AN-2633: ADEMA12x、ADE91xx、デイジーチェーン・インターフェースを使用したアナログ・デバイセズの分岐回路アプリケーション用ソリューション

はじめに

アナログ・デバイセズの分岐回路モニタリング(BCM)ソリューションは、(a)デイジーチェーン SPI、(b)ADE91xxおよび ADEMA12x 製品ファミリの A/D コンバータ(ADC)同期機能、(c)ホスト・マイクロコントローラ(MCU)で実行される計測ソフトウェアを活用し、システムのスケーラビリティを実現するモジュール式で簡素化されたアーキテクチャを提供しています。このソリューションには高電圧箇所におけるデータと電源の絶縁機能も内蔵されているため、部品数を削減し、より安全にシステムを操作できます。アナログ・デバイセズの BCM 用高精度ソリューションは、カレント・トランス(CT)やロゴスキー・コイルなどの非接触型電流センサーに対応しています。ロゴスキー・コイルをシームレスに統合できるよう、ADEMA12x には積分器と 2 次ハイパス・フィルタ(HPF)が組み込まれているため、外付け部品が不要です。

このアプリケーション・ノートでは、構成について詳しく説明し、製品ファミリおよびソフトウェア・サービスの概要を紹介すると共に、既存のアーキテクチャと比較した本ソリューションの利点について解説します。アプリケーションには、配電ユニット(PDU)、サーキット・ブレーカ/パネル、分散型負荷モニタリングが含まれます。 

BCM:高成長分野でのアプリケーションの実現

データ・センター、スマート・ビルディング、産業用オートメーションの拡大に伴い消費電力が急増する中、BCMの必要性がますます高まっています。これらの分野では大量のエネルギーを消費し、ダウンタイムを最小限に抑える必要があるため、リアルタイムの電力モニタリングが重要です。BCM導入の主な推進要因として、エネルギー効率向上の推進、規制への準拠、スマート・ビルディングへの投資、産業の急速な成長などが挙げられます。

従来のモニタリング方法では多くの手作業が必要なうえ、各分岐回路の電力使用量を正確に追跡できないため、回路の過負荷を防止し、信頼性を向上させるBCMの開発が進められました。BCMソリューションの主な要件は、以下のとおりです。

  • 全測定チャンネルでの高精度な測定と同期。
  • リアルタイムのエネルギー測定とリモート管理。
  • アーキテクチャのスケーラビリティと高電圧に対する安全性。
  • 部品数の削減。
  • 長期間にわたる信頼性の高い性能。

BCM システムは、配電に関する詳細な情報を提供し、負荷バランシング、デマンド・レスポンス、ダイナミック・プライシングを可能にすることで、計測システムから管理システムへの進化も実現します。技術の進歩、特に IoT や AI の統合により、BCM の機能が強化され、予知保全やリアルタイムのフォルト検出が可能になっています。この移行により、意思決定の質や運用効率が向上し、エネルギー・データの精度が高まるため、コストの管理や将来の拡張計画にも役立ちます。

生産現場や産業現場、データ・センターでのハイパースケール処理環境では、エネルギー需要が負荷や速度に応じて変動するため、リアルタイムのモニタリングが非常に重要です。これらのトレンドが、現代のエネルギー管理やインフラストラクチャの強靭性におけるBCMの重要な役割を裏付けています。

設計の概要

以下のアナログ・デバイセズ製品を使用します。

  • ADE91xx(SPI(シリアル・ポート・インターフェース)搭載の2/3チャンネル絶縁型/非絶縁型シグマデルタADC)
  • ADEMA12x(SPI搭載の4/7チャンネル非絶縁型シグマデルタADC)
  • ADCドライバ

ADE91xx と ADEMA12xのデイジーチェーンSPIとADCの同期機能により、前述の各分野で多様なBMCアプリケーションに対応できます。複数ADCシステムの設計方法について詳しくは、AN-2625:複数のADE ADCを使用した設計 | アナログ・デバイセズを参照してください。

図1に示す設計では、1つのADE9113を絶縁型の3相電圧測定に、2つのADEMA127 ADCを 14系統の電流測定に使用しています(各ADCで7系統の電流を測定)。ADE9113とADEMA127は、計測ソフトウェアを実行する顧客のホストMCUにデイジーチェーンSPIで接続されています。 

図1. BCMのブロック図
図1. BCMのブロック図

設計の利点

この設計には多くの利点があります。主な利点は以下のとおりです。

  1. ADE9113の使用による完全絶縁設計。
    1. 信号パスに追加の絶縁は不要です。
  2. デイジーチェーン構成により、必要なSPIポートは1つのみ。
  3. 全チャンネルで完全に同期された電圧および電流の測定により、正確な電力とエネルギーの計算が可能。
  4. 以下の各種電流センサー用として ADEMA12x に内蔵されたフィルタ/補償機能:
    1. カレント・トランス。
    2. ロゴスキー・コイル。
  5. 計測ソフトウェアとの互換性。
  6. 電流チャンネルを容易に追加できるスケーラビリティ:
    1. デイジーチェーンに ADEMA12x ADC を追加することで、電流測定チャンネルを追加可能。
    2. 詳細については、AN-2625を参照してください。

デバイスの説明

ADEMA127/ADEMA124

ADEMA127/ADEMA124 は、7 チャンネル/4 チャンネルの同時サンプリング 24 ビット ΣΔ ADC で、多相または単相のエネルギー計測アプリケーションに最適です。

ADEMA127/ADEMA124は以下の機能を備えています。

  • ADCチャンネルごとのゲイン、位相、オフセット補償が可能な、独立したハードウェア・フィルタおよびDSP(デジタル信号処理)フィルタ。
  • 積分器や2次HPFなど、ロゴスキー・センサーの統合を簡素化する専用の補償機能およびDSP機能を備えています。
  • 設定やデータ取得用の柔軟なSPIインターフェースを備えています。デイジーチェーンSPIインターフェースにより、互換性のある複数のADCを単一のSPIポートで同時に処理できるため、ホストMCUのピン数を削減できます。 
表1. ADEMA12xの主要仕様
Feature Performance System Benefit
Analog input range ±1.2V peak differential Support Class 0.2 meters
SNR/Dynamic range Up to 98dB at 64kSPS High-precision metering applications; enables power quality or non-intrusive load monitoring (NILM) platform
Output data rates 64kSPS, 32kSPS, 16kSPS, 8kSPS, 4kSPS, 2kSPS, 1kSPS, 500SPS, 250SPS Flexible output data rates
Channel drift 2 ppm/°C (Typical)
10 ppm/°C (Max)
Meter accuracy over wider temperature range
Operating temperature −40°C to +125°C Wide operating temperature for more robust use cases
Rogowski coil support Digital integrator and HPF integrated Lower system cost
Gain and phase calibration Gain ±2
Phase calibration ± 0.99 samples
Correct for CT variation
Power consumption 14mW (typical) – 4-channel Higher efficiency; supports tamper detect
Fast startup 0.5ms after supply up Circuit breakers/protection relays

機能と仕様の詳細については、ADEMA127/ADEMA124のデータシートを参照してください。

ADE9103/ADE9112/ADE9113

ADE9113は、DCおよびACの多相シャント方式電力量計アプリケーション向けの高精度同時サンプリング ΣΔ ADC です。ADE9113は以下の特性を備えています。

  • 安全認証を受けた信号および電力のガルバニック絶縁と、3つの同時サンプリング完全差動24ビットΣΔ ADCチャンネルを統合しています。
  • デイジーチェーン機能に対応した双方向SPIを備えており、必要なMCUのピン数を減らしながら、すべてのレジスタにアクセスできます。
表2. ADE91xxの主要仕様
Feature Specification System Benefit
Dynamic range 5000:1
86dB SNR
ADC performance at 4kSPS (±31.25mV)
Output data rates 32kSPS, 8kSPS, 4kSPS, 2kSPS, 1kSPS Faster and more flexible output rate
Operating temperature −40°C to +125°C Wide operating temperature for more robust use cases
Input offset ±10µV (maximum) ±31.25mV input range
Offset drift ±2nV/°C (typical) AC and DC measurements
ADC gain drift over temperature ±23ppm/°C (maximum)  
Power consumption 26.5mW (typical) From single 3.3V supply
Withstand isolation voltage 5kVrms According to UL 1577

機能と仕様の詳細については、ADE9113のデータシートを参照してください。 

結果

CT仕様

力率(PF)と温度の変動に対する電力量の精度の測定に使用するCTの仕様は以下のとおりです。

  • 巻数比:1:2500
  • 最大電流定格:80ARMS
  • 温度範囲:−40ºC~+70ºC
  • 精度:1%

テスト・スイープ・パラメータ

PF と温度の変動に対する電力量の精度の測定で使用したテスト・スイープ・パラメータを表3に示します。

表3. テスト・スイープ・パラメータ
Parameter Values
Voltage 230VRMS
Current 0.02ARMS to 80ARMS
Power factor +1, −0.5, +0.5
Temperature −40°C, +25°C , +70°C
Energy accumulation time 20 seconds

PFと温度の変動に対する電力量の精度

PF と温度の変動に対する電力量の精度の測定結果を図 2~図 4に示します。 

図2. 25ºCにおけるPFの変動に対する電力量の精度
図2. 25ºCにおけるPFの変動に対する電力量の精度 
図3. −40ºCにおけるPFの変動に対する電力量の精度
図3. −40ºCにおけるPFの変動に対する電力量の精度 
図4. 70ºCにおけるPFの変動に対する電力量の精度
図4. 70ºCにおけるPFの変動に対する電力量の精度

ADEMA12xおよびADE91xx ADCは、最大クラス0.2%の計測に対応し、定格温度範囲は−40ºC~+125ºCです。 

ドライバとサービス

ADCサービス

ADC サービスには、アナログ・デバイセズの計測用 ADC と接続するための一連の API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)が用意されており、複数の異なるデバイスからなる複雑なシステムでも SPI を介して波形サンプルを取得できます。コマンドの組み立て、レスポンスの解析、サーキュラ・バッファを使用したサンプルの保存を処理します。このサービスはレスポンスのCRCを検証し、検出したエラーにフラグを立てます。

更に、ゲインや位相、オフセットなどのデータ経路機能を設定するためのドライバとヘルパーAPI も備えています。この ADCサービスは、アナログ・デバイセズの計測用ADCと通信し、波形サンプルを収集するための一連の API を提供しています。analogdevicesinc/energy-adc-service

ドライバは、以下の用途に適しています。

  • 単一ADCまたは基本機能
  • 高度な設定

主な特長

ADCサービスの主な特長は以下のとおりです。

  • 設定管理:
    • デバイスの初期化:ADCが正しく設定され、通信チャンネルが確立されるようにします。
    • 高度なパラメータ設定:デジタル積分器など、特定のアプリケーション向けのADC設定を構成できます。
  • MCUとADC間の通信:
    • データの読み書き:ADCの読出しと制御を行う機能。
    • サンプル取得:波形サンプルを収集して保存する機能。
  • シームレスなデイジーチェーン対応:
    • 簡単な初期化により、SPIデイジーチェーン・モードで1つ以上のADCとの通信をサポートします。
  • エラー管理:
    • ADCのエラーをモニターし、対応が必要なエラーにフラグを立てます。
    • CRCエラーを検出すると、最後に正常に取得されたサンプルを繰り返し使用します。 
図5. ADCサービス
図5. ADCサービス

設計リソース