヤを巻いた500μHインダクタです。100μHと200μHのタップを設けておくと便利です。インダクタ損失が疑われるときは、そのユニットをこのインダクタで代用することができます。このアプリケーション・ノートを読んでいれば、大型コアはコア損失を低減するためではなく、銅損失の低い太いワイヤを収容できるだけのスペースを確保するために使用されていることがお判りになるでしょう。
インダクタ損失が問題でない場合は、消費電流やコンデンサ損失などの些細な影響をすべてチェックし、全体として無視できなくなっていないかどうか確認してください。
スイッチ・タイミングの変動
VCピンに過剰なスイッチング周波数リップルが現れる場合、スイッチ「オン」時間がサイクルごとに変化することがあります。これは出力コンデンサのESRが高かったり、あるいはFBピンやVCピンでのピックアップのために自然に起こる可能性があります。簡単なチェックは、VCピンからIC近くのグランド・ピンに3000pFのコンデンサを接続することです。不安定なスイッチングが改善されるか解消される場合は、VCピンの過剰なリップルが問題です。FBピンからグランド・ピンにコンデンサを接続して、別の原因の場合と区別してください。これでも問題が解消する場合は、VCピンのピックアップは除外され、FBのピックアップが原因と考えられます。帰還抵抗はFBピンへの接続が短くスイッチング・ノードから離れて配線されるように、ICの近くに配置しなければなりません。ピックアップをなくすことができない場合、通常FBピンからグランド・ピンに500pFコンデンサを接続すれば十分です。時々、過剰な出力リップルが問題になります。これは、出力コンデンサと別のユニットを並列にすればチェックできます。VCピンに1000pF~3000pFのコンデンサを接続して高出力リップルに起因する不安定なスイッチングを停止させることもできますが、出力コンデンサのリップル電流定格が適切であることを確認してください。
入力電源が立ち上がらない
スイッチング・レギュレータはDCでの入力抵抗が負です。したがって、VINが低いときに大きな電流が流れます。これによって入力電源を低い電圧にラッチする可能性があります。詳細は「ソフト・スタート」のセクションを参照してください。
電流制限時にスイッチング周波数が低い
これは正常です。ピン説明セクションの「帰還ピンでの周波数シフト」を参照してください。
ICが破損する!
LT1070以前と変わりなく、LT1074やLT1076を破壊するものは過大なスイッチ電圧だけです(逆電圧の印加や配線ミスなどの明白な原因を除く)。
始動サージによって、瞬間的に大きなスイッチ電圧が生じる可能性があるため、オシロスコープで慎重に電圧をチェックしてください。オシロスコープ・テクニックのセクションを読んでください。
ICの過熱
一般的な誤りは、スイッチング電源にはヒートシンクが必要ないと思い込むことです。負荷電流が小さい場合はそのとおりですが、負荷電流が1A以上になると、ヒートシンクが必要になるところまでスイッチ損失が増加する可能性があります。TO-220パッケージの熱抵抗はヒートシンクなしで50℃/Wです。スイッチ損失が10%のとき、5V/3A(15W)の出力ではICにおいて1.5W以上が消費されます。これは室温で75℃の温度上昇、またはケース温度100℃を意味します。通常これを熱いと言います。この問題は小型ヒートシンクで解決します。TO-220タブをPCボード上の大きな銅パッドに半田付けするだけで、熱抵抗は約25℃/Wに低下します。
高出力リップルまたはノイズ・スパイク
混乱を避けるために、最初に「オシロスコープ・テクニック」のセクションを読み、次に出力コンデンサのESRをチェックしてください。電源ラインがわずか数インチの場合でも、電源ラインの寄生インダクタンスと負荷容量によって高速(100ns以下)スパイクは大幅に減衰することを思い出してください。
ロード・レギュレーションまたはライン・レギュレーションの不良
以下の順にチェックしてください。
- 第2出力フィルタがループ外にある場合はその直流抵抗
- オシロスコープのグランド・ループ誤差
- 電流が流れるラインへの出力分圧抵抗の不適切な配線
- 過大な出力リップル。FBピンのピーク・リップル電圧が50mVp-pを超える場合、LT1074はそれを検出してしまいます。
標準的性能特性セクションの「リップル電圧によるリファレンスのシフト」グラフを参照してください。
特に軽負荷時に500kHz~5MHzで発振する
これは不連続モードのリンギングであり正常かつ無害です。詳細は降圧コンバータ波形の説明を参照してください。